「えーまあそういうわけで、武文さんより講師役を承りました森永優さんです。 以後、お見知り置きを」  
「は、はぁ・・・」  
「承ったっていうより、買って出てたような・・・」  
「ええい、細かいことは気にしない! そして我聞君は気合いれなさい!」  
「は、はいっ!」「へいっ!」  
 
あれからしばらく経っていつの間にか夜、そしてここは工具楽家の6畳間。  
部屋には布団が敷かれ、その横で我聞と陽菜は正座して、優の話を聞いていた。  
優と果歩曰くの “予行演習”のために。  
陽菜の引越しやら我聞との同居等の話はなんとか先送りにした二人だったが、  
この “予行演習”だけは、“最初が肝心”とか適当な理由をつけて迫るGHKの圧力に屈し、  
この状況まで追い詰められていた。  
 
「まー、そんな固くなることはないから、リラックスしなさい? ちゃんと私もいなくなるから、ね!」  
「ええと、その・・・優さん」  
「ん、なんだね、はるるん」  
「た、確かに、お父さんと約束はしちゃいましたけど・・・  
 まだ、その、私たち、二人でそう言うこと話したことなくて・・・できれば、先に二人だけで・・・」  
「そ、そうですよ優さん! いきなり予行演習って言われても、俺たち・・・」  
「なああに甘ったれたこと言いますかっ! さっきはるるんのパパに違うのかって確かめられたときの二人の言葉!顔!  
 お姐さんしかと聞き届けたし見届けたですからね!?  
 あれは間違いなくお互いに好意をもっている、そういうことでしょう! お姐さんの目は誤魔化せないよ!?」  
「い、いや、まあ、それはそうですが・・・」  
 
さっきもそうだったが、陽菜だけでなく、我聞もこのことを否定はしない。  
それが陽菜には、嬉しかった。  
陽菜は桃子から嫁候補の話を振られて以来、我聞のことをどうしても意識せずにいられなかった。  
そんな思いを抱いたまま、辻原が消息を絶ったときの我聞の涙を見て、第一研での闘いを通して・・・  
その思いが、勘違いや気のせいではないと、確信していたから。  
そして、そう思っていながらも、我聞との今までの関係が壊れるを恐れて、伝えることができなかったから。  
だから、嬉しかった。  
 
「ほら、はるるんを御覧! 既に気分は二人の夜、って顔してるんだから、我聞君も男として見習いなさい!」  
「こ、國生さん?」  
「え、あ、あわ、ち、ちがいますっ!」  
「ふぅ、まったく・・・まあいいわ、確かにいきなりだしねぇ・・・  
 とりあえず、大事なことはこの冊子にまとめておいたから、二人でよーく読んで、  
 ちゃーんと“実践”するように、ね!  
 じゃあ、お姐さんは別室でじっくり観さ・・・じゃない、のんびり待たせてもらうから、ふたりともしっかりね!」  
「「はあ・・・」」  
 
最後まで不吉な笑みを絶やすことなく、優は二人を残し、部屋を出て行った。  
そして残されたのは、我聞と陽菜・・・二人きり。  
陽菜としては、嬉しくないと言えば嘘になる・・・が、余りにも突飛というか、急展開すぎる。  
どうしていいか分からず、俯いたままちらりと我聞を見ると、やはり顔を真っ赤にさせてうつむいていて、  
その顔が不意に陽菜の方を向く。  
お互いに同じようなことを考えていた訳で、同じように相手の様子を窺おうとして目を合わせてしまい、  
慌てて目を逸らす。  
そんな停滞した状況をなんとかしようと、意を決して我聞が口を開く。  
 
「え、ええと、とりあえず國生さん」  
「は、はい社長、なんでしょう・・・」  
「なんとなく・・・事情を説明してもらえると、ありがたいかなー、とか・・・」  
「あぅ・・・その・・・す、すみません・・・実は・・・」  
 
我聞が先代達と乱闘している間にあった、國生父や優達とのやり取りを、陽菜はまだ説明していなかった。  
いろいろ騒がしくその時間が取れなかった訳でもあり、話し難い内容でもあったが、  
事ここへ至っては我聞に伝えないわけにも行かなかず、概要をなんとか説明する。  
 
―――そんな訳で、話し難いところも含めてなんとか伝え終え・・・  
 
「それにしても・・・孫と言われても、俺たち・・・そんな話すら、したこと、ないんだよな・・・」  
「そ、そうですよね・・・と言いますか・・・まだ、私たち、そもそも付き合っても・・・」  
「全く・・・おっちゃんのあの発言・・・ああいうのこそ爆弾発言って言うんだろうな」  
「ですね、本当に爆弾でした・・・もう、恥ずかしい・・・」  
「まあ、でも・・・なんだ、その・・・」  
「はい?」  
 
お互いに照れながらも、一応は会話を続けていたのだが、ここで我聞は黙ってしまう。  
陽菜は不思議そうに我聞の顔を見るが、予想外に真剣な顔をした我聞に声をかけられない。  
 
「國生さん・・・これはさ、別におっちゃんがああ言ったからとか、こんな状況になったからじゃなくてさ、  
 俺の気持ち・・・第一研から帰って、その頃にやっと気付いた気持ちだけどさ・・・  
 まず、一つはっきりさせておきたいんだ」  
 
我聞の顔はさっき以上に真っ赤だったが、真剣な目で陽菜を正面から見据えていた。  
陽菜も真剣に受け止めなければならない雰囲気を感じとり、姿勢を正して我聞と向き合う。  
 
「俺・・・國生さんのこと、好きだよ」  
 
どきん、と陽菜の胸が高鳴った。  
そう、これが欠けていたのだ・・・本人同士の意思を完全放置で話が進んでいたから、  
実感が全然湧かなくて恥ずかしいばかりだった・・・だが、今・・・  
 
「わたしも・・・」  
 
陽菜は、思う―――  
私も、気持ちを伝えなきゃ・・・社長より前から、私の方が前から、意識してたのだから・・・  
私は、誰よりも社長のことを・・・  
 
「わたしも、社長のこと、大好きですから・・・!」  
 
今度は、互いの口から自身の言葉で気持ちを伝えられたし、ギャラリーもいない。  
人目を憚ることなく自由に、存分に思いの丈を表現できるはずの二人は・・・  
 
「じゃあ、そういうことで、まあ、とりあえず・・・よろしく、國生さん」  
「はい、こちらこそ・・・ええと、不束者ですが・・・宜しくおねがいします、社長」  
 
深々とお辞儀などしていた。  
 
同時刻、工具楽家・居間。  
 
「なんだそりゃあああ! やる気あんのかこらああああああ!!」  
「ゆ、優さん向こうまで聞こえる! 落ち着いて!」  
「折角空気を読んで外してやったというのに! 両想いの二人が告白し合って、キスはおろかハグすらないなんて、  
 お前ら本当に17歳かあああ!」  
 
当然といえば当然の仕込みと言うべきか、我聞と陽菜が二人きりで愛を語らう姿も声も、  
優さんの技術提供で全て居間のテレビに垂れ流されていた。  
それを囲むのはGHKのメンバー4人に、今度は簀巻きにされた桃子、  
それと茶に仕込んだクスリで弱ったところを優さん発明の捕獲ネットで緊縛された番司であった。  
束縛された二名はさっきまでギャーギャー喚いていたわけだが、  
流石に二人の告白場面を目の当たりにしてしまい意気消沈。  
かわりに、今度は優が騒ぎ出したところであった。  
 
「ほら、優さん! また動きがありそうですから! そんな時のための優さんのマニュアルじゃないですか!  
 さ、落ち着いて続きを見守りましょう!」  
「むぅー。 もしこの先も不甲斐ない真似を見せるようなら、どうしてくれよう・・・」  
 
そんな不穏な空気など、本人たちなりにはラブの真っ最中の二人には、察知できるはずもなく・・・  
 
「えーと、それじゃあ・・・どうしよう」  
「そ、そうですね・・・そ、そうだ、こんな時のために優さんがマニュアルを置いて行ってくれたわけですし・・・」  
「そ、そうだったか、じゃあ読んでみようか」  
 
二人は共に恋愛下手というか、そもそもそういう方面の話には疎く、  
学校生活も仕事で削られがちだったために同級生からそんな話を聞く機会もあまりなかった。  
我聞はそんなことより身体を動かす方が好きだったし、陽菜にそんな話を振れる猛者はいない。  
そんな二人だからこそGHKの活動も空回りし続けたわけで、  
今も実は、お互いに告白しあっただけで満足してしまっていて、  
流れに乗ってキスしちゃえ、とかそんな発想はナチュラルに湧いてこないのだ。  
だが、今の二人にはそれでは済まされない事情がある。  
そんな二人にいきなり孫を要求すること自体に無理があるのだが、長年娘と隔離されていた父故に、  
仕方あるまいという他はなかった。  
まさにそんな、仕方なし、という感じで二人して優に渡された冊子をめくってみると・・・  
 
『明日のために 前書き  
 本書は、我らが社長・工具楽我聞と、その未来の嫁たる國生陽菜に致命的に欠けていると思われる、  
 夜の生活に関する知識について指導し、二人の性に対する興味を盛り上げて、愛ある性生活を実現、  
 気付いた時には否定のしようもない既成事実を作らせることを目的とする。  
 恥も恐れも捨てて、欲望の赴くままに行動すべし。  
 されば、気が付いたらできちゃってるから。  
 では、二人とも、大人の階段をてっぺんまで転がり登るように、レッツ・ゴー!  
                                          森永 優』  
「・・・・・・」  
「・・・・・・」  
「ねぇ、國生さん」  
「な、なんでしょう、社長」  
「俺たち、これを信じていいのか・・・?」  
「どうでしょうか・・・先を読んでみないことにはですが・・・正直、もの凄く不安です・・・」  
「ま、まあでも、他に頼るものもないか」  
「そうですね、実践するかどうかは別として・・・と、とにかく読んでみましょう・・・」  
 
こんなあからさまにいかがわしい冊子でも、頼らざるを得ないほどにその手の知識に乏しい二人は、  
この局面に限ってはGHKに踊らされるために存在しているようなものであった。  
そして、たった1枚ページをめくったところで早速、二人の顔が引き攣って止まる。  
 
「えーと、まず・・・え・・・」  
「う・・・」  
 
そこに書かれていたのは―――  
 
『明日のために 第一章 A  
 Aが何か、わかるよね? あーでも初心な二人は分からない可能性があるから、ちゃんと書いておこう。  
 “キス”ですよ、“kiss”。  
 本書を二人に渡している頃には、既に告白はしているはずだから、当然一度は済ませていると思うけど!  
 キスも極めようとすると深いのよ〜?  
 たった一度のキスで満足してるそこの若造なキミタチに、本当のキスを教えてあげよう!』  
 
「き・・・きす、ですか・・・」  
「き・・・きす、みたいです・・・」  
 
告白してから少し落ち着いていた顔色が、また真っ赤に逆戻りしていた。  
冊子の方はその先に、テクニックの詳細などが書かれているのだが、その先を読む気になれず一旦放置すると、  
真っ赤な顔のまま、なんとなく二人は向き合ってみる。  
知識はないけど、興味がない訳ではない。  
意識はしていなかったけど、好きな相手と―――好き合っている相手とのキス・・・  
考えると、それは決して・・・悪くない。  
そう思った二人は、自然と、無言のまま顔を寄せていた。  
 
「國生さん・・・」  
「はい・・・社長」  
「き・・・キス、してみる?」  
「そ、そうですね・・・モノは試って、いいますし・・・」  
「そ、そうだね・・・じゃ、じゃあ、いくよ・・・」  
「はい・・・」  
 
ぎゅ、と陽菜は目を閉じて、我聞を待つ。  
我聞は緊張でガチガチになりながら、首を伸ばして陽菜の顔に己の顔を近づけ、  
ここなら多分大丈夫、というところで自分も目を閉じて、そのまま顔を前に進めて、  
ふ、と。  
二人の唇が、触れ合った。  
 
 
同時刻、工具楽家・居間。  
 
「きゃああああ! やった! やったわお兄ちゃん! ついに、あの朴念仁がついにキスですよ優さん!  
 これで工具楽家の未来は安泰だわ!」  
「チュウだ!」「はじめてのチュウだ!」  
「ぬぉおおお! 工具楽め・・・許さん、許さんぞおおおお!」  
「き・・・キスぐらいで騒いでるんじゃないわようす胸っ! す、すぐにこれくらい、取り返してやるんだから!」  
「あっはっは、やれるものならやってみなさい控えめ胸!」  
 
当人達が少しでも冷静なら絶対に聞きつけられそうな大騒ぎだったが、  
優だけはイマイチ納得の行かない顔でディスプレイを見守る。  
 
「あ・・・アレでキスですって・・・この優さんをナメるのも大概にしないと・・・本気で乗り込むわよ・・・?」  
「ゆ、優さん、ちょっと? ど、どうしたんですか」  
「あのガキャども・・・恥ずかしがるのも度を越えると・・・イラついてくるのよね〜?  
 あんな唇の先端だけギリギリ触れさせるのがキスだなんて、お姐さんは認めないからね!?」  
「優さん、おちついて、おちついてー!」  
 
 
等と外野がおかしな方向にヒートアップしているとは露知らず・・・  
 
「ええと・・・なんか、ちょっと・・・想像してたのと違ったかな・・・」  
「そう、ですね・・・なんというか・・・もう少し、湿った感じかと・・・思ってましたが・・・」  
 
極度に緊張した二人が唇の先端を、本当に軽く触れ合わせただけなので、  
当然ながら緊張で乾いて、カサカサした唇の感触しかない。  
 
「そうだよな・・・漫画とかでも、そうだ、“ちゅ”とかそんな音がしてたしな・・・」  
「ですよね・・・ちょ、ちょっと、浅かった、ってことでしょうか・・・?」  
「じゃ、じゃあ、今度はもうちょっと、深く、というか・・・」  
「は、はい・・・恥ずかしいけど・・・お、おねがいします」  
 
さっき以上に緊張しながら、再び目を閉じる陽菜。  
我聞も我聞で緊張しきりだが、今度はとにかく “深く・・・深く・・・”と念じながら、  
もう一度陽菜の顔へ顔を寄せる。  
充分に近寄って、目を瞑って、再び唇が軽く触れ合う。  
陽菜がびくっと震えたのが分かったが、ここで止めてはさっきと同じ。  
そのまま唇を押し付けようとするが、二人とも緊張しまくっていて唇に力がはいっているものだから、  
唇同士が押し付けられるだけで、絡み合ったりもせず、さっきより圧力を感じるだけ。  
 
(こ・・・これではさっきと変わらん・・・なんとか、男としてなんとかしないと・・・!)  
 
焦りに焦った我聞はなかば無意識に腕を伸ばし、陽菜の肩と頭を抱き寄せた。  
いきなりの行動に驚いた陽菜は一瞬、唇の力を抜いてしまい、薄く口が開く。  
強く押し付けていた上に引き寄せまでした我聞だから、その開いた口に思い切り突っ込む形になって・・・  
 
いきなり抵抗がなくなって我聞も口を緩めてしまい、緩めたまま、陽菜の緩んだ口に押し付けたものだから、  
結果、二人は口を開いたまま、深く繋がることになる。  
事態がイマイチ呑み込めないままに、二人の舌と舌が、触れ合う。  
 
「―――――!!!」  
「――――――っ!!」  
 
お互い同時に、声にならない声を上げて口を離す。  
予想外の事態に慌てふためいて、バクバクと暴れる心臓を必死で抑えようと、二人ともしばし無言のまま。  
 
(國生さんの舌に舌で・・・さ、触ってしまった・・・でも、あれか・・・今のがキスなのか・・・?)  
(社長に・・・口の中に入られちゃった・・・こ、これが・・・は、恥ずかしい・・・けど・・・)  
 
普通に考えたらとんでもないことだが、想いを寄せ合う二人にとっては、恥ずかしくとも、嫌な感じはしない。  
とりあえず相手に気取られないように鼓動が落ち着くのを待って、  
 
「こ、國生さん・・・ちょっと、びっくりしちゃったけど・・・い、今のが多分・・・」  
「は、はい・・・思わず離しちゃいましたが・・・なんとなく、わかりました・・・じゃ、じゃあ・・・」  
「あ、ああ、今度こそ・・・」  
 
ファーストキスの三度目のやり直し。  
傍から見たら滑稽なやり取りではあるが、本人たちは至って真剣。  
三たび陽菜は目を閉じて、今度は唇を柔らかく、薄く開いて、抑えても抑えきれない鼓動を気にしながらも、  
我聞の唇の感触を待つ。  
今度は、唇より先に我聞の腕が肩と頭に添えられる。  
軽く引き寄せられる感触に逆らわず、陽菜は我聞の腕に身を任せる。  
陽菜を軽く引き寄せておいて、我聞は目を瞑ると、柔らかく、陽菜の唇に自らの唇を重ねる。  
 
(柔らかい・・・國生さんのくちびる・・・少し湿っていて、それに、温かい・・・)  
 
今度は、陽菜の唇の感触をしっかりと確かめながら、すこしずつ、すこしずつ舌を進め、  
陽菜の唇に触れた。  
 
(キス・・・しちゃった・・・社長と・・・嬉しい・・・でも、もっと・・・私も、しなきゃ・・・)  
 
背筋を駆け上がるようなぞくりとする刺激に震えながら、陽菜もおずおずと舌を伸ばす。  
少しずつ慣れてきた我聞に比べ、恥ずかしさが先立ってなかなか舌を伸ばしきれないうちに、  
すでに陽菜の口腔へ侵入していた我聞の舌と、再び触れ合う。  
 
(――――!)  
 
予想以上に伸びていた我聞の舌の感触に驚いて一度は舌を離してしまうが、  
すぐに気を取り直して控えめに、おずおずと舌と舌とを触れ合わせる。  
温かくぬめる、柔らかな肉のかたまり・・・これまで感じたことの無いような、生々しい感触。  
それが、自分の舌を絡めとり、うねうねと口腔内を蠢く感触に、  
奇妙な甘さを伴う、鈍い電撃のような震えが体の芯を走り、下腹部へと墜ちる。  
 
(なに・・・これぇ・・・っ きもち・・・わるい? ちがう・・・社長の舌・・・嫌じゃない・・・けど・・・  
 なんだろう・・・すごく、ぞくぞくして・・・っ・・・なんか・・・変になる・・・ジンジンする・・・)  
 
感じたことの無い甘い刺激と微かな不安に震えながらも、  
陽菜は我聞の舌による愛撫に徐々に捕らえられていく。  
不安が薄れ、変わりに陶酔感が膨らんできて、  
震える身体はいつの間にか脱力し、舌は我聞の思うがままに弄ばれていた。  
 
(やだ・・・どうしよう・・・しゃちょうのキス・・・きもちいいです・・・流されちゃう・・・)  
 
初めてのキスであり、初めてのディープ・キス。  
その想像し得なかった快楽に、陽菜は心と身体が蕩け出すような、錯覚を覚えた。  
 
「―――んん・・・っ、ぷぁ・・・はぁ・・・っ、はぁ・・・はぁ・・・ふぁあ・・・っ」  
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・っ」  
 
思うままに陽菜の舌を貪っていた我聞だったが、陽菜の呼吸が徐々に荒くなったので、  
陽菜を苦しめているのではないかと彼女の身を案じ、その唇を解放する。  
頬を真っ赤に染めて、虚ろに潤んだ目で我聞を見つめる陽菜の顔に言いようの無い艶を感じつつ、  
我聞は陽菜の唇の、舌の、口腔の粘膜の感触を思い返していた。  
それはあまりにも柔らかく温かく、それがおどおどした感じで震えたり逃げたりして、  
無理やり追いすがり絡め取ると、遠慮がちに応えてくれる。  
その極上の甘い感触と、怯える獲物を弄ぶような錯覚を呼び起こす嗜虐的な悦びは、  
陽菜と同様に初心であったはずの我聞の、本人すら認識し得ない意識下に根を下ろしていた。  
 
「國生さん・・・大丈夫?」  
「は・・・い・・・ひゃちょう・・・っはぁ・・・はぁ・・・っ」  
「國生さんの唇も、舌も・・・すごい、柔らかくて・・・なんか、すごく・・・気持ちよかったよ・・・」  
「う・・・嬉しいです・・・でも、わたし・・・なんか・・・変です・・・気持ちよすぎて・・・」  
 
そう言って蕩けたような表情を浮かべる陽菜は、  
いつも我聞が見ていた頼もしくも厳しい、冷静で凛々しい彼女とはあまりにもかけ離れた、  
どうしようもなく艶やかで、男としての欲望を掻き立てずにいられない―――そんな色気に満ちていた。  
 
(うわ・・・國生さん・・・こんな顔、するんだ・・・綺麗だけど・・・えっちな、顔・・・)  
 
我聞の執拗なキスが陽菜にそんな顔をさせた訳だが、それは欲求に任せた結果であって意図したものではない。  
だから、見ている我聞の方までドギマギとしてしまう。  
 
(と、とにかく、男として國生さんをリードしてあげねば・・・だが、どうすれば・・・って、そうだ)  
「じゃ、じゃあ國生さん、き、キスも済ませたし、また・・・優さんのマニュアル、読んでみようか」  
「・・・あ、はい、社長・・・そうですね・・・」  
 
我聞が優のマニュアルを広げ、それを陽菜が横から覗き込むのだが、  
 
「え、こ、國生さん!?」  
「社長・・・なにか・・・?」  
「い、いや、なんでもない・・・」  
 
相変わらず紅潮して蕩けた表情の陽菜は、我聞の身体にしな垂れかかり、肩に頭を乗せるようにしていた。  
我聞に抱き寄せられてキスをされ、その甘い感触に痺れてしまった陽菜としては、  
こんなふうに我聞に甘える素振りを見せるのは自然なことだったが、  
まだ照れの残る我聞には嬉しい反面、恥ずかしくてつい固くなってしまう。  
 
「え、ええと、じゃあさっきの続き・・・キスの続き、か・・・・・・・・・うわ・・・」  
「わ・・・・・・」  
 
そこに記されていたのは、それはもうディープなキスの詳細あれこれ。  
 
(唇の裏とか歯茎まで舐めるって・・・こ、濃いですよこれ・・・優さん・・・大人ってここまでするのか・・・)  
(唾液を混ぜて飲み合うって・・・え、えっちすぎます・・・こんなのされたら・・・おかしくなっちゃう・・・)  
 
「えーと、國生さん」  
「は、はい・・・」  
「次、いこうか、これはまた、今度ということにして・・・」  
「そ、そうですね・・・次のとき・・・た、楽しみに、してますから・・・」  
「・・・え?」  
「・・・なんでもないです・・・」  
 
そしてページをめくると、当然のごとく内容はより過激になるわけだが、  
そういうところにはイマイチ気付かない二人。  
 
 
同時刻、工具楽家・居間。  
 
「ふ・・・ふふふふふ・・・やれば出来るじゃない! お姐さん、二人を見直しちゃったよ!  
 さあ、この勢いで次よ次! ねぇ果歩りん! ・・・あれ?」  
「い・・・いやぁ・・・分かっていたとはいえ、兄のこんなシーンを見ると・・・恥ずかしいというか・・・」  
「陽菜さん・・・・・・! 工具楽め・・・許さん、絶対に許さんぞおおぶっ」  
「騒がしい!」  
「ハルナ・・・いいなぁ・・・私もガモンと・・・・・・いいなぁ・・・」  
 
ふと振り返ると、果歩だけでなく、番司も桃子もディスプレイの中の二人に負けず劣らず真っ赤な顔をしている。  
珠と斗馬は相変わらずキスだチュウだと騒いでいるが。  
 
(そういえばこの子達も、というかこの子達の方がお子様よね・・・この先を見せていいものかどうか・・・  
 ま、いっか! どうせ最中の当人達も高校生のお子様だし!  
 この子達の反応を見るのもまた一興ってね、うむ、私ってば冴えてる!)  
 
楽しければそれでOK、優さん節炸裂であった。  
 
「こ、この次は、やっぱり・・・その、あれですよね・・・?」  
「ん? まあ、やっぱAが終わったら当然Bに決まってるからね! マニュアルもそうなってるし〜」  
「じゃ、じゃあ・・・珠! 斗馬! あんたたちはもう寝なさい!」  
「え〜! 兄ちゃんと陽菜ねえちゃんもっと見たいー!」「そうです大姉上、社会勉強として・・・」  
「い・い・か・ら・・・それとも、私がやさし〜く、寝かせつけてあげようか? 珠ちゃん、斗馬ちゃん?」  
「「おおおやすみなさーい!」」  
「・・・さ、流石ね、果歩りん・・・」  
「さて、まだやっとかないといけないことがあったわね・・・ねえパンツマン?」  
「な、なんだこのクソガキャあ! いい加減この束縛を外しやが・・・っておい!? 何しやがる! 見えねェよ!」  
「何って当然でしょ? ここから先の展開を考えたら・・・あんたに陽菜さんの素肌を見せられるわけないでしょ!」  
「こ、このクソガキャあああ! ちきしょーっ! 許さんぞ、絶対ゆるさんぞ工具楽ああ!」  
「め・・・目隠し・・・私にもするつもり、カホ!?」  
「んー、あんたはいいわ、陽菜さんの身体はパンツマンに見られたら減る気がするけど、  
 お兄ちゃんのは別に減りそうもないし・・・むしろ二人の愛し合う様をしっかり目に焼き付けなさい?」  
「こんのうす胸は・・・本気で性格悪いわね!」  
「ま、お子様のあんたに見せるのは正直早いけど、特別だからね、じっくり見て諦めるがい〜わ♪」  
(まぁ・・・果歩ちゃんもお子様・・・というかあなたたち同い年でしょうに・・・ま、いいか・・・)  
 
 
そんな風に自分たちが凝視されてるなど思うはずもなく―――  
二人は寄り添ったまま・・・・・・固まっていた。  
 
『明日のために 第二章 B  
 Bがなんのことか・・・多分わからないよね〜。 これはね、愛撫のこと、ペッティングってやつだね。  
 もっと平たく言うなら、ボディータッチだね、指や舌で、相手の身体を直接撫でたり弄ったり舐めたりして、  
 いい気持ちにさせてあげようってこと!  
 いいかい? ここは我聞君が主役だから、よーく読んでおくこと!  
 陽菜ちゃんも、彼の未来の伴侶として、ちゃんと目は通しておくように!  
   
 では前置きはこれくらいにして、実践編に入ろうか。  
 我聞君には未知のセカイだろうけど、女の子の身体には、性感帯っていって、  
 刺激されるとすごく気持ちよくなるポイントがあるのよね。  
 そこを優しく苛めてあげると、女の子はどんどん気持ちが良くなってくるからね、腕の見せ所よ?  
 性感帯は人によって様々だけど、まずは君も気になっているだろう、おっぱいかな!  
 それに首筋とかうなじとか耳とか、本当に人それぞれ、キスで敏感に感じちゃう子もいるしね〜  
 あとはもちろん、あ・そ・こ♪ え、どこだって? いや〜んお姐さん恥ずかしくて書けないわ♪  
 とにかく、“そこ”を苛めてあげると、いつもと違う声が出たり、身体が違う反応したりするから、  
 陽菜ちゃんの弱点、じっくり探してあげるといいよ〜?  
 ただし! 女の子の身体は繊細で敏感だからね! 最初は優しく! そしてちょっとずつ強く!  
 お姐さんとの約束だよ!  
 では、健闘を祈る!』  
 
「・・・・・・これはまた・・・なんというか・・・」  
「・・・ゆ・・・優さん・・・」  
 
その先のページを試しにめくってみると、  
各論ということで、それぞれのポイントの詳細な責め方まで書かれていたが、とても目を通す気になれなかった。  
最初に書かれたことを実践する・・・ことを想像するだけで、二人とも頭の中がオーバーヒートしそうである。  
だが、我聞はキスした時の感触と、その後の陽菜の表情を思い出してもいた。  
自分が思う様に陽菜の身体を触り、舐め・・・陽菜を、悦ばせる・・・感じさせる・・・  
陽菜の弱点を見つけ出して、そこを苛めてあげたら、今度はどんな風に悦んでくれるだろうか。  
ある意味オーバーヒートしている我聞の最優先事項は、陽菜を気持ちよくさせること―――これに決定した。  
 
「ね、國生さん・・・」  
「はい・・・社長」  
「もし、國生さんが、その・・・嫌じゃなければ・・・だけど、続き、いいかな・・・?」  
「は・・・はい・・・マニュアルにも、社長が主役だってありましたし・・・社長の思うように・・・」  
「そ、そうか、そうだね・・・じゃあ、ええと、まずは・・・直接触る・・・だから・・・ふ、服を・・・」  
 
言ってる傍から真っ赤になってしまう我聞だが、伺いを立てるように陽菜を見ると、  
陽菜も負けず劣らず真っ赤になっている。  
 
「そ、そうですよね・・・あ、平気です・・・自分で・・・脱ぎますから・・・」  
 
そう言って寄り添っていた我聞の身体から離れると、上着のボタンを、一つ一つと外しだす。  
緊張のあまり指が震えて、なかなか上手く外せない。  
好きな相手、キスまでした相手とはいえ、異性の前で服を脱ぐ行為が恥ずかしくない訳が無い。  
なんでもないボタンが、どうしてもスムーズに外せなくて、つい我聞の方を見てしまう。  
我聞は、やはり真っ赤な顔をしていたが、自分の方をじっと・・・凝視していた。  
 
「しゃ、社長・・・そんな見ないで・・・恥ずかし・・・きゃ!?」  
「こ・・・國生さんっ!」  
 
恥ずかしさで真っ赤になりながら、自分の前で服を脱いでいく陽菜を見て、我聞の欲求は、更に高まる。  
この子を、脱がせたい、裸にしたい・・・そして俺の手で悦ばせて・・・!  
その欲求は理性が抑える間もなく弾けて、陽菜を布団に押し倒した。  
 
「しゃ、社長! ちょ、ちょっと、お、おちついてくださ・・・あ、あの!」  
「え・・・あ! す、すまん! そ・・・その・・・俺が・・・ぬ、脱がして・・・あげるから・・・」  
「え・・・は・・・はい・・・」  
 
陽菜の叫び声で我聞の理性が行動に追いたとき、彼は陽菜に馬乗りになって、その服に手をかけていた。  
自分の中に生まれていた衝動的な欲求の暴走に戸惑いながら、我聞はやや乱暴に、陽菜の上着のボタンを外す。  
 
(お・・・おちつけ! 俺が、國生さんをリードしなきゃならないのに、不安にさせてどうする・・・!)  
 
だが、我聞に押し倒された陽菜は、不安とともに、自分でもわからない、期待のようなものを感じていた。  
 
(私・・・今、何考えてた・・・? 期待? どうして・・・驚いたのに・・・社長に・・・わたし・・・  
 乱暴に、されたいの? ・・・やだ・・・そんなの・・・変だよ・・・ですよね・・・? 社長・・・)  
 
お互いに、意識下から這い出すおぼろげな己の欲求の形に戸惑っていたが、  
我聞がボタンを全て外し終え上着の前をはだけさせ、下に着ていたシャツの裾に手をかけたところでそれは止まる。  
 
「こっちも・・・いいかな?」  
「は・・・・・・はい・・・おねがい・・・します・・・」  
 
それをめくられたら、あとは下着しかない。  
着ている本人はもちろん、脱がす方もなんとなく分かっていたから、思わず確認を取ってみた。  
そして許可が下りた以上、もう躊躇う必要はないはずだ。  
 
陽菜のシャツに手をかけて少しずつめくりあげるが、その手は胸すら露出させることなく、止まってしまう。  
 
(うわ・・・こ・・・國生さんのおなか・・・おへそ・・・白くて・・・透き通るような肌・・・綺麗だ・・・)  
 
かつて合宿でビキニ着用の陽菜のおなかは見たことがあるはずだったが、あの時は陽菜を避けていたし、  
もともと水着姿の女性を凝視する我聞ではない。  
それに、二人っきりで自分が脱がせた相手の素肌を見るのは、まったくと言っていい程にワケが違う。  
思わず息を呑んで陽菜のおなかを見つめてしまうが・・・  
 
「しゃ・・・社長・・・あの・・・」  
 
例え水着で露出していた部分とはいえ、これだけ凝視されたら恥ずかしくない訳が無く、思わず声を出してしまう。  
が・・・  
 
「あ、す、すまん! すぐに脱がすから!」  
「え・・・え!?」  
 
結果的には―――我聞に身を任せたとはいえ―――墓穴を掘ってしまったと言えよう。  
勢いだけで我聞は陽菜のシャツをめくり上げ・・・白いブラに包まれた胸が、剥き出しになる。  
心の準備をする間もなくいきなり下着を見られてしまった陽菜は極度の羞恥と緊張で絶句するばかり。  
そんな陽菜に容赦なく・・・というか陽菜の気持ちに気づく余裕も無く、  
 
「じゃ、じゃあ、これも・・・脱がすから・・・」  
「え・・・あ・・・え・・・」  
 
勢いに任せてブラまで外そうとはするが、当然のごとく我聞はブラの本来の外し方など知る由もない。  
・・・となると、どうしても強引にずらすしかないわけで、  
そこで我聞が思いつくのは “直に触ってずらす”という至極単純な方法だけだった。  
直に陽菜の胸に触れる・・・そこに思い至って、ふたたび我聞は停止してしまう。  
男としての純粋な欲求に従うなら、正直、陽菜の胸を思い切り触ってみたい、ぎゅっと掴んでみたいと思う。  
だが、朴念仁故の奥手な感覚が、彼女の胸に触れることさえ恥ずべき事である、とも思わせてしまう。  
背反した気持ちにしばし葛藤し、その結論は  
―――間をとって優しく触れるという、無難というか、何の捻りもないモノだった。  
とにかく、方針が決まったことで踏ん切りがついた我聞はおずおずと陽菜の胸に腕を伸ばし、  
極々優しく、柔らかく・・・本当に軽く、双丘に触れた。  
 
「っ・・・ひぅ・・・」  
 
思わず陽菜は声を上げてしまうが、緊張した我聞はその声を認識するどころではなく、  
少しずつ、少しずつ手のひらに力を加え、徐々に上の方へずらすと、  
思った以上に呆気なくブラは外れ、陽菜の胸は、我聞の目の前で露わになった。  
同年代の女の子の生の胸を初めて目の当たりにして・・・しかもそれが好意を寄せる子の胸で・・・  
その光景に我聞の中の朴念仁は影を潜め、男としての純粋な欲求が前面に押し出される。  
急な展開についてこれず、極度の羞恥でまともに言葉を紡げない陽菜の怯えた表情を敢えて無視して、  
我聞はたった今、彼女のブラを外した時と同様に、今度は直に、陽菜の胸に両手で触れる。  
 
「っ・・・ひぁ・・・ゃ・・・」  
 
素肌に・・・裸の胸に直に触れられる感触に陽菜は怯えた声を上げて身体を震わせるが、  
もはや、それを気にする我聞ではなかった。  
下着越しでは感じられなかった、陽菜の胸の柔らかい感触、温かな体温・・・  
手のひらを通して感じられる陽菜の小さな胸の確実な存在感に、我聞の意識は吸い寄せられる。  
そして、その感触を確かめるように、少しずつ手に力を込めて、手の内の双丘の揉み心地を確認する。  
それはとても柔らかく、そして思ったより弾力があり・・・その感触に我聞は我を忘れて没頭する。  
 
「や・・・! ちょ、しゃちょ・・・ひ・・・ぁ・・・やっ、ぁ・・・」  
 
直に胸を揉みしだかれる恥ずかしくも甘い感触に、陽菜は切なげな声をあげる。  
生々しい刺激に声は上擦り、身体がびくびくと震えてしまうのを自分の意志で抑えられない。  
 
そんな陽菜の反応は、キスの時に我聞の意識下に芽生えた嗜虐的な欲求を、少しずつ膨張させる。  
だが、陽菜の胸の感触に酔い痴れている我聞は当然、無意識の欲求よりも手中の双丘の方に心奪われており、  
その感触を更に堪能すべく、陽菜の乳房へ加える力をじわじわと強めていく。  
 
「っうぁ・・・や・・・だ・・・しゃちょ・・・つよ・・・つよく・・・しないでぇ・・・ひぅぅ・・・」  
 
胸から背筋を通して全身を巡る鈍く甘い感覚に怯え、  
陽菜は切なげな喘ぎに近い声で必死に抗議する。  
そんな声を上げる陽菜の表情には、我聞にこれまで見たせたことのない艶が浮かんでいた。  
恥じ、怯え、戸惑う表情、紅潮した頬、潤みきって涙を浮かべる目、額に張り付いた髪・・・  
普段の有能で頼りになる、冷静で凛とした彼女のイメージからあまりにもかけ離れたその顔・・・声・・・  
そして両手を虜にする柔らかな胸の感触に、我聞の嗜虐欲は少しずつ、増大していく・・・  
 
(國生さんの顔、普段と全然違う・・・すごい、かわいい・・・  
 もっと、感じさせたら、どんな顔をするだろう・・・どんな声、あげるだろう・・・  
 そうだ・・・俺は、俺が國生さんをリードしなきゃ・・・もっと、気持ちよくさせてあげなきゃ・・・)  
 
そんなことを考えながら、彼は気付く―――ぐにぐにと胸を揉んでいる両手のひらを突き上げる、突起の感触に。  
最初からそこにそれがあるのは分かっていたけど、最初より、確実に自己主張している・・・充血し、肥大している。  
新たに責め立てるべきところを認識した我聞は、陽菜の胸をほんのわずかな時間だけ解放する。  
数瞬先に迫る新たな仕打ちを知らない陽菜は、ひそめていた眉を緩めて安堵の表情を見せるが―――  
 
「っひ! や、あ、やだ、しゃちょお! そこだめっ、ひああ!」  
 
再度陽菜の胸に手を被せると両手のひらと指で揉みしだきつつ、人差し指と親指で尖った乳首をきゅっと摘む。  
陽菜は敏感に反応して、びくんと肩を竦めるようにして首を仰け反らせ、喘ぎ声は一段と高まる。  
陽菜の期待通りの反応に気を良くした我聞は、指に少しだけ力を込めて、乳首をこりこりと転がすように弄る。  
 
「あ! や・・・あ! あ! ひっ・・・や! やあっ!」  
 
我聞の指の動きに合わせて、陽菜は髪を振り乱して上擦った声で喘ぐ。  
乳首を刺激される度に、電撃のように鋭く、異様に甘美な感覚が身体を駆け巡り全身を痺れさせる。  
脳髄は羞恥と快楽で思考もままならず、下腹部に走った電撃は陽菜の知らない、甘い疼きを呼び起こす。  
 
「しゃちょ・・・だめ! つよ・・・っ、や・・・うぁ、あああっ! だめ、変に、なっちゃいますっ!」  
 
続けざまに与えられる愛撫とそこから湧き出る甘美すぎる感覚は、  
強烈な快楽だけでなく未知への不安をも生み出し、それが声に出てしまう。  
だが、いくら拒絶しようと言葉を発しても、その声を彩る官能的な響きは隠し様がなかった。  
陽菜を気持ちよくさせることを何よりも優先と考える我聞は今の陽菜の状況を、  
“恥ずかしがっているけど、気持ちいいのが隠し切れていない”と勝手に判断する。  
そんな我聞のある意味間違った思い込みのせいで、陽菜の声は更なる責めへの呼び水としかならなかった。  
 
「國生さん・・・おっぱい弄られて、気持ちいいんだね・・・いつもと全然違う、えっちな顔、それに声・・・  
 すごく、可愛いよ・・・だから、もっと苛めてあげるよ・・・もっと、もっと感じさせてあげる・・・」  
「え!? や、ちが・・・っ、しゃちょおっ! 待って、ちょっとま・・・っぅあああっ!?」  
 
陽菜の胸を責め苛んでいた片方の手をどけると、すかさず顔を寄せて、乳房にキスをする。  
全体に舌を這わせてから先端を口に含むと、乳輪を舐めまわし、舌先で乳首を転がし、赤子のように吸いたてる。  
 
「っふぁあああ! やだ、やだあ! だめ、しゃちょ、吸っちゃだめええ!」  
 
キスの時にも味わった、温かく柔らかな肉塊による愛撫は、指でのそれを上回る甘美さで乳首を弄び、  
強烈な快楽と羞恥で動転した陽菜は泣き叫ぶような、それでいて上擦った声を上げ、身体をガクガクと震わせる。  
だが、愛撫すればするほど陽菜が可愛くなると思い込み、意識下では嗜虐的な欲求を満たさんとしている我聞は、  
決して責め手を緩めることは無く、その指で、舌で、徐々に強く、執拗に、陽菜の急所を苛み続けた。  
 
上擦り震える声を上げ、身体ががくがくと揺れるのが抑えられない・・・まさに、陽菜は乱れていた。  
だが、乱れる陽菜には普段とは違う魅力があり、可愛いくて、儚げで・・・  
だからもっと、気持ちよくさせてやりたい―――我聞はそう思わずにいられない。  
 
(優さんによれば、優しく、そしてだんだん強く、だったよな・・・じゃあ、今度は・・・)  
 
我聞としてはちょっとした悪戯心こそあっても、陽菜を愛しいと思うが故の行為、  
だが陽菜にとっては、心の準備が整う前に快楽と言う濁流に呑まれたようなもの。  
気持ちよすぎて怖い・・・そんな彼女に、我聞は容赦なく次の責めを加える。  
既に敏感になってしまっている部分に、爪と歯を、痛みを感じないギリギリの圧力で突き立てる。  
 
「っひあああっ!? や! だめ! だめダメだめえっ! やあ! あ、あ、ああああああああっ!」  
 
片方の乳首を甘噛みされて、もう片方の乳首を二指の爪で挟まれて、鋭すぎる刺激が陽菜の全身を駆け巡る。  
強烈な快感に更に全身を震わせて、泣き叫ぶような喘ぎ声を上げながら、更なる愛撫を受けつづける。  
そして、はっきりと感じる・・・身体の奥で、女としての部分が、どうしようもなく疼かされていることに。  
胸から送り込まれる強烈な快楽に反応して、そこがきゅうっ、と締め付けられるように切ないのだ。  
そして、その切なさは、自分が怯えている強烈な快楽を、貪欲に求めている、そんな感覚だった。  
 
(や・・・私・・・やだ、どうしよう・・・身体、疼いてる・・・でも、なんか怖い・・・やだ、社長・・・)  
 
敏感な部分を執拗に責められ続けているのだから当然の反応なのだが、  
自慰の経験すらない陽菜は初めて知る感覚に酷く狼狽してしまう。  
頭では怯えているのに、拒否しているのに、身体が求めてしまう・・・そんな感覚が、不安だった。  
心が、気持ちが満たされないまま、身体だけが気持ちよくなっていくのが、怖かった。  
 
「だめ! あ、やああああっ! ・・・ほんと、だめえ! わたし・・・おかしく・・・なっちゃぅぁああっ!」  
 
我聞に責め立てられるうちに、身体の奥底の疼きは着実に強まり、  
そこから何とも言えない、身体の内側でざわつくような何か・・・予感のようなものが沸きあがってくる。  
 
(やだ・・・なにか、なにか来る・・・変だ、わたしの身体・・・おかしいです、社長・・・やだ、やだ・・・)  
 
と、突然、我聞の責め手が止まる。  
というより、胸を弄りまわしていた我聞の手と口の感覚が、消える。  
散々に焦らされて突然放置された、という状況だが、身体を焼く快楽の“その先”があることを知らない陽菜は、  
“社長が赦してくれた”という思い込んで、ため息と共に強張らせていた身体の力を抜く。  
我聞はそんな陽菜の顔を覗き込むように見つめて、  
 
「國生さん・・・大丈夫?」  
「はっ・・・はぁ、はい・・・ら、だいじょぶ、です・・・たぶん・・・」  
「そか、じゃあ今度は・・・下、脱がすよ・・・」  
「・・・・・・え・・・?」  
 
我聞の言葉の意味が理解できない。  
下? 何の下?  
が、それは我聞の行動ですぐに理解した、というかさせられた―――彼が、陽菜のズボンのベルトを外したから。  
そしてズボンのホックを外し、ファスナーを下げ、ずるりと腰から引き抜く。  
余りに予想外の自体に呆然としているうちに、ズボンはそのまま足から抜かれて、完全に脱がされてしまった。  
そして引き続きショーツにも手をかけられそうになって・・・  
 
「ちょ、ま、待って! 待ってください社長! いや、やだ、やですっ! い、いああっ!?」  
 
必死で拒絶しようとする陽菜を、身体の芯に直に響くような刺激が襲う。  
ショーツ越しに、秘所を我聞の指がなぞり上げていた。  
 
「わ・・・國生さんのここ・・・すごい・・・濡れてる・・・」  
「・・・え・・・?」  
 
予想外の言葉に、陽菜は言葉が出ない。  
 
(濡れてる? ・・・うそ・・・私が? ・・・そんな!)  
 
「國生さん・・・俺ので、感じてくれたんだ・・・嬉しいな・・・」  
「そ、そんなこと・・・! そんな、違う・・・ちがいますっ!」  
「そう? じゃあ、確かめてみようか・・・ほら」  
「え・・・っひぁあ! や、ちょ、しゃちょおっ!?」  
 
もう一度、ぐに、と指をショーツの上から濡れそぼった“そこ”に押し当てられ、陽菜の身体が跳ねる。  
我聞に知られたくなかった恥ずかしい感覚を、陽菜は言葉よりも雄弁に、身体で表現してしまっていた。  
それが余りにショックで泣き出したいくらいに恥ずかしいが、そんな猶予を我聞は与えてくれなかった。  
恥ずかしがって必死に事実を否定しようとする陽菜の姿は、一層、我聞の嗜虐欲を掻き立てて、  
下着越しに陽菜の秘所を強引にさすり、その身体の奥底に快感を擦り込んでゆく。  
 
「や、あ! うぁあっ! やだ、だめ、だめですうっ! しゃちょ、ほんと、だめえええ!」  
「國生さんのここ・・・どんどん溢れてくるよ・・・やっぱり、感じてくれてるんだね・・・」  
「う、うそ・・・うそです・・・ぅぁあっ! や・・・そんな・・・ひぅ・・・そんなこと・・・」  
「事実を事実として認めないなんて、いつもの冷静な國生さんらしくないなあ・・・」  
「しゃ・・・社長の・・・い、い、意地わ・・・る・・・っひゃあああっ!」  
「そう言われると、余計に意地悪したくなっちゃうな・・・」  
「そ・・・そんなぁ・・・や、うぁああっ!」  
 
不意にショーツを引っ張り上げて、陽菜の秘唇に食い込ませ、陽菜を悶えさせる。  
もはや完全に床の中での主従は決定し、陽菜は我聞の意のままに、乱れ狂わされるばかりだった。  
 
「じゃあ、國生さん・・・続けるから・・・下着、脱がすから・・・腰、浮かして・・・」  
「そ・・・そんな・・・やぁ・・・しゃちょ・・・まって・・・ぇ」  
「ダメだよ、國生さんだって、ここ・・・直に、触られた方が気持ちいいって、思うでしょ?」  
「そんな・・・そんなぁ・・・」  
 
陽菜の哀願を聞き捨てて、我聞は陽菜のショーツに手をかけると、するりと引き下ろす。  
陽菜はろくな抵抗もできず、ショーツは完全に足から抜かれ、秘められていた場所が露わになった。  
肉付きこそ薄いものの均整が取れて、瑞々しいツヤのある肌色は我聞の視線を釘付けにする。  
あまりにじっくり見られるものだから、膝を立てて我聞の視線を遮ろうとするが、  
その膝は押さえられ逆に足を割り裂かれて、そこを余計に晒す羽目になってしまう。  
 
「や! しゃちょっ、だめ! 足、開いちゃいやです! 恥ずかしいです、そ、そんな・・・見ないで・・・」  
「ごめん・・・でも、國生さんのここ・・・すごく、綺麗だよ・・・」  
「そ、そんなぁ・・・や、やだ! そんな、顔近づけないでくださ・・・社長・・・? ちょ、まって、や・・・」  
 
足を開かれて我聞の腕で固定され、そのまま露わになった秘所に顔を寄せられて、  
それだけでも恥ずかしいのに、秘所と顔との距離が、あまりに近すぎる・・・我聞の息がかかって、  
それだけでもびくびくと震えてしまう・・・そんな距離で、されることを考えて、背筋が震える。  
そして、その考えは、見事に的中してしまう。  
 
「優さんのマニュアルをぱらっとめくった時にあったんだ、ここを気持ちよくさせてあげるには・・・って  
 指でもいいみたいだったけど、胸を弄ったとき、舌の方が気持ちよさそうだったから・・・  
 ここも、こっちでしてあげるよ・・・」  
「え、ま、まって、ま・・・っやああああああ! だめ、だめ! ほんと、や、うぁ、ひゃああああああ!!」  
 
ちゅ・・・ちゅうっ、じゅ、ぢゅるる・・・ぢゅっ・・・にちゅ・・・にゅぷ・・・っ  
 
陽菜の濡れそぼった秘所に唇を当てて、とろとろと垂れる愛液を、音を立てて啜る。  
そのどうしようもない強烈な刺激と、恥ずかしすぎる音が、陽菜の脳髄を焼き焦がす。  
 
「や、やあああっ! だめ、らめ、ほんと、しゃちょ、や、いあ、らめ、らめえっ! うぁ、うあああああっ!」  
 
舌で外側の襞をぐるりと舐めまわし、内側の襞にも舌先を這わす。  
絶え間なく蜜を湧かせる狭く深い穴にも舌を軽く突き入れ、身体の内側から陽菜をくすぐる。  
これまでの刺激が子供だましだったかのような、敏感すぎるところへの容赦ない責めに、  
陽菜は悲鳴さながらの、極限まで上擦った声で喘ぎ泣き、頭を、髪を振り乱し、上体を何度も跳ねさせて、  
まさに身も世もなく、といった感じで、乱れに乱れまくる。  
 
「らめ、らめえっ!・・・なにか、くる、きちゃう!・・・やだ、こわれちゃう・・・わたし、こわれちゃうよお!」  
 
我聞の舌で直接に刺激されつづける秘所から子宮を通して今や抑えられない疼きが、  
脳にまで達したかのように頭がチカチカする。  
身体中が、気持ちよすぎる甘い疼きに、流される・・・支配される・・・  
陽菜の反応が、いよいよ激しくなって、我聞にも彼女の限界が近いのが感じられた。  
女の子は快感が限界まで高まると、“イく”ということは、我聞も知っている。  
男が射精するような感じらしいけど、女の子はそういう“区切り”がないから、何度でもイける、とかなんとか。  
曖昧な知識で、それこそ優のマニュアルを見ればさぞかし詳述されているのだろうが・・・それは後でいい。  
陽菜の限界が近い―――それはつまり、イきそうになっている―――今はそれがわかればいい。  
 
「しゃちょ、とめ、とめてええっ! わたし、おかしくな・・・っ、なんか、きちゃうっ、きちゃいますっ!」  
 
ほとんど泣き叫ぶような陽菜の嬌声が、どれだけ切羽詰った状況かを教えてくれる。  
それでも容赦なく、我聞は陽菜の秘所を舌で弄る。  
溢れる蜜を掻き出すように舌を上下に激しく這わせ、その源泉へ突き入れる。  
そうやって激しく責めたかと思えば、今度はわざと焦らすような微妙な触り方で秘唇を撫で這わす。  
 
「あ、ああっ! うああああっ! だめらめらめっ、しゃちょ、もう、もう、わたしいっ、ひ、いひゃあああっ!」  
 
悲鳴のような嬌声は快楽の為なのか、恐怖の為なのか、判断しにくくなってくる。  
だが、我聞はとにかく、陽菜を気持ちよくさせてあげなくてはならないと思い込んでいるから、  
苛め抜いてイかせてあげたら、それが一番気持ちよくなるはず・・・と決め付けて、徹底的に苛め抜くことにする。  
 
「っひああああっ! や!? あ、うあ、うああああっ! っひあ、きちゃ・・・きちゃう、イ、いああああっ」  
 
舌使いをさらに激しくして、乱暴なくらいに強く動かし、陽菜の理性を飛ばす。  
陽菜は乱れ悶え、言う事のきかない身体では抵抗もできず、ただただ快楽の叫びをあげることしかできない。  
何かが来て、どこかへ飛ぶ・・・イく・・・そんな、未知の感覚に翻弄されて、  
無意識にそんな台詞を、何度も繰り返し口走る。  
 
「ひゃあああっ、くるっ! きちゃう! しゃちょ、もう、もうっ! きちゃう、イっちゃう、うああ、やあっ!」  
 
もはや裏声に近い声も、身体全体でガクガクと震える様からも、陽菜が限界なのはわかった。  
限界が近いのなら、限界を迎えさせてあげようと思う  
―――その限界の先こそが、我聞が陽菜に与えてあげたい極上の快楽のはずだから。  
だから、我聞は用意していた、最後の責めにとりかかる。  
それは、極々簡単・・・優のマニュアルにあった  
“ここは弄られると気持ちいいけど、敏感すぎるところだから、本当に優しくね! お姐さんとの約束だよ!?”  
そんなところ―――そこへ指を這わせると、包皮を剥く。 それだけで、  
 
「っひああああ!? らめ、そこ、そこはほんとに、ほんとにらめえええ! しんじゃう、しんじゃいますっ!」  
 
陽菜も、混濁した意識で、次に何をされるかわかったようだった。  
が、そんな台詞を聞いても、我聞は意に介さなかった。  
ただ、陽菜にトドメを・・・絶頂を・・・最大の快感を・・・その為なら・・・  
包皮を剥がされてひくひくと震える敏感すぎる肉の芽に、我聞は容赦なく舌を這わせる。  
這わせて、押し捏ねて、舐め転がして・・・。  
 
「あ、あ、あああああああ!! らめ、きちゃう! イっちゃう、イっちゃ、うあああああ―――――――っ!!」  
 
それが陽菜へのトドメになった。  
 
完全に裏返った声で泣き叫び、背中を仰け反らせて激しく震えて、陽菜は絶頂に達した。  
そして身体の激しい揺れが収まると、仰け反らせていた上体を布団に埋もれさせた。  
表情は呆然として、涙と涎を垂らし、真っ赤に上気した顔に髪を貼りつかせて、荒い息を吐くばかり。  
そのほとんど薄れきった視界に、我聞の顔が映る。  
 
「國生さん・・・その・・・大丈夫・・・?」  
「・・・っ・・・しゃちょ・・・ひどい・・・です・・・わたし・・・こわれちゃう・・・」  
「え・・・も、もしかして、キ、キモチよくなかった? 俺はてっきり・・・」  
「ち・・・ちがいます・・・っ、きもちは・・・、よかったけど・・・でも・・・」  
「じゃあ・・・」  
「しゃ・・・社長は・・・ずっと楽しそうな、ちょっとえっちな顔してて・・・  
 わたしばっかり、はしたない声出させられて、わたしひとりだけ脱がされて・・・イかされて・・・  
 苛められたみたいです・・・・・・全然・・・愛されてるって感じられないですっ!」  
「え・・・で、でも優さんのに、俺が君を気持ちよくって・・・」  
「・・・私の気持ちより・・・優さんの・・・マニュアルのが、大事ですか・・・?」  
「う・・・」  
「前にもありましたよね、こういうこと・・・社長はいつも、ひとりで思い込んじゃって・・・  
 もう・・・これじゃあ、全然進歩してないじゃないですか・・・」  
 
我聞は今更ながらに、自分の見当違いの暴挙に気付いて、愕然とする。  
これでは、陽菜を気持ちよくさせるという自己満足のために、彼女を陵辱したようなものではないか・・・  
 
「た、確かに・・・その・・・す、スマン!!  
 ・・・俺、確かに、君を気持ちよくさせて上げなきゃならないって、そればっかり考えてた・・・  
 君の気持ち・・・君が望んでいること・・・考えようとしてなかった・・・本当に、すまん・・・  
 こんなんじゃ・・・俺、君のことを・・・好きだなんて・・・」  
 
うなだれる我聞を、陽菜は仕事の時のような、厳しい目で見つめていたが、  
その瞬間に、一層険しい目つきをして  
 
「・・・じゃあ、私のこと、嫌いですか? その言葉は・・・嘘でしたか?」  
「そ、そんな訳ない! そんな軽い気持ちじゃない! 本当なんだ!!」  
 
思わず真剣な表情で、叫ぶように我聞は答える。  
それを聞いて、陽菜は思う  
―――そう、わかっていた・・・自分を想ってくれているからこそ、気持ちよくしてくれようとしたのは。  
やり方がおかしいだけで、ちゃんと思いは通じている。  
でも、それでは一方通行、二人の想いは、交わらない。  
自分も、悪かった。  
この人は、残念ながら鈍い人・・・大事なことは、言わなきゃいけない、それは分かっていたハズなのに。  
だから、今度はちゃんと伝えよう・・・私の気持ちを、言葉にして。  
 
「社長」  
「ん・・・?」  
「私のこと、本当に好きだと言って下さるのでしたら・・・私のお願い、聞いて頂けますか?」  
「あ、ああ! それで償えるなら、なんだって!」  
「では、お願いです・・・」  
 
陽菜は腕を伸ばし、自分を覗き込む我聞の首に手を回す。  
厳しかった表情が少し緩んで、少し照れを含んだような、そんな顔になって、そして  
 
「その・・・今度は、私と一緒に・・・きもちよく・・・なって下さい・・・」  
「いっしょに・・・・・・?」  
「・・・私のこと、本当に好きだと思って下さるのなら・・・  
 私は、社長と・・・あなたと・・・感じあいたい・・・愛し合いたい・・・です・・・」  
「そ、それは、つまり・・・その・・・だけど・・・」  
「・・・なんでもしてくださるって、おっしゃいましたよね・・・」  
「あ、ああ、確かに言った、言ったけど」  
「嫌、ですか・・・?」  
「いや、嫌じゃない、全然嫌じゃない! ・・・けど・・・初めてのときは、痛いって・・・」  
「大丈夫です・・・さっき、誰かさんに散々ほぐされましたから・・・・・・多分」  
「う・・・」  
「・・・身体は・・・平気です・・・少しくらい痛くっても、はじめから、覚悟してます・・・  
 本当に、身体だけじゃなくて、気持ちも社長と一緒なら、きっと我慢できます・・・だから・・・」  
 
陽菜の、照れてはいるが真剣な目に、我聞も応えねばならないと思う。  
酷い目に遭わされても、それでも自分を信じてくれている陽菜に、応えねばならないと思う。  
 
「今度は、社長も気持ちよくなれるように・・・私も、頑張りますから・・・  
 今度は、私の心も・・・ちゃんと・・・気持ちよくさせてくださいね」  
「わかった・・・今度は、俺も気持ちよくさせて貰うよ、それで、君にも・・・  
 身体に痛い思いをさせたとしても・・・気持ちは・・・心は・・・俺が必ず、満たすから・・・」  
 
そう言って、我聞は陽菜の前に片手を差し出す。  
その手を見て、陽菜はにこっと笑うと、同じように片手を差し出す。  
 
「・・・約束、ですよ?」  
「ああ、約束するよ・・・」  
 
互いに笑みを交わして、差し出した手の、小指を絡める。  
それは、言葉以上の重みで二人の想いを示す、  
二人だけの神聖な行為・・・  
 
 
 

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