「まったくっ! 世話の焼ける奴だぜ……」  
丹は、前髪から水滴を垂らして濡れた服の裾を両手でぎゅっと絞って呟き、疲れた溜め息をつく。  
着物は沼の泥水を吸って重くなり躯に纏わりついていて、かなり気持悪い、  
きつく絞ったせいで裾が股間までめくりあがり、剥き出しになった白い大腿の付け根に付着した泥水を嫌そうに見下ろし、先ほどまで悪戦苦闘していた小さな沼を眺めた。  
沼の底は泥が深く堆積していて、迅鉄を引き上げるには渾身の力を振り絞らなければならなかったのだ。  
 
崖から落ちた迅鉄が呆然と丹を見上げながら、ぶくぶくと沼の底へと沈んでいくのを上から見た時には、かなり驚いたものだ。  
迅鉄の身体は重過ぎて泳ぐことが出来ないのだと、浮くことすら不可能なのだと、  
ハッと気がついて慌てて崖を下って沼の縁に立った時には、既に彼の姿は完全に水中に没していた。  
さすがに焦った彼女は、思わず三度笠や得物を放り出し泥水で汚れるのも厭わずに沼に飛び込んで、やっとのこと迅鉄の重い身体を引き上げたのだ。  
 
「さてと……」  
丹は、出来るだけ濁りの少ない沼の表層の水を使って、足の泥を落し軽く浄めると、沼周りの林で集めた枯れ枝に火打石で起こして火をつけて冷えた身体を暖めながら、  
「うっ、泥臭い……」  
濡れた袖の匂いを嗅ぎ顔をしかめた。  
そして、ずぶ濡れとなった自分の姿に溜息をついて手ぬぐいで濡れた頭をガシガシ拭き、まだ地面に横たわったままでいる迅鉄の傍らに立ち、爪先で迅鉄を軽く小突く。  
「おい、いつまで寝てんだ、いい加減に、起きろ」  
「…………」  
 
だが迅鉄は、揺すろうとも、蹴ろうともウンとも寸とも言わない。  
「迅鉄……?」  
お、おいっ……  
丹の端正な顔が怪訝そうに歪む。沼から引き上げた時に迅鉄は、片目を開くと丹を認め頷き、丹は彼が正常に呼吸をしているのも確認したのだが……  
「じ、迅鉄、起きやがれ!」  
「………」  
まったく反応を返さない迅鉄の様子に、丹の顔色が変わる。  
慌てて迅鉄を激しく揺すると、彼の鉄で覆われた顔が力なく横を向き、胸の上に置かれた腕がだらりと地面に落ち、  
「ひぃ……」  
丹は、よろめくようにして尻餅をついた。  
 
「お、おい、ウ、ウソだろ……」  
丹は、背中に冷たいものを感じて、慌てて迅鉄の泥だらけの服を掴み首まで捲りあげ、  
一瞬、躊躇してから鋼で覆われていない彼の胸に耳を当てた。  
………幽かだが、力なく打つ心臓の音が聞こえる。  
 
「じ、迅鉄、迅鉄、迅鉄っ、しっかりしろ!」  
服を掴み揺するが、彼の頭は力なく揺れ、丹の顔から血の気が引いていく。  
「そ、そんな……」  
死んだように地面に横たわる迅鉄を前にして、丹は為すすべもなく立ちあがり、思わぬ事態に顔は青ざめ濡れた躯がガクガクと震えはじめるのだった。  
まさか、このまま死ぬ……?  
冗談じゃない、この男が溺れたくらいで死ぬものか!  
「迅鉄、迅鉄っ!」  
 
その時だ、  
「ま、まだ、だ、大丈夫…だぜ…」  
「ひぃっ!」  
湿った地面に投げ出された迅鉄の刀から、途切れ途切れの掠れ声が聞こえ、悲鳴をあげた丹の身体が跳ね上がるように振り返る。  
言葉を発したのは、迅鉄の相棒である鋼丸と呼ばれる刀だった。  
 
「お、お、驚かすな!」  
丹は顔を振り両手で頭を抱える。  
そうだった……  
迅鉄自身は、自らは声を出すことが出来ないらしく、どういった仕組みかは不明だが、一つ目のあるこの妙な刀が代わりに口をきくのだ。  
「相変わらずわけの分らない、やっかいな奴らだぜ……」  
この刀、確か、鋼丸と言ったよな?  
丹は、恐る恐る刀を拾い上げると、嫌そうに柄にある目を見つめた。  
多少は、慣れたとはいえ気味が悪いものは悪いものだ。  
それでも彼女は、とりあえず胸を撫でおろす。  
この刀が無事ということは、迅鉄も大丈夫なのに違いない。  
 
「じ、迅鉄は、大丈夫なのか?」  
「気を失っているが、い、今のところはな……ふぅ、と、とりあえず、さ、鞘から抜いてくれねぇか、こ、このままじゃ、さ、錆びちま……う」  
「え、あ、ああ!」  
丹は戸惑いながらも妙な刀を抜き、鞘を逆さにして焚き火の傍の岩に立て掛けると地面に放って置いた荷物を拾い中から乾いた手ぬぐいを取り出して、白刃の水気を拭き取りつつ問いかけた。  
「で、い、今のところって………?」  
どう見ても大丈夫そうには見えない迅鉄の姿に、彼女の声と手は震え、刀……鋼丸を落しそうになる。  
 
「オ、オイ、もっと、大事に扱えって、それに丁寧に…拭いてくれよ……、迅鉄は、一応、い、生きてはいるケド……よ」  
「い、一応……?」  
「……………ああ、まぁな……一応、な……」  
いつもと違って精細をかく鋼丸の返答に、丹の顔に冷汗が流れた。  
「お、おい、一応って、ど、どういうことだ!」  
「いや………………」  
「な、何だ?」  
「………………」  
「おいっ!」  
「…………」  
ちっ……急に黙りやがって  
「おい、なんとか応たえたらどうなんだ」  
黙り込んだ鋼丸に、不安が増した丹は刀をぶんぶんと振り回し叫ぶ。  
「なに、黙ってんだ!」  
「コ、コラ、むやみに、振り回すんじゃねー、あ、アブねーな、脇の岩にあたるじゃねぇかよ、まぁ、待ってくれ、ちょいと、考えてぇーんだからよ」  
「くっ………」  
 
丹は、顔を歪めながらも刀を振り回すのを止め、迅鉄の傍らに膝をついて、無駄と判りつつも心配そうに彼の硬く冷たい仮面に手を当てる。  
迅鉄の僅かに残された頭部の皮膚も冷たく、肌は血の気のない死人のような色だった。  
みぞおちが冷たくなるような感覚に、丹はふらふらと立ち上がり鋼丸に向って叫ぶ。  
 
「ちっ、ま、待っていろ、やっぱ、い、医者を呼んでくる」  
「やめろって、無駄だよ」  
「そんなこと、言っている場合か!」  
「待てって、コイツの、イヤ、俺ら、を診ることのできる医者など、この世に、いるわけがねぇーよ」  
街道へと続く細道へと走りだそうとしていた丹は、鋼丸の言葉にたじろぎ迅鉄の鉄仮面に視線を落す。  
確かに、こんな奇妙な人間を診ることのできる医者などいない、ましてこんな辺鄙な場所では医者すらいるかどうか……  
「じゃ、どうすればいいんだ?」  
丹は、悔しそうに唇を噛みしめ、鋼丸の一つしかない目を睨み付けた。  
 
迅鉄の傍らに膝をつき俯く彼女の耳に、鋼丸の声が、ゆっくり確かめるように響く  
「なぁ、丹、お前…… 迅鉄を仇として、殺るつもりなんじゃなかったのか?」  
「え………そ、それは…」  
「どうなんだよ?」  
丹は、地面に横たわる迅鉄を見下ろし無言で見つめる  
もう、迅鉄に対して恨みを感じない、ただ……  
「こんなことで、死なれちゃ、困るんだよ、コイツは、あ、あたしが倒すんだから…」  
 
「そうだったな……しかし、お前、それ、ばっかしじゃねーか…」  
「悪かったな、でも、い、今は、そんなこと言っている時じゃねえだろう?」  
「そりゃあ、そうだが……少しは落ち着けって」  
「呑気な、コト、言ってんじゃねーって」  
瀕死のように見える迅鉄を前にして、いつもと変わらない口調で会話をする鋼丸に苛立ち、  
怒りにも似た表情を浮べた丹は、地面に打ちつけようとするかのように鋼丸を高く振り上げた。  
「だから、お、落ち着けって、このままでは不味いのは確かだケド、今のところは、大丈夫だって言ったろ? それはそうと迅鉄を助ける方法を一つ思いついたぜ!」  
「えっ?」  
「あぁ、教えて欲しいか」  
「は、早く、言え」  
「本当にか?」  
「く、くどいぞ、いいから、教えろって!」  
 
「分かった、その前に聞きてぇことがある………丹、おめぇ、本気で迅鉄を助けてぇ、と思っているんか?」  
彼女は、一瞬、言葉に詰まり、握りしめた鋼丸から目を逸らして俯くが、刀を地面に突き刺すと顔をあげて柄にある一つ目の容赦ない視線を受け止めコクリと頷いた。  
ここで迅鉄を死なせたら、明日からは、まともにお天道様を拝めなくなるような気がするのだ。  
「なんでも、するか?」  
「ああ、あ、あたしに出来ることならな」  
丹は、もう一度コクリと頷くのだった。  
 
「では、まず、迅鉄の着物を脱がして素っ裸にしてくれ」  
「え……」  
丹は、迅鉄と鋼丸を交互に見て、  
「で、でも……」  
さっきは勢いに任せて、迅鉄の胸元を開いたのだが……彼女は、不覚にもためらってしまった。  
確かに迅鉄に濡れた服を着せたままにしておく訳にはいかないのだが、  
彼の異様な身体を思い浮べ迅鉄の身体に触れることに、どうしても腰が引けてしまう、  
そして男のなりをしていても丹も年頃の乙女だ、男の服を脱がすのは、やはり抵抗を感じてしまうのだ。  
 
「早くしろって、錆びないようにコイツの身体を拭いてくれ」  
さ、錆び…?  
丹は、鋼丸が、一瞬、何を言っているのだろうか、と首を傾げたが、再び彼の上半身を思い浮べた。  
「あ! ああ……で、でも……」  
丹の血の気のない顔に朱が射す。  
「なに、恥ずかしがってんだ、男のハダカなんて初めてじゃねーだろ?」  
「うっ、あ、当たり前だろ、 お、男の裸なんて、み、みみ、見慣れているのに決まってんだろ!」  
丹は、鋼丸を怒鳴りつけながら地面に横たわったままの迅鉄の傍らに腰を降ろした。  
 
水に濡れると錆びてしまう身体……  
『なんで、コイツは、こんな身体になったのだろうな』  
丹は、預かり知れぬ迅鉄の過去を想像して溜息をつくのだ。  
濡れた着物は脱がしにくく丹は顔をしかめる。  
震える手で着物を脱がす間は、努めて見ないようにしていたのだが、見れば、見る程、奇妙な身体だ。  
遂に丹は、好奇心を押さえられずに迅鉄の裸体を眺めた。  
 
「は、恥ずかしいじゃないか、そ、そんなに見るなよ、と迅鉄に意識があったら、言うと思うぜ?」  
「そ、そんな、あたしは…… って仕方ないじゃないかよ!」  
カッと顔を赤らめた丹は、心の動揺を誤魔化すようにプィと横を向き迅鉄の泥水を吸って重くなった靴を、乱暴に脱がした。  
丹は、たどたどしい手つきで、迅鉄の身体を拭く、鋼丸の手前努めて平静を装い、地面についた膝が土で汚れていくが気にはならなかった。  
迅鉄の継ぎはぎだらけの身体は強張り、覆っている鋼は堅く冷たい。  
 
「はぁ……」  
丹は、今まで追いかけていた男の身体に溜息をつく。  
掌の下の迅鉄は、まったくの無力で身体は思っていたよりも細く華奢だ、そして人間というよりは失敗したか、あるいは作りかけの人形にさえ見える。  
 
あたしは、今まで、こんな奴を仇として必死に追いかけていたのか……  
なんてぇ、身体なんだ、これで、よくあんな素早い動きが出来るもんだ……  
 
「生身の部分より、鋼の方をよく拭いてくれ」  
「え、ああ……」  
「あと、繋ぎ目を念入りにな…」  
「………わ、分かってる」  
しかし、こんなになって、よく生きてんな……  
あたし、だったら、とっくに自害していたかもしれない。  
丹は、硬い感触に溜息をつき迅鉄の顔に巻かれている濡れた布を外すと、息を短く飲み顔を曇らせた。  
一度、死んで、ある男に生き返らさせられて……半分生身で、もう半分は改造され鋼で出来ているか……  
丹は、なんとも言えない表情を浮べて、迅鉄の汚れた鉄仮面を、そっと拭いた。  
 
「あ、フンドシも取れよ」  
「え……ええっ!」  
丹は、驚いたように目を見開き、刀を見た。  
「だから、フンドシも濡れて汚れているし、お前さん、腰からその辺りを、微妙に避けて拭いていやがっただろう?」  
「うっ……ぁ……だ、だけどよ……」  
さすがに焦った丹の顔が真っ赤になり俯く。  
 
「まぁ、気持は分かるケド、早く、外して素っ裸のすっぽぽん〜 にするんだ、丹、役得だな!」  
「き、き、きさまぁー、ふっ、ふざけてんのかー!」  
「ふざけてなんか、いねぇーよ、お前さん、迅鉄を助けてぇんだろ?」  
「しっ、しかし、こ、ここは、その、このままでいいじゃないのか?」  
「何を言いやがる、男にとって大事な所だぜ?  
泥だらけのフンドシを、そののままにしとくワケにはいかかないだろ、それによ、俺サマは、迅鉄の身体を、コイツより知っているんだ、  
その俺が言うんだから、助けたければ俺の言う通りにしろって、いや、してくれ、俺サマの命も、かかってんだぜ?」  
「……………」  
今一つ真面目なのか、ふざけているのか判らない鋼丸の言葉に、丹は苦虫を噛んだような表情を浮べた。  
くぅ、しかたがない……  
本当に、世話の焼ける奴だ……しかし、フンドシまで取る必要があるのか?  
 
頬を朱に染めた丹は、股間を見ないように顔を逸らし目まで閉じて、震える指で嫌々ながらも局部に触れないようにして迅鉄の下半身に巻かれた布を、なんとか外した。  
「で、こ、これから、どうするんだよ」  
「もちろん股間を拭くんだよ、決まってるだろうが」  
「え、で、でも……あ、あたし……」  
丹は吃りながら、横目で剥き出しの股間にちらと視線を走らせ、  
……生身?  
と顔を赤くした。  
「出来ねぇーか?」  
「えっ、あっ、い、いや出来ないとか、そういうわけじゃないケド……」  
 
「ちっ、しゃねーな、じゃぁ、お前も脱げ!」  
「…………え、なんて……言った?」  
丹は、思わず目が点になったあと鋼丸をキッと睨み付ける  
「だから、お前も着物を脱げって」  
「な、なんだとー」  
「迅鉄を、助けたるためには、何でも、するんじゃないのか?」  
「ぐぅっ、り、理由を説明しろ」  
丹は、怒鳴りながらも、剥き出しになっている迅鉄の下半身にもう一度、チラっと視線を走らせる、  
『あ、やはり……アレは、な、生身のままなんだ……』  
と、何故か思わず安堵している自分に気がついて、顔が真っ赤になる。  
うっ、うぅう、うがぁー あ、あたしは、何を考えてんだぁ?  
 
「いいか、簡単に話すぞ」  
「えっ あ、ああ」  
「ん? どうした、顔が赤ぇーな?」  
「う、うるせぇ、さっさと話を続けろ」  
「? まぁ、いいか、……迅鉄の身体を見りゃ分かるが、半分以上、造りもんだ、大部分が鋼で覆われているから、多分、沼に落ちたせいで臓物まで冷えちまったんだよ」  
「そ、それで……?」  
「鋼には血が通ってねぇからな、一旦、冷えたら……丹、お前、ドコ、見てんだ?」  
 
丹は、可能な限り迅鉄の下半身を見まいと彼の身体から顔を逸らして、明後日の方向を見ている。  
「う、うるさいぞ、話を続けろ」  
「お前、やはり、男の経験ねぇーだろ……処、うぁっ」  
「き、きさまだけ、ここで死ぬか?」  
「じょ、冗談だ、冗談だって!」  
ワナワナ震える丹は、鋼丸を地面から抜きはなち、岩に叩き付けようとしたのだった。  
 
「たっくよ、すぐ、頭に血が昇る奴だな、話を続けると、溺れて水を飲んだうえに冷えたせいで迅鉄の体中の血の巡りが悪くなっちまって、脳みその中の血も足りねぇんだ、そこでだな、お前さんの身体で暖めてぇ欲しいんだ」  
「あ、あ、あたしの身体でぇ?」  
驚いた丹の顔が赤く染まり、迅鉄の下半身をまともに見てしまう、  
さらに耳まで赤くなるが、なんの変化もない彼の状態にも、唇を噛み締める。  
「こんな身体の迅鉄を、暖めるてぇのは嫌か?」  
「べ、べべ、別に、いっ、嫌じゃないけど、た、焚き火でも、いいじゃないのか?」  
枯れ枝を多めに追加しながら赤々と燃える焚き火へと視線を向けるが、即座に鋼丸に否定されてしまう。  
「いや、それだと、鋼がアツクなり過ぎて、臓物が焼けてしまう恐れがある」  
「でも、あたしが、き、着物まで、脱がなくても」  
「その泥水をたっぷり吸った着物のままでか? ダメだ、それにな、素肌で直接に暖めた方が温もりが伝わるってーもんだぜ、  
おめえの柔肌で、迅鉄の体を覆っている鋼を直に暖めてやるのが一番だ、おめえさんだって、いつまでも濡れた着物を着ているてぇ、ワケには、いかねーだろう?」  
「くぅ……ううっ」  
「さぁ、早くしろ、こうしているうちに、迅鉄の命の火が冷えちまうぞ」  
 
丹は、迅鉄の腰周りに視線がいかないように、周りを見回して唇を噛み締める。  
迅鉄と裸で抱き合うだって?  
この、あたしがか?  
 
街道から外れ、崖と林に囲まれた小さな沼のほとりには、夕闇が訪れようとしている。  
地面に突き立てられた刀の柄にある一つ目は、ジッと丹のことを見つめていた。  
鋼丸は何も言わないが、そもそも迅鉄が沼に落ちたのは丹のせいだ。  
 
彼女は、そう高くはない崖を見上げ木々に集まっているカラスの群れに眉をしかめた。  
崖の上で、ちょっとした事で怒った丹が、いつものように迅鉄に突っかかっていき勢い余って崖から落ちそうになった彼女を、彼が腕を掴んで引っぱり戻してくれたのだが、今度は足元が崩れて迅鉄だけが、下の沼に落ちてしまったのだ。  
理由はともかく、あたし、のせいだ……  
それに、幾つもの借りがあるまま、コイツに勝てないまま、ここで死なれるわけにもかない。  
ちっ、仕方がねぇ。  
地面に、死んだように横たわる迅鉄の姿に、丹は赤く染まっていく空を見上げて睨み付けると、意を決して着物を脱ぎ始めた。  
 
「あ、胸のさらしも取れよ」  
「う、うるせぇー!」  
丹は、やおら地面から鋼丸を抜くと、その目を沼に向かせて再び地面にドスと乱暴につき刺し横目で鋼丸を睨みつける。  
「あ、おい、なにしやがる、み、見えねーじゃねぇか」  
「な、なにが見えないだってぇ!」  
「ちっ、たいした躯でもないだろうにっ」  
「なんか、言ったかぁ?」  
「え、いやなんでもありやしやせんぜ」  
「じゃぁ、黙ってろ!」  
なおも、ぶつぶつと呟く鋼丸を無視して、丹は、しなやかで整った肢体を冷ややかな空気に晒した。  
泥水で濡れた服を脱いで、水を吸ってきつく締まってしまったさらしを解くのは、なんとも言えない開放感がある。  
出来ることなら、汚れてない水で身体を洗い、清潔な服に着替えたいところだ。  
 
しかし……  
「はぁ……なんで、あたしが、こんなことを……」  
丹は、自分と迅鉄の着物を焚き火の脇にある岩の上に広げて置くと、沈みゆく太陽の赤い光を浴びて浮かび上がる乳房を自らの手で抱いて、ホッと、小さく溜息をつく。  
ついこの間まで、さらしなんて必要なかったのに……  
そして掌に感じる己の乳首の感触に、どこか背徳的で後ろめたいような気持になるのだ。  
 
丹は、己の股間を手で隠し、迅鉄の傍らに立つと自分の躯を見下ろす  
どうしようもなく、女になっていく躯。  
彼女の躯は、ここへ来て急速に女らしい丸みを帯びてきた、陰部には柔らかで薄い毛が生じ少年のように、たくましかった太ももは、今では見るものを否応なく引き付ける艶かしさと色香を備える、  
腰は細く引き締まり、既に小さいとは言えなくなってきた乳房はもちろんのこと張りのある肉がつき始めた尻は、もう隠しようがなくなってきた。  
その器量良しの顔も相まって、今の一糸纏わぬ姿を、そこら辺の男どもが見たら絶対にほっとかないだろう。  
もう、男の格好をして性別を誤魔化すのも限界なのだろうか?  
丹は、水面にユラユラ映る己の裸体を悩ましげに眺めた。  
 
それにしても、  
「うぅっ……」  
意識がないとはいえ、迅鉄の前で裸体を晒すのは、  
かなり恥ずかしい……  
どうせなら、こんな泥で汚れた姿でなく……  
丹は、泥で汚れ切り傷のある手を眺め、  
ふと、いつか茶屋で見かけた、迅鉄の異形を恐れもしなかったある少女の手を思い出す。  
蕎麦の入ったドンブリを運ぶ、彼女の手は細く白く美しかった。  
それに比べて自分の手は……  
女だてらに刀を振り回し、腕にはしっかりとした筋肉がつき、いかにも刀を握り慣れた手……  
 
もし目覚めた迅鉄が、今の自分の姿を見たら、なんと言うだろうか?  
嘲笑する?  
無視する?  
呆れる?  
 
それとも……  
綺麗だと言ってくれるだろうか?  
 
丹は、心に浮かんだ思いもよらぬ考えに身体がカッと熱くなるのを感じた……  
「な、なにやってんだ、怖じ気づいたのか? 迅鉄の体が冷えきってしまうぞ」  
「うるせー こ、こ、こんなことぐれぇで、紅雀の丹が怖じ気づいてたまるか」  
鋼丸の言葉に、躯を震わせ胸を隠し唇を噛み締める。  
そうだ、  
紅雀の丹は、一度、覚悟を決めたら、最後までやり遂げるのだ。  
迅鉄を、ここで死なすわけにはいかない。  
 
丹は、再度覚悟を決め、地面に燕脂色の合羽を敷くと白い乳房を震わせながら迅鉄の傍らに膝をつくのだが、彼女の心に、ふと疑問が生まれる。  
「おい、は、鋼丸」  
「な、なんだ?」  
「お前は、迅鉄がこんな状態なのに、ずいぶん脳天気だよな、なんでだ?」  
「え、あ〜 そうか、これでも、ケッコー 焦ってるぜ、まっ、俺サマは脳みそだけだから、迅鉄とは、ちと違うからな、一度、三途の川を渡って死んでるしよ、こうでもしてねーと、やってらねぇーていうのもあるしよ」  
「ホント、かよ……」  
 
「あ〜 一つ忠告しとく」  
「え、忠告……?」  
「変な気を起こして、迅鉄の体でイケナイコトするんじゃねーぜ?」  
「ば、馬鹿やろー んなことするか、岩に叩き付けるぞ!」  
「じょ、冗談だよ、いや、すげぇ緊張しているよーだからよ……ほぐしてやろうと思ってな」  
「ふ、ふん、余計なお世話だ!」  
丹は、鋼丸とのやり取りで勢いがついたのか一気に迅鉄に寄り添うように身を横たえ、震える腕で継ぎはぎだらけの彼の身体を抱き寄せた。  
 
つ、冷たい!  
迅鉄の身体は氷のように冷たく、丹は小さな悲鳴をあげた。  
鋼丸と会話をすることで気が紛れていた心に、再び強い不安が持ち上がる。  
これでは、死体を抱くのと変わりはないじゃないか?  
迅鉄は大丈夫なのか、迅鉄はこのままだと本当にヤバいのではないのか?  
 
こうしていても、鋼が丹の体温をどんどん奪っていくのが分かる。  
鋼丸の言う通りかもしれない、迅鉄の躯を覆っている鋼は命の炎を拒絶するかのように冷えきっている。  
「迅鉄は、大丈夫なのか?」  
何度繰り返したか分からない問いかけを、また繰り返す。  
「今のところは、まだな、しかし、もし体の中に沼の水が入っていたら、ちょいとヤバいな……」  
丹の耳に不吉そうな言葉が聞こえ、鋼丸の軽い口調が余計に不安を掻き立てる  
体の中に……?  
丹は、抱きしめている迅鉄の、継ぎはぎだらけの身体を眺めた。  
確かに、水が侵入してもおかしくない。  
ホントに、なんてぇ、身体なんだ?  
コイツ、こんなんで生きてきたのかよ……  
 
くっ、じ、迅鉄、死ぬなっ!  
丹は、願いを込めて迅鉄の背に両手を回して歯を食いしばり、  
冷たい鋼が乳房が当たって潰れる感触に、顔を酷く歪ませた。  
「はぁー くぅ、こいつ、本当に、お、重い……な」  
これでは水に浮かばないのも無理もない。  
迅鉄が、このまま死んでしまうかもしれないという思いは、一時、丹に羞恥心を忘れさせる。  
丹は、虫と蛙の鳴き声が響き渡る沼地で微動だしない迅鉄の身体を強く抱き締め続けた。  
 
迅鉄っ、私が、お前に勝つ前に死ぬんじゃないぞ!  
丹は、密着度を、あげるために、さらに足まで絡ませ……  
「うぁ、な、なんだ、これは……?」  
 
あ、ぅあぁ……!  
 
太ももに当たるフニャとした物体の正体に思い当たり反射的に迅鉄の仮面を殴り、丹の頬が赤く染まる。  
ちっ!  
意識のない人間を殴っても仕方がないというのに……  
 
それは、まだ濡れた泥で汚れヌルヌルとしていた。  
太ももや肌にあたる気色悪い感触に、どうしようと慌てて周りを見回し、  
手に届くところに、先程迅鉄の身体を拭いた布があるのに気がついて手を伸ばして取ると、そっと包み込むように迅鉄の股間を覆った。  
 
何で心臓がドキドキするんだ、お、落ち着けあたし!  
こ、こ、こんなもん珍しくないだろう……  
彼女とて、博徒の世界で生まれて育った娘だ、男と女の夜の営みも、この目で実際に何度も目撃したこともあるし性の知識も、それなりにあるつもりだ……  
しかし、湿った布を通して股間のモノに触れていると改めて迅鉄が男(多少の、……いや、かなりの問題はあるが)で嫌でも自分が女だと思い知らされてしまう。  
 
もしも迅鉄の身体がこんなではなく、二人の境遇が、もっと違った状況で、あたしと出会っていたら、どうなっていただろうか……  
自分と迅鉄が……幸せに抱き合っている未来もあっただろうか?  
丹は、かつて好意を寄せていた男の事を思い出し悲しそうに頭を振った。  
いや、そもそも出会いなど、なかったに違いない。  
人の縁とは不思議なものだ。  
どうしようもない切なさに襲われた丹は、無意識に迅鉄の顔を覆う鉄仮面に赤く染まる頬を押しつけ、その硬さと冷たさに涙を滲ませた。  
 
「なかなか、いい、感じだぜ?」  
「ひぃ……あ!」  
不意に響いた声に驚いて、迅鉄の股間を押さえていた手を離した。  
すっかり鋼丸のことを忘れていたのだ。  
で、でも、いい感じって、なんだ?  
鼓動が高鳴り躯が火照るかのように熱くなっていき、ぐにゃりとした迅鉄の股間の感触を忘れようと汗ばんだ掌を握った。  
 
「な、なんだ、妙な声を出しやがって」  
「な、なんでもない。それより迅鉄の様子は、どうなんだ」  
「ああ、大分、いいようだぜ、身体の方は、なんとか持ち直している、お陰で、心の臓の動きも、しっかりとしてきたようだぜ」  
「そ、そうか……」  
丹は、何故迅鉄の容態が分かるのだろうと思いながらも鋼丸の言葉に安堵の溜息を漏した。  
いつまで、こうしていなければならないのだろうか?  
不意に、丹の心に強い羞恥心が蘇る。  
恥ずかしさに火照り熱くなる躯を鎮めなければと思うが、こんな状態で迅鉄の目が覚めたら……  
 
あ、あたしは、どうしたらいい?  
 
「しかしな………」  
鋼丸が、困ったように言葉を続ける。  
「迅鉄のヤツ、全然、反応しやがらねぇ」  
「え、ど、どういうことなんだ?」  
安堵したばかりの丹の心が強い不安に怯える。  
「あ、いやぁ、俺は、迅鉄が眠っていても、ある程度、こいつの夢とか思考が読み取れるんだが、説明しても分かんねーだろうから省略するケド、とにかくヤバいかもしれん」  
「だから………ど、どういう意味なんだ…」  
丹の迅鉄を抱き締める力が強くなる。  
「いや、なぁ、つまり迅鉄は、このままだと……二度と、目覚めないかもしれねぇ……」  
ウ、ウソ……だろう……?  
 
鋼丸の不吉な言葉に、丹は頭だけ起こして地面に刺さったままの刀を見つめ、  
「さっき、持ち直したと言ったじゃないか?」  
彼女は泣きそうな表情を、いや泣きながら叫んだ。  
「あ、うん……体の方はな……だが心の方は……」  
「こ、心?」  
「ああ……」  
「ど、どういうことだよ? なにか出来ることは、方法は、ないのか!」  
「…………」  
「鋼丸っ!」  
「ひ、一つだけ、思い当たる手段というか、試してみる価値のある方法が、あることはあるんだがよ……」  
「そ、それは、なんだ、教えてくれ……」  
「う〜む、やっぱ、ダメだな…丹、おめえさんには、させられん」  
「だから、なんなんだ」  
丹が、しなやかな躯を捻って、躯の上に乗せている迅鉄をそっと退けて立ち上がろうとすると、  
「あ、離れるな、そのまま迅鉄を抱いていてくれ」  
「え、あ、ああ」  
丹は、再び迅鉄の身体に寄り添い、涙が溢れる目を拭ってイライラした口調で問いただす。  
 
「思い当たる手段って、なんなんだ?」  
「…………」  
「あたしに、ここまでさせておいて、今更なに黙ってんだ? 言えって、迅鉄が目覚めないと困るのは、お前もなんだろ!」  
丹は、無意識に迅鉄の頭を抱きしめ、彼の硬い仮面を胸に押し付けて叫ぶ。  
「そうだが………お嬢ちゃんには無理じゃねえか?」  
「お、お嬢ちゃんだとー む、無理かどうか言ってみろ、あたしに出来る事ならやってやる!」  
「わ、判った、そこまで言うのなら、……迅鉄の股間のイチモツを弄ってみてくないか?」  
「ああ、なんだ、そんな簡単な、こ、と、ををぉっ………!!!」  
丹は絶句して押し黙った。  
 
どのくらいの時間が経過しただろうか  
「なぁ、やっぱり無理だろう」  
鋼丸の言葉で、凍りついていた丹の身体がギクリと身じろぎして吃り震える声で問いかけた。  
「な、なな、なぜ、コ、コレ、なんだっ!」  
 
この紅雀の丹が、迅鉄のイチモツを握るだとぉ!  
くぅ、いっそうのこと、ここで引導を渡してやるかっ!  
顔を真っ赤にした丹が、怒ったような口調で呟いた。  
「な、なんで、こんなことに?」  
 
「脳に、刺激を与える為だよ」  
「し、刺激?」  
「そうだよ、お前さんには、判らねぇろうが、俺らの脳と身体は改造されて、人の手で神経が繋がれてんだ」  
「はあ……?」  
「だから……なんと言うか、おめえらと違って、神経の繋がりが自然にいかねぇんだよ」  
「そ、それで……??」  
「そこで、火打石で火薬の導火線に火をつけるようにな、なにか強い刺激が必要なのさ……」  
「……???」  
「それにな、迅鉄は溺れてしまったせいで、脳の中で血に含まれる重要な気体が足りなくなくなって深く眠っていやがる」  
鋼丸の言葉に、次第に丹の眉間に深い皺が刻まれていく。  
「おまけに、今の迅鉄の心は外から切り離されていて半分、夢うつつでな、もうこのまま、ずっと眠ってしまってもいいと思ってぇ、いるようなんだよ」  
 
「え……」  
丹は涙を拭って、胸に抱いている迅鉄の物言わぬ鉄仮面を見つめた。  
それって、ひょっとして、このまま死でもいいっ、と思っているということか?  
そ、そんなん、絶対に許さないぞ!  
 
「つまり、ただの刺激ではなくて、生きたいと思えるような現実感のある強いシゲキが必要なんだよ、そこで、おめえが……」  
「も、もう、いいっ! 判った、」  
そろそろ頭痛がしてきた丹は、鋼丸の言葉を遮って、顳かみに指をあてた。  
 
どうする?  
迅鉄が、こうなってしまったのは自分のせいだ。  
だか、鋼丸の言う事が本当なら……  
生きたいと思えるような、刺激か……  
 
迅鉄の股間にあるモノを意識して赤くなる丹は、もう一度、鋼丸に尋ねる。  
「でも、なんで、コ、コレ、なんだ?」  
「あぁ、ごらんの通り、半ば鋼に覆われている迅鉄の数少ない生身の部分だし、男にとって敏感で、大事な所だしな、鋼で覆われ、改造されて、からくりで動いている迅鉄の身体の中で、脳に直結している希少で重要な器官だからな……」  
「………????」  
「ははは……、まぁ、こいつのイチモツに強く気持の良くなる刺激を与えれば、眠っている脳を直撃して目覚める、かもしれん、という寸法さ、おめえさんも、その……、もう判るだろ?」  
鋼丸が、暗に要求している行為が、どういうことかは、  
彼女も理解はしている。  
 
「つまりな、丹よ、生に、この世に強い執着心を起こさせて、目覚めさせるような刺激  
――出来たら痛みじゃなくて、出来るだけ強烈な強ぇ快楽がいい、脳を直撃するようにな、そこで男なら快楽といえば女の躯に勝るもんがねぇ……が、そういうわけにもいくめぇ、そこで、せめて、というわけだ」  
 
「くっ……」  
あたしが迅鉄のアレをっ!  
丹は、屈辱と恥ずかしさに火照る裸体を抱き締める。  
要は、手で、してやれっ、と言っているのだ。  
丹とて、男の身体に興味がないわけではない。  
それどころか……  
いつのまにか躯の火照りは小さく躯の奥底に蠢くようになり、得体の知れない感覚に変化している。  
異形とはいえ、同じ年頃の男と肌を合わせているのだ。  
年頃の丹が意識しないわけがない。  
だが、よりによって迅鉄のモノに触れることには、どこか負けたような言い知れぬ屈辱感を感じる。  
 
「丹……無理しなくて、いいぞ?」  
鋼丸が、達観したような口調で話し掛けてくる。  
「俺も迅鉄も、一度死んだ身だ、ここにいるのは亡霊のようなもんだしな、いつ消えてもおかくしくねぇ、身の上よ……別に、やらなくても、恨みやしねぇぜ?」  
「……………」  
「………丹?」  
 
丹は、鋼丸には応えずに目を閉じて深く息を吸い、思わず笑ってしまう。  
今日は、正に厄日だ。  
まさか、男の、しかも迅鉄のイチモツを、この手に握りしめる日がこようとは……  
夢にも思わなかった。  
はははっ!  
 
腕の中の迅鉄は、まだピクリとも動かない。  
丹は目を見開き、迅鉄の鉄仮面に覆われた顔を、じっと見つめる。  
いったい、コイツと自分の関係は、なんなのだろう。  
あたしに、こんなことまで、させやがって……  
起きたら、覚悟をしとけよ…  
丹は目を閉じると、心の中に存在する屈辱感を押し殺す、そして、そろりと迅鉄の股間に指を這わせて覆っていた布を剥ぐ、  
「丹…… おめえの覚悟受け取ったぁ、よし、出来るだけ優しくな、大きく硬くなってきたら教えろ!」  
お、大きく、か、かか、硬くなったらだって?  
「す、少し、だ、黙ってろ!」  
真っ赤になって鋼丸を怒鳴りつけると目を閉じて恐る恐る、ふにゃふにゃした、それを――  
『あ、あ、やっぱ、嫌、き、汚い、ぁ、ふ、触れる…ぅ!』  
――握りしめた。  
 
あ〜ぁ……  
遂に迅鉄のイチモツを握ってしまったー  
丹は、なんとなく自分が情けなくなった。  
なんとも形容のしがたく頼りない妙な感触、今まで見た事は何度もあるが、さすがに触るのは初めてだ。  
 
「大事なモンだから、そっとな、」  
「………」  
「ゆっくりと優しくしごいてみてくれ、あ、力をいれ過ぎるなって!」  
「………」  
「そうそう、包み込むようにな、先端は、すげぇ敏感で繊細だから爪で傷つけんなよ?」  
「………」  
「オイ、丹、聞いてんのかっ!」  
「ううっゴチャゴチャ、うるせぇー 黙ってろぉ!」  
 
が、しかし……  
丹は熱い溜息を吐いた。  
こんな醜いモノが、あんなに大きくなってココに入るのか?  
あたしの中にも入るだろうか?   
入れたら、どうなるのだろうか?  
………あたし………が…迅鉄と……うっ、  
丹の心臓が、一つドクンと強く打ち、  
「うわぁっ!」  
 
「ど、ど、どうしたぁ」  
「な、な、なんでもねぇよ」  
「そうか良かった、……迅鉄のモノに、妙な……気、……を起こしたのかと……思ったぜ」  
み、み、妙な気だって?  
「お、お、おお、起こすか、馬鹿野郎ム!」  
ぅうぁー、あああ、あたし、何を考えてぇるんだよ?  
『迅鉄のコレをココに入れるなんてぇ!』  
じょ、冗談じゃねぇーぞ!  
丹は頭をフルフル横に振ると身体の奥で蠢く不可解な感触を無理矢理に心の奥底に押し込める、いかにも嫌そうな表情を作りつつも真っ赤になって彼の一物を可能な限り指で優しく擦り続けた。  
 
だが……  
「どう、だ、へ、変化、は、ないか……」  
「あ、ああ……?」  
……一つ気になる事がある。  
先ほどまで、やれ柔らかくとか、包み込むようにとか、あるいは下手糞とか、五月蝿い程までに、突っ込みを入れていた鋼丸の言葉が、だんだんと途切れ途切れになってきたことだ。  
「お、おい大丈夫かっ?」  
丹は身を起こすと、鋼丸に声をかける。  
「もっと、強い、シゲキ、が、ひ…ひつよう…だ、し、神経の…接続…が、が、がっ……」  
「あ、おい……鋼丸っ!」  
「ああぁ……だが、ね、眠い…急に眠くなって、……きやがった……」  
「ね、眠るなぁっ!」  
 
ク、クソッ、も、もっと、強い刺激か……  
丹は、起き上がり大胆にあぐらを組むと、なんの変化のない迅鉄の股間を見下ろして、ゴクリと息を飲み込んだ。  
「おい、鋼丸っ、聞きたいことがある」  
「わ、悪いが、もう、だ、だめ、だ……丹よ、もういいぞ…あ、りが、とう……な……無理な、こ…とさせ、て、悪かった……よ……」  
「は、鋼丸、鋼丸っ!」  
「…………」  
何度呼びかけても応答しない刀に、丹の顔色が変わる。  
「へ、返事をしろぉー!」  
 
気がつけば日は暮れ、空に残った最後の明るみも消え、沼地は闇に閉ざされていく。  
くぅ……  
丹は焦りはじめた。こんなところで夜を明かすのか?  
どこからか、獣の遠ぼえが聞こえ、ねぐらへ帰るカラスの鳴き声が木霊して丹の心に死への恐怖が忍びこんでいき……  
 
うっ……なんだ?  
丹は背中に冷やっとしたものを感じて目をしばたいた。  
何か得体の知れぬ妖し気な物達が自分達――迅鉄の身体に絡み纏いついているような気がしたのだ。  
「ひぃ!」  
短い悲鳴をあげて丹は頭を振る  
な、なんだ、これは?  
き、気のせいか?  
あ!  
丹は短く声をあげた。  
いや違う、これは今までも迅鉄が刀を抜く度に彼の周り漂い纏いつく、あの妙な妖しい不気味な気配に違い無い。  
 
もしや、このままでは、  
じ、迅鉄が、本当に死ぬ?  
嫌だ!  
迅鉄を死の世界に誘うかのごとく纏わりついてくる得体の知れぬ気配を振払うように上半身を起こす。  
「迅鉄、迅鉄っ、起きやがれっ、こ、この、あたしが、紅雀の丹が、ここまで、して、やってんだぞ、オイ、起きろっ!」  
貴様が死ぬなんて、許さない、絶対、い、嫌だっ……  
そ、そんなこと、させるか!  
あたしが、絶対にさせない!  
丹は迅鉄の表情の無い鉄仮面を見て、再び泣きそうになり覚悟を決めた。  
 
これから行なおうとしている行為に丹は顔を歪める。自分は、少しおかしくなって来ているのもしれないと、  
だが今の彼女には他の方法が思いつかない。  
 
溺れた人間を助けるには、お互いの口を合わせて空気を吹き込むと相場は決まっているが……  
ははは……  
丹は、迅鉄の顔を覆う鉄仮面の口を眺めて、乾いた笑いを浮べた。  
迅鉄……  
「あ、あたしを、ひ、独りにするなー」  
山の影から姿を現わした満月に絶叫した丹は乳房を揺らして身を屈めると、ゆっくりと迅鉄の股間に顔を埋めた。  
 
それは、随分と前に聞いた事のある行為だ。  
男を慰め満足させる為に、口でする行為。  
慣れた女にかかると、男は夢心地になって果てるそうだ。  
果てる程の強い、快感か  
……そいつを、ここに、与えれば、いいんだよな……  
これからすることの嫌悪感に目を硬く閉じた丹は、その指で、迅鉄の萎えたままの、それを優しく支えると意を決して、歯が当たらないように、そっと口に含む。  
くぅ……!  
表現のしようがない生暖かさと匂いに味、そして舌触りに顔をしかめ、やはり止めておけば良かったか、などと後悔してからも、昔に耳にした通りに棒飴をしゃぶるように迅鉄のイチモツに舌を這わせた。  
 
……じ、迅鉄……目覚めて、んくぅ、はぁ、起きてくれ、よ……  
 
沼は完全に闇に閉ざされ、満月に照らされた木々が無気味な影を投げかけ、得体の知れぬ気配は刻々と濃くなっていくが鋼丸は完全に沈黙し迅鉄は まだ目覚めない。  
丹は涙目になって、必死に迅鉄の身体をさする。  
彼の心臓はしっかりと打ち、身体を覆う鋼もほんのりと人肌に暖かい。  
なのに、何故、目覚めないのだ。  
鋼丸の言葉が脳裏に響く。  
強い刺激、脳を直撃するような快感……  
丹は、鋼丸の言葉を信じるしかなく、  
押しつぶすような闇の中で、息をついては迅鉄の頼り無いふにゃふにゃしたモノを口に含み続けた。  
 
そして、  
いつしか得体の知れぬ気配と闇の恐怖を忘れるために、しゃぶるのに集中していき、口の中に唾液が溢れ次第に丹の息も妖しくあがっていくのだ。  
舌が立てる卑猥な音と丹の乱れた呼吸音が深閑とした沼地に響く、乳房は細かく揺れて乳首が地面に触れると思わず乳房を押さえて熱い吐息を漏し、  
はぁぁ〜、あっ  
丹は、躯の奥底で蠢めいていた感覚が次第に小さな熱い塊となって、じんじんと疼くものになっていくのに気がついた。  
 
ぁ……迅鉄?  
丹が小さく声をあげる。  
迅鉄の身体が、僅かに痙攣したような気がしたからだ。  
口の中の一物も、さっきよりも大きくなり固さもしっかりとしてきたような気がする。  
もう少しだ、生き返れ、丹は一心に迅鉄のモノを喉の奥まで喰わえこみ、しゃぶった。  
 
だが……  
はぁはぁ…はぁ……迅鉄、あたし…あたし……  
いつしか丹は甘く熱い息を漏す。彼女は自分の中の何かが変容していくのを自覚していく。  
じんじんと疼く熱い塊は、丹を混乱させ無意識に膝を閉じて股をすぼめ、次第に腰をよがらせる、やがてそれは次第に堪え難いほどになっていく。  
 
そして……  
迅鉄のイチモツに舌を絡めながら、ついに喘ぎに似た声を漏しはじめる。  
「はぁ、はぁ、はぁ……んんっくぅ…ぁ……んっんん…」  
い、弄りたい……  
『アソコに触れて、くちゃくちゃしたい……』  
でも、気を失っているとはいえ迅鉄のモノを喰わえながら、自分を慰めるなんてぇ、  
あぁああ……やぁ……ダメ、アソコを弄りたい  
 
ついに丹は、腰を浮かせ無意識に自分の股間に手をやり、熱く疼いている密やかで小さな脹らみに触れて、指で盛り上がった恥丘の形をなぞるように擦りはじめ、  
「んっぁああ、はぁっ、ふぅ〜 ぁ…はぁ……」  
ホッと溜息をつき、腰を切なさそうに捩らせ我知らず甘い吐息を漏すのだ。  
 
あっ、あたしの、か、躯、熱い……  
丹は、自分の指が、己の股間を確かめるように這う間も、迅鉄のイチモツをしゃぶるのをやめない。  
迅鉄のモノは、既に指で支える必要もなくなり彼女は地面に這いつくばるように彼の股間に顔を埋め、細い指は秘裂に沈み込んでいく。  
ひぃん……あ、あたし、なにやってんだ?  
疑問に思いつつも丹の白く円やかな尻は左右に揺れ、ぴくぴくと震える。  
丹は、股間の密やかな裂け目に入れていた指を抜くと、目の前に持ってきて見た。  
 
『くぅっ、嫌っだ、ぬ、濡れている……』  
いつのまに、こんな……  
なんで、あたし……  
息を乱れさせ、いかにも嫌そう首を傾げるが、半ば夢心地で手を股間に持っていくと密やかな裂け目を辿るように再び指で擦りはじめた。  
あ、あ、ふっ、んん……  
そして、溢れ出した快感に身を捩りながら呟く。  
あたし、いったい、なにやってんだ?  
あ、ああ、そうだ、迅鉄を気持良くさせて、目覚めさせるんだっけ……  
でも……あたしの方が気持良くなって……  
んんぁ、ど、どうしよう、自分の身体なのに押さえ切れないよ、  
気持、イイよぉ!  
指がとまらないぃー  
丹の尻が月明かりの中でひくひくと痙攣した。  
 
「あぁああ……熱い…」  
この躯の熱い疼きを感じはじめたのは、いつのころだろうか?  
迅鉄のイチモツを、指で弄りはしめてから?  
いや、迅鉄の冷たい身体を、この身で抱きしめ、この乳房を冷たい鉄に押し付けて肌が総毛立つような感触を感じてからだ……  
丹は、片手で乳房を下から持ち上げるように揉んで悩ましい喘ぎ声をあげた。  
はぁはぁ、ああっ…くんっ、ど、どうしよう、こんなことしている場合じゃないのに……  
気が付けば、いつのまにか迅鉄のモノは、口一杯に膨張して、彼女は指で密やかな音を立て股間を弄り続けながらも口を離して眺めた。  
 
「はぁはぁ、ああっ……」  
ぅあああ、こ、こんなに、大きくなるなんて……  
丹は、目の前の醜いモノが自分の中に侵入していく様を想像して喘ぎ、股間で蠢く指が敏感な突起を探し出す。  
「あぁ、やぁ、ダメ……」  
躯をぶるっと震わせて、そっと迅鉄に呼び掛ける。  
「じ、迅鉄?」  
未だに起きない事に、何故か安堵してしまい無意識に迅鉄の閉じたままの唯一の目に口づけをした。  
 
こうして見ると迅鉄の顔の造作は、なかなか可愛い!  
三白眼がチャームポイントで身体だって継ぎはぎだらけだが、そう悪くはない気がする。  
乳房が当たる冷ややかな鋼の感触にいたっては癖になりそうだ。  
丹は、熱くなった肢体を艶かしく身悶えさせる  
 
はぁはぁ、んんんっ、あぁ……迅鉄……  
躯と心の変異に戸惑う丹は、迅鉄の股間からそそりたつイチモツを、熱い眼で見つめる。  
あっ、やぁ……ぁああ……  
「はぁはぁ、ダメ、ぁああ、弄っちゃダ、メなのに……」  
丹は乳房をぎゅっと押さえ、  
「ぁ、んんっ……」  
大胆に震える太ももを開いて蜜の溢れる秘口をくにゃくにゃと弄り出し、剥き出しにした密やか突起を指で転がして艶やかな喘ぎ声を漏らし続ける。  
 
コ、コレを  
ここに入れると、どんなんだろうか…  
あたし、どうなるんだろう?  
丹は生唾をゴクリと飲み込む。  
んんっ、迅鉄 ……くっ、気持がいいよ、んんぅ、いいったい…どうして……あたしの躯、こ、こんなに、感じてしまうんだよ?  
はぁはぁ、あたし、まさか、迅鉄のこと…んん、あっ…はぁぁ……ん……  
 
そんな……!  
仇だぞ、こいつは仇なんだぞ?  
これ以上は、不味いと、引き返せなくなると頭の片隅に押しやられていく理性が必死に働きかける、  
だが乳首は硬くしこり肌はしっとりと汗ばみ、秘裂からは嫌らしい粘液が滴り落ち、蠢く指が淫らな音をたて続ける。  
丹は、徐々に快楽に目覚めながら迅鉄の股間のモノを食い入るように見つめた。  
 
『生に、この世に強い執着心を起こさせ、目覚めさせるような刺激――出来たら痛みじゃなくて、強ぇ快楽がいい、そこで男なら快楽といえば女の躯に勝るもんがねぇ』  
丹の脳裏に鋼丸の言葉が蘇る。  
はぁはぁ、強い執着心…か…んんっ…  
だったら、指や口なんかより、本物の穴の方がいいに決まっているよな?  
 
彼女は、もう見慣れてしまった迅鉄の股間を見つめる。  
そして彼女は自分の股間を見つめた。  
ある意味、死とは対極の生命の生まれる場所。  
 
丹は、引き締まった白く円やかな尻を持ちあげると、天空を見上げる、  
迅鉄が死ぬかも知れないと思った時の、あのどうしようもない焦燥感、迅鉄を仇と追いはじめてからの年月……  
歩く先には常に迅鉄がいた。  
いや、迅鉄を求めて、追い掛けていたのは、いつも自分の方だ。  
仇とか、正々堂々と勝負して勝つためとか、理由をつけていたが、では、目的を果たし事が終わった、その後はどうする?  
なにも考えてこなかった。考えもしなかった。  
いや、考えたくなかったのかもしれない。  
 
もう帰るところは無い、今さら普通の女として生きていく気もさらさらない、第一出来るわけがない。  
だったら……  
丹は、黒めがちの大きな瞳から涙を流し、顎を引いて決意の表情を浮べる。  
あ、あたし、迅鉄と…… いや、こいつらと一緒にいたいんだ。  
 
いつのまにか天に昇った満月の中で、丹は、つんと上を向いた乳首を粘液で濡れた指先でそっと摘まみ熱い吐息を漏す。  
こいつといると、あたしが、あたしでなくなっていく。  
もう元の、あたしに、紅雀の丹に、戻れなくなるという予感に丹は悩まし気な微苦笑を浮べた。  
 
銀色の月明かりは、丹の引き締まった躯を際立たせ美しい影を地面に投げかける。彼女は淫らな溜息をつくと、股間の猛り狂うイチモツ以外は死人のように見える迅鉄を見つめ、粘液で濡れた自分の秘裂を見た。  
まさか、ここに男のモノを迎え入れる日がこようとは……  
 
『くぅ、てめぇには勿体無いが、迅鉄、これもなにかの縁だ、この紅雀の丹の初物を、く、くれてやるっ!』  
 
「待ってろ、迅鉄、今、本物の快感を、女を味わせて、目覚めさせてやるからな」  
もし、こ、これで目覚めなければ、  
「はぁはぁ、あたしが、んんっ、き、貴様に、はぁはぁ、と、とどめを刺して、やる」  
丹は目を閉じて不安と覚悟に揺れる乳房を押さえながら迅鉄の腰に股がるのだった。  
 
「う、うんっ…」  
指で迅鉄の一物を支え、位置を確かめるように腰をうごめかす。  
「はっぁはぁー、あぁ、ああっ、くぅ……」  
恐くはない、ただ、心臓が不安と期待にドキドキと高鳴るだけだ。  
 
『はぁはぁ、くぅ、は、入らない……』  
丹の、それは、十分に濡れ迅鉄のイチモツに触れた途端に粘液が溢れ、彼の腰を濡らしていく。  
あ、あっ、いい、んん、  
触れただけで、初めてなのに?  
な、なんで、こんなに、か、感じるんだろう!  
 
丹は、左右に捻るように腰を振って陰部をくにゃくにゃと迅鉄のイチモツに擦り付けると、見知らぬ快楽に我を忘れそうになる。  
「はぁはぁ、迅鉄ぅ……あたし、あたし……」  
丹は火照った頭を横にフルフルと振ると、ほんの少し尻を少し後ろに突き出すようにして、  
あっ、ここだ……  
腰をゆっくりと降ろていった。  
 
ぁんんっ、か、固くて、大きいっ……  
迅鉄の、モノは、さらに大きくなったように感じる。  
「痛っ…ぁあああっ」  
迅鉄の馬鹿ァ、でかけりゃ、いいってもんじゃないんだぞ!  
丹は、股間の二つの扉が無理矢理こじ開けられるのを感じて、悲鳴をあげる。  
はぁはぁ、まだ、入らないっ…まだ、あたしに、ためらいがあるからか?  
 
くぅ、本当に入るのかぁ? もう少し、はぁはぁ、角度をっ  
丹は、息をぐっと飲み込み、背を仰け反らせながら目をきつく閉じる、  
くぅう、あっ、入って、来るぅ、迅鉄の得物がぁ!  
丹は、侵入してくる異物にブルっと躯を震わせると、もう一度、深呼吸を一つして、一気に腰を降ろした。  
「くぅぁあ、あっ、あっ、あぁっ、ああっー!」  
あ、あたし、じ、迅鉄と一つになる……  
 
痛ぅー  
丹の躯が細かく震える。  
『こ、こんなもん、刀で切られる痛みに比べれば!』  
迅鉄のイチモツを根元まで喰らい、彼女は胸を抱きしめ歯を食いしばる、そして深呼吸を何度もして息を静めてから中に充満する異物感と痛みに耐えた。  
 
肩で息をつき汗まみれになって、ふと、周りを見回すと、いつのまにか満月は雲に隠れ焚き火は消えている。  
風がそよぎ、周りの木々が無気味な音を立てて、黒々とした沼は底なしの地獄への入口のようだ。  
今まで、夜が恐いなんて思ったことがないのに、  
……嫌だ、こ、恐い……じ、迅鉄起きて……目を覚ませよ!  
得体の知れぬ気配は、まだ纏わりついてきて押しつぶされるような不安の中で丹の鼓動が早くなっていく、彼女は、はまるで、すがりつくように全神経を迅鉄のイチモツを喰らい込んでいる肉筒に集中した。  
迅鉄が生きている証しとばかりに彼女の中でドクドクと硬く熱く脈動している。  
 
はぁはぁ、はー、はー、迅鉄、  
まだ、目覚めないのか?  
あたしの中で、こんなにもドクドクと熱くたぎっているのに……  
丹の震える指が、迅鉄の生身の部位に触れる。  
それは、暖かみを帯び、随分と血色が良くなってきていた。  
はぁ、はぁ、迅鉄……生き返るよな?  
丹は、唇を噛み締めて生々しい結合部を見つめ細い腰をゆっくりと動かし始める。  
この世に留まりたいと思うような、快楽を、迅鉄に……  
「はぁはぁ、痛っ、硬いっ、あっああ、っんん、起きろ、じ、迅鉄、はぁはぁ、あ、あたしの躯じゃ、ダメというのかぁ?」  
 
くぅ…あぁ、  
痛みと異物感で苦痛の声が漏れ出るが、丹は構わず腰を動かす。  
あ、やぁ、ふっ、はぁはぁ、うっ、痛いのに…あたし…はぁはぁ、んんっ、迅鉄っ!  
彼女は肩で息をつき、ふと周囲を見回した。  
あの『得体の知れぬ気配』が離れている。  
腰を動かす度に、気配は薄くなり二人の熱から逃げるように周囲を巡っているような気がした。  
はぁはぁ、もっと……もっと……  
丹は、痛みを堪えて腰を動かす。  
 
膣の中を暴れまわる異物感に苛まれる丹の小柄な躯、しかし、次第に彼女の声の中に苦痛以外の何かが忍び込みはじめた時、中のモノが一際大きく脈動したかと思う迅鉄の躯が痙攣するように、  
彼の目が一瞬見開き、閉じた。  
「迅鉄! き、気がついたのかぁ、迅鉄、迅鉄っ」  
丹は、必死に迅鉄に声をかけるが、再び閉じた迅鉄の目は開かない。  
 
くぅ……  
丹は、幽かに赤い血の混じった白い液体を漏しながら股間から迅鉄のモノが抜けるのを気にも止めずに急いで迅鉄の胸に耳を当て小さな安堵の息を吐いた。  
心臓は、力強く規則正しく打っている。  
今、一瞬、目を開いた、ということは、もう少しだ、もう少しで迅鉄は目が覚める!  
 
丹は、精液の放出によって、萎えた迅鉄のモノを眺めて下唇を舐めた。  
はぁはぁ、も、もう一度、大きくしないと……  
白い液体の味に顔を歪め、再び股間に顔を埋めた。  
 
そして……  
 
「はぁはぁ、あっ、んんっはぁははぁ、くっ、あああっ、もうさ、三度目だぞ……いい加減に、はぁはぁ、んんっ、目を覚めてくれ、でないと、はぁはぁ、あたし、おかしくなるっ、ああっ」  
結合部から精液と秘液が撹拌された白い泡が溢れだして、丹の躯は、痛みの中に隠れた快楽に目覚め身悶えした。  
躯に張り付いていた泥は汗で湿り二人の躯をヌルヌルにしていく。  
あっ、んん、はぁ、ふっ、んん…ぁ、ああ、やぁ…  
彼女の腰は淫らにリズミカルに動き仰け反るように髪の毛を振り乱す。  
「あっ…ひぃ、あっ…ああっー」  
快感に耐えられなくなり崩れ落ちたと同時に迅鉄の躯が飛び跳ねるように痙攣して目を見開く、  
 
……………あ、迅鉄……!  
二人の視線が会うと同時に時が凍り付き、迅鉄の一つしかない目が驚愕に見開かれ丹の躯に注いだ。  
そして、  
「嫌ぁああああー」  
我に返った丹の恥辱に染まった悲鳴が夜空に響き渡った。  
 
 
数日後、闇夜の森に潜む丹の耳に、独り言のごとく呟く男の声が響き渡る。  
 
「いやぁー まさか、丹の奴、あそこまで、するとは思わなかったぜ」  
「…………」  
「そう、怒るなよ、このままじゃ、お前、女の躯を知らないままで死にそうだったからよ、いい機会だと、思ってなぁ」  
「…………」  
 
な、なんだと!  
草むらに隠れている丹は、怒りの表情を浮べ握っていた草をぶち抜く  
 
「じょ、冗談だよ、そう睨むなって、謝るから、でもなぁ、丹が、あんなことを、あそこまでするなんて、本当に思わなかったんだぜ……  
ん? もちろんだ、お、俺だって、途中で意識を失なわなけりゃ、やめさせていたさ、ありゃ、お前に惚れてん……んあ、岩に打ち付けるなぁー」  
 
ふざけんじゃねえーよ、馬鹿やろう!  
丹は耳まで赤くなりながら口の中で呟く。  
 
「はぁ、ふ〜 でも、目覚め、の刺激が必要だったのは事実だし、あのままだったら、俺ら永眠してたかもしないんだぜ?」  
 
「………」  
二人の話が本当なら、あんな恥辱に耐えた甲斐も……  
いや……  
丹は気配を隠しながら首を横に振り溜息をついた。  
やっぱ、もっと違う方法があったんじゃなかろうか?  
 
「実際、お前も気持、良かったんだろう?」  
「………ん? そんなことねぇ、だって?」  
「誤魔化しても、俺には判るぜ、夢心地でアイツの中にたっぷりと放出した時の快感、ほ、ほら、もうイチモツが反応し始めてるぜ、  
しかし、実にいい躯をしてやがったなぁ、丹のやつ、乳も綺麗で結構でかいし、引き締まったいい尻してんぜ、意外だったなぁ……渡世人にしとくのは、勿体無い」  
 
………ば、馬鹿ヤロウ…  
真っ赤になった丹は、そっと立ち上がり胸を押さえて股間に手を置いた。  
まだ、鈍い痛みと異物感を感じる。  
でも、はぁ、熱い……んんっ、あたしの躯、まだ熱いんだよ、迅鉄……  
彼女は、ゆっくりと音を立てないように迅鉄達に近付いていった。  
 
迅鉄は三白眼で相棒を睨み付けると、やれやれと肩を竦め焚き火に小枝を投げ入れた、顔に雑に巻かれた布を取ると頭皮の生身の部分は赤く腫れ上がり引っ掻き傷だらけだ。  
あの日の夜、我に返って錯乱しかけた丹に、やられたのだった。  
「い、痛むか?」  
薬を塗り、腹に巻いた布を取る迅鉄に、鋼丸が心配そうに問いかける。  
彼女に、蹴られて蒼くなった腹をさすり迅鉄は、鋼丸を睨み付ける。  
「まあ、いい思いをした代償としては、安いもんだぜ、丹のやつ、きっといい女になるぜ?」  
「…………」  
「え? もう、戻ってこないだろうって?」  
「いや、俺はそうは、思わんよ、迅鉄よ、お前さん、女心というもんを知らなさすぎるぜ」  
 
「女心? か、勝手なことを言いやがって!」  
と呟くと丹は口を拭った。  
まだ、迅鉄のモノを頬張った感触が残っている。  
あたし本当にあんな事をしたんだろうか?  
あ、はぁはぁはぁ、あたし……  
我慢し切れなくなった丹は、気配を断ち潜むのをやめ、わざと音をたてるように歩き始めた。  
 
落ち葉を踏む丹の気配に気が付いたのか、迅鉄は鋼丸の柄を握りしめ、もう片方の手で火のついた薪を掴み、  
「誰でぃ!」  
と、迅鉄の怒鳴り声が森に響くが丹は返事をしなかった。  
 
あんな痴態を晒しておいて、今さらいつのものように振る舞うなんて出来るわけがない。  
これから迅鉄の前に姿を晒そうと思うと恥ずかしくて心臓が爆発しそうだ。  
あの夜の後、迅鉄の前から永遠に消えようとまで考えた。  
でも……  
迅鉄から離れようと考えると……  
切なくて悲しくて泣きそうになり、躯が震える。  
 
迅鉄は、まだ警戒して中腰になって身構えている。  
そして丹の草を踏む音が大きくなり…  
自らの腕で躯を抱くようにして合羽を躯にきつく巻き、緊張と羞恥心の余り顔を蒼くした丹は、迅鉄達の視線の先に静かに現われたのだった。  
 
「ま、丹……」  
鋼丸の掠れた声が聞こえ、冷汗をかいている迅鉄は目を逸らしたまま固まり微動だしない。  
丹は、表情が出ないようにして無言のまま焚き火を挟んで向いに座り込む。  
パチパチと焚き火の中で小枝のはぜる音が響き渡った。  
 
「あ〜 ま、丹、躯の方は、だ、大丈夫か……」  
鋼丸が恐る恐るといった口調で言葉を紡ぐが、言葉は焚き火の上を空しく滑っていく。  
重い空気を撥ね除けるように迅鉄の身体がビクと動いたと思うと、いきなり丹に向って額を地面にすりつけて土下座をした。  
 
「す、すまねぇ、丹、あんな事をさせてしまって、俺を、お前の好きなようにしてくれ……」  
迅鉄は、通訳をする鋼丸を丹に差し出した。  
「………………」  
丹は、努めて冷たい目つきで迅鉄を見つめ、ムッとした表情を浮べて溜息をついて立ち上がると、彼の傍らにドスっと腰を、おろした。  
 
「…………ま、丹?」  
「か、貸してみろ」  
震えを押さえられない声で迅鉄の手から布をとりあげ、  
「迅鉄、い、いつまで、地面に顔を擦りつけてんだ、ぬ、布が巻けないだろっ」  
怪訝そうな表情を浮べ自分を見つめる迅鉄が身を起こすと、自分が傷をつけた彼の身体に問答無用で清潔な布を巻きはじめた。  
 
あの夜、我に返った丹は、自分がしている行為に混乱と恥ずかしさの余りに頭に血が昇り、目覚めたばかりの迅鉄を蹴りまくったあげく殴り倒して股間の痛みを我慢しながらも、服を抱えてその場から逃げ去ったのだ。  
 
彼女は、布を巻く手を止め、迅鉄の傍らに立て掛けてあった刀の柄の一つしかない目を見つめ、  
「お、お前、鋼丸、教えてくれ……」  
小さな声で囁く。  
「な、なんだ……」  
「あの日に、お前らを目覚ませるための……方法は……、あ、あたしに言った事は、本当だったのか?」  
「え、あ、あぁ、本当だ、丹、お前の、お陰で、迅鉄も目覚めることが出来て、助かったよ……心から礼を言うぜ」  
「そうか……なら、いい、元々、あたしのせいで沼に落ちたんだしな……あんなことで死なれたら、あたしの腹の虫が納まらねぇだけだ、ふん!」  
丹は、頬を染めたままプィっと横を向く。  
 
「なぁ、丹、迅鉄の、いや、俺らの身体、気味悪くないのか?」  
「………べ、別に…そ、それに、あの時は、それどころじゃなかった……し」  
丹は、震える声で頬を可愛く赤く染め恥ずかしげに俯く。  
 
「そうだな……すまん、お前には、返せねぇ、貸しを作っちまったな……」  
「ふ、ふん、そ、そんなもん、もう、いいさっ、そ、それに、あたしも、お前の身体に、そ、そのうち、な、慣れる、さぁ……ま、巻けたぞ」  
「………ん? 慣れるって…」  
「察しろ、バカぁっ!」  
丹は、鈍い迅鉄の頭を思いっきり、はたいた。  
 
耳まで赤くしたままの丹は、俯き迅鉄に目を合わせないまま鋼丸を掴むと震える声で小さく囁いた。  
「なぁ、お前らが、そんな身体になった訳、話してくれないか?」  
「え?」  
「あ、嫌なら……いいケド」  
「別に構わないぜ」  
目の端で、迅鉄も頷くのが見えて彼女はホッとしたような溜息をついた。  
「長くなるぞ…」  
「うん…」  
 
「――というわけだ……」  
長い話が終わり丹が焚き火に枝を放り込む……  
気がつけば丹は、硬直している迅鉄に、そっと寄り添っていた。  
「前半はともかく、後半は信じられね〜ような話しだろ?」  
「そ、そうだな、でも、お前らも、いろいろな事があったんだな……」  
「おうよ、あり過ぎよ」  
 
「と、ところで、あ、あたし………どう、だった……?」  
小さく、か細い声で丹は囁く。  
「え?」  
よく器量よしなどと人様には言われるが、実は容姿には自信がない、第一そんなもん意味の無いもんだとも思っていた  
しかし……  
今は気にならないと言ったら嘘になる。  
実は意外な事に迅鉄の周りには器量良しの少女や、いい女が、やたらと多い。迅鉄の幼馴染みの少女の話を聞いたら尚更だ。  
 
迅鉄はというと  
らしくもない思いもよらない彼女の問いかけに、困ったような呆れたような眼差しで鋼丸と目を合わせている。  
その様子に丹がムッとして口を開こうとし時、  
 
「き、綺麗だったぜ……丹、お前さんは、そんじょそこらの女じゃ、太刀打ちできねぇくらい、上玉の女だよ」  
「ど、どっちだよ」  
頬を赤く染めながらも丹がキッと鋭い目で迅鉄を見据える。  
「え……なんのことだ?」  
「迅鉄か、鋼丸か、どっちの感想だ」  
「え、あ〜あ、もちろん、俺ら二人の感想だ……」  
「ば、馬鹿ヤロウ……」  
丹の赤くなった顔が恥ずかしそうに俯き、綻ぶのだった。  
 
「でも、まぁ、あそこまで、するとは思わなかったがな、目覚めた時には素っ裸のお前さんが迅鉄の腰に股がっていて、  
ブルンブルンとおっぱい振るわせて気持良さげにアンアン喘いでいるてぇとは、ははは、はっ、うぎゃあー」  
鋼丸は、湯でたタコのように真っ赤になった丹に、森の奥へと投げ込まれたのだった。  
 
しばしの沈黙の後、丹は冷汗を流しながら鋼丸の方へ視線を向ける迅鉄に色香を感じさせる声色で話しかける。  
「な、なぁ、じ、迅鉄……相談があるんだ、実は、あ、あたし、あれから、躯が、変なんだ……」  
恥ずかしそうに躯をくねらせて身悶えし、手が迅鉄の股間へ伸びていく、  
「それに、もう、もう何日も眠ってないんだ……お願いだ… も、もう頭がおかしくなりそうだ」  
彼女の頭の中では、この前の光景が何度も繰り返し再現され、目を閉じれば迅鉄の勃起したイチモツが瞼に浮かび、その度に股間の陰裂が疼き濡れる。  
 
「迅鉄、あたし……ちゃんとを抱いてみてくれないか?」  
彼女の言葉にどう対処していいか判らずに慌てている迅鉄に構わずに羽織っていた燕脂色の合羽を外す。  
「迅鉄……」  
そこには白く美しい裸体が現われた。  
「!」  
「『お前の好きなようにしてくれ』って、あたしに言ったよな、か、借りを返したいと思うなら……せ、責任をとってくれ……」  
丹は、逃げようとする迅鉄の股間に手をおき、既に硬くなっているモノを服の上から握りしめ、  
「あぁ、迅鉄のも……」  
「………!」  
動転し、丹の為すがままに服を脱がされながらも迅鉄は、『コレは違う!』  
と言いたげに首を激しく横に振うが、  
 
はぁはぁ……ああ、迅鉄……の凄い……こんなに硬くなってる……  
彼女は、暴れる彼を無視をして、迅鉄のモノを頬張った。  
 
おわり  
 

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