ベッドに一人の男性が横になって、夜の闇で碧の鮮やかさを無くしている窓の外の木々を見つめている。  
青若とタリスマンの平行使用と我聞との戦いにより、彼、十曲才蔵の肉体はオーバーヒートのようなものを起こしてしまっていた。  
我聞との戦いの後、彼は丸三日間眠り続け、目を覚ました後も満足に動くことも出来なかった。  
だが、安静にしていれば一週間ほどで元通り体を動かせるということでこのようにベッドの上での生活が続いていた。  
 
「ふぅ……退屈だなぁ」  
 
 ため息がてらにつぶやく才蔵、ふと自分の手のひらを見つめる。  
しびれがずっと続き、握力は1キロあるかないかまでに低下していた……  
指先どころか全身の筋肉が溶けてしまったかのような疲労感に染まり、寝返りを打つだけでもくたびれてしまうほどに。  
ぐっ、と握り拳を作ろうとしても指の第一関節が少し曲がる程度で、それ以上は動かない。  
 
「はぁ……だめだなぁ……だが天才たるボクならこの逆境を越えた時さらなる天才になれるはずだ!」  
「あ、若様!ご飯をお持ちしました!」  
 
 何度目かのため息をつくが根拠の無い自信を掲げていると、可愛らしい声が彼の耳に届く。  
うまく動かない体で、体力を削りながらその声のほうに向くと、眼鏡をかけた大きな瞳が可愛らしい少女がお盆におかゆを載せて笑顔で立っていた。  
コトリ、とベッドの横の机にお盆を置くと、ベッドをリクライニングさせて才蔵の体を起こす。  
 
「はは、いつもすまないね!千紘君」  
「それは言わない約束ですよ、若様」  
 
 一昔前のコントのようなやりとりをしながらその少女、千紘はおかゆをれんげにすくい取ると小さな口でふー、ふー、とそれを冷まして才蔵の口元に運んでいく。  
 
「は……はい、若様……あ、あーん」  
「あーん」  
 
 何度やっても千紘にとっては気恥ずかしい行為だったが、大好きな若様のためにしてあげられる数少ないことであるという想いが彼女を大胆にさせる。  
そもそも千紘は動けない才蔵の世話において、もっと恥ずかしい行為もしているのだから、ご飯を食べさせるなどは序の口のはずなのだが……  
 
「ふぅ……ごちそうさま」  
「お、おそまつさまでした」  
 
 食欲の方は旺盛なようで全て平らげた才蔵に安心した千紘は、ハンカチで才蔵の口元の汚れをふき取っていく。  
だが、次にしなければならないことを考えて頬を朱に染めて空になったお盆の上の皿を見つめながら部屋を一端出る、  
再び彼女が才蔵の部屋に入ってきたとき彼女の手には暖かそうな湯気をたてるお湯が入れられた桶と、タオルが抱えられていた。  
 
「そ、それじゃ、体の方も拭きますので、し、失礼します……」  
「ああ、頼むよ」  
 
 顔を真っ赤にしながら才蔵の寝巻きのガウンの前を広げる。  
青シリーズに耐えうるよう鍛えられた体を千紘はカッコいいな、と思いながらも恥ずかしさに正視できずに目を瞑りながら才蔵の体を拭いていく。  
才蔵はその千紘の表情を見つめながら、我聞との最後の戦いまでは感じた事も無かった感情を思い出していた。  
我聞との戦いのさなか、自分を見つめていた彼女の瞳から零れた涙。  
それを見た瞬間、才蔵は自分の心臓を握りつぶされたような痛みを感じた、何かは分からないが彼女のこんな涙はもう見たくないと願った。  
あのときから彼にとって千紘は大事な部下という立場ではなくなっていた。  
 
「千紘君は可愛いなぁ」  
「……………っ!!???!!?!」  
 
 ストレートに言ってしまう所が彼らしいといえば彼らしいのだが、千紘にとっては思考回路を焼ききるには十分な言葉だった。  
声にならない悲鳴を上げて、これまで以上に顔を真っ赤に染めて混乱する千紘、タオルをぎゅううっと握り締めたまま硬直している。  
 
「あ、あ、あの若さま、わかっ、若様、そのあの、あのっ」  
 
 混乱した頭ではまったく言葉にならない、その様子も可愛らしいと思いながら才蔵は言葉をつむいでいく。  
そのいつものおちゃらけたような顔でもなく、我聞との戦いの際の悲壮な表情でもなく、マジメな表情に千紘は見とれる。  
 
「千紘くん、本当にありがとう……君と山岡君が支えてくれたおかげで僕はこれまでやってこれたし、これから頑張れると思う」  
「い、いえ!!若様は天才ですから!山岡さんはともかく私なんか居ても若様を助けられることなんて何も……ひひゃっ!?!?」  
   
 そんな風に謙遜する千紘があまりにも可愛らしくて、才蔵は腕を伸ばして千紘を抱きしめる。  
抱きしめるといっても体力の低下した才蔵には千紘の小さな背中に手を回す程度であったが、彼女の頭をヒートエンドさせるに十分だった。  
ドキン、ドキン、ドキン、と心臓が破裂してしまうのではないかと思うほど、千紘の鼓動が強く、早くなる。  
過呼吸になったかのような動悸すら覚えて息苦しくなってくる、若様といつかこんな風になることを願ったはずなのに。  
 
「千紘くん……」  
「あ……」  
 
 千紘の小さな肩に頭を預けた才蔵に耳元で名前を囁かれた瞬間、ゾクゾクと感覚が背中を走り、緊張していた千紘の体から力が抜ける。  
 
「わか……さまぁ…」  
 
 甘えたような声をあげて千紘も才蔵の背中に手を回して抱きしめる。  
ふと、肩から才蔵の頭の重さが消えたと感じた瞬間、才蔵が体を移動して千紘の目を見つめていた。   
体を預けるかのように千紘にもたれかかると才蔵は唇を奪った。  
 
「ん……」  
 おそらくキスをした事など無いであろう千尋を驚かせないように、軽く触れるだけのキス。  
千紘の方もこのようなことを突然されたら、いつもならば頭がゆだってしまっていたのだろうが、驚くほど冷静に才蔵のキスを受け入れる。  
才蔵は柔らかい千紘の唇を感じながら、唇を舌で割り割いて、彼女の中に差し込みたい衝動に駆られる。  
そのままあと10秒続けていたら才蔵はその衝動に身を任せていただろうが、突如震えだした千紘の体に唇を離した。  
泣いているのか?と声をかけようとした瞬間彼の目に映ったのは。  
 
「ぷはっ!…はぁっ、はぁっ、はぁっ…はぁーっ…はぁーっ」  
 
 肩で息をしている千紘を見て、「ああ、キスをしている最中ずっと息を止めていたのか」と気付いて、その可愛らしさに才蔵は微笑む。  
「千紘くん、鼻で息をしてもいいんだよ」  
「え?あ、そ…そうなんですか?」  
「というわけで続きといこうか!」  
 二カッ、と笑顔を浮かべて千紘の唇を再び吸う才蔵。  
「え?…ぁ……んぅ……」  
 
 ふれあいながら、そっと舌で千紘の唇を愛撫すると、ぎゅうぅっと才蔵のガウンを握り締める千紘の手に力が入っていく。  
ちろ、ちろと唇を何度もなぞりながら彼女の緊張を解こうとする。  
 
「ん……んふ……ン……」  
 
 鼻にかかったような千紘の声があまりにも可愛らしくてゾクゾクと才蔵の背筋に走るものがある。  
しばらくその声を聞きながら愛撫を続けていると、彼女の唇が遠慮がちに開いて、才蔵の舌に触れ合おうと千紘の舌がおずおずと差し出される。  
先ほどまで自分が受けていたように、才蔵の唇に舌を当てていく千紘。  
 
(私……こんなこと……若様と……いいのかな……)  
 
 十曲の当主たる才蔵に対して、彼の下で働きつづけることを誓った部下でしかない自分がこのような事をしていいのか分からなかった。  
だが、このままこうしていたい……その想いばかりが今の彼女を支配していた。  
徐々に才蔵のガウンを掴んだ手の力が抜けていく。  
遠路がちに這わされていた千紘の舌に、才蔵が自分の舌を突如絡みつかせた。  
 
「んふぅッ!!?」  
 
 ビクン、と体を大きく揺らせて離れようとするが才蔵は精一杯の体力を振り絞って千紘の小さな体を抱き寄せて離すまいとする。  
ぬちゃぬちゃ、と絡み合う水音が耳について羞恥心に真っ赤に染まる千紘の顔。  
 
「んふ……ひゃう…んん……」  
 
 千紘の小さな口腔を舐めまわして、容赦なく彼女の中を侵食する。  
無抵抗な舌に舌を絡みつかせられ、舌の裏側を舐められることに、快感が確かに千紘の中に広がっていく。  
つぅ……と才蔵と千紘の唾液の混合された液体が千紘の唇から零れる。  
 
「ふぁ……んぅ……わか…さま…んっ……んっ」  
「千紘くん……かわいいよ……千紘くん…」  
 
 鼻にかかった小さな声で鳴き続ける千紘の声に才蔵の興奮が高まり、ずるり、と彼女の口腔中に舌を差し込んで更に千紘を貪る。  
再び力いっぱいガウンを握り始めた彼女の小さな手の平が熱く汗ばんでいるところに、自分の手で優しく包み込みながら愛撫を始める。  
前歯の付け根の裏のあたりや上あごに舌を這わせる度にビクン!と体を揺らして「んふぅ!」と鳴く。  
 
「ひゃう……あ……あふ……ん…………」  
 
 千紘は才蔵の舌が触れるたびに声を上げて、彼の愛撫にされるがままになっていた。  
 
たっぷりと才蔵は千紘の口内を楽しんだ後、おもむろに唇を放した、つう…と銀糸が垂れた。  
千紘はアゴの力を失ってしまっているのか、「はぁ……っ、はぁ……っ」と、だらしなく舌を垂らして荒い息を吐いている。  
とろんとした瞳で、熱病にかかったかのように頬を上気させて、唇からは舌と才蔵と自分の唾液を垂れこぼしている千紘。  
その表情は、普段のあどけなく幼い印象を受ける彼女の表情とはかけ離れた扇情的な表情だった。  
 

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