「あなた…あなた…」  
自分を呼ぶ声が遠くからする。肩が軽く揺さぶられているのを感じる。  
 「もう…ここじゃだめったら…」  
聞き馴染んだちょっと鼻にかかった甘い声。その声は…おぼろげだった  
赤松の意識をはっきりとさせていく。  
 「ん?ああ…」  
 ようやく気がついた。赤松は寝室の机のテキストに突っ伏してまどろんで  
いたのだった。よっぽど寝込んでいたらしく、テキストによだれが細い線を引いている。  
 それをみて、妻がいたずらっぽく吹き出した。  
 「あいかわらずのがり勉さんね。もう十二時半過ぎているわよ。早く寝たら?」  
 「まだ…十二時半だよ…それよりコーヒーのお代わりいただけない?」  
 妻のからかいに赤松は微苦笑を浮かべた。  
 「もう、十二時半よ。あの子も坊やももうおねむよ。あなたも今までおねむじゃなくて?」  
 唇がキュッと持ち上がる。その表情にようやく頬を伝わったよだれに気付いて、赤松は  
頬をぬぐった。  
 「明日はまた仕事でしょ?もうよい子はおねむの時間です。赤松さん?」  
 赤松さん…この呼び方には特別の含みがあるのを赤松はもう知っていた。  
 昔のように恋人に戻らない?そんな誘いかけだ。  
 「赤松さん、湯冷めしちゃっているわよ…」  
 妻はそういって赤松の頭を抱え込んだ。椅子に腰掛けたままの赤松の頭が妻の胸に埋もれる  
状態になる。そのまま赤松は手を伸ばし、妻の乳房を服越しに包み、そっと揉み解す。手にすっぽり  
と収まる形の良い乳房が張りつめているのを感じる。そのやわらかな弾力はいつでも快いものだ。  
そのまま赤松は胸を揉み解していた。  
 「やだ…まだ坊やが乳離れしたばかりなのよ…」  
 身をよじって赤松の腕から逃れようとする妻。しかし、腰を赤松の片手に支えられた上に、そもそも  
はじめから抵抗する力はなく、恥じらいだけがそこにあるだけだ。  
 
 「あ…赤松さん…そんなの…ちょっと…いや…」  
 その恥じらいを楽しみながら、赤松はなおも妻の乳房を揉み解す。包み込んでは、ゆっくりと  
手を回してそのまま揉み解す。ゆるやかに揉みまわしたら、次は不意に強くつかむ。  
 「あ…ちょっとお乳が漏れちゃうから…」  
 不意に妻が赤松の手を払った。ごく軽い。拒絶の意志などそこにはない。なら、やるべきことは決まって  
いる。  
 「なら、きれいにしてあげるよ…いいかい?」  
 赤松はそのまま妻のブラウスのボタンを外す。むっとする乳独特の匂いが軽く広がっていく。  
しかし、その匂いさえ、今の赤松にとってはひどく甘く感じる。  
 マタニティ、とはいえこざっぱりとしたブラジャーがずれ、母乳パットがはみ出して覗く。  
そしてブラジャーいっぱいにはちきれそうな豊かな乳房。せりあがっていてもたるみは無く、  
もともとの形のよさとあいまって、いかにも貪りたくなるような代物だ。ならば、やることはもう  
決まっている。  
 赤松はブラジャーのフロントホックを片手で器用に外し、胸をあらわにした。  
 ブラジャーの枷がなくなった乳房は、それでも垂れおちることなく、ぴんと上向きのままだ。  
肌はほのかに薄桃色に紅潮し、乳首は硬く尖っては赤松に嬲られることを待ち受けているようだ。  
 赤松は微笑を浮かべたまま、妻の乳首を口に含む。母乳独特の味が口に広がるが、それさえ甘い。  
そのまま乳首を軽く歯で転がし、かたや空いている片手でもう片方の乳房をもみしだく。  
「ううっ…ちょっと…」  
軽く妻はもがくが、しっかりと赤松の頭を抱えたままだ。  
 ぷりぷりとした乳房の感触を楽しみながら、歯で転がしていた乳首を不意に強く吸う。さらに一層  
乳の匂いが口腔に広がるが、今の赤松にとっては扇情的な味だ。そのまま、ずずっと吸っては、舌で  
ちろちろと弄ぶ。その一方で揉み解していた手で、乳首を軽くつねりこね回す。そして、右から左へと  
代わっては、また繰り返す。  
「ん…ううん…ああ…」  
 
 あの人はいつも私の弱いところを知っているんだから。妻の体から力が抜け、抱え込んだ赤松の  
頭に突っ伏すような形になった。硬い赤松の髪が、頬にざりざりと当たる。そのざりざりとした感触  
さえ愛しい。頭に突っ伏したまま、赤松の髪にわずかに残るヘアトニックの匂いを無我夢中で貪って  
いた。軽く噛まれては転がされ、そして強く吸い上げられる乳首と、乳房をすっぽりと覆って弄ぶ分厚い  
掌から伝わる快感がゆるやかな渦となって、体を駆け巡る。そして、腰を支えていた手はいつしか下へと  
伸び、彼女の柔らかな尻肉を楽しむように撫で回す。そして、尻べたの割れ目を撫で下げ、そしてスカート  
越しに軽く奥ーアナルを指でこね回してきた。子供たちは夫のそんな戯れを知らない。私だけがあの人の  
そんな顔を知っている…  
 「あ…赤松さん…」  
うっとりとその名を呼ぶ。二人だけの暗号を。時々目を開けても、そこにはとろけた快感しか写ってない。  
 赤松はそんな妻のはかなげにとろけた声を知っている。その声は子供たちは決して聞くことはない。この声  
は自分だけのものなのだ。このまま一気に責め立ててもいい。しかしもう少し楽しみたいのだ。こうして  
いられるのも久しぶりならば、もっとじっくりと楽しみたいのだ。  
 ふっと赤松は妻を解き放った。半裸の妻の乳房からへそのほうまで、半透明の筋がてらてら光っている。  
赤松の唾液と彼女の母乳が混ざり合った筋だ。しかし、快感の半ばで放り出された妻はそんな自分のしどけ  
ない姿など眼中にないようだ。そのまま赤松を軽くにらむ。  
 
 「こんなこと…やっぱり…嫌よ…もう遅いし…」  
 しかし、その目にはもっと快感を貪ろうと言う淫蕩さが浮かんでいる。もう赤松にはわかりきったこと  
 だが、あくまでもそ知らぬふりで答えてやる。  
 「ああ…もう一時近いな…もう寝るかい?」  
赤松のこのいなし方はもうわかっている。でも、それでも軽く駄々をこねてみたい気持ちにもなる。  
 「もう寝るって…ちょっと待って、汚れちゃったから風呂入って来るわ…」  
 とりつくろうとあわててブラウスを合わせた妻の手をそっと赤松がつかんだ。  
 「なら、僕も入ろうか…?湯冷めしたらしい…でも君が先でいいから…」  
 あくまでもおだやかに笑みを浮かべているが、妻には分かっていた。  
 「ええ…じゃあお先に…」  
 そのままそっと赤松から離れ、浴室へと向かう。振り返る必要はない。だって五分もしないうちに  
 あの人が入ってくるから。  
 
(後半へ続く)  

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