迅鉄は長い間眠っていた劣情が眼を覚ましつつあるのを感じた。  
彼のいる木から一本別の木を通して斜め下に広がる光景。  
緩やかな流れの川、そしてそこで汚れと旅の疲れを落とす白い肌。  
丹の行水を見る気は無かった。  
彼女がある目撃をしたと聞いて犯人が口止めにくると思い待っていようと思ったのだ。  
ほんの偶然だったのだ。  
最初に見た瞬間は、眼を逸らそうと思った。だが出来なかった。  
濡れてツヤのでた黒髪、そこからうなじを通り肩、背中を濡らす水。  
こぶりだが椀型の整った乳房。引き締まった腰と尻。  
そしてそれらについた汚れを落とそうと優しく動く腕、指。  
眼を逸らせるはずが無かった。鋼丸は呆れている様だったが、それでも逸らせなかった。  
しばらく何も考えられず丹の行水をみていた迅鉄だったが、妙な事に気付いた。  
丹が、さっきから同じところを洗っているのである。  
それも、まるで何かに抱きつくような感じで。  
首の後ろから肩、そして乳房を通りわき腹へ。何度も繰り返し、丁寧に。  
心なしか、息声が聞こえる。  
しばらくすると、左手はわき腹からそのまま腰を通り、股に向かった。  
ゆっくりと股で手を上下し始めた丹。だんだん息が荒くなってくる。  
息にまじって「お父・・・お父・・・・・・・・」という声も聞こえてきた。  
それを聞いた時、迅鉄は何故か軽い衝撃を受けた。  
しかし、見るのをやめることは出来なかった。  
丹の声はだんだん大きくなってきた。それと共に手の動きも速く、強くなってきたようだ。  
「お父、お父ぉっ、もっと、もっと強くぅっ。」  
ぬちゃっ、ぬちゃっという卑猥な音も強くなってきた。  
「お父、イク、イッちゃうよぉ!うあぁぁ、イク、お父、おと・・・迅鉄ぅう!!」  
一瞬気付かれたのかと思い迅鉄は急に我に帰った。  
だが、気付かれたわけでは無さそうだ。  
丹は叫んだ瞬間、急に力が抜けたように川に岸に倒れこんだ。"イッた"ようだ。  
一見、魂が抜かれたような、だがうっすらと恍惚の表情を浮かべている。  
迅鉄は最後の言葉を思い出した。確かにあの時、"あの瞬間"に彼女は言った。  
「迅鉄」と。  
それは迅鉄に安堵感のような何かを与えた。  
やがて、丹はゆっくりと動き出し再度体を洗い始めた。今度こそ本当に。  
(本編に続く)  
 

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