本に載ってたおまじないの儀式に、必要なもの。
『黒猫の生き血』。別に殺せとは書いてなかったから、
そのへんにいた黒猫をニボシで誘って、注射器でちょっとだけ採らせてもらった。
ひっかかれた。『カエルの心臓』。食用に養殖された冷凍のやつでよければ、
通販で買える。けっこう高かった。『新月の夜に摘み取られた四つ葉のクローバー』。
懐中電灯持ってって、がんばって探した。
『ウサギの足』。お守り用に雑貨屋で売ってた。
『処女の愛液』。これは私一人でも用意できるから、たいした問題ではなかった。
他にもいろいろ要るものはあるけど、どれもなんとか準備はできた。
三角定規とコンパスで、魔方陣も描いた。あと問題なのは、ひとつだけ。
だから私は、部室で彼を待つ。副会長の石綿は、今日は学校を休んでる。
心霊研究会のメンバーはもともと三人しかいないから、
今日、来るのは会長の私と彼だけだ。そしていつものように、
彼はノックもせずに扉を開く。
「よう御簾津。今日も放課後の掃除はサボリか」
彼、苑田尚之の、いつもの挨拶。
「そーだよ。ね、そんなことより、これ見てよ」
私は、用意していたマニュアル本を、ページを開いたままで彼に手渡す。
「どれ。なになに、どんな願い事でも叶うおまじないの儀式?」
「そうなの。別に召喚するわけじゃないし、材料も簡単なやつだし、いーでしょ?」
ずっと前に変な動物霊を呼び出して石綿に怒られて以来、
召喚儀式は禁止ということになっているのだ。
「ふーん」
いつもの仏頂面で文字を追っていた彼の目線が、一点で止まる。
「これは、どうすんだ?」
彼の指差した先にあるもの。そこには、こう書いてあった。
『破瓜の血』。
「だからさ、苑田、協力してよ」
彼はキョトンとして、それからまじまじと私を見つめる。
「石綿はお姉ちゃん一筋だし、他にこんなこと頼む相手いないしさ」
何でもないことのように、いつものクラブ活動の話し合いのように、
私は一気に言葉を繋ぐ。でも、本当をいうと少しだけ膝が震えた。
「破瓜って最初の一回目じゃないと駄目だってことだよな。おまえ処女か?」
「失敬だな。あたしに彼氏なんかいるわけないじゃない。正真正銘、乙女ですよーだ」
私がそう言うと、彼は躊躇う風もなくずいと身を乗り出して、私の手を掴んできた。
「御簾津、いいんだな?二度は聞かねーぞ」
鋭い彼の瞳が、真正面から私を見据えている。
私も真っ直ぐに彼を見つめ返して、小さく頷く。
「うん。お願い」
次の瞬間、私は椅子から引き立てられ、彼に唇を奪われていた。
こそばゆいような、胸の奥が切なくなるような、不思議な気持ち。
本当のところ、キスだって私にはこれが初めてだ。
「ん……」
彼の舌が、私の中に割り込んでくる。はじめは探るように、そして次第に大胆に。
私も不器用な仕草で、一生懸命それに応える。彼が、私を蹂躙していく。
「ん、ん、んんっ……ぷはぁ」
彼の手が、スカートの裾を割って私の太ももに触れてくる。
そしてすみやかにショーツが膝まで下ろされる。なんて、話の早い人だろう。
そして、なんて強引なんだろう。いかにも彼らしいけど。
私は立ったまま、壁を背にして体を支える。
「よっと」
彼は私のスカートの前をまくり上げ、その前にかがみこんだ。
夕日が差し込む放課後の部室で、私の頬が朱に染まる。
「え、ちょっ、待……!」
「待ったは無しだ」
彼の指が、探るような手つきで私のそこをまさぐる。
彼は私の左足を抱え上げ、私の足を開かせる。
「やー、こんなん恥ずいってば……」
消え入りそうな声で言ってはみたけど、それで優しくしてくれるような彼じゃない。
いつもと変わらぬ彼の鋭い眼差しが、私のそこをまじまじと見つめている。
私の心臓は、今まで経験したこともないような早さで鳴り続けている。
「あ、っ……や、ふっ」
彼の舌と唇が、私のそこをついばみ、クリトリスを刺激する。
彼の動き方は執拗で、むしろ乱暴でさえあった。だけど不思議と、
それを嫌とは感じない私がいた。
「や、んんっ……!」
中を指で乱暴にかき回されても。もう、準備は十分にできていたから。
彼は自分の指先を確かめ、私に尋ねる。
「濡れたのか?」
「そーだよっ……あんたが、恥ずかしいことばっかするからじゃない」
「じゃ、いくぞ。そっち向け」
うん、優しくしてね……なんて言ってみたい気持ちは私にもなくはなかったけど、
やめておいた。優しくする気があるような人は、処女の女の子を相手に、
相手を壁の前に後ろ向きに立たせてそのまま後ろから……なんてやり方は、
たぶん、ふつう、しない。
「いーよ、ご勝手にっ」
彼がジッパーを下ろす音、衣ずれの音が聞こえる。私は壁に両手をつき、
目を閉じて歯を食いしばる。彼の体が、ふわりと後ろから私を抱きすくめた。
私のそこに、何かが触れた……と感じた途端、それは私の中に侵入してきた。
バツンと、音ではない、千切れるような感触が私を貫く。
「やー、いったーい!」
学校の中だというのに、私は思わず大声を出してしまう。
ムードも何もあったものじゃないけど、本当に痛い。
こんなに大変なものだとは思わなかった。
「あっ、やっ、いた、痛いってばー」
私は涙声で訴えたけど、彼は後ろから遠慮会釈なく私をゆすり立てる。
彼の手がセーラー服の裾をかき分け、ブラの上から私の胸を撫で回す。
「貧乳だな」
「うっさいー、あっ、あっ、あっ」
容赦なく私の中を往復しながら、彼の手がブラのホックを外そうとする。
でも、何しろ服は着たままだし、うまく外せないみたいだ。結局諦めて、
彼はブラを強引に上にたくし上げ、両手で私の胸をもてあそぶ。
だけどその手の動きはだんだん散漫になって、
そして次第に、腰の動きのほうがピッチを早めていく。
「みずほ……いくぞっ」
珍しく私の名前を呼ぶ彼の声に、私の胸は切なく疼く。
「あ、あん、や……あ、あ、……!」
私を抱きすくめる彼の体がビクンと震える。
次の瞬間、彼は私の中に精を放っていた。
「で、おまじないって」
「んー?」
服を直している私に、彼が今さらなことを聞く。
「何を願うんだよ」
「あたしの願い事なんて決まってるでしょー?お姉ちゃんと会いたい、だよ」
「……それってつまり」
「そう。今日、思いっきり危険日」
数年前に亡くなった私の姉、御簾津みずえは、いつか私の子供として生まれ変わる。
私の夢枕に立って、本人がそう言ったのだ。
だから、妊娠しさえすれば、私はそれでお姉ちゃんと再会することができる。
「つまりお前は俺を利用しやがったわけだな」
「何言ってんのよ。好きほーだいに楽しんだくせに」
私はプイとそっぽを向く。
「じゃあ、お前の姉は俺の娘になるわけか」
「そうだね」
変な理屈だけど、私はうなずく。
彼はしばらく何かを考える仕草をした後で、だしぬけに言った。
「御簾津。お前、俺の女になるか?」
「んー、なったげてもいいよ」
「じゃ、なれ」
「わかった」
何でもないことのように私はそう答え、そして、心の中でガッツポーズ。
「ね、私の願い事、叶うかな」
願い事は、本当は二つある。ひとつはさっき彼に言った通り。
もうひとつは……苑田が、私にメロメロになってくれますように。
「あー?前にも言ったじゃねーか」
彼は私の頭をくしゃくしゃと撫で、いつもと変わらぬ頼もしい意地悪顔で、言う。
「必ず叶う。心配すんな。俺の予言は必ず当たんだよ」
「そっかー」
私は彼を見上げて微笑む。
だって、好きになっちゃったんだもの。
元ネタ:花とゆめCOMICS『1+1=0』桑田乃梨子