〜〜〜〜〜〜〜〜〜  
 その夜。  
 
 お茶を飲んでまったりした工具楽家。  
台所からお茶菓子をもってきた果歩が陽菜に恐る恐る尋ねてきた。  
「あのぅ、陽菜さん?」  
「?なんでしょうか、果歩さん?」  
 恐る恐る寄ってくる様子が可愛らしくて、思わず、くすっと微笑が漏れる。  
「あとで数学教えてもらえないでしょうか。」  
「あぁ、私でよければ、いつでも。」  
「あーよかったぁ…私、数学苦手なんです。」  
「陽菜おねーちゃーん!!私もー!!私もおしえてー!!」  
「!お、おね?わ、私は珠さんのお姉さんでは…」  
「うん!でもおねーちゃんだし。おねーちゃんってよんでいい!?」  
(おね、おね、おねーちゃん…)  
「そ、そうですね、わ、わかりました。」  
「私も義姉上とよばせていただきます!」  
「は、はぁ、わかりました。」  
 にぎやかな工具楽姉弟。兄弟のいない陽菜としても、「姉」とよばれることが嬉しい。  
精一杯「お姉ちゃん」の威厳を作ろうとしているが、緩んだ頬が成功していない。  
 
 結局、お茶の後は果歩、珠、斗馬を交えて4人で勉強会と相成った。  
「ここは、こうして…補助線を引くと…」  
「あ!こことここが合同なんですね!」  
「そのとおりです。」  
わかりの早い果歩に、教える方もやる気がでてくる。  
(珠さんと斗馬さんは勉強しているようには見えませんが…)  
二人でドラえもんの絵描き歌を歌っている姉弟を見ていると、横の果歩が小さな声で  
話し掛けてきた。  
「あの…陽菜さん?」  
「あ、はい。今度はどこですか?」  
「あ、いえ、そうではなくて…」  
言いよどんだ果歩が頬を染めてうつむく。  
(かわいいですね…)  
「なんでしょう?」  
「わ、私も…お義姉ちゃんってよんでいいですか?」  
 真っ赤にうつむいたまま、目だけ上目遣いでおどおどと聞いてくる。  
「果歩さん…わ、私でよろしければ…か、かまいませんよ。」  
「お、お義姉ちゃん。」  
「…はい。」  
はにかんだ笑顔の果歩と、包み込むような笑顔の陽菜。  
(あぁ、これが兄弟なんだ…)  
そこには暖かな空気が流れていた。  
 
「おふろあがったよー!」  
「はいはい。湯冷めしないうちにとっとと寝なさい。ほら、斗馬も!」  
『はーい』  
「じゃ、陽菜さん、お風呂どうぞ。」  
「いえ、もう遅いですし、果歩さんお先に。」  
「うーん…あ!」  
言うなり、先ほどまでの威厳が嘘のように果歩がもじもじし始める。  
 
「あの…『お義姉ちゃん』?」  
「はい?」  
「お風呂、一緒に入ってもらえませんか?」  
「えっ?」  
(そうか、果歩さん、お母さんと一緒にお風呂に入った記憶があまり…)  
「構いませんよ。それじゃ、一緒に入りましょうか!」  
 
かぽーん  
 
「あ、お義姉ちゃん、背中流します!」  
「え?あ、いや、あの」  
「…だめですか?」  
(うっ…ダメですね…この目には勝てません…)  
「いえ、お願いします。」  
「はい!」  
ごしごしごし…  
実の姉妹以上にむつましい二人の姿が洗い場にあった。もちろん全裸。  
 
「陽菜さんの体ってきれーですよねー!」  
「え?いぇ、そんなことはないですよ。」  
「そんなことありますよー。腰とかも、きゅって。」  
さわっ  
びくっ  
「あ。陽菜さん、わき腹弱いですか?」  
「い、いえそんなことわ…」  
つんっ  
「ひゃんっ」  
びくっ  
そんなことはないと言う傍から、わき腹をつつかれて反応する。  
「うふふ…」  
つつつぅぅっっっ  
「ひゃぁんっ!もう!果歩さん!」  
「あはは、ごめんなさーい。じゃ、洗いますね〜」  
「あ、はい、よろしくお願いします。」  
 果歩は柔らかめのあかすりタオルにたっぷりとボディーソープをつけ、少し  
あわ立ててから陽菜の背中をなぞるようにこする。  
 つぅぅー  
(んっ…くすぐったい…)  
触れるか触れないかじれったい刺激。そのあとに少し力を込めて、背中を撫でられる。  
「わき。洗いますね。力抜いてください。」  
すううっ  
「あんっはぁん!」  
 果歩も調子に乗ってきたらしい。陽菜の反応のいいところを重点的になぶるように  
タオルを這わせる。  
 
「次は胸を…」  
つつつぅぅ…  
「ふぁぁ…」  
果歩が胸のすその方からゆっくりとなで上げるように洗ってくる。  
その手が頂点まで達した時。  
ぎゅっぎゅっ  
「んぁ、はぁ…」  
陽菜の胸を両手で思い切り揉み込んだ。  
「さて、次は、足っと。」  
「か、かほひゃん?」  
「はい?」  
「も、もう結構です。自分で洗いますので」  
「ぇー」  
「 自 分 で 洗 え ま す の で 」  
ずごごごごごごごご…  
「…ハィ…」  
(くっ…陽菜さんの小宇宙が…ここはこれまでか…)  
 
「じゃ、電気消しますねー」  
「はい」  
 今日は女三人。我聞がいないので一人で寝る斗馬が多少かわいそうだが、川の字に  
並んで寝る。  
「ごめんなさい。陽菜さん。お客さん用の布団、干すのを忘れていたのでお兄ちゃん  
 の汚いふとんで」  
「そんな、汚いなんて…そんなことありませんよ?」  
「臭いとかしません?」  
「大丈夫ですよ。」  
「すぴーーー」  
「ふふふ…珠さん、よく眠ってますね…」  
「じゃ、私たちも」  
「えぇ。おやすみなさい」  
 
 布団に包まると、やはり看病で疲れていたのか、あっという間に睡魔が襲った。  
(社長の…匂い…お日様みたいな…あったかい…社長に…包まれてるみたい…)  
 
深夜。  
 
「斗馬と私も『おねえさん』と呼ぶときには心の中で『義姉』という字をあててます  
 …珠はわかってるか微妙ですが。ターゲットは今、お兄ちゃんの布団に包まって  
 気持ちよさそうに寝てますし、嫁入り前に家に馴染んでもらう作戦は完全に進行中。  
 ついでに、お風呂でちょっといたずらして、いろいろあおっておきました。  
 ところでそちらの準備は?」  
『OKOK.こっちの仕掛けも進行中。明日には決行だよ〜』  
「ふふふ。圧倒的ではないか!我が軍は!」  
『…果歩ちゃん。あんた年いくつ…』  
 
 
入院3日目朝  
「工具楽さーん。おはようございます。朝ご飯ですよー。」  
「あ、おはようございます。」  
 入ってきたのは陽菜ではなく。この病院の看護師さんの服を着た女性。  
 ぼんきゅっぼーーーんな、ないすばでぃ。なかなかセックスアピールに溢れた人  
である。  
「お?話には聞いてたけど。」  
言うなり、ベッドに座って、我聞ににじりよる。  
「ふふ。なかなかかわいい男の子ね?おねえさんけっこう好みよー?」  
「な、な?!」  
 じりじりと我聞に近づいていく看護師さん。両腕をベッドについているので、  
ぼぼーんと飛び出した胸が強調して見える。  
「ふふふ。お姉さんがいいことおしえてあげよーかぁ?」  
「な、ナニヲデスカ!?」  
「ふふふ。それとも、昨日お見舞いにきてた彼女と、自分達でお勉強してるの  
 かなぁ〜?」  
「い、いや、彼女は…」  
じりじり…じりじり…  
 我聞危うし!名もない看護師さんに食べられてしまうのか!?そもそもこの  
シリーズ、ヒロインは陽菜ではなかったのか!  
 
 ぷちん  
 ぺちっ  
「「あっ!」」  
 
 両腕で圧迫された胸に押し出されるようにボタンが跳ぶ。跳んだボタンは我聞の額に  
張り付いた。  
 
「「…」」  
「えーと。…た、太陽拳。」  
 
おおうけ。  
 
 我聞の一言に、張り詰めた緊張感はあっという間に消えてなくなった。  
 
しばらくして。  
 
「おはようございます社長。」  
「おはよう。國生さん。」  
いつもの挨拶。しかし休日なので場所は学校ではなく、病室。  
「あら?もう朝ご飯は食べられたんですね?」  
 例によって着替えが入っているらしいバッグを持って、窓際の衝立の方に近づき  
ながら、我聞が朝食のお盆を確認する。  
「ん?あぁ、朝飯は看護師さんが食べさせてくれたよ。」  
 看護師さんの服の一番上のボタンがはじけ跳んでいたため、「あーん」をする度に、  
黒いレースのブラと胸の谷間が…  
(は、いかんいかん…)  
 はちきれんばかりのお尻と、はちきれてしまった胸を思い出し、また元気になりつつ  
ある息子に気がついて、自制する。  
 
(外の景色でも見て…)  
と、目をやった方向に例の衝立、今度は陽菜の生着替えの影に目を奪われる。  
 ぱさっ…しゅる…ごそごそ  
衣擦れの音が「すぐそこで着替えてますっ!」と自己主張。当然息子も自己主張開始。  
なにせ、両手を怪我しているため、入院してからこっち、息子を構ってやっていない  
ため、だいぶ焦燥の度が深まっている。  
(自らの肉体を…コントロールするのが仙術…これも修行…)  
 
 「あら?テレビが来たんですね?」  
瞑想にふけっていた我聞の意識を、陽菜の声が現実に引き戻した。  
「あぁ看護師さんがおいていってくれたんだ。暇だろうからって。」  
 今日の陽菜も果歩から言われた工具楽家の伝統に則ってナース姿。ただし、  
今日はピンクの布地。サイズも普通。ピチピチだったりはしない。  
 と、陽菜の足元から頭まで動いていた我聞の視線と、陽菜の視線が重なる。  
「…あ、あの…どこか、おかしいでしょうか。」  
「い、いや、あの、うむ、に、似合ってるよ、うむ。」  
二人とも顔を赤く染めたまま、微妙な沈黙が走った。  
 
 沈黙を破ったのは、絹を裂くような悲痛な叫び声と、布が破れる音だった。  
 
 今朝看護師が置いていったというテレビから、流れ出したのは、短い黒髪の  
可愛らしいナースが、スカートを破かれている光景。  
『いやぁぁぁやめてーーーや、やぁ!みないで!いやぁ!』  
『へへへ…看護婦さんすっげー奇麗な足してんじゃん?もっと見せてくれよほらぁ!』  
『やぁぁぁぁっ!!』  
 
「「……」」  
「…社長。」  
…ゴォォォォォォォ!!!  
さっきまでの雰囲気はどこへやら。はるるんブリザードが吹き荒れる。  
「い、いや、まってくれ國生さん!俺じゃない!」  
「…リモコンは、どこです?」  
「も、持ってないです!」  
「…そうですか。しらを切るわけですね。」  
 
ぐぁばぁ!!  
 前触れなしに陽菜が掛け布団をまくった!  
 
じぃー…  
(布団の下にはない…ん?)  
「社長。」  
「は、はいっ!」  
「それはなんです?」  
「へ?」  
「ごまかさないでください!それです!」  
びしっ!!  
っと指差した先には、  
 
我 聞 の 息 子 があった。  
 
(くっ!不覚!!一度はおさめたのに、このビデオが原因か!…いかん、ここで  
 元気なままでは、セクハラ社長になってしまう!落ち着け、落ち着け〜まずは呼吸を  
 ととのえ…)  
「ひっひっふー…ひっひっふー…」  
「社長。リモコンを渡していただきます。」  
「へ?」  
一言断るなり  
むぎゅ!  
「くぁwせdrftgyふじこlp;@!!!!」  
「しゃ、社長!?」  
「こ、國生さん、そこは…」  
(くっ!まずいっ、収まりかけていたのにっこの刺激はっ!)  
 いきなり追い詰められた我聞だが、陽菜は陽菜で、苦しみ始めたように見える我聞と、  
とてもリモコンとは思えない生々しい感触に動転していた。  
(社長が苦しんで…まずは落ち着こう…)  
「ひっひっふー…ひっひっふー…」  
(まず私がつかんでいるもの。リモコンではなかったみたい。)  
じーーーーー  
(こ、これは…あ、も、もしかして…そうか、こんな感触なんだ…熱くてって  
 そういう冷静さじゃなくて…あ。ピクピクって…)  
「き…」  
「き?」  
「きゃゃゃゃゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」  
 
ぎゅぎゅっ!  
叫んだ拍子に、我聞のものを両手で思い切り握りしめてしまった。  
 
「んおおおおおっ!?」  
「んっきゃーーーー!!!」  
 握りつぶされそうなくらい思い切り握られた我聞の声にならない叫びと、さらに  
一回り大きくなった感触を感じた陽菜の声が病室にハモった…  
 
「す、すみません…」  
「い、いや、こちらこそ…」  
 目をあわせられない二人。そして、落ちる沈黙。しかしその沈黙は、なまあたたかい  
というか…少なくとも冷たいものではなかった。  
 
が。  
『いやぁだめ、抜かないでぇ』  
『上の口でもおしゃぶりしてくれよ。看護婦さんよぉ』  
『んはぁ…んっんっんっ…』  
『ぐちゅ、ちゅば…』  
『…』  
 
 休日の午前中の病室に、ナース物のAVの音が響き渡る。どうやら、患者に襲われた  
後、嫌がりながらも愛撫に感じてしまい、今は、フェラをしているようだ。  
 
(くっ、この状況でナースものとは…昨日は…ブルーだったんだよな…いや、俺は  
 何を!?)  
我聞としては、昨日からの國生の格好もあるし、ましてさっきの刺激もある。だいぶ  
辛い状況になってきた。  
 
(胸を…ん…)  
 画面上で胸をいじられているナースはご丁寧にも、陽菜と似たり寄ったりな  
プロポーション。  
 陽菜は陽菜で、どうしても昨日の風呂場のことを思い起こされてしまう。  
 
「…チャンネル。変えます。」  
「あ、あぁ、たのむ」  
カチ。  
『やぁ、あん、あ、だめ、奥、っちゃうっいっちゃう!出してっだしてぇ!!!』  
 チャンネルを変えた先ではやっぱり短い黒髪の女子高らしき制服を着た女性  
(割とロリ系)が、やはり病人と思われるパジャマ姿の男に刺し貫かれ、絶頂に  
達したところだった。  
 
「「…」」  
 
カチ。  
『あんっあんっ!』  
カチ  
『ちゅばっじゅるっ…やぁ、さわっちゃらめぇ…』  
 
 「…AVだけのようですね…」  
しばらくチャンネルを変えてみたが、相変わらずAVしか映らない。現在、女子高生  
が電車で痴漢されている。  
 しかもビデオのジャンルが、俗に言う「女子高生物」「ナース物」「秘書物」に  
偏っているあたり、明らかな作為を感じる。幻のタイトル、「女子高生秘書の秘所  
危機一髪」が入っていたりするのはさすがだ。  
 さらに、巨乳系とか、オネエ系がなく、清純っぽく見える髪の短い女の子しか  
起用されていないあたり徹底している。  
 
「お、俺じゃ…」  
「社長でないのはわかっています。」  
頭痛をこらえつつ、ため息をつく。  
 
「しょうがないですね。電源を切って、部屋の隅においておきます…」  
「あぁ、俺が持つ…」  
「社長。けが人だと言う自覚をしてくださいね?」  
ヒュオォォォォォォ  
「…ハイ」  
 
 コンセントから引っこ抜き、テレビの画面側に回ってテレビを抱える。背中側には  
我聞のベッド。  
 取っ手のないテレビの底面をつかむために前かがみの姿勢となり、我聞の方にお尻  
を突き出し力を入れた途端。  
「よいっしょ」  
 びりぃぃ  
 するっパサっ  
 
 ナース服のスカート部分が破けた。破け目はそのまま広がり、スカートだけでは  
なく、背中部分にも奇麗に裂け目がはいり、重力に従いぴらっと左右に分かれる。  
 
 つまり  
 
陽菜の後半身は背後からは丸見え。  
 
(あ、國生さん、今日のブラは白なんだ…あー、下も白で統一してるんだな。  
 太腿にからんでるのは、ガーターベルトっていうんだっけか、それにストッキングも  
 白。うん、今日の國生さんは全部白だな。ん?)  
「パンツに…しみ…」  
 
ぺたんっばっ!  
 我聞がふっと声にだしたのを聞きつけたか、はたまた状況をようやく把握したのか、  
床にぺたっと座り込み、その体勢のまま、陽菜が勢いよく振り返った。  
 
「社長…」  
「…なにかな?國生さん」  
「みました…か?」  
「いや、」  
「みました…ね?」  
「いや、あの」  
「みました…よね?」  
「…はい」  
(くっ、國生さんブリザードがくるかっ!?)  
思わず身構えた我聞だが、次に目に入ったのは陽菜の潤んだ目だった…  
 
ずり…ずり…ごそごそ…がさがさ…ジー…  
 
 胸元で服がずり落ちないように固定しながら、我聞に背後を見せないように  
ずりずりと移動した陽菜は、そのまま衝立の影に移動。  
 例によって着替えの影を観察されつつ着替え…  
「…本日はこれで失礼します。」  
がちゃばたん  
 潤んだ陽菜の目と、迅速な行動に、言葉を発するタイミングを逸していた我聞は、  
陽菜が出て行ってようやく、衝立の近くに目をやりながら声を発することができる  
ようになったのだった。  
「…國生さん…ガーター落としてるぞ…」  
 
【工具楽屋女子寮の一室】  
「ってことで、朝早く起きて、看護師に化けたのはそういうことなのよねー。  
 大変だったのよーあの特殊マスクと肉襦袢。」  
『さすがにあくどいですねぇ…こちらは、お義姉さんのナース服に細工をして  
 おきました。ぱっと見には全くわからないはずですが。  
 さって、病室の二人はどうなってますか?』  
「ふふふ…監視カメラも一緒にとりつけ…あれ?」  
『あれ?』  
「…監視カメラ。設置忘れてた。」  
『…』  
 

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