一日目。  
 
「どうした丹、遅れてるぞ。まだ足の傷が痛むのか?」  
「やかましい、何でもねえよ。」  
強がって見せるが、明らかに本調子では無い。  
昨日辺りから顔色も青ざめて足取りが重い。  
先日、小宵とのやり取りで負った傷はほぼ癒えたはず。  
ここ数日口にしたものは迅鉄と同じだから食あたりでも無かろう。  
なんにせよ、このまま歩き続けるのは無理そうだ。早めに今夜休むところを探した方が良いかもしれない。  
「どっか、今夜のねぐらになりそうなところを探すか。」  
「あ、水場があるところは無いかな。」  
「なんだ、そんなに汗をかくような天気でも無かったろうが。」  
「いいから、探せよ。」  
迅鉄と鋼丸に対して、相変わらず態度だけは大きい。  
借りは返すと言いながらそんな殊勝な素振りは見せない。  
意識してはいないが、敢えて粗暴に振る舞う節もある。  
復讐の思いを捨てた丹にとって、借りを返してしまっては迅鉄とのつながりが失われるような気がして。  
 
ゆるゆると歩を進め、水の音を頼りに街道を離れるとそれほど大きくは無い川に突き当たった。  
そのまま上流に進むと、緩やかに流れが曲がって川面が広くなり、河原も幾らか平地になった場所に辿り着いた。  
まだ暮れてはいないが、日も傾きつつある刻限である。  
「ちょっと早いが、今日はここで休むか。」  
「もう疲れたのか。しょうがねえな。」  
「水辺で休みたいっつったのは誰だよ。」  
「知らねえよ。」  
口の減らない丹に鋼丸は辟易して黙り込む。迅鉄は魚でも取れそうにないかと川をのぞき込んだ。  
「そっちは俺が見るから、お前らきのこか何か探してこいよ。」  
「なにえらそうに言ってやがるこの野郎、ておい、迅鉄良いのかよ?」  
迅鉄はひょいと肩をすくめると、鋼丸を伴って薮をかいて行った。  
「なんだよ迅鉄、えらく素直じゃねえか。訳知り顔してるところを見るとなにか知ってるのか?」  
迅鉄は言葉を発することは無いが、鋼丸は脳を迅鉄に同居していることからある程度意思の疎通が出来る。  
「匂い? 悪いが俺は目と口しかねえんだ。源吉はお前には嗅覚もある程度残したはずだから分かるんだろうけど。血の匂い? こないだの一件依頼誰も切っちゃいないだろうが。」  
しばし沈黙。  
 
迅鉄と鋼丸が姿を消し、確実に遠ざかったことを確認した丹は、笠と臙脂の合羽を刀と一緒に傍らに置いて手早く帯を解いた。  
腰巻きをはだけ、下に巻いた月経帯を外す。  
たらり、と赤黒い血が流れて太股を伝った。  
軽く舌打ちをする。今回はやたらと量が多い。  
やはりこれでは体も洗わないと。  
 
もう一度振り向いて二人が戻りそうにないことを確かめてから、丹は裾をからげて尻までむき出しの格好で流れに足を踏み入れた。  
冷たい水をすくってオリモノの混じった血を洗い流す。  
川の流れに赤い色が混じって下流に流れていく。  
ほう、とため息をついて手にした月経帯を流れる水に浸し、ざぶざぶとゆすぐ。  
ぼろ布に近い綿でこさえてあるので、あまり強く洗うとすぐ駄目になる。  
 
女ってのは、何でこうも面倒くさい事になるんだ。  
普段の丹は月のものが来てもかなり軽く済んでいる。  
ところが今回は妙にしんどい。体がだるいのは微熱が出ているのか。  
下腹部が重く、オリモノも多い。  
自分が女の身であることを否が応でも自覚させられる。  
いや、自分が女であることはもっと前から分かっていた。  
 
母親の敵を討ち果たしたものの、自分も手傷を負って倒れていたところを火渡りの錬司に助けられた。  
それが縁で、錬司をお父と呼びながら共に旅をした。  
早くに父を亡くした丹は、最初は錬司に父の面影を見ていた。  
しかしそれだけでない感情が、共に時間を過ごす内に生まれた。  
常には男のなりをしていても、二人でいる時は父と娘を演じていても、それだけでは済まない感情。  
しかしそれも、錬司の死で捨てたつもりでいた。  
錬司は丹に、女として生きて欲しいと最後に願ったと言う。  
敢えてそれを振り切り、渡世人としての生き様を貫こうとした。  
それが何故、今になって女である自分に悩まされるのか。  
丹は考えまいとした。答えを出してしまうのが怖かった。  
自分が、自分の心と体が何を求めているのか、認めることは自分の生き方を自分で否定してしまうように思われて。  
 
 
丹は複数の敵と斬り結んでいる。  
背中を合わせて錬司もまた刀を振るっていた。  
ああ、これは夢だ。  
お父とまた一緒にいられるなら夢でも良い。  
けれどこの夢はいやだ。  
今までも何度も見た夢。  
現実をなぞり、同じ結末に至る。  
分かっていても避けられない。  
二人共に手傷を負い、最後に残った相手は一人。  
錬司を討ち果たそうとするそいつに丹はしがみつき、丹に刃が向けられる。  
丹を庇おうとして身を投げ出し、貫かれたのはしかし錬司では無かった。  
丹の代わりに刀身を突き立てられ、血を流しているのは鋼の体。  
そこには迅鉄がいた。  
 
「迅鉄!!」  
跳ね起きた丹は、自分の上に身をかがめていた迅鉄にむしゃぶりついた。  
「迅鉄、迅鉄、馬鹿、何してんだ、死ぬんじゃねえ!」  
「しっかりしろよ、丹。うなされてるみたいだから迅鉄が様子を見てだけだ。迅鉄には何にも起きちゃいねえよ。」  
傍らから鋼丸が口を挟む。迅鉄自身は当惑して、丹に襟を捕まれたまま身動きできずにいた。  
「そうとう夢見が悪かったみたいだな。冷や汗かいてるぜ。」  
水の流れる音。  
草いきれ。  
虫の声。  
木々の間を渡る風。  
空には月と星。  
軽い食事の後寝ついた時と変わりは無い。  
月の位置と消えかけた焚き火が、時間の経過を示していた。  
 
丹が落ち着いたのを見取って、迅鉄はぽんぽんとその肩をたたき、その手を着物からほどいた。  
焚き火に僅かばかり木を足して、傍らに横になる。  
夜明けまではまだ間がある。  
もう少し眠っておくつもりだ。  
 
額をぬぐうと、背中にかいた汗が冷えて身震いがした。  
くそったれ、なんであそこで迅鉄がでしゃばるんだ。  
なんもかも、迅鉄が悪い。  
夢にうなされたのも、こんな汗をかいて風邪を引きそうなのも、体調が悪いのも、全部迅鉄のせいだ。  
迅鉄に落とし前付けてもらわないと気が済まない。  
丹は寝つこうとしている迅鉄ににじり寄ると、体にかけていた合羽をはがして自分もかぶる。  
生身の右手をとってその腋に潜り込んだ。  
驚いて引きはがそうとする迅鉄を怒鳴りつけた。  
「じっとしてろ。お前のせいでヤな夢見ちまったんだ。冷えて風邪引いちゃたまらねえから、お前にあっためてもらう。文句は言わせねえぞ。」  
強引に迅鉄の肩に頭を乗せて、その体を抱え込むように体を落ち着ける。  
すえた汗の匂い、鉄臭い半身の匂い、いくばくかの椿油の匂い。  
それが迅鉄の匂い。  
こいつはなんて臭えんだ、そう思いながら丹は不快では無かった。  
気分が安らぐのを感じる。  
 
理不尽な言い分に逆らうことが出来ず、迅鉄は当惑しながら丹を抱え込んだ。  
まあ、うなされてやかましいよりはましか。  
少し冷えてきたから、確かにくっついている方が暖かくて助かる。  
 
しんしんと冷えた月明かりの照らす河辺で、二人は眠りについた。  
 
 
二日目。  
 
「ほお、紅雀の丹は実は女だったってえのか。こいつは驚いた。」  
声をかけられるまで、その存在に気が付かなかった。  
たまたま出くわしたのか、跡を付けられていたのか分からない。  
が、丹が体を洗っているところを見られたのは迂闊だった。  
普段なら周囲の気配にもっと気を配っているはずなのに。  
このところ迅鉄と一緒にいる時間が長いせいで、気が緩んだのか。  
尻っぱしょっているところを見られたのなら、女であることがばれている。  
丹は耳まで赤くなるのを感じた。  
頭に血が上るのは分かるが、どうにも我慢ならない。  
こいつ、絶対に殺す。  
 
そいつの身の丈はおおよそ6尺の大男。  
体が大きい分、動きはこちらが早いはず。  
川の流れにいる自分と、岸辺に置いた刀までの距離を測る。  
一直線に走れば届く。  
刹那の判断の後、僅かに身をかがめて川底を蹴った。  
身を投げ出すように、臙脂の合羽の上に置いた刀身に手を伸ばす。  
しかし手が届いた時、握った柄ごと丹の手が踏みしだかれた。  
「あぁ!」  
それでも左手を、男のくるぶしに伸ばす。  
拳で叩き、爪を立てて抵抗する。  
「へ、無駄だよ。大人しくしやがれ。」  
男は片手で丹の両手首をまとめて掴み上げ、一気に持ち上げた。  
丹の足は辛うじて地に届く。  
いくら軽いとは言え、男の膂力は大したものだ。  
「女として見れば、なかなか可愛い顔してるじゃねえか。可愛がってやるからよ、大人しくしてな。」  
「誰が、お前なんかに…。」  
もう一方の手が拳になって丹の腹にめり込む。  
苦悶の声を漏らす丹をぶら下げたまま、男はその着物をはだけた。  
「立派に脇差さしちゃあいるが、体はちゃんと女じゃねえか。ええおい?」  
体をまさぐる手を感じながら、丹は苦痛に身悶える。  
くそったれ、何でこんな奴に。  
こんな奴に。  
その時脳裏に浮かぶのは、錬司の顔では無かった。  
思わず助けを求めてしまうのは。  
「じんて、つ…。」  
空を切り、鉄の歯車が飛来した。  
唸りを上げて男の顔面を襲う。  
「がぁっ」  
血しぶきを上げて男はよろめき、しかし丹をかかえ直してその体を盾とした。  
「てめえ、その鉄仮面、鋼の迅鉄かよ。へ、紅雀の丹が女で、しかも迅鉄とつるんでたとはな。ちょいと面白い話じゃねえか。おっと動くなよ。」  
男は左手一本で丹の両腕を背中で羽交い締めにし、右手でその首筋を掴んだ。  
「女の細頚くらい、片手でくびり殺せるぜ。お前がそこから動いたらそういう事になる。大人しく見物してな。  
どうせお前もたっぷり楽しんでるんだろう。ちっとくらいお裾分けしたって罰は当たらねえからよ、俺がこいつを楽しませてもらう間…、ておい、てめえ動くなつってるだろうが!!」  
迅鉄は抜き身の鋼丸をその肩に預け、ゆっくりと歩を進めた。  
「素直に丹を放しな。そいつに傷一つ付けてみろ、楽には殺してやらねえ。死んだ方がマシだってえくらいたっぷり楽しい目を見させてやるぜ。」  
暮れかけた逢魔時、迅鉄の背後から立ち上る禍々しい気配が男にも感じられた。  
だからとて素直に敗走するには己の腕に自信があり過ぎた。  
軽く舌打ちし、丹の体を迅鉄に向けて放り投げると腰の大太刀を抜き払った。  
重なった二人の上から振り下ろした刃はしかし、丹を抱えたまま転がった迅鉄をかすめて河原の砂地に食い込む。  
 
わずかに距離をとった迅鉄は、丹を背中にして向き直った。  
気を取り直した丹は自分の刀に飛びついた。  
両手で柄を握り、迅鉄の横に回り込む。  
「お前は大人しくしてろって。」  
「やかましい、こんな目に遭わされて我慢出来るか馬鹿野郎。」  
「我慢出来ないのは迅鉄もみたいだぜ。」  
鋼丸の言葉が終わらぬうちに、迅鉄は動いた。  
鋼の脚にバネ仕掛けが弾けたかのように、予備動作もなく男の懐に飛び込む。  
男が上段から振り下ろした太刀をかい潜って、鋼丸の刀身がその胴をなぎ払う。  
丹は、ここまで見事な迅鉄の刀の冴えを見た事がなかった。  
いや、迅鉄ならずとも、一太刀で人間の胴体を真っ二つにすることが本当にできるのか。  
講談に聞くことはあっても、実際に可能だとは思っていなかった。  
目の前で見るまでは。  
 
上下に別れた男に背を向け、迅鉄が丹に向き直る。  
丹の手から柄が離れ、刀身が地に落ちる。  
強く握られていたせいで手が痺れ、力が入らない。  
迅鉄が歩み寄り、その手をさすった。  
ゆっくりと、けれど力強く優しく。  
「よせやい馬鹿。」  
憎まれ口を叩きながら、丹はなすがままに任せる。  
はだけた着物を直そうともせず、迅鉄の胸に頭を押し付けた。  
思わず溢れる涙を、見られたくはなかった。  
それでもこぼれる滴は迅鉄の手に落ちる。  
唇を噛みしめ、声を出さずに泣きじゃくる丹の手を、迅鉄は何も言わずにさすり続けた。  
 
丹が落ち着き、骸を片付けた頃にはとっぷりと日も暮れていた。  
死体となった男の荷物にあった干し肉を炙り、その日の終いの食事としては充分に腹を満たした迅鉄と丹は焚き火にあたっている。  
丹はまっすぐに迅鉄を見つめ、迅鉄はいささか気まずそうに目をそらしている。  
「迅鉄、あたしは決めた。だからしっかり聞け。」  
ずい、と火を回り込み、迅鉄の前に立つ。  
「いくら渡世人としてやってきても、結局あたしは女だ。今日も、いや今までだって何回もお前に助けられた。  
お前に勝ちたくて刀を振るってきたけど、お前が手を貸してくれなきゃあたしはとっくに死んでる。今日だって、お前がいなかったら、殺されなかったかも知れないけど、女として嬲り者にされてた。  
あたしは切り合うのは怖いとは思わないし、運が悪けりゃ死ぬって覚悟も出来てる。けど、あれはイヤだ。あんな奴に、いや、誰にだってそんなことをされるのは御免だ。だから…、だからあたしをお前の女にしろ。」  
強がる丹の声が震えている。  
待てと言いたい迅鉄の思いはしかし声にならない。  
思わず鋼丸の加勢を求めようとしたが、こちらは知らん顔の半兵衛を決め込んでいる。  
丹は迅鉄につかみかかり、無理やりにその着物を脱がせた。  
半ば鋼鉄に覆われた体がむき出しになる。  
迅鉄の胸にしがみつく丹は、また泣きそうな顔をしていた。  
折れそうなその心がすがりつく先は、迅鉄しかなかった。  
迅鉄は困惑した表情を窺わせながら、丹の肩を抱き、しかしそれ以上何もしようとはしない。  
「女に、恥かかせるなよ。なあ、心決めるのにどんだけ大変だったと思うんだよ、迅鉄。あたしじゃ駄目ってのか? 何で手を出してくれないんだよ。そりゃ、まだ餓鬼かもしれないけど。朱女姐さんみたいに色っぽくはないけど。」  
「悪い丹、口を挟むぜ。」  
「鋼丸? なんだよ。」  
「迅鉄も俺も、源吉って男に死んでから体を作り直されたって話は前にもしたよな。俺は全部刀の中に入っちまった。迅鉄も姿は人だが、半分は鋼の入れ物だ。生身なのは半分だけ。」  
「だからなんだよ。」  
「だからさ、男としての機能は、使えるかどうか分かんねえんだよ。しょんべん出来るから付いちゃあいるが、そっちの仕事には使ったことがないはずだから出来るものやら。駄目でも勘弁しろよ。」  
「駄目でもって、試しもしないで何言ってんだよ。」  
帯を解き、ほどいた着物が地に落ちた。  
丹の白い裸身が月の光に照らされてまばゆい。  
その肢体が小刻みに震えるのは寒さのせいではなかった。  
鋼の肉体に、そっと身を寄せる。  
「良いよ、出来なくたって。抱きしめてくれればそれでいいや。それで、あたしはお前の女になる。一生、つきまとってやるから覚悟しやがれ。」  
鋼の胸と生身の胸に両の乳房を片方ずつ押し当てた。  
鋼の面に頬を寄せる。  
と、下腹に刀の柄が押し当てられるのを感じた。  
いや、鋼丸はあっちにいる。  
「てめ、この野郎。しっかり反応してるじゃねえか。この助兵衛!」  
丹が迅鉄の股間に手を伸ばす。が、その感触は丹の予想を裏切った。  
「…なんだよこのごついのは。さっきまであんなに可愛かったのに、なんでこんなにでかくて堅くて、こんな変なカタチしてんだよ、冗談だろおい。」  
「丹、おめえ知らねえのか。男の逸物ってのはよ、惚れた女と媾おうって時はな、しっかり奥まで届くように普段より立派な生りになるもんだ。良かったじゃねえか迅鉄がちゃんと出来るみたいで。覚悟決めろよ。」  
「ちょっと待て、前言撤回する! 駄目だ、こんなもん突っ込まれたら壊れる、壊れちまう。手ぇ出さなくて良いから、やめてくれ、頼む…。」  
迅鉄が体を入れ替え、丹の上にのしかかる。  
やがて、月の明りの下に微かな悲鳴が響いた。  
 
堅く脚を閉じて丹は座り込み、息も荒く迅鉄を睨んでいる。  
「駄目、絶対駄目。こんなもん絶対入らない。裂けっちまう。」  
小柄な体に似つかわしくない巨根を股間に立てて、迅鉄は頭を掻いた。  
未通女と童貞、見かねて鋼丸が口を挟む。  
「迅鉄、気持ちは分かるが焦り過ぎだぜ。まあ初めて同士じゃあ無理かもな。おめえ、一回どっかで練習した方が良いんじゃねえか。いっそほれ、朱女姐さんにでも頼んでみるか。あの姐さんには貸しもあるし、お前の筆下ろしくらい引き受けてくれるんじゃないか。」  
「ちょちょ、ちょっとそれはもっと駄目だ。そんなの許さねえぞおい。絶対許さねえ。いや、朱女姐さんがどうとかじゃない、あの人は嫌いじゃないけど。いや、そういう話じゃなくて、その、あれだ…。」  
「なんだ、はっきり言えよ。」  
「迅鉄は…迅鉄が他の誰かとするなんてイヤだ。誰にも渡さない。迅鉄は、あたしのもんだ。だから、その…。」  
思わず心情を吐露してしまい、丹は赤面して黙り込む。  
「なあ迅鉄、丹は男のなりしててもちゃんと女なんだ。女の体は男に較べりゃか弱いもんだからよ、もっと優しく扱え。触ったら柔らかいだろうが。柔らかいもんはそっと丁寧に、優しく触れ。顔も、首も、腕も、胸も、腹も、尻も、脚も、おそそも。  
柔らかいところを全部、丁寧に触ってやんな。そうすりゃあ女の体って奴は、ちゃんと男を受け入れるようになるからよ。丹も、もうちっと我慢して付き合ってやんな。それで駄目なら知らん。俺はもう寝るから、後は勝手にやってくれ。」  
鋼丸は一つしかない目を閉じた。  
それを見やってから、迅鉄はおずおずと生身の右手を丹に伸ばす。  
その頬にそっと触れた。  
掌でなぞり、短い髪に隠れる耳を指で挟む。  
鋼の左手を伸ばし、ぎこちなく、しかし更に優しく丹の肩を抱く。  
丹はゆっくりと、迅鉄の胸に倒れ込んだ。  
「もう一回だけ試してもいいや。でもな、次痛くしたらもう絶対に触らせないからな、そのつもりでいろよ。」  
目を閉じて身を任せる。  
恐る恐る、丹の体をまさぐる手の感触。  
今日の男に触れられた時は怖気を感じただけだが、迅鉄の手は違う。  
乱暴に扱われた時でさえ嬉しかった。  
こそばゆく、体の芯に熱さが生まれた。  
今、優しく扱われる事で、その熱さが表に溢れて行くのを感じる。  
全身の力が抜け、それが不安で迅鉄にしがみついた。  
迅鉄の手が胸の先端に触れた時、吐息が漏れる。  
生身の手と鋼の手、両の乳房が揉みしだかれ、思わず体がのけ反る。  
迅鉄の手は更に動く。  
左手が背中から肩を回り込んでもう一度乳房に触れ、右手は腹から下に下がって膝を割る。  
生身の指先が、丹の内ももをゆっくりと撫でる。  
迅鉄の右手の指が丹の中心に触れた時、そこはじわりと熱く湿っていた。  
「じん…鉄、だめ、だ。へんに、なっちまう。」  
丹の喘ぐ声が、迅鉄を猛らせる。  
暴走しそうになる自身を抑えて、迅鉄はゆっくりと指を動かした。  
ぬかるんだ割れ目を慎重になぞり、溢れた雫が丹の内ももを濡らすまでその動きを繰り返す。  
やがて我慢の限界に至り、迅鉄は丹の両膝を押し広げて、自身の腰をそこにあてがった。  
両手で肩を抱き、正面から見つめる。  
「ん、いいよ。でもゆっくり頼むぜ。ホントに、な。」  
うなずいて迅鉄は閉ざされた道を拓いた。  
熱いぬかるみに侵入し、抵抗を破って更に奥まで。  
丹は顔をしかめ、閉ざした口から苦痛のうめきを上げる。  
動きを止めた迅鉄に、しかし丹は先を促す。  
「良いから、そのまま。続けろ。だい、丈夫。平気、だ。いいんだ。」  
意を決して、更に奥まで。  
一気に根元まで挿入し、丹の細い腰を両の手でしっかりと抱え、抱きしめる。  
「あぁ、うん…。迅鉄、馬鹿野郎、優しくしろつったのに、痛いじゃねえか。この、大馬鹿。」  
言いながら、丹はしかし迅鉄の背中に両手を回し、強く抱きしめる。  
口を開き、漏れそうになる悲鳴を堪えるために、迅鉄の生身の肩に噛みついた。  
破瓜の痛みの、その何分の一かの痛みか。  
それを感じながら迅鉄は腰をゆすり続け、すぐに堪え切れず、丹の奥深くに初めての精を放った。  
 
 
三日目。  
 
「どうした丹、遅れてるぞ。」  
「やかましい、誰のせいだと思ってんだ。」  
迅鉄は歩みを緩め、丹の横に歩調を合わせる。  
声の調子を落として丹は更に毒づく。  
「痛いからもうやめろってんのに、上手くできたからって何回も何回も何回も何回も調子に乗りやがって。まだ痛いんだぞこら。今も中に何か入ってるみたいだ。手前が初めてだからってこっちもそうだってんだ。もっと気を使えよ馬鹿野郎。」  
僅かに頬を染め、迅鉄を軽くにらむ。  
しかし言葉の棘ほど怒ってはいない。  
「昨日も言ったけど、あたしは一生お前につきまとうからそのつもりでいろよ。逃げたって逃がしゃしない。何処まででも探して追い掛けて、絶対見つける。良いな?」  
「逃げやしないさ、そうだろ。」  
鋼丸の言葉に、目を合わせないまま迅鉄が頷く。  
「なんだよ素直じゃないか。まあ、あたしは並の女みたいに身を尽くして仕えるなんて出来ないけど、あたしのやり方でお前の傍にいてやるから。お前の背中はあたしが守ってやる。  
お前に敵うほどの腕はないけどそれなら出来る。何があっても、誰が相手でも、迅鉄は前だけ見て戦え。後ろは全部あたしに任せろ。」  
迅鉄が歩きながら丹に向き直り、その背中をぽんぽんと叩いた。  
迅鉄なりの意思表示だ。それを受けて丹も続ける。  
「それと…。今夜からはもうちっと優しくしろよ。ほんっとに痛いんだから。それだけは頼むぞホントに。」  
 
日の光を浴びて二人の歩みは続く。終わりを知らぬその旅路が。  
 

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