『桃退治』
昔々、あるところに社長と秘書が暮らしていました。
社長は名前をガナリ、秘書はタケフミと言います。
そして、二人にはそれぞれ子供がおり、ガナリの子は兄妹で上の子はガモン、四歳離れた下の子はカホ。
タケフミの子は一人っ子でハルナと言う名前。三人はすごく仲良しでした。
特にカホはハルナのことを実の姉のように慕い、いつか自分の本当の姉、つまりはガモンの奥さんにしようとこっそり画策するほどでした。
ある時のこと、ガモンは遠く離れた鬼ヶ島に住んでいる友人の鬼娘、トウコに呼ばれ一人で遊びに行ってしまいます。
それを聞いたカホはそれはもう怒りました。
「お兄ちゃんにはハルナさんというお嫁さん(候補)がいるのに、外の女の所へ行くなんて!
いいわ。お兄ちゃんにつく悪い虫は、ハルナさんに変わってこの私が退治してあげる!!」
こうして、カホは鬼退治もとい桃退治に行くことにしました。
カホはガナリに言いました。
「お父さん、私、桃退治に鬼ヶ島へ行ってきます」
ガナリはそれを『トウコの所へ遊びに行くこと』と思ったので、
「わかった。あんまり遅くなるなよ。あと、土産にこれ持ってけ」
そう言って、カホに黍団子を持たせました。
「解りました。行ってきます」
そう挨拶して、カホは桃退治の旅へと赴きました。
カホが道を歩いていると、前から犬・・・の格好をした女性が歩いてきました。
「って!ユウさん!なんて格好してるんですか!!」
詳しく言うと、水着のような服に犬耳と犬の尻尾を付いている―そんな服装です。
「いやねカホりん、今回、私犬役っぽいからさ、思い切ってやってみようと。
どう?似合う?セクシー?」
犬――ユウはカホの前でポージングします。
「え?ええ、似合ってますけど・・・って違う!
ユウさん、私たちがコレから何処に何をしに行くか解ってます!?
それに、役とか言っちゃ駄目です」
カホはユウに怒鳴るように言いました。
「えーっと、鬼っ娘のトウコちゃん退治とガモン君の奪還」
「解ってるなら大丈夫なんですか、その格好で」
「う〜ん、大丈夫なんじゃない?
ガモン君含めても、私が会う男役少ないみたいだし」
ユウは台本をぺらぺらとめくって言いました。
「だからそう言うことしちゃ駄目ですって・・・本当にそのままでいいんですね?」
カホが諦めたように確かめ
「うん全然オッケー。途中海も通るみたいだしね〜」
ユウは手をひらひらさせながら答えます。
「はぁ。じゃあコレどーぞ。黍団子です」
カホは懐の袋から、黍団子を一つ取り出して渡します。
「サンキューカホりん。
よし、いざ行かん鬼ヶ島〜!」
「はぁ・・・」
カホは再び溜息をつくと、もらったお団子を頬張って上機嫌に前を歩くユウに続きます。
旅の不安を、ひしひしと感じながら――