日曜日。工具楽邸。  
 
 陽菜と優は、休日だということで朝から工具楽邸を訪れていた。  
 
ぴんぽーん どたばたばたばた  
慌しい足音と共に我聞が玄関に出てきた。  
「はいはい。お?國生さんに優さん?どうかしましたか?」  
「あ、社長。おはようございます。」  
「はいはいはいはいはい!お兄ちゃんはあっち行って!」  
応対している我聞の後ろからやってきた果歩が、我聞を押しのける。  
 
「お?おぉ?」  
「申し訳ありませんが…今日は果歩さんにお願いがありますので社長は  
 ご遠慮ください。」  
「女だけの秘密だからねー」  
「さぁほらっ!珠たちと遊びに行ったいった!!」  
 どうやら、果歩との間で話がついていたらしい。我聞with珠、斗馬は家から  
蹴り出されてしまった。  
 
「よかったんでしょうか…無理に社長を追い出してしまったような…」  
「いいのいいの。どうせ全然気にしてないんですからうちの唐変木は。」  
 
果歩、正解。  
「おおーっし、来い!珠、斗馬」  
『必殺!』「空!!」「愛!!」「台風!!!!」  
どぐあしゃぁぁぁ…  
 
 一方工具楽家。果歩が2人を自分の城、即ちキッチンへと案内していた。  
「しっかし、はるるんが料理が苦手だとはねぇ」  
「意外ですねぇ」  
「料理の本どおりにやっていると思うんですが…」  
「ところで、何で急に料理を?」  
「私の料理を自分でたべる分には構わないんですが、人にたべていただくのは  
 ちょっと…」  
『ふーーーーーーん』  
 語尾をにごらせてうつむく陽菜を、不思議そうな目で見つめる二人だった。  
 
「じゃ、はじめましょうか。」  
『はいっ!よろしくおねがいします!』  
果歩。先生モード発動。  
(陽菜さんが嫁にきた時に、料理ができるのと出来ないのとでは大違いだから  
 今のうちにきっちりと!!)  
とかはあまり考えていないと思う。多分。  
 
「まず、玉ねぎはみじん切り。1/6個分でいいですよ?」  
「ふふふ…こんなこともあろうかと!水中メガネを!!」  
「優さん。たまねぎを事前に冷やして、包丁をよく研いで置けば、目は痛くなり  
ませんよ?」  
「陽菜さんよく知ってますねぇ」  
「…水中メガネの立場は…」  
 
「次にボウルに豚ひき肉150gを入れて練り、醤油小さじ2、塩コショウ少々を  
加えて混ぜ、パン粉大さじ2杯、溶き卵半分、それにさっきの玉ねぎを加えて  
さらによく練ります。」  
こねこねこねこねねりねりねりねり…  
 
「それが出来たら、ピーマン3個を縦半分に切り、種を取ります。内側に小麦粉を  
薄くまぶしてくださいねー」  
すとんすとんすとんっ  
ぱらぱらぱらぱら  
 
「次にひき肉を6等分して、ピーマンに詰め、表面に薄く小麦粉をまぶします。」  
ぎゅっぎゅっぱらぱらぱら  
 
「最後。 フライパンにサラダ油を熱し、ピーマンを肉の面を下にして並べ入れ、  
弱火にしてふたをし、3〜4分蒸し焼きにする。色づいたら裏返し、さらにふた  
をして4〜5分蒸し焼きにして火を通します」  
じゅじゅーーーーー  
 
「く〜っきんっ!く〜っきんっ!く〜っきんっ!クッククック  
 あなたに〜とどけぇ〜、恋の味〜♪」  
「…優さん?…何の歌ですか?」  
「お皿にもって辛子としょうゆを添えて…出来上がり!」  
 
「で、できましたっ!」  
「よかったねーはるるん。」  
「じゃぁ、試食してみましょうか」  
『いただきますっ』  
 ぱくっ  
『……』  
「はるるんには悪いけど…しょっぱいね。塩おおすぎかも」  
「それに…なんだか粉っぽいです…ごめんなさい。」  
「あ…やっぱり。」  
 ばつの悪そうな3人。うまく作れなかった陽菜はさすがにしょげている。  
「果歩さんはこうなるとわかっていたんですか?」  
 
「えーっと、作ってる所を見てて思ったんですが。陽菜さん、適量とか、少々って  
いうのが苦手なんじゃないかと思うんですよ。真面目にレシピの通り作るから、  
100gとかだといいんですけど、大体これくらいっていう加減がまだ出来てない  
みたいですね。」  
「…おっしゃる通りです」  
「へぇー。よくみてるねぇ…かほちん」  
「…優さんも見ててくださいってば。」  
 
「それで、どうすればいいでしょうか!」  
「んー」  
口元に指をあてて考えていた果歩だが、しばらくして話し出す。  
「誰かに作ってあげるんだったら食べる人の顔を想像することですね。」  
「顔…ですか?」  
「私は作ってる時に、この料理を食べてくれる人の笑顔を想像するんです。どんな  
顔して喜んでくれるかなって。ただ作るんじゃなくて、愛情を込めてつくるって  
いうのは一つのポイントですね。」  
「…なるほど。愛情…ですか…愛情…愛情…」  
 めもめもめも…愛情というところにぐるぐる丸をつけているらしい陽菜の顔が  
少し赤い。  
「あとは反復練習あるのみ!です!」  
 
数時間後  
 
「…陽菜さん。」  
「はい!」  
ゴクリ…  
「…もはや教えることはありません。」  
「あ、ありがとうございます果歩さん!!」  
「たいした上達振りですよほんとに。塩コショウの加減もいい感じです。」  
「はい!あ、もうこんな時間…これから買い物に行ってきますので私は…」  
「美味しいものを食べさせてあげてくださいね!」  
「はい!!」  
と、うきうきわくわくという感じでメモを胸の前に抱きしめた陽菜は意気揚揚と  
帰っていった。  
 
「かほちーん。わたしはぁ〜?」  
「…頑張りましょうか。」  
「とほほ…やっぱり作ってあげる人がいないとだめなのかにゃー…」  
「…ん?」  
「…おや?」  
 
『はるなさん(るん)は、誰に作ってあげるつもりなわけ?』  
 
翌日の昼休み。  
 
「お話中失礼致します。社長。」  
「はうぅぅぅぅぅん!!!こっくしょーさーーーーーーーん!!」  
 いつものように佐々木がヒートアップしているが、陽菜は緊張した面持ちで  
わき目もふらずにつかつかと我聞の前に歩いて行く。  
「こ…くしょう…さぁぁぁん…ぁぅ…」  
 
(我聞。お前國生さんと何かあったのか)  
(…いや特に何も…ないと思うが)  
(だがなんか機嫌悪いみたいだぞ)  
 
「社長!」  
「お、おう!?な、なにかな?国生さん?」  
 ひそひそ話をしている所に決死の面持ちの陽菜が迫る。  
 
「あ、あの、その」  
「???」  
 
「お、お弁当を作ってまいりましたのでっ、その…食べて…いただけませんか?」  
 言うなり両手で可愛らしいお弁当の包みを差し出した。顔は伏せ気味だが、  
上目で我聞の反応をうかがってはいる。頬真っ赤。  
 
「こ、國生さんのっ!てっ手作り弁当!!?はぅぅぅん…」  
 佐々木轟沈。  
周囲に立ち上る緊張感!  
 
しかし、  
「お、おう。わざわざ作ってくれたのか?ありがとう。」  
 何のてらいもなく受け取るこの男はやはりバカだった。  
 
ぱかっ  
おおおおおおー  
 
 蓋を開けられたお弁当に周りからのどよめきが起きる。  
そこには色とりどり、ボリュームとバランスを保ったお弁当があった。  
 
「ご飯の上に…ピンクのハート…はうぅぅぅん…」  
落ち着け佐々木。そんなものは乗っていない。  
 
「いただきます!」  
「ど、どうぞ!」  
 その中で、一段と存在感を感じさせるピーマンの肉詰めに我聞の箸が伸びる。  
 陽菜の目は真剣勝負に向かう格闘家のようだ。  
 
 我聞の箸はピーマンの肉詰めを掴み、そして…  
 
 口に入れた!!  
 
…もぐもぐもぐ  
 
『……』  
昼休みにも関わらず、もはやクラス中が異様な緊張感の中で沈黙に沈んでいる。  
約一名轟沈しているのは誰も気にしない。  
 
「…うん。うまい。さすが國生さんだ。」  
 
ぱぁぁぁぁぁぁぁぁ!!  
陽菜の顔が一気に明るくなった。  
「ほ、本当ですかっ!?」  
「お、おう、美味しいよ。ほんとに。」  
「あ、あ、ありがとうございますっ!!」  
「お?おぅ?」  
 
「ところで、國生さんはご飯は?」  
「え?えぇ、今から戻っていただきます。」  
その手には、ちょっと小ぶりなお弁当箱。  
「んー、どうせだから國生さんも一緒に食べないか?」  
「え?」  
 
一瞬宙に視線をさまよわせた陽菜だが  
「ではお言葉に甘えて、私も、失礼します」  
我聞の向かいの空いた席(佐々木の席だったりする)で同じ中身のお弁当を  
ひろげはじめた。  
「うまいうまい」と連呼する我聞を幸せそうに眺めながら…  
 
昼休み後。  
「のわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…げふぅ」  
 陽菜が我聞たちと共に昼ご飯を食べている間、轟沈していた佐々木が復活。  
轟沈していなければ陽菜と一緒に昼食を取れたことに気づき、再び燃え尽きた…  
 
一方夕食時の工具楽家では…  
「…お兄ちゃん。お弁当。手をつけていないように見えるんだけど?」  
ギラリっ  
「い、いやすまん!果歩!実は…」  
「ほほう。社長たるものが言い訳するわけ?」  
「ぐぅっ…しゃ、社長たるもの言い訳などせん!」  
「うむ。じゃ、今日のお兄ちゃんの夕飯はそのお弁当。珠ぁ〜斗馬ぁ〜!  
 今夜はスキ焼きにするからぁ〜♪」  
「な、なにぃぃぃぃぃ!!?」  
…結局。昼食の時のいきさつが果歩に伝わることはなかった。  
 
夜も更けて。  
「お料理って…嬉しいですね。」  
 パジャマ姿でクッションを抱きしめてベッドの上に座る陽菜の前には「秘書の心得」  
と書かれた一枚の紙片。下のほうに「工具楽我也」との署名がある。  
 数条にわたるその心得の中にある、「一、秘書たるもの、社長に「うまい」と  
言われる料理を作ること。たまには弁当など持って行くと完璧」とかいう一文を  
眺めながら、陽菜はガッツポーズをとった。  
「秘書としても一歩成長しました。果歩さんには今度お礼をしないと♪」  
 
 もちろん陽菜は知らない。この紙片が、GHKの「秘書とはこういうものだよ  
陽菜さん大作戦」がボツになった時に、廃棄し忘れた偽造文書(果歩作)だとは。  
 
「ところで、優さん。陽菜さんが誰にご飯を作るのかは…」  
『…それが探り出せないんだよぉ〜』  
「くっ!GHK最大のピンチか!!」  
 
 結局、事の真相がGHKに伝わることはなく、陽菜がだれにご飯を作りたいのかは  
永遠の謎となった。  
 

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