――― 矢永くん……好き………………  
〈ガバッ〉  
「はぁ…なんて夢…」  
 
   私は時々、ほとんど青一色の夢を見る。  
   その夢はいわゆる予知夢なんだけれども、地味でささやかなことばかりで余り役に立たない………  
   はずだったのだが……  
 
「ますみ、遅刻するわよ」  
「はあい」  
私はベットから起きると、制服に着替えて朝食を食べに居間へ降りた。  
 
「行ってきます」  
家を出て、学校に向かう通学路、いつもの場所でいつものように声をかけられた。  
「おはよう、ますみ」  
「あ、悟ちゃん…おはよ」  
「どうした?なんか元気ないな」  
「ううん、別に…」  
悟ちゃんは幼なじみで、私のことをよく知る数少ない一人だ。  
「それならいいけど、もしオレでよかったら相談に乗るぞ」  
「うん。ありがと」  
悟ちゃんは優しい……矢永くんがいなかったら、もしかしたと思う  
「ますみー、悟、おはよ」  
「よー矢永」  
「あ…お、おはよ」  
彼、矢永くんは私の彼氏だ。半年前に私から告白して、それからつきあっている。  
 
「ん…どうした…ますみ? 顔赤いぞ」  
「う、ううん。な、何でもない」  
「?。へんなの」  
――― うう、今朝見た夢の所為で矢永くんの顔が、まともに見れないよう  
私は一日中、彼のことをまともに見ることが出来なかった。  
 
 
――― 矢永くんが好き…矢永くん…………  
〈ガバッ〉  
「ま、また……」  
    
   昨日と同じ、エッチな夢……  
   夢の中では、矢永くんとすごく仲良くて、幸せで………そして、気持ちいい  
 
「あ…やだ、下着が濡れてる……恥ずかしぃ…」  
 
   夢の中で幸せだったぶん、目が覚めてから自己嫌悪に陥る  
   しかも青い夢だから、いつか矢永くんと、こんな風にエッチするということだ  
   私たちは、まだキスしかしたことが無いのに……  
 
「あぅ〜。又、恥ずかしくて彼の顔見れないよ」  
思った通り、その日も彼のことをまともに見ることが出来なかった。  
 
「お〜い、ますみ」  
「あ、悟ちゃん」  
「矢永が心配してたぞ」  
「えっ」  
「最近、顔をまともにあわせてくれないし、変に避けられてるみたいだって。なんか嫌われること  
 したかなって悩んでたぞ」  
 
「そんなことないよ、矢永くんは悪くない」  
「それじゃ、まさか…。ますみどうかしたのか」  
「えと…あの…その…」  
――― え〜ん、どうしよう。悟ちゃんにもエッチな夢のことなんて話せないよ。  
「ますみ!」  
「あ、矢永」  
「や、矢永くん……」  
走って来たのか、矢永くんは息を切らしていて、でも真っ直ぐ私の方を向いていた。  
「オレ、なんかしたか? こんな風に避けないで教えてくれ」  
――― 矢永くん……  
彼の真剣な瞳に見つめられ、私の心がズキンと痛んだ  
「違うの……、そうじゃなくて」  
「あの、言いにくいみたいだからオレ席外すわ」  
悟ちゃんは、そういって小走りで家に帰っていった。  
 
「あの、ここだとチョット……」  
私が周りを気にして話せないのだと解ると、  
「それじゃ、オレの家が近いからそこでいいか?」  
と聞いてきた。  
「うん」  
私は小さくうなずくと、彼の横に並んで歩き始めた。  
 
矢永くんの部屋に入ると、飲み物を取りに行った彼がジュースをもって戻ってきた。  
私に黙ってクッションを進めると、矢永くんは机の椅子に座り、黙って私が話し出すのを待っていた。  
「あの……ゴメンね。私が変な態度とったから……」  
「………どうかしたのか」  
落ち込んで話す私に、彼は優しく話しかけた。  
「夢をみたの……」  
「いつもの予知夢か?」  
「うん、私と矢永くんの夢……」  
「え…俺達の?  まさか…何か悪い夢か!」  
彼は顔色を変えて、真剣に私を見つめた。  
「ううん、仲良しで幸せな夢」  
「なんだ……」  
彼は少し安心したのか、ホッとしたように息を吐くと、身体の緊張を抜いた。  
「それで、どうしてなんだ?  いい夢だったんだろ?」  
「………」  
彼の問いかけに、私は顔を赤くして黙り込んでしまった。  
「ますみ?」  
真っ赤になった私を不思議そうに覗き込むと、彼は私に話の続きを促した。    
「え……の……夢…みた…」  
「え?」  
彼は聞こえなかったのか、もう一度促してきた。  
「矢永くんとエッチなことをしてる夢を見たの!!」  
――― え〜ん、恥ずかしいよ。  
私は大きな声で言うと、恥ずかしさでさらに真っ赤になった顔を俯かせた。  
 
彼は一瞬何を聞いたのか解らないみたいだったが、すぐに理解すると、私と同じように真っ赤になった。  
「こんな恥ずかしいこと話せる分けないじゃない……」  
彼の知りたいことを言ってしまうと、私の目から涙があふれ出して止まらなくなった。  
「あ、ご…ごめん……」  
彼は自分がとんでもないことを、私に言わせたことに気づき、慌てて私の所に来て謝った。  
そして泣きじゃくる私を、そっと抱き寄せて優しく頭を撫でてきた。  
 
しばらくそうしているうちに、涙が止まり落ち着くと、私は彼の腕の中にいることに気づいた。  
「あの…」  
私は、そっと彼の顔を窺うと、優しい瞳に見つめられ、そのまま釘付けになった。  
「落ち着いた?」  
「うん」  
「本当に?」  
「うん」  
全身を包まれ、彼に見とれた私は、ボーとした意識の中、彼の優しい問いかけに無意識に答えていた。  
「このこと許してくれる?」  
「うん」  
「………キスしてもいい?」  
「うん…」  
彼の瞳に吸い寄せられるように顔を上げると、彼の唇にそっと重ねた。  
「好きだよ…ますみ」  
「あ……」  
彼の呟く声が、耳から優しく染みこんで、全身に広がっていくように感じた。  
「いい?…夢で見たようなこと……してもいい?」  
「ん…」  
「エッチなこと、してもいい?」  
「うん、いいよ………あっ…」  
身体を包んでいた腕が、滑るように動いて、私の胸に触れてきた。  
 
「ん…あ……あっ……」  
服の上から撫でる彼の手は、優しくぎこちないけど、触られるだけで私の身体は感じていた。  
「あっ、矢永くんのが……」  
彼のモノが大きくズボンを押し上げて、私の太股あたりに触れていた。  
「ごっ、ごめん…」  
彼は恥ずかしそうに腰を引いたが、熱い瞳は私を求めるように見つめていた。  
――― あ…もしかして私、このまま……  
「あの、矢永くん……」  
「ますみ、オレ…もうスイッチ入っちゃって止まらない……」  
「えっ…あん…や………」  
「ますみのこと、欲しくてたまらないんだ」  
「矢永くん……あの…ん…ああ…」  
「ごめん、ますみ……ほんとに我慢できない……」  
――― もう、私も止まらなくなっちゃうよ  
「矢永くん、矢永くん待って……」  
「……ますみ」  
「お願い、ちゃんとベットでして……」  
「わかった。ますみ……こんなでゴメンな」  
「ううん、初めてだから優しくしてね」  
「ああ、優しくする」  
 
   私たちは服を脱ぐと、ベットで愛し合った。  
   初めては痛かったけど、彼の優しさが伝わってきて耐えられた。  
   夢で見たエッチと少し違った気がするけど、どうでもよかった  
   なぜなら、今の私たちは仲良く、幸せで、気持ちいいから………  
 
 
   終わり  
 

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