あたし、森島恵子は悩んでいた。  
 もうすぐ広瀬は卒業する。そして、奈良に行ってしまう。  
 広瀬には、他のみんながいるから寂しくないよ、大丈夫…と言ったけど、本当は寂しくてたまらない。  
 広瀬は多分、あたしが広瀬を好きなのと同じくらいには、あたしのことを好きだとは思う。でも、あ 
たしたちはまだ、キスさえしていない。  
 
 いくらあたしが傍若無人な教師だって、やはり高校の教師として、教え子と積極的にそういう関係に 
なるのはまずい…と思っていた。  
 多分広瀬にも、自分が生徒で5才も年下だという引け目があったんだと思う。  
 デートはしていたけれど、いつもふざけてしまって、そういう雰囲気にはならなかった。  
 でもこのままの関係で遠くに離れてしまって、広瀬はあたしを忘れてしまわないだろうか。  
 
 なによりも…あたしは広瀬に抱かれたい。  
 広瀬はあたしを抱きたくはないのだろうか。  
 このまま離れてしまうは、耐えられない。  
 あたしは決心した。  
 
 卒業式の翌日。  
 今日、広瀬はあたしの部屋に来る。制服が大好きなあたしのために、広瀬の学ランをくれることにな 
っていた。  
 部屋に呼ぶところまでは良かったけど、そのあとどうしたらいいか、あたしにはわからなかった。ま 
さかいきなり襲いかかるわけにもいかないし。  
 あたしだってなんにも知らないとは言わないけれど、そんなに経験豊富なわけじゃないし、広瀬は多 
分、童貞だろうし…。  
 部屋の中を悩みながらうろうろしているうちに、ドアチャイムが鳴った。  
 心臓が飛び出しそうになる。  
 平静を装ってドアを開けると広瀬が立っていた。もちろん学ランは着ていない。チェックのシャツに 
ジーンズという格好だった。  
 部屋に招き入れてコーヒーを湧かす。  
 広瀬は珍しそうに部屋の中を見回している。なんだか緊張しているように見える。  
 広瀬も何かを考えているだろうか。  
 
 テーブルの上にカップを置いて、聞いた。  
 「学ラン、持ってきてくれた?」  
 「ああ。忘れたら酷い目にあわされるだろ」広瀬が笑いながら言う。  
 「失礼な。私がいつ酷いことをしたってのよ」  
 「いつもだろーがよぉ」  
 ああだめだ。これじゃあいつものパターンになってしまう。  
 「ねえ、学ラン着てみてよ。もう、見納めだもん」思いついて、あたしは言った。  
 「えー。…じゃ、上だけ」  
 「だめっ!全部!」どうしてもこんな言い方しかできない。  
 「あーはいはい。わかりました。って、どこで?」  
 あたしは寝室を指さした。  
 
 広瀬が寝室のドアを閉めると、あたしはため息をついた。  
 どうしてもいつもと同じにしかできない。急にいつもと違う雰囲気にするなんて、やっぱり難しい。  
 ドアの向こうで、ごそごそと着替えている気配がする。  
 落ち着くため、コーヒーを一口飲んだ。  
 もう、いいや、と半分あたしはあきらめかけていた。  
 寝室のドアが開いた。  
 「着たけど…」上下とも学ランに着替えた広瀬が立っていた。  
あたしは立ち上がった。  
 「…やっぱ、広瀬は学ラン似合うよ」  
 「だからさあ、学ランなんて誰にだって似合うんだって」すこし照れくさそうに広瀬が言う。  
 「違うよ。広瀬が一番!」立ち上がり、広瀬に歩み寄った。  
 「ほら、この肩のあたりとか、詰め襟の余裕部分とか。あと、上下の長さのバランスとか」  
 そう言いながらあたしは広瀬の身体に触れていった。その度広瀬の身体がぴくんと反応した。  
 「でも、もう卒業しちゃったんだね…」自分でも気づかないうちに涙が盛り上がってきたのに気づい 
て、あたしは慌てて後を向いた。  
 
 広瀬はあわてたようだった。  
 「どうしたんだよ」  
 あたしは顔を隠して涙を拭っていた。  
 
 「泣くなよ…」広瀬の手が、遠慮がちに肩をそっと抱いた。  
 「…奈良に行っても、あたしのこと、忘れない?」背中を向けたまま、小さな声であたしは聞いた。  
 「忘れるわけないじゃんか。それに行きっぱなしなわけじゃないからさ、ときどき戻ってくるよ」 
広瀬の腕に力が込もった。  
 あたしは身体をよじって広瀬の方を向いた。そして黙ったまま、学ランのボタンを外し始めた。  
 「え?ちょ…自分で着替えられるって!」あたしは返事をせず、外し続ける。  
 「ま、てよ!」  
 広瀬の手が、ボタンからあたしの手を引き離した。  
 
 あたしは自分の手が、広瀬の頬に伸びてゆくのを見ていた。ほとんど無意識だった。あたしは背伸び 
して、広瀬の顔を自分の顔に近づけ、そっと唇を合わせた。  
 広瀬の目は驚いてまんまるになっていた。そして、あたしは正気に帰った。  
 「あの…えっと…」あたしは広瀬の前から逃げようとした。  
 そのとき広瀬が手首をつかんだ。広瀬の胸に引き寄せられ、抱きしめられた。それから両手があたし 
の顔を上に向かせた。  
 広瀬はあたしをみつめていた。心臓の鼓動がものすごく早くなっている。目を閉じると、広瀬の唇が 
あたしの唇をふさいだ。身体から、力が抜けていく。  
  唇が離れると、広瀬はいつもより低い声で言った。  
 「いいの?」  
 下を向いたまま、頷いた。  
 
 広瀬はあたしを抱き上げると、ベッドに運んだ。  
 あたしをベッドに横たえると、広瀬は学ランも中のシャツも脱ぎ捨て、あたしのブラウスのボタンを 
外し始めた。広瀬の指はすこし震えていた。広瀬だって、緊張しているんだ、と思った。  
 
 ボタンを外されている間、あたしは広瀬の首筋や肩を撫でていた。普段思っていたよりずっと広くて 
なめらかな肩。張りつめた細い首筋。  
 ブラのホックが外されると、両手で胸を隠した。その手を、広瀬が片手でつかんでベッドの上に押し 
つけた。  
 広瀬の力はけっこう強い。あたしだって体育の教師なのだから、その辺の女の子よりはずっと強いは 
ずなのだ。でも、男の力はやっぱり全然違う。  
 そのことが嬉しかった。  
 
 広瀬は乳房を見つめていた。そして空いている右手の指がそっと乳首に触れた。身体がびくんと動く。 
乳首はもう両方ともかたくとがってしまっている。恥ずかしくてたまらない。  
 「あんまり…見ない、で」小さな声で言う。  
 「どうして。こんなに…綺麗なのに」  
 今度は唇が首筋からすこしずつ下がっていき、乳首を捉えた。舌先で転がされる。空いた手が、反対 
側の乳房をつかむ。力が入っているから、痛い。「あっ…」と声がもれる。  
 「ごめん、痛かった?」  
 「ううん…大丈夫」広瀬の不慣れさ、荒々しさがかえって嬉しい。  
 
 今は、できるだけ広瀬がしたいようにして欲しいと、あたしは思った。  
 やがて手は下に伸び、スカートを捲り上げた。閉じた足を、広瀬は自分の膝でこじ開け、ショーツを 
引き下ろした。  
 
 「やっ…」  
 広瀬の手が、あたしの足を開く。恥ずかしい。広瀬の視線が熱い。  
 手がそっと太股を撫で、だんだん中心に向かっていく。やがて広瀬の指がそこに達した。  
 そのとき、そこはもうすっかり濡れていて、指が糸を引いた。  
 「こんなに…濡れるって、こういうことだったんだ…」自分の指を見ながら、広瀬が言う。  
 「いやっ…そんなこと…」そんなこと、言わないで。  
 「どうしたら、いい?俺に、教えて。ここ?それともこう?」広瀬の指が泉の元を探してさまよう。 
あたしの身体は震えている。  
 「ああっ!」身体が仰け反る。広瀬の指が、「そこ」を見つけた。  
 「ここだね?ここをこうするといいの?」濡れた指先がそっと小さなボタンを撫でる。  
 「あ…いや…ああ…」  
 
 「もっと、よく見せて…」広瀬があたしの両足をもっと開く。力が抜けて、抗えない。  
 「…俺、もう我慢できない…」  
 広瀬はベルトを外し、ズボンもトランクスも脱ぎ捨てた。  
 あたしも、広瀬の上を向いたそれを初めて見た。なんだかすこし怖い。どうして怖いんだろう。それ 
でもあたしが手を伸ばそうとすると、広瀬は首を振った。  
 「触られたら…もう、もたないよ」  
 
広瀬の身体があたしに覆い被さった。広瀬が入れやすいように腰を浮かした。広瀬は指でそこを確かめ 
ると、思い切り、貫いた。  
 「…!」あたしの唇が開き、声にならない叫びを上げる。  
 自分が苦痛をこらえる表情になっていることがわかる。  
 「大丈夫?俺、乱暴だった?」広瀬は聞いた。心配そうな顔をしている。  
 あたしは小さく首を振った。  
 広瀬が動き始めた。  
 「…あ…あっ…ん…ああ…」がまんしても声が漏れる。背中に回した指に力が入る。  
 
 広瀬がどんな表情をしているの見たいのに、恥ずかしくて目が開けられない。  
 身体の一番奥から、痺れるような甘い感覚が広がってくる。  
 広瀬、あたし、もう…。  
 「俺、もう、駄目。いい?」  
 あたしは頷く。  
 広瀬が最後に激しく動き、あたしの中に、温かいものがいっぱいになる。  
 「ああっ!」  
 同時にあたしは叫び声を上げ、広瀬にしがみついた。  
   
 やがて身体を離すと、ベッドに並んだ。広瀬が心配そうに言った。  
 「さっき俺、中に…まずかった?」  
 ふふっとあたしは笑う。  
 「今日は大丈夫。…あたしをだれだと思ってんの?保健体育の教師よ」  
 くすっと広瀬も笑う。  
 
 「ねえ…」  
 「なに?」  
 「ぎゅって、抱きしめて?」  
 広瀬は照れたような表情をしながら、力を込めて抱きしめてくれた。  
 「愛してる」広瀬の囁きが聞こえた。  
 「あたしも…」涙声になりながら、あたしは答える。  
 あたしたちはしばらく沈黙したまま、静かに抱き合っていた。広瀬の身体の重みを感じていると、な 
んだかとても落ち着いた気分になれた。  
 きっと、大丈夫だね、あたしたち。  
 
 しばらくして…。  
 あたしは思い出した。広瀬がイっちゃうときの表情を見損なったことを。  
 「ねえ広瀬…」  
 え?と広瀬があたしを見る。  
 「…今度はあたしの番ねっ」あたしは広瀬に馬乗りになった。  
 「ちょ…ちょっと…ああっ」広瀬が声を上げる。  
 今度はあたしが広瀬を抱いてあげるね。  
 
(おしまい)  

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