「ね、どう?この服,似合うと思う中村君。」
「え、別に…。いいんじゃない?」
「もー中村君たらいつもそうなんだから。」
「…」
卓球部の同級生でもともとは同じ中学校のクラス委員同士だったこの二人、
告白したのは中村のほうだった。夏の合宿のころあたりから意識するようになっていた
のだが、大成功に終わった文化祭の後、ふだんは冷静な中村もなんとなく浮ついた
気分だった打ち上げの帰り、二人っきりで帰宅することになった中村は思い切って住に
告白したのだった。住は堅物だと思っていた中村に突然告白されて驚いた様子だったが、
一週間後、了承をくれたのだった。
あまり女子とは話すことさえなかった中村には、付き合うといってもどうしたらいいものか
さっぱり検討がつかなかったが、ときどきデートに行って、くるくる変わる彼女の表情を見て
いるだけでもなにか心の底が暖かくなって、満足だった。
卓球部の友人には、住と付き合っていることは、隠すというほどではないが、
あえて話すことはなかった。同じ卓球部の女子たちと楽しそうにおしゃべりをしている住を見ていると、
二人が付き合っていることがばれてしまうと今の部活の関係を壊してしまうような気がしたのである。
それであえて部活の時に住と話をするとか、一緒にいるということをなんとなく避けるようになっていた。
だが、中村は友達と楽しそうにしている住を見ているだけで楽しかったのである。
「ねえ中村くん、恵ちゃんのことで相談があるんだけど。」
ある日、いつものように他愛もない噂話を聞くとでもなく聞いていると、住は突然真剣な口ぶりになりこうたずねてきた。
「あのね、佐々っちに彼女ができたでしょ。」
「ああ。浮かれてたな。」
「そのことなんだけどさ、実は、恵は佐々っちのこと好きらしいの。」
「えっ本当?」
天野恵と佐々木亮吾は小学校の時からの長い付き合いらしく、佐々木いわく、「腐れ縁」だとか。
ふたりは確かに仲がよくて、馬鹿なことをやらかす佐々木に天野が突っ込みを入れたり、イベントとなると
二人とも燃える性格なので、一緒になって部活を引っ張っていったりと、なんだかんだでいつも一緒にいる。
しかし中村には、それがケンカ友だち以上のものには見えなかったし、男勝りな性格の天野があの
ちゃらんぽらんな佐々木に恋愛感情を持っているとは想像できなかった。
ましてや佐々木は普段から國生さんファンを自認しているのである。
「どうしよう…わたしったら恵のこと考えないで調子に乗って言いふらしたりなんかしちゃって…。」
「いずればれることなんだし、しょうがないだろ。」
「でも…恵…泣いてたよ…」
そう言う住も泣き出しそうだった。
小柄な住は身長が180センチある中村の肩にやっと頭が届くくらいの背丈である。
「中村君と話してると首が痛くなっちゃうよ」と住はいつも笑って言う。
目の前にうつむいて震える住のつややかな黒髪があって、ほのかに甘い香りがただよってくる。
急に中村は住がいとおしくなって、思わず抱き寄せたくなったが、なんとか思いとどまった。
(それにしても天野が佐々木に恋愛感情を持っているなんて信じがたいな。確かにいつもつるんでるが…。
でも、天野のことだしきっとすぐ元気になるだろ。)中村はそう思っていた。