「おや、珍しいですね」
包帯塗れで、辻原蛍司は笑みを浮かべた。
それをきり、と睨み付ける、スーツ姿の静間かなえ。
「今日はこわしやの会合があって出てきた、そのついでです。別に、
貴方なんかの見舞の為に、わざわざ来た訳ではありませんから」
「照れなくても良いですよ、かなちん☆」
「なっ!」
怒りかけるかなえをいなす様に微笑して、辻原は伊達眼鏡のブリッジを
押し上げた。
「見舞時間のとうに過ぎた、こんな夜遅くに権限使って来るなんて、
わざわざで無くて何なんですか?」
「…っ」
「私は嬉しいですけどね」
「!」
顔を赤くするかなえに、軽く目配せして。
「こんな処で、何もお構い出来ませんが」
「…怪我人に構って貰おうとは思ってません」
ごにょごにょした小声の返事にそうですか、と辻原は軽く相槌を打って、
動く方の手で近くのサイドチェストを漁り、林檎とナイフを取り出した。
そのままベッドに付いたテーブルを引き寄せて、ギプスで固められた手で
林檎を押さえる。
ぎょっとなったかなえの目の前で、辻原のナイフがさくり、と林檎に入った。
「ちょ…!何する気?!」
「御覧の通りです」
「ま、待ちなさいよ!」
「折角お出で頂いたのに、もてなせないのもあれですから」
言葉が続く間もナイフは林檎を四つ割りにしていく。
「と…!」
しゅるる、と水の糸が伸びて林檎を奪い取り、宙で皮が剥かれ、更に
チェストに置かれていた皿にとととん!と並んだ。
「…もう」
かなえの手から伸びていた水糸が、空に消える。
空気内の水分を抽出した、高度な水使いならではの、仙術。
「相変わらず、お見事ですね」
微笑する辻原を、かなえはむっとした顔で見返した。
「あてつけがましいのもいい加減にして下さい。剥いてくれと言えば剥きます」
「いえいえそんな。有難うございます、かなちん☆」
「なっ…!貴方ってひ…」
激高しかけて、目を逸らし、彷徨わせ、それから、
−俯く。
「…?」
薄暗がりの中、心持ち、頬が赤いような気が−
そんな事を辻原が思った時だった。
「…ってひとは…っ」
絞り出す様に、小さな、声。
「どうしたんです、かなちん?」
「馬鹿…っ」
かなえの肩が、小さく震えてるのに気付く。
「?!」
その頬から、しずくが、一つ、二つ−
かなえは、泣いていた。
「かなえさ…」
「…馬鹿よ…っ…馬鹿っ…」
上げた顔が涙に濡れて。
「貴方が消息を絶った、と聞いた時、信じられない位、苦しかった…貴方が、
この世に居ないかもしれない…そう、考えるだけで、息がつまりそう
だった…そんな自分に、自分で驚く程」
「…」
「気が狂いそうな位、貴方を恋しく思う自分が悔しくて、準備に没頭し、
壊滅作戦立案に没入したわ…でも、気が緩めば考えるのは、貴方の絶望的な
迄の安否」
「…」
「何時の間に、こんなに貴方が…っ」
かなえは、両の手で己の顔を覆った。
後は、全て嗚咽。
「かなえさん…」
「嫌!」
辻原の、伸ばした手が、振り払おうとした、かなえの腕を掴む。
「!」
そっと、引き寄せる力に、抗う事無くかなえは従った。
二人の身体が、間近くなって。
「…そんなに心配させて、すみませんでした」
「…っ」
「こうやって、生きて帰ってきた事で、許して貰えませんか?」
静かに笑う、辻原。
「…」
ふい、と目を逸らすかなえ。
「それでは、貴女の流してくれた、綺麗な涙のお詫びに」
す、と男の唇が、かなえの唇を塞いだ。
「!」
かなえの身体が一瞬堅くなり、そして−受け入れた。
「…これで、許して貰えますか?」
「…駄目、です」
消え入りそうな声が、返る。
「もっと…謝って下さい」
「…はい。かなえさん」
「…っ」
舐る様に舌を絡め合い、互いを貪るような、長い長い、キス。
「…っはぁ…」
息を付いて離れた唇の間を、つ…と糸が引いて落ちた。
だらしなく、小さく開かれた、かなえの唇を、もう一度だけ吸ってから、
辻原はその手をブラウスごしの乳房に這わせた。
「!」
びくり、と小さく動く肩を、ギプスの腕でかい込む様に抱いて。
「…ひょっとしなくても、初めてですか?」
言いながら、乳房に這わせた手指を、探るように、その頂点に動かしていく。
「…っあ」
こり、と固い部分に中指が触れた瞬間、かなえの身体が震えた。
そのまま、辻原の指が、そこを摘まむ。
「あ…っ…!」
爪の先に込めた力に合わせて、かなえの身体がびく、びく、びく、と
しなった。
呼気に近い声が、強くあがるのも構わず、辻原は己の唇を、かなえの
耳たぶから、首筋へと這わせる。
「あ…は…あ…ああ…」
ふるふると小さく震える身体を抱く様にしながら、ブラウスの隙間に手を
さし入れて。
「あ…っ、や…っ」
つ、と簡単にさし入れた処のボタンだけが外れて。
「…っやっ」
入れた手でくい、とブラを下ろす。
「…っ」
大きな手が、乳房を掴み、
その指の隙間が、乳首を挟んで、
ぎゅ、と揉みしだき−
「…ああ!」
指先が、尖り切って固い乳首を弄び、
「…あ…は…あ!」
くい、ときつく摘まみ上げた。
「…ん?」
己の腕に触れる手を感じて、辻原はかなえを見た。
乳首を弄ぶ手を、押し留めるようにしながら、
顔を真っ赤にして、目を潤ませ、彼女はこちらを見つめていた。
噛み締められた唇で、必死に首を振っているのは−
「…本当に止めて欲しいなら、言葉でどうぞ。或いは」
言いながら、再び乳首を捻る。
「あ!」
ぐい、と仰け反り、そのまま辻原の腕にしがみつく、かなえ。
「お得意の、仙術で」
「…っ」
ぐりぐりと捻られていく、固い肉粒の先から伝わる痺れに、がく、がく、と
身体が動く。
「は…っあ!あああ」
ぶるぶると震え出す、腰。
「ああああ…っ」
「どうしました?」
「あああ…っあ…ああああっ」
ぎゅ、と固く閉じられた内股が、がくがくと動き。
「は…ああ…あああ…ああああ…っ」
辻原の指は止まらない。
「…どうしたんです?」
「あ…」
頭を震わせて、かなえは辻原を見た。
「は…早…く…っあ…ああ…っあああ」
全身を震わせて。
腰を擦り付ける様に蠢かして。
「ああっ」
辻原は、小さく笑った。
「…私は怪我人ですよ?」
「…っ」
かなえはそのまま、
がば、と男に抱きついて、
噛み付く様に口付ける。
「んむ…んん…」
縋り付く様な、ねっとりとした、媚びたキス。
辻原は、目だけで笑うと、乳房を弄んでいた手をスカートに滑り込ませた。