第一研での闘いで、俺達は辛くも勝利を収めたが・・・大きな代償を払うことになった。  
崩壊のさなか、俺は大切な人の手を、掴めなかった。  
失って、初めて分かった・・・その人が、俺のなかでどれだけ大きな存在だったかを。  
 
だから、その、二度と聞けないと思っていた声を電話越しに聴いたとき、俺は何も考えずに家を飛び出した。  
 
「國生・・・さん?」  
「よく来てくれました・・・工具楽我聞」  
 
それは、間違いなく國生さんだった・・・そして、その肩にあるのは、第一研で見た、國生さんの親父さんが装着していたもの。  
ならば話は早い、それさえ壊せば、國生さんは戻ってくる!  
そして一気に距離を詰め、振りかぶり、打ち下ろした俺の拳は・・・固い金属の感触に跳ね返された。  
 
「ふふ・・・情報どおり・・・慌てすぎですね・・・これ、なんだかわかりますか?」  
 
それは、よく覚えていた・・・サッカーボール程度のサイズに縮小されてはいるが・・・忘れるはずが無い・・・”マガツ”  
 
「有効範囲は半径5mほど・・・でも、十分よですね」  
 
ならば、5m以上遠くに遠ざければいい・・・親父さんとは違う、バインダーも無い國生さんなら、力ずくで奪い取れる  
そう思って小マガツへ手を伸ばそうとした俺に、國生さんはマガツを手放し、抱きついて、唇を唇に寄せ―――  
 
「―――――!!」  
 
キス、とか意識する余裕すらなく、気を奪われた。  
あのときのマガツの吸気の比ではなかった・・・立っていられない、俺は、膝をついてうずくまった。  
 
「國生武文は、一人一人、気を吸い出して仙核に込めたそうですね・・・それは、非効率だわ」  
 
蹲る俺を突き飛ばして仰向けに倒すと・・・俺の・・・信じられなかった・・・ベルトを緩め、服を脱がせ・・・  
 
「今のでわかったでしょう・・・肉体を接して、直接に吸い出す方が吸気効率はいいのです・・・深く接する程に、ね」  
 
俺の下半身を剥き出しにして、そして・・・國生さんも、スーツのスラックスをおもむろに下ろし、ショーツすらも脱ぎ去った。  
 
「あら・・・私との交合を拒否するつもりですか・・・無駄ですよ・・・」  
 
この状況で、俺のものはいきり立ちはしなかった・・・当然だ、いくら國生さんでも・・・こんな形で交わることなど、望んではいない・・・  
・・・という俺の意思は、砂上の楼閣のとごく・・・脆かった。  
 
「ふふ・・・ちゅ・・・ちゅぷ・・・ちゅく・・・」  
 
淫猥な響き・・・ありえない行為・・・國生さんが、おれのモノを舌で・・・クチで・・・  
その甘美過ぎる刺激に、俺は耐えることはできなかった。  
 
「呆気ないものですね・・・では・・・貴方の気・・・頂きますね」  
 
呆気なく、本当に呆気なく固くなってしまった俺の上に、國生さんは、恥らう素振りもなく、跨り、腰を下ろした。  
 
「う・・・うああああああ!!」  
 
初めて味わう、女性の、國生さんの中の感触と、  
身体の奥深くから容赦なく気を吸い出される感触に、俺は為す術もなく、翻弄された。  
 
「は・・・あ・・・っ・・・すご・・・・・・くぅ・・・工具楽・・・我也は・・・50人分の気を・・・秘めていたそうですが・・・  
 あなたも・・・流石は工具楽・・・ですね・・・これだけ深く繋がっても・・・すぐに吸いきれない・・・うぁあ・・・」  
 
最悪だった・・・こんな風に國生さんと交わりたくなかったが、容赦なく気が吸われていく・・・  
だが、例え気を全て奪われても、こんな交合は受け入れられないから、精は放つまいと、耐えるつもりだった。  
 
「くふ・・・我慢・・・してますね・・・でも、ダメですよ・・・精を放つときこそ、気も一気に流れでるのですから・・・  
 ね・・・これでも、我慢できますか? ・・・”社長”」  
 
ぞく、と背筋が凍る。  
 
「やめてくれ・・・國生さんの顔で、國生さんの声で、そう俺を呼ぶのはやめろ!」  
「どうしてですか、”社長”・・・無理しないで・・・私の中に、存分に、出してください・・・ね・・・”社長”」  
「やめろ! やめてくれえええ!!」  
 
ダメだった。  
國生さんがいなくなってから、何度も夢に見た、夢で聞いたその声で、そう呼ばれて・・・俺は、抑えられなかった。  
 
「やめろ! やめ、やめてくれ・・・やめ・・・う! うあ、ああああああ!」  
「ひ・・・ひゃ、あはああああっ!! や! しゃちょ・・・! くる! きてるうううっ!」  
 
 
俺は、國生さんの中に、射精した。  
國生さんがいなくなってから気付いた彼女への思いが、全て出て行ったかのような、大量の精が、彼女の中に放たれた。  
同時に、魂が持っていかれるような、虚脱感に襲われた。  
気の大半を、もっていかれたのだと思う。  
 
「あ・・・あああ・・・すご・・・いぃ・・・ねぇ・・・しゃちょお・・・あついよ・・・すごく・・・あつい・・・あれ・・・なに・・・これ・・・」  
 
朦朧とする意識だったが、頬に何かを感じて、なんとか目を開けた。  
さっきと同じ、上気した國生さんの顔が見えた。  
が、さっきとは、すこし違う。  
表情は同じだったけど、何か違う・・・そう、その目から、涙を流していた。  
それが、俺の頬に落ちたのだ。  
 
「なんで・・・なんでなの・・・ねぇ、答えて・・・社長・・・わたし・・・計画のとおりにしてるのに・・・なんで、なんで涙がでてるの!?」  
 
きっとそれは、國生さんの意識の隅の隅に残された、最後の自意識の欠片。  
そこに全てを託して、俺の手は、國生さんの手を探る。  
死に行くものが看取るものの手を探るような、死力を振り絞った手つきで彼女の手を探り当てて、ただ・・・小指を絡める。  
 
ゆびきり―――國生さんの、一番ふかい記憶に訴えるもの。  
 
「―――!!!」  
 
びくん! と彼女の身体は硬直して、動きが停止する・・・・・・あと、三動作。  
残りの気の1/3をつぎ込んで國生さんごと身体を起こして、近くに落ちている小マガツを手にとり、  
残りの気の1/3をつぎ込んでそれを投げ飛ばし、  
最後の気の1/3で  
 
「解・穿功撃―――突貫!!!」  
 
國生さんの肩の装置に、最後の一滴まで絞り尽くした気を込めて、拳を打ち出す。  
・・・そして・・・・・・最後に見えたのは、國生さんの、さっきとは少し違う、見覚えのある、泣き顔だった。  
 
 
「さ、社長・・・力を抜いてください・・・その・・・國生の技で・・・今日こそ社長に気を分けて差し上げますから・・・」  
「い、いや、その・・・なんか、今日もまた、吸われそうで・・・」  
「社長ともあろうお方がつべこべ言わないで下さい! その・・・今日こそは、ちゃんと・・・私の・・・さしあげますから・・・」  
 
 
全てが無事に済んだ後・・・戻ってきたのは妙に積極的になってしまった國生さんと、日々気を吸われ続ける俺の・・・  
ちょっといびつな、でもまあ一応平和な、日常だった。  
 

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