ちいさな、ちいさなゆきのこは。  
おそらのおほしさまにあこがれる。  
 
たいようとなかよし、おほしさま。  
きえちゃうゆきのこは、みあげておもう。  
 
いつかわたしも、そこへ・・・  
 
 
 
「クリスマス・・・か。」  
 
街が昼よりも明るみを増す、聖夜。恋人たちが愛を唄い、共に過ごす夜。  
 
「キノピーも置いて来ちゃったし・・・本格的に一人よね・・・」  
 
その恋人たちの渦の中に、桃子がいた。  
 
「流石にクリスマスにガモンをとっちゃうのも、気が引けちゃうし・・・」  
 
一人で過ごす、聖夜。  
 
「・・・ちょっと、寂しいかな。」  
 
その傍らには我聞はいない。いつもの家族のところにいる。  
その家族に、陽菜はいる。  
そして、私は"存在(い)"ない。  
 
 
しゃん、しゃん、しゃん、しゃん  
 
 
心地いいはずの鈴の音がうるさい。  
自分の居場所がない、と悟るこの時期が、なにより桃子は嫌いだった。  
 
「本当に、低脳。」  
 
いない、我聞を想う。  
あの笑顔は、たとえ陽菜のものでも私にもくれる。  
でも、それが今日は向けられることはない。いや、自分から、避けた。  
 
「本当に、バカみたい。」  
 
それは、私のことだ。  
あきらめないと誓ったのはどこの誰だ。  
 
「わかってるくせに、さ・・・」  
 
街を歩く。  
色とりどりに着飾られた木々は、夏の青い衣装の代わりに。  
光り輝く小さな雪を纏う。  
 
私があの小さな雪の一つなら。  
我聞はみんなをてらす太陽で。  
陽菜はそのてっぺんに輝く綺麗なお星様。  
 
みんな、お星様を取り囲む。  
そして、太陽の下でみんなで笑いあう。  
 
雪の私は、地面でそれを、見上げてみんなを想う。  
 
「ばっか、みたい・・・」  
 
雪の私は、そこにいることが出来るわけがなかったんだから。  
 
 
でもゆきのこは、しっていた。  
わたしはそらへはいけないと。  
だってわたしはゆきだから  
たいようのもとへはいけないんだから。  
 
 
しゃん、しゃん、しゃん  
So happy X'mas ... War is Over....  
 
 
 
「桃子〜!」  
 
そんな時。身体が、震える。  
あの、低脳の声が聞こえてしまったんだ。  
 
「ガ、ガモン!?」  
「こんなところにいたのか・・・探したぞ?」  
 
・・・なにしにきたのよ。  
 
「桃子?」  
「なんで、来たのよ・・・」  
 
本当に、低脳なんだから・・・  
 
「私の事なんてどうでもいいじゃない!仮にも家長なら家にいなさいよ!」  
「な、なに怒ってるんだ桃子?」  
 
雪のわたしに、希望を持たせないで。  
 
「ばかっ!ばかばかばかぁ!!」  
 
周りの目なんか気にならない。うれしいのに、腹が立つ。  
こんなにうれしいのに腹が立つ。  
こんなに嬉しいのに・・・  
 
私は消えゆく雪だから。  
いつもいてくれる、お星様じゃないんだから・・・  
 
「ばかぁ・・・ぐす、ひ、う・・・」  
「桃子・・・お前は本当に子供だな・・・」  
「なっ・・・!なによぅ・・・!!」  
 
 
「お前も、家族だろ?桃子。」  
 
 
「・・・っ・・・」  
 
本当に、この低脳は、あったかい。  
雪のわたしは、溶けて消えちゃうんじゃないかな。そんな不安も、ふっとんじゃうくらい、あったかい。  
 
「本当に、低脳・・・」  
 
隣にいる、我聞を想う。  
あの笑顔は、たとえ陽菜のものでも私にもくれる。  
それが今日も向けられる。我聞から、くれる。  
 
「本当に、バカみたい・・・。」  
 
それは、私のことだ。  
家族だと言ってくれたのはどこの誰だ。  
 
「・・・ばか・・・本当に低脳なんだから・・・」  
「な、なにを言うかっ!これでも頑張ってだな・・・」  
「そういう意味じゃないわよ、まったく・・・」  
 
 
さっきまでないてたゆきのこは。  
たいようにさそわれ、おそらへいきました。  
 
とてもまぶしくてつらいけど。  
なかまはずれはいやだから。  
 
とてもあつくてつらいけど。  
たいようのそばにいたいから。  
 
たいようが、すきだから。  
 
「桃子。」  
「なに?・・・きゃっ」  
 
不意に手を握られる。そのすっかり冷え切った雪の子の手に。  
太陽はすっぽりと覆う手袋をプレゼントした。  
 
「メリークリスマス。桃子。こんなのしか買えなくて、ごめんな。」  
「・・・ううん、ありがとう。ガモン。」  
 
 
その手袋より。ぎゅ、と握ってくれたその我聞の手が、なにより温かかった。  
 
 
「ガモン。」  
「ん?なんだ桃子。」  
「ちょーっと、かがんでくれる?」  
「こうか?」  
 
我聞がかがんだ瞬間。  
ふっ、と。やわらかいものが我聞の頬をかすめた。  
 
ただ、あてるだけの雪の子のキス。あったかかった、雪のキス。  
 
 
「なっ!?こ、こら桃子!?」  
「ごちそうさまっ!ガモーン!」  
「ま、待てって桃子!!」  
 
タッ、と駆けだした桃子。それを追いかける我聞。  
少しだけの二人の時間。今までポッカリ空いていた、クリスマスの時間。  
 
ほんの十分たらずだけど、それだけで満たされてしまった。  
 
私も低脳なのかなーっと、ちょっとだけ思ってみる。  
 
 
さあ、帰ろう。私たちの家へ。  
 
 
「メリークリスマス、ガモン。大好きだよ。」  
 
 

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