あっという間に冬がやってきました。街は色とりどりの光で埋め尽くされる、今日はクリスマス・イブ。毎年この時期の喧噪には積極的には加わらず、ただただ圧倒されてしまう私なのですが…。  
 申し遅れました、私の名前は國生陽菜。解体業者「工具楽屋(株)」で秘書兼経理を務めています。真芝グループの壊滅と同時に、本業の数もめっきり減り、私たちは解体業をやりつつどこか落ち着いた日々を過ごしていました。  
そしてクリスマス・イブのこの日、久しぶりに本業の依頼が入り、いつもの私なら赤字を埋められると喜ぶところなのですが、今日は事情が違いました。それは今朝のこと・・・  
 
「陽菜さん、陽菜さん!大変ですよ!」  
工具楽屋の事務所に工具楽家長女である果歩の声が響く。  
「おはようございます果歩さん。どうされたんですか朝から?」  
冬休みということで早朝から事務所にいた陽菜が訊く。  
「陽菜さん・・・今日が何の日か、知らないとは言わせませんよ!」  
「え、えと・・・クリスマス・イブですよね?」何故か気圧されつつ答える。  
「正解でもあり、不正解でもある。といったところですね」  
果歩の瞳が怪しげに光る。  
(また何か企みがあるのでしょうか?)と思いつつも訊いてどうすることもないので  
「どういうことでしょう?」とだけ聞く。  
「今年はただのクリスマス・イブにはならない、ということですよ。陽菜さんにとってね」  
「・・・?」  
「な、なんと、あの朴念仁の兄からデートのお誘いがっっ!!」  
果歩が豪語する後ろで、いつの間にか現れた斗馬と珠が紙吹雪をばら撒いている。  
当の陽菜はというと、  
「デ、デート・・・ですか?」と呆然している。  
「なんすかー、陽菜さん!その反応のなさは!?イブにデートですよ!やったじゃないですか!」  
 
と、言われても・・・我聞や自分と「デート」という響きはあまりにもしっくりこないし、そもそも自分たちは別にそういう関係ではないのであって・・・、と、陽菜の思考は思いのほか激しく巡っていたのだが、表情に表れないので果歩は  
「陽菜さんのおじ様も言ってたじゃないですか、ねぇ」  
と最後の攻撃を仕掛ける。  
「!!!」陽菜は今日本にはいない父が、去り際に放った爆弾発言を、つい最近まで意識しないように務め、忘れかけていた言葉を思い出す。  
『陽菜を嫁に貰って欲しいといっているのだが・・・』  
「〜〜〜〜〜!」思い出して顔がこれ以上ないほど真っ赤に染まる。それを見て満足すると果歩は、  
「今日の6時、駅前のツリーの下で待ってるそうですから〜。頑張ってくださいね?」  
と残して去った。  
 午前中の陽菜の仕事は、手に付かなかった。  
 
正直、私はこの誘いが嬉しかったのです。  
あの父の言葉の後、特に何事もなく過ごしていた日々の中で、悶々とした想いを抱いていたのは私だけじゃなかったんだ、と。社長も社長なりに真剣に考えて、そして私を誘ってくれたのだ、と。そう考えると溜まった仕事も驚くように進む気がしました。ですが…  
 
「本業です。久しぶりに」  
工具楽屋の営業部長の辻原がいつもの胡散臭い表情で告げたのは、午後も3時が過ぎた頃だった。  
「ぉお、本当に久しぶりですな」と専務の中之井が腰を上げる。だが、陽菜は一人、身を固まらせていた。  
(そ、そんな…よりによってこんな日に…)  
秘書としては、久々の本業、ここ最近の赤字も埋まり…と、喜ぶべきではあるのだが、今朝の果歩の知らせの時から、彼女はただの一人の少女であった。  
(いけないいけない!仕事はちゃんとこなす。…できるだけ早く!)  
「辻原さん、現場はどこですか?早速向かいましょう!」  
 
「おや、あなたにしては凄い気合の入りようですね。現場は隣町の廃ビル。真芝から流れた兵器を多数抱えてる輩がいるという情報があるので、とりあえず兵器の破壊とできれば所有者の確保、ですが…夜を待ってからでも構いませんよ?」  
「いえ、兵器を抱えてるならそれこそ直ちに向かった方が…」  
夜を潰すわけにはいかない。我聞がせっかく誘ってくれたのだから…。しかし、その我聞から、  
「特に予定も入ってないんだし、夜までに準備を整えて行くのでもいいんじゃないか?」  
と言われたとき、陽菜は自分のどこかがプチンと切れる音を聞いた。  
「…社長、あなたは、私のことなどどうでもいいと…つまりそういうことを言いたいのですか?」  
社内が南極並みの冷気に包まれる。  
「ぇ!?いや、べ、別に國生さんをどうでもいいなどと言った覚えは…」  
久々の陽菜の冷ややかな(多少怒りも加わった)言葉にたじろぐ我聞。  
陽菜自身も、今の発言が我聞への個人的な怒りであることに気付き、その同様を誰にも悟られまいと  
「迅速な行動は“こわしや”の基本です!早く準備をなさってください!」  
と一喝してトラックの方へ向かって、去った。  
「こ、國生さん・・・?」  
我聞はわけもわからず、妙な罪悪感を抱いていた。  
 
「もしもーし、果歩ちん…じゃなくてデルタ2、応答頼む」  
「デルタ1、首尾はどうです?」  
「いやー…それがどうもかくかくじかじかで…」  
「……おかしいなぁ、確かにお兄ちゃんには今朝、『家族で食事があるから』て言ったんだけどなぁ…。とにかく、優さん誘導ヨロシク!」  
「ラジャー!」  
 
 
工具楽屋の改造トラックの内部は針の刺すような静けさに満ちていた。  
 片や、頭脳明晰、冷静沈着、そして少し天然の高校生秘書、國生陽菜。しかし、先程の社でのやり取りの後から、むしろ冷徹で、沈痛な表情に見える。  
 そして片や、単純、朴念仁の高校生社長、工具楽我聞。その朴念仁の極みであっても、陽菜を傷つけてしまったと言う自覚はあるらしく、いつもの陽気さはナリを潜めている。  
その二人に挟まれるようにして  
(しゃぁないなー…)とパソコンに向かっている森永優は、自分達の計画の失敗を感じつつあった。  
 『我聞・陽菜くっつけ委員会』―通称、GHKは我聞、陽菜両名をそれぞれの名目で引き合わせてイブの夜を演出し、二人の距離を縮める、という計画を遂行中であった。  
が、タイミングの悪い本業の依頼、そして当の我聞が約束を忘れる、あるいは軽くとらえているという事態で二人の仲はむしろ最悪。  
國生武文の一言による絶好のチャンスをふいにしようとしている有様だった。  
(う〜ん、なんとか誤解を解ければいいんだけどねぇ)  
 計画を再考している間に、  
「着きましたよ」と、辻原の声が意識を仕事の方に戻す。  
(ま、仕事中に仲が進展してったこともあるんだし、様子見かにゃー?)  
どこか楽観視しているのに気付き、ふと笑みをこぼした。  
 
(謝らなくちゃ…)  
社長が兵器群を破壊している間、私はひたすら自嘲していました。自分は、ちょっと出しゃばり過ぎてたのかもしれない。舞い上がっていたんだ、と。  
社長と秘書でいられることだけで十分なのに、どこかでそれ以上を望んでた。  
私は秘書です。ただの、社長の秘書なんです。そう思えば思うほど、体中が悲鳴を上げるのです。  
以前に父や桃子さんが仰っていたことが頭をよぎる。その言葉を何度も振り払おうとするのだけど…  
 
「…るるん、はるるん!?」  
ふと顔を上げると優さんの心配そうな顔が覗く。  
「はるるん、相当重い顔してるよ。大丈夫!?」  
「い、いえ、大丈夫です。なんでも、ないですから」  
必死にいつもの冷静さを取り戻そうとしますが、  
「ダメだよ。ここはいいから、トラックで休んできなよ」  
こう言われると退くしかない、そう思い「すいません…」と呟き背中を向けたとき  
「そんなに遠慮することないんだよ、はるるん。キミが思うようにすればいい。」  
「……ッ!」  
もう私は感情の奔流をこらえ切れませんでした。トラックに走り、その中でひたすら涙を流し続けました。  
「私は、社長が好きです…」  
ひとりトラックの中で宣言した言葉は、頼りなく、ですがトラック中に響いてる気がしました。  
 
 
「突貫!」  
我聞が最後の兵器を破壊する。市街地でなければ爆砕で破壊することもできたのだが、被害を考えた上、時間のかかる螺旋撃のみでの破壊となった。夕日は姿を消しつつある午後5時40分…  
「あれ?國生さんは…」  
いつの間にか姿を消した陽菜に気付く。  
「優さん、國生さんはいずこへ…って、何すか?」  
優は通話状態の携帯を黙って差し出す。おもむろに受け取って出る。  
「もしも…『こんの大ボケ兄がぁぁぁっっ!!!』  
可聴域を越えた怒声に数秒、気絶。  
「…か、果歩!?」  
『ったく、6:00に家族で食事だって言ったでしょーが!!忘れたの!!?』  
頭の中がガンガン揺れてはいるが、約束はかろうじて思い出せたようで、  
「ス、スマン!一家の家長ともあろうものが家族との約束を忘れるとは…、かくなる上はどんな罰でも・・」  
『それ、やめなさいよ』  
「え?」  
『『家長』とか、『社長』とか言うの』  
うって変わって落ち着いた、しかし重みの増したトーンを帯びる。  
『確かにお兄ちゃんは『社長』やってるけど、まだただの高校生じゃない。』  
 
「う…しかし、」  
『『社長だから』、『家長だから』って、頑張るのはいいけど、それが陽菜さんを苦しめてることも知ってた?』  
「國生、さんを…?」  
胸に針が刺さる感覚。数時間前の彼女の涙が頭をよぎる。  
「なんで?俺は、『社長』としてやってきた。それが、いけないっていうのか!?」  
口にするたび、胸の針が波紋のように広がっていく。  
『いけないなんて、言ってない。でも陽菜さんは…』  
一瞬言葉が途切れ、  
『…ううん、そこまでは教えてあげない。でも、お兄ちゃんも陽菜さんと同じ気持ちどこかでもってる』  
「お、俺は…しかし」  
『もうちょっと、素直になりなさいよ。お兄ちゃんも陽菜さんも』  
黙らされてしまった。でも、胸の痛みは体の下のほうへ溶けて流れたような心地になる。  
『今日は、陽菜さんを迎えに行って。『社長』なんかじゃなくてね』  
「…わかった。ありがと。 ……果歩」  
『え?何?』  
「おまえ、なんか大きいな」  
『ちょ…何言ってんのよ!?確かに、そろそろブラがきついなーって…』  
果歩は大いなる勘違いをしている自分に気付く。  
『な、な〜にワケわかんないこと言ってんのよ!!もう知らない!!』  
一方的に電話を切られる。少し笑んで  
「優さんも、なんか気遣わせたみたいでごめん。」  
それに対し優はニヤッと笑い  
「まぁ、一応この件は私もちょっと悪いかな〜、って思ってさ」  
「?」  
その言葉に首をかしげる我聞。その背中を叩いて  
「ホラ!お姫様はトラックの中だよ!行って来な!」  
「はい!」  
 

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