「あーそれにしてもやっぱ夏は高校野球だねえ」  
甲子園からの帰りの車中、あたしはものすごく機嫌がよかった。  
「ユニフォームも制服と違った良さがあるのよねー。どっちかって言うとさ、  
体のラインがわかるタイトなのが好みなんだけど。色はやっぱ白!オフホワイトが一番。  
そんでさ、半袖から伸びる、日に焼けた筋肉質の若い腕、これが」  
「日本で一番ヨコシマに高校野球を見ている教師だよな」  
夢中になって喋り続けるあたしの横には、冷静にツッコミを入れながら車を走らせる広瀬。  
殴ってやろうと思ったけど、事故られたら困るのでやめておく。  
森島先生の遺品ですと言われて、カメラの中の高校球児や応援団や女生徒だらけのフィルムを  
現像されたら立場ないものね。  
 
広瀬の卒業以来、あたしから広瀬に会いに行くことは仕事と予算の都合上できずに、広瀬の帰省に専ら 
頼っていた。  
この夏休み、初めて広瀬にあたしから会いに行くことになったとき、どこに行きたいか聞かれて、  
あたしは一も二もなく「甲子園で高校野球を見たい!」と答えた。  
せっかく関西方面に行くのだから、いい機会だと思ったのだ。  
ただ関西といえども、広瀬の住む大和郡山と西宮は遠い。それはわかってたから、てっきり反対される 
かと思った。  
だけど広瀬はあっさりと了承した。 そして真夏の太陽の下、オレンジ色の車に乗ってあたしを迎えに来 
たのだ。  
笑っちゃうくらい王子様みたいに。  
 
広瀬はあたしとは正反対でしっかりさんだし、修行中のくせに貯金もしてることは知ってたけど、まさ 
か車まで買ってたとは思わなかった。  
思わず「すげー」を連発してしげしげと眺めたあたしに向かって、中古だけどと照れたように笑ってみせた。  
制服を着ていなくたって広瀬は眩しい。  
広瀬が制服着て毎日あたしの隣で笑ってたのなんてたった少し前のことなのに、いつの間にか免許とっ 
て、車も買って、手慣れたようにハンドルをさばく。  
こうやって広瀬は少しずつ、あたしの知らない広瀬になっていくんだ。  
 
それから散々遊びまわって、広瀬のアパートの部屋についたのは夜も更けた頃だった。  
初めて入る広瀬の部屋は、持ち主の性格を表して、古いけれどきちんと整頓されていた。玄関に入った 
とたん広瀬の匂いを感じる。  
「おじゃましまーす。あー疲れた疲れた」  
どうぞ、の声がかかるかかからないかのうちにずかずか上がり込んで、テーブルの前、畳の上に腰を下 
ろして伸びをする。  
その間に広瀬はクーラーを入れて、よく冷えた烏龍茶を出してくれた。ありがたく頂戴して一気に流し込んだ。  
 
「お前さ…どうぞお構いなく、って言葉知ってるか?」  
「何よ」  
「いや」  
はああ、と広瀬が溜息を吐く。  
あたしが図々しく振る舞うのは、そう思ってくれた方が気が楽だからだ。だってそんなキャラで押し通 
さないと、緊張して顔も上げられない。  
知らない広瀬と知ってる広瀬が目の前で入り乱れて、くらくらするんだ。  
だけど、あたしの傍若無人さ加減を困ったように呆れたように笑って見てるその顔は、あたしの好きな顔で。  
その笑顔が高校の時から変わっていなかったので、やっと心から一息つくことができた。  
「広瀬」  
「ん?」  
「今日楽しかった?」  
だから、ずっと気になっていたことをやっと聞けた。広瀬はすすっていた烏龍茶を喉に詰まらせた。  
 
「…んだよそれ」  
「んんー」  
あたしは言葉を慎重に選んで答えた(一応教師だから)。  
「なんかさ、あたしの好きなとこ行って、好きなことして、好きなもの食べて、おごってもらって、あ 
たしはとっても楽しかった。  
でもそれは、広瀬があたしを楽しませようとしてくれたからなんだよね。今日広瀬がしてくれたことよ 
りも、そう思ってくれてることが嬉しかったよ。  
だけどあたしに何かしてくれるたびに、広瀬が無理してるんじゃないかって、ずっと感じてたんだ」  
広瀬が黙ってしまったので、あたしはそのまま思っていることを全部打ち明けてしまう。  
「今の広瀬の年ってさ、すっごく楽しくって、貴重な時だと思うのよ。  
でももしあたしに追いつきたいって理由で先を急いでいるとしたら、広瀬が今を今の広瀬らしく楽しめ 
ないのなら、…あたしが広瀬に無理をさせてるんだとしたら、ちょっと、つらい」  
 
「あたしは駄目もとでもしたいことはしたいって言うんだから、駄目って言われたってかまわないと思 
うよ。だからさ、」  
言い終わらないうちに、広瀬の腕がすっと伸びてきた。首の後ろに回ったと思ったら、そのまま強い力 
で抱き寄せられた。  
「楽しかったよ」  
「…」  
「会えて嬉しかった」  
広瀬の胸の中で、あたしは自分の心臓がばくばくと音を立てるのを聞いていた。  
真剣な目をして、低く抑えた声で思いを伝える。こんな時の広瀬に落ちない女はいるんだろうか。  
あたしを抱きかかえたまま、広瀬は天井を仰いで苦笑した。雰囲気がふっと緩んだ。  
「別に無理してるわけじゃねーよ。でも男としてこうありたい、ってのが俺の中にあって、それに従い 
たいってのはあるんだ」  
「うん」  
「今日だけはさ、おれのしたいように、先生を甘えさせてやりたかったんだ」  
「うん」  
 
あたしは姿勢を変え、広瀬の背中に腕を回して彼の体温を閉じ込める。そうやって、体の感触を、そし 
て愛されてるってことをじんわり感じて、幸せをかみ締めた。  
「で、どうしようか」  
抱き合ったまましばらくそのままの姿勢を楽しんでいたら、離れるきっかけを失ってしまった。  
かといって、甘い状況に持っていくには少々間抜けだ。  
「じゃ、始めよっか?」  
あたしはにぱっと笑いながら人差し指を立てた。ムードがないと広瀬は文句を言って、だけど、あたし 
の好きな笑顔をもう一度見せてくれた。  
 
広瀬の指が、膝の裏から腿をすうっと伝って、スカートの中に忍びこんでくる。そのまま上へと上って、 
ストッキングの中に差し込んだと思うとあっという間に脱がされた。  
最初の頃はストッキングに手間取ることが多かったけど、いつの間にか器用に、傷つけずに脱がす術を 
身につけていたのでちょっと焦る。  
こいつのカンがいいのは、勉強と運動だけでもないんだ。  
負けずに広瀬のシャツを脱がせ、いとしい鎖骨の真ん中に唇を落とす。汗臭いのが、いい。  
シャツを剥ぎ取られるのを待っている間、つけたままの部屋の明かりがふと気になった。  
広瀬の帰省のたび、あたしの部屋で何度も抱き合ってきけれど、それが広瀬の部屋になっただけで随分 
と感じが違う。  
広瀬が寝て、起きて、着替えてご飯食べて、仕事で疲れた体を休めたり、くつろいだりしてるこの部屋 
で、あたしたち絡み合ってる。  
…なんというか、目標に向かってストイックに生きてる広瀬の生活に対して恥ずかしいというか申し訳 
ないというか、いてもたってもいられない気持ちになってしまった。  
 
「広瀬電気消して」  
「やだ」  
すでにあたしの上半身はブラ一枚の状態で、ホックをはずそうとする広瀬の手は止まる気配もない。あ 
たしは広瀬の頭をはたいた。  
「消さないと殴るよ」  
「もう殴ってんじゃねーかよう」  
それでも広瀬は電気を消すため、しぶしぶといった感じで立ち上がった。窓の外の明かりを受けて、暗 
がりの中に浮かび上がる広瀬があたしの元にひざまずくのがわかる。  
狙い澄まして抱き付いて、そのまま押し倒した。  
「広瀬なんて、襲ってやる」  
「電気消した途端に何すんだよ変態教師」  
お互いの表情がわかるくらいに顔を近づけた。笑いあって、じたばた暴れて、その息がおさまらないう 
ちにキスをした。唇を離して、また目を見合わせて、お互いの中にある気恥ずかしさをまた笑って、も 
う一度唇を合わせた。  
ムードなんていまさら作れるもんじゃない。  
 
襲うついでに広瀬のジーンズのジッパーに手を伸ばそうとした手を、やんわりと掴まれた。  
「さっきも言ったけど、今日はおれに甘えて欲しいんだ」  
その目がちょっと真剣だったので、あたしは納得行かないながらも手を引っ込めた。その代わり、サッ 
カーをやめて、足の筋肉が落ちたかわりに逞しくなった肩から腕のラインを指で確かめた。  
その間、間断なく繰り返していたキスは、深く舌を差し入れる濃厚なものに変わっていった。そして今 
度こそ、ブラのホックを外された。露わにされた胸に広瀬が顔を寄せる。乳首にふーっと息を吹きかけ 
られて、唇でやさしく挟まれた。  
「あっ…!」  
歯で緩く噛んで、吸い上げる。舌で押しつけ、転がす。強弱のリズムをつけて繰り返される刺激に体が 
震える。もう片方の乳房は掌で螺旋を描くように捏ねくられた。広瀬のもう片方の手がお腹をとおって、 
下へと降りていく。ショーツの上から筋をなぞられた。  
 
「うわ…」  
「なんか言ったら殴るよ」  
自分がぐちゃぐちゃに濡れてるのはわかってた。あらためて広瀬に言われたらきっとあたしは悶え死ぬ。  
広瀬の指に、トン、トン、と敏感な部分をノックされた。かたちを探るように何度もさすられる。  
その間にも、乳首に感じる舌のざらついた感触は途絶えない。  
頭が痺れるような快感に襲われて、声にならない喘ぎを繰り返した。  
いい加減ぼーっとして何も考えられなくなった頃、脇から指が挿しこまれた。いきなり二本。  
「…っ!」  
入りこんだ瞬間、あたしは息を大きく吸って、身を固くした。最初はゆっくり、そしてだんだん速く、 
時に中で角度を変えて。広瀬の指はあやすようにいろんな動きをして、あたしをとろけさせる。  
 
やがて広瀬は指を抜くと、あたしの右足を高く持ち上げて、最後に残ったショーツをゆっくりと脱がせた。ぬるんだ場所が大きく露出する。広瀬はあたしの脚の間に屈みこんで、核に唇を落とした。  
「あっ」  
舌でその部分を突つかれた。その舌は更に奥の穴へと入りこんで、とろとろした液をいっぱいあたしの 
中から引きずり出した。  
耐えようと固く目をぎゅっと閉じたけど、やり過ごせずに何度も声をあげた。  
「も…いいから…」  
なんでもいいから早く来て欲しい。  
あたしの気持ちがわかったかのように、広瀬の張りつめたものがそこにあてがわれた。  
その前にしっとりと肌になじむような温かい感触が腿の内側をかすって、またいとしさに震えが来た。 
押し当てられた部分が勝手に蠢いて、広瀬を中へ中へと誘う。  
 
誘い込まれて広瀬が入ってくる。  
広瀬が触れたところから、粘膜が歓喜の声を上げて迎え入れ、ぴったりと包み込み、引くときは後を追 
いすがった。  
暗く霞んだ視界の中で、広瀬の細いけど筋肉のしっかりついた上半身が揺れている。  
クーラーは用を足さず、お互い溶けるほどに熱い。  
広瀬の汗が降ってきて、あたしを外からも濡らした。汗だくになりながらの喘ぎは止まらない。  
「…はんっ、…あ、あっ…」  
「すげ…絞り出されそ…」  
広瀬がぐっと引いて、動きを止めた。波をやり過ごすかのように、唇を噛んでじっとしている。  
結果として焦らされたあたしは、物足りなさへの抗議として広瀬の背中に長くもない爪を立てた。  
「広瀬のくせにっ、じ、焦らさないでよ…あとで」  
覚えときなさいよ、と続けるはずのあたしの言葉は途中で遮られた。広瀬の掌で口を覆われたからだ。  
「黙って、けーこさん」  
けーこさん?  
後半五文字に耳を疑った。それがどういう意味を持つ言葉なのか、考えつく前に広瀬が動いた。  
 
「あっ!」  
深く突き上げられて、思わず声をあげた。 ひときわ声が大きかったのは広瀬の動きが急だったからで、 
決して五文字言葉のせいじゃない。だけど広瀬はそうは思わなかったみたいだ。ぷるぷる震えるあたし 
の顔を、新たな発見をしたみたいに観察している。  
「うわ、おもしれー」  
あたしの顔はきっとみっともなく真っ赤だ。だけどそれはあの五文字言葉のせいじゃない!  
誤解を解くべく広瀬を仰ぎ見た。  
真剣なまなざしに、捉えられた。思うように声が出ない。  
「けーこさん」  
広瀬はわたしの思惑に構わず、五文字言葉をあたしの耳元で囁きながら、ずぶずぶと抜き差しを繰り返す。  
快感に身が縮こまる。その度にあたしの中も収縮して、広瀬の質感をぐっと強く感じてしまう。  
 
「あっ、あーっ」  
切羽詰まった悲鳴みたいな声が出た。知らない広瀬に抱かれてるみたいで、ひたすらに恥ずかしい。  
たまらなくなって、誤解を解くことも忘れぎゅっと広瀬に抱き付いた。  
広瀬はもう一度例の五文字言葉を囁くと、激しく何度も揺すってきた。室内に湿った音が響く。  
「あっあっ…ひっ…!!」  
「けーこさん」  
「うっさい!ばか」  
もう、ろくな返事が返せない。きっと涙目になっているはずの顔を隠すこともできずに、ひたすらに喘 
ぎ続けた。  
「ごめん」  
広瀬が喉の奥で笑った気がしたけどよくわからない。与えられる刺激に反応を返すのに精一杯だ。  
襞の奥へ奥へと、楔を打ち付ける広瀬の動きが速くなった。  
「わり…おれもう駄目かも」  
「あ、あ、ちょ、っと…やっ…あっ、ああっ、あああああ」  
頭の中がカッと白くなって、強烈な感覚が背筋を通り過ぎていく。その直後、広瀬があたしから抜き取 
った感触と、胸の上に熱いものが降りかかるのを感じた。  
 
あたしは完全に脱力していた。久しぶりとはいえ、ひどく乱れさせられすぎた気がする。  
大きく息を吸って呼吸を整えているが、うまくいかないのは広瀬の重みが圧し掛かっているからだ。  
でもそれさえも甘くて、震えが止まらない。  
あたしがぼんやりと余韻に浸っている間、広瀬はぴくとも動かない。頬をつついてみても何の反応もない。  
…完全に落ちてる。  
よっぽど疲れていたんだろう。あたしがあちこち引っ張りまわしたんだから当然なんだけど。  
それにしても…。さっき見せてしまった自分の痴態に頭を抱える。  
「けーこさん」なんて、初めて広瀬に呼ばれたのは広瀬がまだ高校生の時だったけど、その時は別にな 
んとも思わなかったのに。  
結局、それ以来ずーっと「先生」に戻っていたから免疫が消えてしまったからだろうか、さっきは、も 
うたまらなく恥ずかしかった。不思議だ。  
 
さっきの仕返しに、耳に口づけて、広瀬が一番嫌がる呼び名を呼んでやる。  
声に出さない四文字言葉にくすぐったそうに身を捩らせると、広瀬の腕があたしを抱え込んでぐっと抱 
き寄せた。  
急で強引な仕種に、またも心臓が跳ねてしまう。  
「こら!いくらあたしが体育教師っていったって、そう何度も付き合えないっつーの!」  
思わず身構えたけど、そのまま広瀬はおとなしく眠り続けていた。  
あたしをしっかりと抱えこんだまま。  
無意識に人をどきどきさせやがって、ちくしょう。  
 
だけどその寝顔は、初めてあった時のように無防備なもので。  
規則正しい寝息と滑らかな肌の熱さに包まれるうち、ついあたしはうっとりと目を閉じる。  
 
広瀬は変わってく。だけどどんな新しい広瀬だって愛しいよ。  
毎日会えなくても、あたしはもらさず新しい広瀬を確認する。  
その度に、あたしに必要なのは、制服の高校生でもなく、落ち着いた大人の男でもない、  
広瀬なんだと思い知らされるんだ。  
 

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