広瀬と尚枝が卒業して1年と少し。
ゴールデンウィークのとある日に、北家には広瀬と森島が遊びに来ていた。
二人とも卒業前と全然変わっていない。ベタベタしないし、森島は平気で広瀬を殴る。
もちろん今も付き合っているからこそこうして一緒に来るのだろうが、ちゃぶ台の向こうの二人のラブ
シーンは、想像がつかないと尚枝は思う。
でももしかしたら、自分と先生もそうなのだろうか。
「先生」「尚枝さん」と今も呼び合う自分たちに夜の姿があることは、他人には想像がつかないかもし
れない。
森島と北先生が、学校で最近起きた事件について話し出すと、広瀬と尚枝は話題に入れなくなって、ぽ
つりぽつりと共通の友人の近況などを話し合った。
間近で向き合うと広瀬はやっぱりかっこいい。
変わってないと思ったけれど、以前より広瀬は男っぽくなっている。尚枝は気持ちが揺れるのを感じる。
今はもちろん北先生が一番大事だけれど、かつてあんなに好きだったのだから、少しは胸はときめいてしまう。
ふと気づくと北先生が自分を見ていて、尚枝はドキリとする。別に悪いことをしていたわけじゃないの
だけれど。
広瀬と森島が帰った後、久々に高校時代のことを思い出したからという訳でもなかったが、尚枝はふと
思い立ち、タンスの奥からセーラー服を引っ張り出してみた。
そして夜、お風呂上がりにいつものペアパジャマではなく、冗談のつもりでそれを着てみた。
「ねー先生。見て。懐かしいでしょ。もう似合わないかなあ」
先に風呂から出て新聞を読んでいた先生が、振り向いて尚枝を見た。そのときの彼の反応は彼女の予想
外だった。
彼は全然笑わなかった。代わりに、眼鏡の奥の目が光った。尚枝が見たことがないような暗い光があった。
尚枝は不安になった。あたしはなにか間違ったことをしたのかしら、と。
「え…っと。先生?」
「…ああ、いや、ちょっと驚いてしまって。…よく似合うよ」
しばらくなにか考えてから彼は新聞をたたみ、ちゃぶ台に置いて立ち上がった。
「尚枝さん。こっちに来てくれるかい?」
「?」
言われるままに尚枝は彼についていった。
先生は寝室の灯りを豆電球だけにした。
手招きをされて尚枝は側に寄る。
「スカーフだけ外して僕に下さい」
言われたとおりに、襟の下からスカーフを取って、渡す。
「うしろを向いて」
尚枝が背中を向けると彼は両手首をスカーフで後ろ手に縛った。
「先生!?」
「大丈夫だよ」
先生はタンスの引き出しを開けて、ごそごそしている。そして中から手ぬぐいを引っ張り出した。
彼はそれを細長くたたむと、尚枝の目を隠して、頭の後で縛った。
「先生、どうしたの?あたし、なにか悪いことした?」
「違うよ。尚枝さんはなにも悪くないよ。…ただ、ちょっと試したくなっただけだから」
不安で尚枝は立ちすくむ。先生の表情が見えないから、なおさら怖い。
「畳の上に座って」
先生の声がする。両手が不自由で難しかったが、尚枝は言うとおりにした。
腕が背中から脇の下に入ってきて、尚枝をうしろに引っ張った。
「ここにタンスがあるから、寄りかかって」
少し背を倒すと、タンスらしき堅いものに当たった。
「今度は膝を立てて」
尚枝は言われたとおりにする。先生はいったい何をするつもりなんだろう。不安で胸の鼓動が激しくなる。
おとなしく言われるままになっている尚枝を、彼は見下ろしている。
と、膝を折ってかがむと、スカートを太股の上まで捲り上げた。そして尚枝の膝を左右に分ける。
彼の手は太股の内側を撫でながら、中心に向かって下りていく。薄暗い部屋でもショーツの白さは浮き上がって見える。
そのショーツに彼の指がかかる。
「な…に?」
先生はどうしようというのだろう。
結婚してから何度もセックスしたけれど、いつも布団の中で優しく抱いてくれた。痛くないように、疲
れないように…。
なのに、今は。
身体をすくめている尚枝に彼は言った。
「言うとおりにしていてくれれば、なにも怖くないよ。痛いこともしないから」
尚枝は頷いた。
指がショーツの脇から入ってくる。乱暴ではない。でもショーツをはいたままだから、押されていつも
より強く感じられる。
指が襞に沿って上下に動く。やがて襞の内側にも指が滑り込む。
「…あ…ん…」
指は入り口のところをぐるりとかき回す。
突然指が引き抜かれ、ぬるりとその指が尚枝の頬に擦りつけられる。
「もう、すごいことになってるね」
頬の濡れた感触。尚枝は恥ずかしくて、何も言えない。
彼は立ち上がり、今度は制服の上から胸に触れた。
尚枝はすぐにパジャマに着替えるつもりだったから、ブラはつけていなかった。
両手が後ろにいっているせいで、胸を突き出すような姿勢になっている。
制服の上から揉まれると、堅いサージの布に乳首が擦られて、すこし痛い。
でもその痛がゆい感触で、なおさら乳首が立ち上がる。布の上からでもそれが見えるのだろう、彼はそ
の部分を執拗に弄る。
「せん…せ…」
ため息で、言葉がとぎれる。
今度はセーラー服を胸の上までたくし上げられた。
裸のおっぱいが先生の目にさらされている。
自分では見えないその姿を想像し、尚枝は羞恥で赤くなる。
手がスカートの中に入ってきて、ショーツを引っ張る。
尚枝は素直にお尻を持ち上げて、脱がせるのに協力する。
「いい子だね」彼は優しく言う。
スカートもおなかの上までたくし上げられた。
ショーツがなくなると、お尻が直に畳に当たる。膝を開いているので、スースーする。
なにより先生には、なにもかも見えてしまっているに違いない。
こんな格好を見られるなんて。
でもそう思うと、なぜか下腹がじんわりと熱くなった。そしてとろりと溢れてくる…。
彼が部屋を出ていく気配がする。どうしたんだろう?どこへ行ってしまうんだろう。…でも、すぐに戻
ってくる。
「さっき、思いついたんだ」
耳元で、カチッっと音がする。続いてヴィーーーンという音。
なに、これ。尚枝の身体が恐怖で縮こまる。
「残念ながら、うちにはバイブレーターというようなものはなくてね。
でも、ほらこれ。この間、100円ショップに行ったでしょう?
あの時、こんなものまであるんだって、マッサージ器を買ったよね。…あれだよ」
でも、でもあんなの、すぐ壊れちゃうんじゃ。それに、なにに使うの?まさか。
「もちろん、このままでは使えないね。防水でもないし。でも、ほらこうすれば…」
ごそごそと音がする。そのあと、尚枝の顔にぺたりとくっつけられたもの。…ゴムの匂い。コンドーム
を被せたの?
「ずっと同じ体勢だと疲れるよね。…横になろうか」
彼は尚枝を畳の上に、肩を下にして横たえた。
手が後にいっているので、仰向けにはなれない。
下がってしまっていたセーラー服はたくし上げられ、スカートはファスナーを下げて脱がされてしまった。
尚枝は上だけ中途半端に着て、下はなにも身につけていない姿になった。
「上の方の足だけ、膝を立ててくれるかな」
尚枝は緊張しながら言われるままにした。
「うん。それでいいよ。尚枝さんはいい子だ」
手が、へそのあたりに置かれた。
「待ちくたびれたよね。すぐだからね」
カチッと音がする。マッサージ器のスイッチが入れられたのだ。
首筋にマッサージ器が押しつけられた。振動がかなり強く伝わってくる。それにけっこう硬い。
マッサージ器はおっぱいの付け根のあたりをゆっくりぐるぐると回りながら、だんだん上に上ってくる。
とうとう乳首にたどり着くと、彼はマッサージ器を強く押しつけたり、ぎりぎり触れるくらいのところ
まで離したりする。
その度に振動と一緒に快感が広がる。
畳の上で尚枝は身を捩り、背中を反らせる。
「尚枝さん。声出していいよ。雨戸は閉まってるから」
声を出さないのではなく、出せなかった。恐れと快感とがないまぜになって、息をするので精一杯だった。
両方の乳首を責めたあと、マッサージ器はへその方に降りてきた。
へその周りをまわって、太股の内側に来る。だんだん、中心に近づいてくる。
尚枝の足が大きく押し広げられる。
「こんなになったの、初めてだよね。畳にまで零れそうだよ」
尚枝は答えられない。言葉で責められると、恥ずかしいのに気持ちいい。そのことにうろたえる。
襞の外側を、マッサージ器はゆっくりと回る。でも振動は中心まで伝わってくる。
開いている太股に力が入る。彼は執拗に周りばかり責める。
「あ…はぁ…せん・せ…」
快楽の波がうねりながらやって来る。でも、そこじゃない。そこじゃなくて…。
彼の空いているほうの指が、ぐいっとねじ込まれる。
「ぁああああん!」尚枝が大きな声を上げる。
彼は指を抜き差ししながら、マッサージ器を露出した突起に擦りつける。
ヴィーーーーンという音に、指を出し入れする淫らな音が混じる。視界を遮られているせいで、耳が敏
感になっている。
「あっ…あっ…はっ…んん…」
一番敏感なところにを直接振動させられ、尚枝は身体を捩り、自ら腰を前につきだし、登りつめようとする。
彼は片手の指を入れたまま、尚枝の動きについてゆく。
尚枝の身体が激しく波打つ。
曲げていた足が伸ばされ、尚枝の身体が弓なりに反った。
「ああっ…………あっ…!!」
一瞬の後、尚枝の身体から力は抜け、畳の上で弛緩する。
「いっちゃいましたね」彼は冷静に言う。
「先生…なんで…」
答えずに、彼は腕を縛っていたスカーフをほどく。目隠しはそのままだ。
「両手を前について」
まだ力のあまり入らない手を、畳につく。彼は尚枝の腰をつかんで持ち上げる。気づくと、尚枝は四つ
ん這いにされている。
「…いや…」
彼は黙っている。ごそごそという気配。
突然、尚枝は硬くて大きなものに貫かれた。
「はぅ!」
尚枝は思わず息を吸い込む。マッサージ器じゃない。これは先生の…。
休む間もなく、ぐいっと引かれ、また奥まで押し込まれる。
さっきの登りつめるたばかりの身体は、容易に火がつく。
彼の動きに合わせ、粘膜がひくつき、絡みついていることが、尚枝は自分でわかってしまう。
畳に着く手に力を入れ、縋り付く物を求める。
奥へ、奥へと突き上げる。揺さぶられ、髪が乱れ、乳首が畳に擦れる。
「はんっ…んっ…せん…せ…!」
腰骨を掴む指が、尚枝の肌に食い込む。彼の激しい息づかいが聞こえる。
頭を振り、腰を高く上げ、尚枝は叫ぶ。
「あああああっ…!!」
そして、彼も尚枝の中で果てた。
ぐったりと畳に横たわる尚枝の目隠しを取り、顔にかかった髪を、彼は指先でよける。
そして、自分の眼鏡を外して畳に置くと、尚枝の頬を両手で包んで、唇を重ねた。
尚枝が目を開ける。
「先生」
目の前にいるのは、いつもの優しい先生だ。
涙がぽろぽろと、目から零れる。
「ごめんね」
彼は、尚枝に謝る。そして、しわくちゃになったセーラー服を脱がせ、タオルをかける。
「あたし、お風呂に…」
尚枝は足ががくがくして、うまく歩けなかった。彼は風呂場まで支えていく。
尚枝がパジャマを着て風呂場から出てきたとき、寝室は片づけられ、布団も敷かれていた。
「疲れたでしょう?もう、休もう」
すっかりいつもの先生に戻っている。尚枝は居間の床にぺたんと座り込む。
「先生、あたし、なにか…」
尚枝はそこまでしか、言えない。
「尚枝さんのせいじゃないんだよ。僕はね、ちょっと、焼き餅を焼いてしまったようだね。
…広瀬君が来たでしょう。尚枝さんがとても嬉しそうに見えたから。だから…ね」
「そんなの…。あたしが一番好きなのは先生だって、わかってるじゃない。なのに…」
「ごめんね。…でも、他にも…尚枝さんの違う姿を見てみたい気持ちもあったんだ。いやだった?
いやだったら、もう二度としないよ」
尚枝は考える。本当に、自分はいやだっただろうか。
尚枝は、言う。消えそうな小さな声で。
「えっと…ね…。たまに、だったら、いい…かな」
彼は微笑む。
「じゃあ、たまに、にしておこうか」
尚枝はこくんと頷いた。
今度のとき使えそうなものはないかな、などと考えながら…。
(おわり)