その日、佐々木亮吾はお正月という事もあり、家でコタツに入ってのんびり週刊誌を見ていた。  
「ハァ、暇だ・・・國生さんは今、何をしてるのだろう・・・  
まさか我聞に無理矢理働かさせ・・・いや、むしろ我聞の方が働かさせられてそうだな・・・」  
冷たい眼差しで我聞に厳しく仕事の指示を出す。そんな様子の陽菜を思い浮かべ、本気で羨ましがる彼の目に、ある広告が飛び込んできた。  
『美しい雪山の趣ある露天風呂で、ゆったりと疲れを癒しませんか?  
スキー、スノーボード用具の貸し出しもあります。  
お一人様一泊二日御食事付き4000円から、二泊三日6000円、三泊四日8000円・・・・・  
尚、10人以上の団体のお客様は三割引となっております。  
ご連絡先は、電話番号△△△-○○○○、住所・・・・・・・・・雪蓑旅館』  
「こ、これは・・・」  
佐々木の脳が即座に妄想を組み立てる。  
スキー、スノボする國生さん  
浴衣姿の國生さん  
そして、舞い散る雪の中、露天風呂で一糸纏わぬ・・・  
妄想がそこまで達した瞬間、佐々木は卓球部冬期合宿をする事を決意したのだった。  
 
 
卓球部員は、部長佐々木の緊急の会議があると言う呼び出しにより、正月だというのに学校の部室に集められていた。  
しかし、忙しいということもあり来れたのは、  
「お正月の真っ最中に会議なんて、何があったんだろうね〜。恵、何か聞いてる?」  
住友子、  
「ううん。あたしも何も。一体、ささやん何あったんだろ・・・」  
天野恵、  
「へっぷしっ!!」  
「どうした我聞。風邪か?」  
中村孝博、  
「ん?ああ、何だか昨日からそんな感じだ・・・  
全く、せんじゅつへぶっ!!」  
工具楽我聞、  
(社長!仙術についてはくれぐれも、企業秘密です。おわかりですよね?)  
國生陽菜という、いつものメンバーである。  
(う、は、はい、ご免なさい)  
「どしたの、るなっち?」  
「いえ、何でもありません。それにしても、遅いですね佐々木部長」  
「そうだね〜」  
「全くだよ。人を呼び出しといて、待たせるなんて・・・」  
これ以上遅れたら、お仕置きしてやる。そう天野が続けようとしたところに、がらっと戸が開いて佐々木が入ってきた。  
「やあやあ、部員の諸君!こんな忙しい時期にすまなって、なんだ、これしか居ねえのかよ・・・」  
見るからにガッカリした様子の佐々木に、天野が文句を言う。  
「なに言ってんの、遅れてきて。  
だいたい、普通んな急に呼び出されて人が集まるわけがないじゃん。このメンバー揃っただけでも奇跡だよ」  
言われて渋い表情になる佐々木。  
「う、まあ仕方ないか・・・じゃあここのメンバーだけで良いや、なあ、冬期合宿しないか!!」  
ポカンとする卓球部一同  
対して、得意げな笑みを浮かべる佐々木。  
「ふっふっふ、流石に事情が飲み込めていないようだな。  
まあ、これを見てくれ」  
そして、懐からさっと取り出した何かに、全員の目線がいく。  
それは、一枚の切り抜き。  
そこには、雄大な雪山を背にする和風の旅館らしき建物と、それについての色々な説明が書かれていた。  
「つまり、冬期合宿として、二泊三日でこの旅館に行こうと思うんだ」  
更に一瞬の静寂、そして部屋がざわつき始める。  
「冬期合宿?」  
「ささやんもたまには面白いこと考えるじゃん」  
「温泉かぁ」  
「・・・卓球と関係あるのか?」  
等々、反応はおおむね良好。佐々木も満足そうな表情をしている。  
しかし何故か陽菜だけは思案げな表情だった。  
それに最初に気付いた我聞が話しかける。  
「どうしたの、國生さん何かまずいことでもあった?」  
 
対して、一つだけですが、と前置きして、佐々木に質問する。  
「あの、仮にここにいるメンバーだけで行くとしても、単純計算6000×6=36000。  
急に、しかもお正月の真っ最中に、臨時の活動費を36000円も出してもらうのは難しいと思うのですが・・・」  
もっともな陽菜の心配。しかし、佐々木は不敵に笑って答える。  
「心配無用です國生さん!  
事前に元部長こと皇先輩に交渉してもらい、生徒会長から、皇先輩と会長を参加させると言う条件で、臨時活動費20000円出して貰えることになりました!!」  
感心する中村と我聞、國生。  
(知らないでだろうけど、ささやんもえげつないな〜。皇先輩に頼ませるなんて・・・)  
(2万円も・・・会長さん大変だったろうな〜、しかも元部長に頼まれて・・・)  
鬼怒間に同情する天野、住。  
そんな部員たちに、佐々木は続ける。  
「と言うことで、現在ここにいるメンバーと、皇先輩、鬼怒間先輩の二人を足して8人。  
あと2人で10人になって団体として申し込めるのだが、お前らあてない?」  
それなら、と住が声を上げる。  
「女子少ないからさー、一年の長部ちゃん誘いたいんだけど・・・」  
「わかった。じゃあ、あと一人。  
誰か思い当たる奴いるか〜?」  
皆がうーんと唸る。  
そこに  
「それなら俺を連れてってくれっ!!」  
戸がまたガラッとあいて、入ってきたのは長ラン、長鉢巻の男。  
「おお、番司。ってお前何でここにいるんだ!?」  
「い、いや実はたまたま通りかかって・・・」  
少し赤くなって言い訳する番司。  
(コイツ、國生さんにつられて来たな・・・)  
的確に心中を察知する佐々木。  
「どうしたんですか番司さん。確か、卓球部じゃあないですよね?」  
今の陽菜は至って普通の表情、いや眼差しだが、番司と佐々木には、  
「え、いやっそのっ・・・」  
「國生さんの冷たい視線を受けられるなんて・・・なんて羨ましい・・・」  
そう、感じられるのだった。  
見かねた中村が助け船を出す。  
「・・・お前、入部希望か?」  
その一言にばっと顔を上げる番司。  
「そ、そう!!俺は入部希望でここに・・・」  
蜘蛛の糸にしがみつくように、中村の言葉にすがりつく番司。  
しかし陽菜は、自覚のない冷たい言葉で蹴落とす。  
「しかし、こんな急に行われた会議を誰に聞いてきたのです?」  
言葉もない番司。  
まさか、つけてきたとも言えまい。  
 
そこに今度は、天野が助けに入る。  
「まーまーるなっち、そんな虐めない虐めない。くぐっち拗ねちゃうよ〜」  
「へ?私は虐めてなんていませんし、それに何故社長が拗ねるんですか?」  
全くわからないと言うように言う陽菜。  
(この子やっぱり天然だよ・・・)  
天野ががっくりうなだれる。それを見て笑いながら、住が番司に名前を尋ねる。  
「えっと、君、名字は?」  
「はっはい!自分は静馬番司と言います!!」  
いきなり女性に話しかけられ、つい緊張して姿勢を正す番司。  
「入部希望なのね?」  
「はっはいっ!!」最後のチャンスとでも言わんばかりに、必死になる番司。  
「佐々木君、この人で良いんじゃない?だらだら時間かけるのもあれだし、」  
佐々木は少し考えて、  
「・・・うん、そうだな特に思い当たる奴もいないし。  
よし、次は日程決めるか」  
そして、卓球部+番司での会議は続き、結局日程は、3日後の1月7日から3日間と言うことになった。  
 
 
その日の夜。  
〜工具楽家〜  
揺らめく蝋燭の明かりの元、工具楽家の実質的支配者・果歩を筆頭にする秘密?組織GHKの超緊急会議が行われていた。  
「み、皆さん!!なんと言うことでしょう!!  
今まで、にっくき敵でしかなかった、卓球部の・・・たしか、佐々木という人物により、我々は大きなチャンスを手にしました!」  
「「おぉーっ!!」」  
合いの手として、雄叫びをあげる斗馬と珠。しかし、夜中なのでなるだけ小さく。  
「その名も冬期合宿!!  
ここで巧くやれば、我々は名実共に伊豆での失態を返上できます!!」  
「はい!ヘンジョーって何ですか!?」  
「おーっ!」  
一人が好奇心にとらわれてしまった為、雄叫びが斗馬だけになる。  
と、ここで果歩が声を低くする。  
「しかし、問題が一つだけあります」  
今にも泣かんばかりの悲しげな声を装って。  
「我らが兄・・・は置いとくとして、あの未来の兄嫁陽菜さんでさえ、行き先の詳しい住所を知らないのです!!」  
「「えぇーーっ!!」」  
ノリでショックを受ける珠、斗馬。  
しかし斗馬はすぐに冷静な表情になる。  
「でもしかし、大姉上のことです、既に手を打ってあるのでしょう・・・そう言えば、デルタ1の姿が見えませんが・・・」  
 
今度はニヤリと笑う果歩。  
「ほう、なかなか良いところに気付くわね、斗馬。そう、優さんには今冬期合宿の運転手をかってでてもらいました!  
今いないのは、そのための残業」  
「成る程。その優さんの運転する車に隠れ同行すると言うわけですな」  
目の端を光らせ斗馬が言う。  
「そう言う事。それでは、我々も冬期合宿に向けて準備に取りかかるわよ!」  
「「おおーー!!」」  
我聞はグッスリ眠っていたのだった。  
 
そして、ほかの参加者はというと、  
 
〜佐々木家〜  
佐々木亮吾はデジカメを磨きつつニヤついている。  
「ふふふふふ上手く行った・・・  
これで今度こそ國生さんを激写できるふふ・・・」  
 
〜鬼怒間家〜  
鬼怒間リンは  
「あいつと、旅行・・・いやっ卓球部連中も一緒だ、それに私はあいつと旅行に行きたい訳ではないわけで無くなくもなく・・・」  
一人悶えていた。  
 
〜國生家〜  
「冬期合宿・・・うん。夏の時も楽しかったけど、あの時は社長とギクシャクしてたり、かなえさんと出会ったりしたから、大変だったな・・・  
今度はもっと楽しめるといいな・・・」  
この合宿で何か起こりそうな気がする・・・陽菜はそんな予感めいたものを感じながら、祈るように窓から夜空を眺めていた。  
 
〜天野家〜  
「雪山かぁ、ささやんなかなか良いとこ目付けるな〜・・・これでるなっち追いかけなきゃいんだけどな〜  
けど、露天風呂か・・・ささやんの魔の手からるなっちしっかり守らなきゃ・・・」  
そう決意する彼女は、それが佐々木に他の女性をみていて欲しくない、と言う気持ちの現れだと気付いていない。  
 
〜住家〜  
『・・はい、わかりました。その日取りなら、全然OKです』  
「本当?よかった〜。じゃあ当日、学校集合だから。またね」  
『はい』  
住は手にしていた子機を床に置いた。  
(よかった、長部ちゃん都合がついて・・・それにしても工具楽君の会社の人が旅館まで送ってってくれるらしいけど、大丈夫かな・・・)  
当日は、学校に集合した後、送ってってくれる人のいる、我聞と陽菜の勤める会社・工具楽屋に向かう。  
 
なんでも、普段会社で使っている車で送ってってくれるらしい。  
いったい、どんな人がどんな車で送ってくれるのだろう。そもそも、工具楽屋とはどんなところなのだろう。  
何となく目的地より、工具楽屋の方が気になってしまった彼女は、そのまま床についた。  
 
〜番司のアパート〜  
どうにかこうにか参加できることになった番司は、  
「陽菜さん、見ていて下さい。格好いいとこをきっとお見せします・・・!!」  
陽菜と行けるという事で、燃えに燃えていたのだった。  
 
 
佐々木の思いつきがきっかけとなり実行される、それぞれがそれぞれの思いを抱く冬期合宿  
そこで、いったい誰に何が起こるのかそれはまだ誰にもわからない・・・  
 
 
〜合宿1日目〜  
佐々木の思いつきにより冬期合宿に行くこととなった、卓球部一行+番司+鬼怒間。  
彼らは集合場所である、学校に集まることになっており、今は住、天野、鬼怒間、長部、、番司、中村、の7名が集まっていた。  
そして、佐々木がやってくる。  
「おーす、みんなおはよ。そして國生さ・・・あれ?國生さんは何処に!?まさかまだ来てないなのか!?」  
本気で狼狽える佐々木に天野がいつもの調子で答える。  
「あ、るなっちなら、くぐっちと一緒に工具楽屋で待ってるってさ。朝、電話があったよ」  
「な、なな、なあぁぁにいぃぃぃっっ!!!」  
相当ショックを受けたらしく、絶叫する佐々木に、  
「うるさいっ!!」  
「ぐはっ!!」  
上段回し蹴りという形で天野のツッコミが入る。  
「あんたねえ、まだ朝の8:30なんだよっ!  
近所迷惑でしょ!!  
だいたいねぇ・・・」  
倒れ伏す佐々木を指さしながら、まくしたてる天野を、  
「そのくらいにしときなよ」  
と、住が止める。  
「まったく・・・」  
未だ怒り足りないようだが、仕方なくおさめる天野。  
怒っていたせいだろうか、顔が赤くなっている。  
そんな天野を見て、意味深にクスクス笑う、住、鬼怒間。  
「な、何で笑うのよっ!!」  
「ううん。別に、何でもないけど?ね、会長さん」  
ニヤニヤしながら鬼怒間に振る。  
笑い続けながら鬼怒間もそれに合わせる  
「ああ、全くもってそのと」  
「おーい!!」  
つもりで言いかけた言葉を遮られる。  
「すっ皇!?」  
驚きで裏返る声。  
「おお、なんだワシは最後か。皆早いのう」  
そう言って何気なく、鬼怒間の隣に立つ。  
ぬっと現れた、たくましく鍛えられた二の腕の筋肉にビクッと跳び退く鬼怒間。  
「うわっ!!」  
「す、すまん鬼怒間」  
それに気付いた皇は急いで謝る。  
「き、気にするな・・・」  
辛そうに、残念そうに言う鬼怒間に、お返しとばかりに天野が言う。  
「カイチョーさんも大変ですなー」  
「筋肉嫌いなんてねー」  
なにげに便乗する住。  
そんな女性陣のからかい合戦を前に黙してきた中村が口を開く。  
「・・・そろそろ行かないか?」  
「そうだな。ところで誰か工具楽屋の場所知ってんのか?」  
復活した佐々木が誰とも無く訊く。  
はい、と番司が手を挙げる。  
「俺、何度か行ったことあるんでわかります」  
「よし!じゃあくぐっちとるなっちの待つ工具楽屋へしゅっぱーつ!!」  
天野が景気良くそう言って、一行は工具楽屋へと向かう。  
 
一方、工具楽屋では。  
「すんません優さん、中之井さん。いくら仕事が減ったからってこんなこと頼んじゃって・・・」  
「気にしないで下さい社長。道具は使うためにあるもの。  
仕事用で使えないからと言って、しまっておくよりはこういう事に使ってやる方がこいつも喜びますわい」  
そう言って愛車のトラックをパンと叩く中之井。  
「そうそう。中之井さん最近本業で運転する機会無かったから、いざって時に腕落ちてたら困るし、調度良かったくらいだよ〜」  
流石に、優一人で合宿参加者(とGHK)全員を車で運ぶのは無理なので、中之井のトラックで男子を、優の借りてきたレンタカーのワゴン車で女子を運ぶ手筈になっていた。  
「優君!ワシの『イギリスの狂犬』とまで言われたテクニックはそう簡単には錆びたりはせん!!」  
ムキになって言い返す中之井。  
「あれ?前言ってたのと違うような・・・まあいっか。  
それより我聞君、風邪、大丈夫?」  
「ハイ!もう完璧に治りました」  
自分の胸を左拳で叩いて自信たっぷり言う我聞。  
「なら良し。それにしても、陽菜ちゃん遅いなー」  
「確かに。あの子なら必要最低限の準備ですぐ終わりそうなんですが」  
ぬっと現れた辻原。  
「うわっ!」  
「あ、辻原さん。お早うございます。どうしたんですか?」  
「お早うございます。私も仕事に余裕ができたので見送りにと思って。」  
辻原の職務は営業。  
仕事不足の時こそ忙しくなるはずなのに、何となく胡散臭い。が、胡散臭いのはいつものことなので置いておく。  
そして我聞は何気なく空を見上げて一言  
「それにしても國生さん遅いな・・・」  
 
そんなとき陽菜は、あせあせと準備した物の確認をしていた。・・・果歩と一緒に。  
なぜ果歩がここにいるのかというと、勿論GHKの作戦の一環。  
出掛ける直前の陽菜に少しカマを掛けてみようと言うことである。  
ちなみに、我聞は今陽菜の部屋に果歩が居ることを知らない。  
さあ、どんな事を言ってやろうかという心情の果歩に、逆に陽菜が話しかける。  
「果歩さん」  
「ふぇっ!?な、何ですか!?」  
完全に自分から話しかけるシチュエーションを予定していた果歩は少し焦る。  
「もう準備も完璧ですし、下で社長たちも待っているようなのでそろそろ出ようと思うのですが・・・」  
「そ、そうですか?まだ少し足りない物が・・・」  
まだ目的を果たしていない果歩は引き下がる。  
「そうですか?私の必要な物は全て用意できたと思うのですが」  
 
引き延ばすのは無理、早期決戦が望ましいと決めた果歩は無理矢理、話をそっちに持っていく。  
「あ、そーだ陽菜さん、武文さんにも言われてたみたいですけどお兄ちゃんの事、どう思います?」  
「え?社長、ですか?」  
突然の質問に戸惑う陽菜。  
「そうです、お兄ちゃんですよ。  
武文さんに陽菜さんをお嫁に貰ってほしいって言われて、きっとお兄ちゃんの方は陽菜さんのこと結構気にかけてると思うんですよ」  
無論、果歩はそれはないと思っている。  
いずれはそうさせるつもりだが、今はまだ無いだろうと言うのが彼女の客観的意見だが、それでは話が進まない。  
「社長が、私を・・・ですか?」  
「そうですよ、でも陽菜さんはどう思ってるんですか?」  
「え、その、私は・・・社長は、少しだけ・・・少しだけですよ、その、頼りになるかなと、でしょうか・・・」  
そんな陽菜の反応に満足して引きの一手を放つ果歩。  
「そうですか、じゃ今回の合宿、楽しんできて下さいね」  
そう言って果歩を見送る。  
陽菜は玄関先で笑って手を振る果歩に、どこか違和感を感じながらも、笑い返して下へ向かっていった。  
 
 
そして約30分後、区具楽屋脇の道にはワゴン車一台、トラック一台、そして卓球部一同+αが揃っていた。  
陽菜が運転役の中之井と優を紹介する。  
「こちらが、男子の乗るトラックの運転してくれる、専務の中之井千住さんです」  
「中之井です」  
微笑みながらそう言って一礼する中之井。  
「で、こちらが女子の乗るワゴン車の運転を担当する・・・」  
「森永優でーす。あ、私のことは『森永さん』じゃなく、『優さん』て呼んでいいからね〜」  
軽く挨拶する優。  
「じゃあ乗りましょうか」  
中之井の一言で、ぞろぞろと乗り込む一同。  
そして何気に乗り込むGHK(ワゴン車:果歩 トラック:珠、斗馬)  
二台の車は発車した。  
 
車内にて〜ワゴン車・女子編〜  
合宿先である雪蓑旅館へと向かうワゴン車。  
勿論、旅の道中車の中、この人数いればそれなりに話も進む。  
そして行き着く先は色恋沙汰。  
「結局、会長さんは皇先輩と、どこまでいったんですか?」  
そう訊くのは一年長部。  
「あ、私も気になる〜  
キスとかしたんすか?」  
天野が続ける。  
「な!キッ、キスだと!?  
そ、そんな不埒な事など・・・それにまだ・・・」  
「告白もまだみたいですね。ところで陽菜さん、すめらぎさんってあの、筋肉の凄い人ですか?」  
一番後ろの座席のさらに後ろにいた果歩が訊く。  
 
「はい。以前は卓球部の部長を務めていた方で・・・って、か、果歩さん!?  
何でこの車に!?」  
助手席で驚きを隠せない陽菜。  
「え、るなっちこの子誰?」  
「あ!ひょっとして工具楽君の・・・」  
「・・・はい、社長の妹さんで・・・」  
「工具楽果歩、中学2年生です。初めまして!」  
陽菜の言葉を途中から引き継いで挨拶する果歩。  
「かわいい〜。ねえ、何でこの車に乗ってるの?」  
住が陽菜と同じ事を訊く。  
「え?あ、それはですね、せっかくだからお兄ちゃんと、家族同然の陽菜さんをお見送りにですよ!」  
家族同然と言う言葉を強調して喋る。  
すると、  
「ほほーぅるなっち〜面白そーな話だね〜。  
詳しく聞かせてもらお〜かな〜」  
ニヤニヤと天野が問いつめる。  
「そ、それは・・・」  
答えに詰まっていると、優が追いつめる。  
「それだけじゃないよね、陽菜ちゃん。  
陽菜ちゃんのお父さんね〜」  
「ゆ、優さん!?」  
優の言わんとしているある事件がわかった陽菜は焦る。  
「なになに?何があったんですか!?」  
何かとても興味をそそりそうな話題がでそうだと予感した天野は深く聞こうとする。  
そんな様子を視認した果歩は、ニヤリと笑みを浮かべると、住に話しかける。  
「あの〜確か住さんででしたよね」  
果歩の計画はこうだ。  
まず、女子の車に乗り込む。  
そして、陽菜に少しでも我聞を意識させるためのちょっとした悪戯を仕掛ける。  
そしてその間に、部内の恋愛模様に詳しい人物に接触、GHKの協力者になってもらおうと言うもの。  
そして白羽の矢が立ったのが、住友子だった。  
果歩は手短にいくつかの質問。  
そして、彼女が役に立つと判断すると、簡単にGHKについて説明。  
すると、  
「おもしろいこと考えてるね〜  
いいよ、私も手伝ってあげる。  
その代わりにさ、・・・・・」  
との返答。  
住は小声で自分の考えを果歩に告げる。  
それを聞いた果歩は、計算を開始する。  
(それをすれば、少なからずGHKの得になる。行動すべき事も今までと殆ど変わらない。  
なら、これはOKしておいた方が得かな・・・)  
結論は了承。その旨を住に伝える。  
今住は、GHKの心強い協力者となったのだった。  
 
 

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