「・・・そういやさ、陽菜さんは大学行きたかった?」  
 ぱたぱたと洗濯籠を持って通り過ぎようとした陽菜を、あぐらをかいて新聞を読む我聞が訊いた  
 「いきなり何ですか」  
 「え、いや・・・・・・何となく」  
 我聞の持っている新聞記事にはセンター入試などの受験に関する記事が掲載されており、恐らくこれを読んだからだろうと陽菜は推測した  
 「・・・・・・・・・」  
 「ごめん、変なこと訊いちゃったかな」  
 忙しそうな陽菜を見てばさりと新聞をたたみ、手伝おうかと訊いた。  
 陽菜は首を横に振りつつ籠を置き、立ち上がろうとした我聞を制止した  
 それから陽菜はすとんと我聞の横に座った   
 「経済的な理由もありましたが、私には秘書業や工具楽屋(株)があるので、元々行く気はありませんでした」  
 「・・・それじゃやっぱり悪いことしたかな。陽菜さん、おれなんかよりずっと頭良いし、きっと良い大学に入れたよ。  
 そしたら、秘書業以外の別の道もあったかもしれない」  
 我聞は少し申し訳なさそうな顔をするのを見て、陽菜は首を横にゆっくりと振った  
 「良い大学に入ったからと言って、必ずしも幸せな人生を歩めるとは限りません。  
 逆も然りです。現に今の私は大学に行かなくても、充分幸せですから、気にしないで下さい」  
 「でも・・・・・・」  
 卓球部の皆とはたまに飲みに行ったりと交流があり、彼らの殆どは大学へ進学した  
 いつも楽しそうに気ままな大学生活を話し、時にはあの課題がどうのとか学業の話で盛り上がった  
 我聞と陽菜の知らない世界がそこにはあり、それを少しでも羨ましく思ったりはしないのだろうか  
 少なくとも、我聞はそんな風に思ったことがある・・・思っただけで口には出せなかったが  
 ふっと我聞はそんなことを思い出し、わずかだが意識がとんでいたようだ  
 陽菜に名を呼ばれ、はっと我に返った  
 「・・・・・・すまん、少し考え込んでた」  
 我聞の物言いに陽菜はくすっと笑い、小首を傾げそっと我聞の肩に頭を乗せた  
 「・・・陽菜さん?」  
 「それに何より、大学に行っていたら、我聞さんと一緒になるのがあと2年は先になってしまいます」  
 そう言われ、我聞はむぅと照れ臭そうにあごの下をぽりぽりとかいた  
 「うん、そうだった」  
 それから我聞は、きゅっと陽菜の身体を抱き寄せた  
 

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