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その夜、佐々木は頼まれたとおりに天野を抱いた。
それは、佐々木にも天野にも初めてな行為。
やり方が解らなくて多少ぎこちなくなったが、それなりに上手くいったかなと彼は、上りつつある太陽を眺めながら思う。
そして、天野のことを考える。
『好きなんだよ』
“それ”が終わって互いに余韻に浸っていたとき、不意に天野が言った。
『あたしは、ささやんが』
ゆっくりと噛みしめるような言い方で繰り返す。
『好きなんだよ』
『・・・』
佐々木は答えない。それっきり天野も沈黙する。
『・・・』
『・・・』
『・・・ねえ』
『・・・なあ』
言葉が被ってしまう二人。
『・・あ、先に言っていいよ・・・』
『わりぃ・・・その、何だ・・・何で俺なんか好きになったんだ?』
佐々木は気になっていた。なぜ目の前の少女が自分を好きになったのかを。
『へ?そ、それは・・・・・』
少女は考える。
そして、出た答えは・・・
『・・・なんでだろ?』
『はぁ!?』
『・・・しかたないじゃん!
いつの間にか好きになってたんだから・・・』
その返答に何となく気まずくなる佐々木。
『・・・わりぃ
・・・ところで、お前は何言おうとしたんだ?』
『あ・・・あたしさ、さっきあんたに・・・その・・・告白、したじゃん・・・』
天野は恥ずかしそうに、途切れ途切れに言う。
『あ、あぁ』
『けど、あんたからまだ返事貰ってないじゃん』
『・・・』
『で・・・この合宿終わったら、イエスでもノーでも、はっきりとした返事、くれない?』
『・・・』
『じゃないとあたし、前に進めないから・・・』
『・・・・・・わかった』
かなりの間を空けてから答える。
『絶対だからね?』
『ああ・・・じゃ、みんなが戻ってくる前に部屋に戻るか』
『うん・・・』
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佐々木は考える。
自分が、本当は誰が好きなのか。
國生陽菜が好きなのか。
それはこれまでそうだったからという理由で、意地になってそう言っているのではないか。
天野恵が好きなのか。
それは報われない好意に諦めを抱き、寄せられる好意に甘えようとしているのではないか。
佐々木はそんなことを考えながら、皆が起きるのを静かに待つのだった・・・
>>>その夜・INTERMISSION・忘れかけてたGHK<<<
「デルタ1、サブターゲットS予想通りに部屋から出ました」
「うん。正に彼女との計画通りだね。サブターゲットAもちゃあんと定位置にいるし」
「しかし、盲点でしたね〜。あの邪魔物の排除にこんな方法があったなんて」
「そうだね〜。あの子----住ちゃんに言われなきゃ、力に任せて排斥してたかもしれないもんね〜
ま、はるるんが我聞君LOVEってのも解ったし順調、かな?」
「全くです・・・ところで、少し気になることが・・・」
「ん〜?どしたの?」
「さっきですね、中村さんがお兄ちゃんをロビー呼び出したんですよ、こんな夜中に・・・因みにその後すぐ陽菜さんもジュース買いに部屋を出てます」
「なっ・・・それは本当!?」
「え、はい・・・どうしたんですか優さん?」
「果歩ちゃん、急いで先回りして、陽菜ちゃんが買いに行った自販機にこれ貼って来て!GHK最大の危機かもよ!!」
「『この自販機は只今故障中です。お手数ですが、ロビーまでお越し下さい』この紙とGHKの危機にどう関係が?」
「さすがのあたしもまさかこんな危機がくるなんて、予想してなかった・・・住ちゃんと中村君は付き合ってるって言ってたし・・・」
「だから優さん、どうしたんですか?」
「いい、果歩ちゃん。落ち着いて聞いて?
今我聞君は、男としての瀬戸際に立たされてるの・・・」
「はぁ」
「それは許されることはない・・・禁断の愛・・・」
「『禁断の愛』?」
「そう。その名も、『ボーイズ・ラブ』」
「?『ボーイズ・ラブ』?『男の子達の愛』??中村さんとお兄ちゃん???・・・・・え?え、え、えええぇぇぇぇぇ!!!!!????」
「お、落ち着いて果歩ちゃん。ショックなのは解るけど」
「でも」
「いい?だからさっきの張り紙で陽菜ちゃんを誘導するの」
「へ?」
「中村君が我聞君に想いを伝えたとする。でも我聞君にその気はないはずだから、少なからず戸惑う」
「はい」
「でも少しぬけてるとこのある我聞君だから、友情と恋愛感情を取り違えてその道に連れ込まれるかもしれない」
「それがマズいんじゃないですか!」
「まぁ最後まで話を聞いて。そこで、我聞君が好きとはっきりした陽菜ちゃんを送り込む」
「・・・」
「その状態で、中村君が我聞君に告白。はるるんは我聞君がそっちに行っちゃうと困るから軌道修正を、あわよくば告白をーっ!てな訳だよ」
「な、成る程・・・わかりました、コレ急いで貼ってきます!
・・・ところで優さん、」
「ん?」
「この事、住さんに教えた方がいいと思いますか?」
「うーん、こういうことは当事者が自分で解決するべきだし、言わない方がいいと思うよ・・・」
「そうですね・・・それじゃ、今度こそ貼りに行ってきます」
「うん。行ってらっしゃい・・・」
・・・・INTERMISSION・OUT......
>>>その夜・中村孝博と工具楽屋社長、工具楽屋秘書<<<
それは、佐々木亮吾が目覚めるほんの少し前のこと。
中村は、我聞のことをロビーに呼び出していた。
自分が浴室で見た、西遠寺が離れた所から木の枝を動かしていた不思議な現象。
それが何なのかハッキリさせる為。
初めは、西遠寺に直接尋ねようかと思ったが、西遠寺と静馬の話を盗み聞きしたところ、どうやら部外者には秘密らしい。
そこで、関係者らしい我聞を問いつめようと思っていたのだった・・・
数分後、目的の人物である我聞が姿を現す。
「おーい中村。
何だ?こんな時間にこんな所に呼び出して『話がある』って?部屋じゃ駄目なのか?」
「あ、ああ・・・(あの部屋だと静馬に聞かれるかもしれないからな・・・)
出来れば他人に聞かれたくないんだ」
「そうか」
中村は、自分の未知への好奇心を満たすために問いかけを始めた。
「・・・とりあえず、俺たちは親友だよな?」
(喉、渇いたなジュース買ってこよう・・・)
國生陽菜はふと喉の渇きを覚え、部屋を出た。
「?。天野さん?」
と、何故かそこには天野が立っていた
「あれ?るなっち〜、どしたのこんな時間に?」
「いえ、喉が渇いたので飲み物を・・・天野さんは何故?」
「あ、あたし?あたしは、女子部屋に侵入しようとする不審者がいないかの見張り」
本当は陽菜目当てで佐々木が入ってこないかの見張りなのだが、さすがに当人には言えない。
「そうですか・・・あ、でしたら戻ってきたら代わりますよ。天野さんも睡眠をとらないと大変だと思いますし」
「え?あー、だいじょーぶだいじょーぶ。あたし夜更かし慣れてるし、それにるなっちだとむしろ危ないっていうかー・・・」
「あ、私でしたらバインダーさえあれば、たいていの人には後れをとらないので大丈夫ですよ?
残業で夜遅いのも慣れてますし」
「(な、何故にバインダー?)ううん、あたしがやるからるなっちは気にしなくてもいいよ」
「そうですか、ではくれぐれも気をつけてくださいね」
「うん。ありがとう」
(どれを買おうかな・・・ってあれ?
何だろうこの張り紙・・・?)
『この自販機は只今故障中です。お手数ですが、ロビーまでお越し下さい』
浴室近くの自販機に来た陽菜は、自販機に少し斜めに張られている上に、文字も雑な張り紙を目にする。
(どうしよう?ロビーに行こうか?
・・・けど、なんだかこの筆跡に見覚えがあるような気が・・・)
何故か張り紙の文字に感じた既視感を気のせいと思いこみ、陽菜はロビーに向かう。
すると、前の方から誰かが走ってくる。
(あれは・・・天野さん?)
「天野さん?どうしたんですかそんなに・・・」
急いで、と言いきらないうちに、天野は終始俯き加減で走り去ってしまった。
そんな天野を不思議に思いながらも、歩き続ける。すると、
「あっ國生さーんっあぁお美しいですってこんな事してる場合じゃないか。
すいません、天野見ませんでした?」
今度は佐々木に出会った。
「え?天野さんでしたら、さっき浴室のほうに走って行かれましたよ。
俯いてて表情が解らなかったのですが、何かあったのですか?」
「いえ、何でもありません。教えてくれて有り難う御座いましたっ!」
天野に何があったのか気になったが、何か、何か自分が関わってはいけないような気がし、走り去る佐々木をただ見送った。
そうこうしている内にロビーについた。が、そのロビーからなにやら話し声が聞こえる。
「俺たちは、親友だよな」
「ん?おう!そうだな。それで?」
どうやら、我聞と中村のようだ。
自分でも趣味が悪いかと思いながらも、身を潜めて盗み聞きする。