「もういっぺん言ってみろ、コノヤロー!」  
「ぐふっ」  
 
 炎天下の解体現場に女の怒声と男のうめき声が重なり合う。  
 ボディに強烈なパンチを食らい膝を折る少年の前には、触れれば火傷しそうな  
闘気を全身から発散させているポニーテールの小柄な少女がいた。  
 
「い、いきなり何するんですか、保科さんっ」  
「先にあたしを侮辱したのはお前だ、我聞!」  
「俺はただ、必死に木の上の猫を掴まえようと背伸びしている保科さんを見かねて、  
『良かったら肩車して上げましょうか?』って声をかけただけなのに……」  
「それが侮辱だってんだ! このセクハラ社長!」  
「うわっ!」  
 
 手加減抜きの回し蹴りを慌てて避けた少年は、工具楽屋二十五代目の若社長、工具楽我聞。  
 そしてかわされた蹴り足を軸に後ろ回し蹴りで我聞を吹っ飛ばす少女が、愛称ほっちゃん  
こと保科ますみハタチであった。  
 見かけは近所の女子中学生と大差ないますみだが、そのややきつめながらも整った顔立ち  
とは裏腹に、空手の有段者で暴走族の特攻隊長も務めていた過去を持つ筋金入りの姐御だ。  
 しかしそんな彼女にとっても自分の幼い体型は大きなコンプレックスのようであり、  
ゆえに粗忽者の我聞などはしょっちゅう余計な口を利いては、ますみのきつい一撃  
をお見舞いされていた。  
 
「いてて……保科さん、ひどいですよ」  
「おら! いつまでへたり込んでやがる! さっさと起き上がって働け!」  
「じ、自分が叩きのめしたくせに……」  
「あん? なんか文句あんのか?」  
「いえ……」  
「ふんっ、あたしに口答えするのは十年早いんだよ! ほらほら、キビキビ動け。  
あーあ、全く使えねーよな、お前は。親父さんみたいな頼れる社長になりたいらしいけど、  
そんなんじゃ一生かかっても無理だろうな」  
「うぐっ……な、なんの! これしきでへこたれてたまるか! 俺はみんなから頼り  
にされる社長になるんだ!」  
「おーおー。無駄な努力だって、いつになったら気づくのかね」  
 
 ますみは高笑いの声を上げると愛用のユンボに飛び乗り、歯噛みする我聞から離れていった。  
 
「く、くそう……」  
「相変わらずいじめられてんな、我聞」  
 
 悔しがる我聞に話しかけるロンゲの男は、ますみの職人仲間のヤスだった。  
 
「まあ、あれもほっちゃんなりに鍛えてやってるつもりなんだからさ。お前もほっちゃん  
を見返すつもりで頑張るんだな」  
「はい! いつか猫耳メイド服着せて『申し訳ありませんでした、ご主人様』とか言わせてやります!」  
「いや……そこまでしろとは言わんけどよ……」  
「……ところでヤスさん、前から聞きたいと思ってたんですけど」  
「ん? なんだ?」  
「ここだけの話、本当は保科さんって俺より年下なんでしょ?」  
 
 どこからともなく飛んできたスパナが我聞のこめかみを直撃した。  
 
「痛つつ……コブができてる。保科さん、運動神経だけでなく耳も良かったんだな……」  
 
 その日の仕事を終えて本社に戻ってきた我聞を迎えたのは意外な人物だった。  
 あまり趣味がいいとは言えない風貌のその男は、鷹揚に笑ってソファから立ち上がった。  
 
「よう、工具楽の若旦那、久しぶりだな。元気にしてたか? ……って、元気って様子じゃないな、こりゃ」  
「あ……リクさん? 帖佐理来さんですよね?」  
「おう、光の仙術使いのリクさんだぜ」  
「一体どうしたんです、今日は?」  
「ちょいとこわしの仕事で工具楽屋の近くまで来たんでな。挨拶がてら立ち寄らせてもらったんだ」  
「それはお疲れ様です」  
「疲れてんのはお前さんだろ……なんだ、怪我してんのか? 解体業ってのは仙術使い  
のお前でもへばるほどきつい仕事なのか?」  
「い、いや、これはですね……」  
 
 我聞は現場におけるますみとのいざこざをリクに語って聞かせた。  
 まだまだ自分は修行が足りないと反省する我聞の対面で、リクは呆れたようなため息をついた。  
 
「お前、駄目だよそりゃ」  
「駄目って……何がです?」  
「我聞、お前さんは社長なんだ。どこの世界に雇われ職人に顎で使われる社長がいる」  
「それを言われると……」  
「そもそもお前は男だろうが!」  
「はあ……男ですけど?」  
「その保科だっけ? まだ若い女の子だそうじゃないか。それなのに男のお前が  
殴られてちゃ駄目だろ。むしろ逆にこっちの方が上だって力関係を無理やりに  
でも分からせてやるくらいじゃないとな」  
「あの……リクさんってフェミニストじゃありませんでしたっけ?」  
「ああ、俺は世界一、女性に優しい仙術使いだと自負してるよ」  
「枠が広いのか狭いのか分かりませんね」  
「我聞、お前は勘違いをしている。女性に優しくというのは何も女性のわがままを  
看過しろということじゃない。時には厳しく叱ることだって必要なんだ。そう……  
それは血を吐くほどに辛い試練かもしれん。しかし敢えて! 女性という気高い  
生きた宝石を愛してやまないからこそ、敢えて心を鬼とするのだ!」  
「……そんなもんですか?」  
「ああ、そんなもんだ」  
「それで具体的にどうすれば?」  
「こませ」  
「は?」  
「こませ、こましや我聞」  
「いや……意味分かんないし」  
「女なんて一発犯っちまえば大人しくなんだよ!」  
「なにエロ漫画の悪役みたいなこと言ってるんですか!」  
「経験豊富な、こましやリクさんを信じろ。そうだな、俺はお前も知ってる女性を相手にしたこともあるぞ」  
「俺とリクさんの共通の知人で女性って言ったら……工具楽屋の人たちは除くとして、  
かなえさんや雪見さんくらいしか」  
「そのどっちもだ」  
「地獄の鬼も裸足で逃げ出すほどたちの悪いあの二人をですか!? すごい、尊敬します!」  
「危うく俺の大事な一物をなます切りにされるとこだった」  
「負け犬じゃないですか!」  
「ただでさえ黒いのにもっと黒くなっちまった」  
「消し炭に!?」  
「……さなえ婆さんのテクニックはすごかった」  
「ストライクゾーン広っ!」  
「我聞、やっぱり女性を無理やりってのは感心しないぞ」  
「あんたが言い出したんでしょ!?」  
「珠ちゃんは元気か?」  
「帰れ」  
 
 現場の仕事を控えた日曜の早朝。  
 我聞が妹の果歩から昼食の弁当を受け取って出社すると、先に事務所にいた森永優  
がパソコンからひょいと顔を上げてこちらを見た。  
 
「おはよう、我聞くん」  
「おはようございます、優さん。他のみんなはまだ?」  
「うん。あ、さっき陽菜ちゃんから連絡があってね。今日は自分は現場に顔を出せない  
から、待ってないで一人で行ってくれって、我聞くんに」  
「了解です」  
「今日も暑くなりそうだけど頑張ってね」  
「任せてください、社長ですから!」  
「あはは、その意気その意気」  
 
 しかし暑いと言われて、ふいに我聞は事務所の隅にある冷蔵庫が気になった。  
 自分の仕事に戻った優は、我聞の行動に特に注意を払う様子を見せない。  
 我聞がなんとなく冷蔵庫の中を漁っていると、冷凍庫にカチカチに凍った  
ペットボトル飲料を発見した。  
 
「ラッキー、これなら休憩時間にはちょうど良い具合に溶けてるな」  
 
 タオルで包んだ冷凍ボトルを弁当の入ったバッグに押し込む。  
 そのままドアを開けて外に出た途端、階段を駆け上がってきた妹弟たちと衝突しそうになった。  
 
「きゃっ、お兄ちゃん!?」  
「っと、果歩? 珠に斗馬も……お前ら、どうして本社に?」  
「え? あ、えーと、ちょっと優さんに用事が……」  
「仕事の邪魔して迷惑かけるんじゃないぞ」  
「わかってるって、お仕事頑張ってね」  
「おう、じゃあ行ってくる」  
「うん、行ってらっしゃい」  
 
 兄を笑顔で見送った果歩は、その姿が見えなくなるや一転、邪悪な翳を帯びた目線を  
GHK(我聞陽菜くっつけ委員会)の同志であるデルタ1こと森永優に向けた。  
 それに気づいてキーボードをいじる手を止めた優は、眼鏡のふちを光らせ、  
にやりと唇の端を吊り上げた。  
 
「さて……お兄ちゃんも行ったところで。優さん、例の物できてますか?」  
「もちのロンよ。ちゃんとこの中に昨日から凍らせて……」  
 
 いそいそと冷蔵庫を覗き込んだ優の動きが固まった。  
 事態の異様を察したGHKの面々もぞろぞろと集まってくる。  
 
「優さん、どうしたんです? ちゃんと作ってくれたんですよね、惚れ薬」  
「……正確には惚れ薬じゃなくて媚薬なんだけどね」  
 
 媚薬を飲ませた我聞と陽菜を密室に二人きりにでもすることで、無理やりにでも  
既成事実を作ってしまおうというのが今回のGHKの狙いであった。  
 
「結果的に妊娠でもしてしまえば完璧ですよね!」  
「その完璧な作戦に水を差すようで悪いんだけど……」  
「うん? どうしたんです? 二人を拉致って密室に全裸で監禁する準備はばっちりですよ!  
もちろん子作りの様子もしっかりと実況隠し撮りする方向で……」  
「いや、無いのよ、無くってるの。私が作ったペットボトル入りの超強力媚薬」  
「なんでぇっ!?」  
「うん……なんでだろ?」  
「また作ってください!」  
「滅多に手に入らない材料使ってるから無理」  
 
 しきりに首をひねる優と、ツインテールを振り回して泣き叫ぶ果歩であった。  
 
「おっそーい!」  
「ぶふっ」  
 
 現場に到着するなり、さっそく我聞にますみの飛び蹴りが炸裂した。  
 靴跡を顔面に残したまま、我聞もさすがに抗議の声を上げる。  
 
「お、遅いって、まだ仕事は始まってもいないでしょう!?」  
「下っ端は先輩の誰よりも早く現場に来てるもんだろーが!  
世の中舐めてんのか、この……クズ社長が!」  
「く……クズ……」  
「ああ、そうさ! お前はクズだ! カスだ! ミジンコだ!」  
「そ、そこまで言うことないでしょ!」  
「なんだその目は? あたしは先輩だぞ。この業界で先輩に盾突くってのが  
どういうことか分かってんだろうな」  
「だ、だったら言わせてもらいますけど、俺は社長です!」  
「それだって親の七光りだろうが」  
「そ、そんなこと……」  
「違うって言い切れるのか?」  
「う……うう……」  
 
 さすがに見かねたヤスが仲裁に入る。  
 
「ほっちゃん、ちょっと言い過ぎだぜ。我聞だって十分頑張ってるんだから……」  
「ふん!」  
 
 気まずそうに顔を背けると、ますみは肩を怒らせながら立ち去っていった。  
 
「……今日の保科さん、なんだかいつにも増して厳しいですね」  
「親父さんの形見のユンボにいたずら書きをした馬鹿がいるみたいでな。  
それでずっとカリカリしてんだ」  
「それでとばっちりが俺に?」  
「まあ、それだけお前に気を許してるってことじゃないのか?」  
「……もうちょっと現実味のあるフォローしてください」  
「いや、案外、可愛い弟みたいに思ってくれてるかもしれないぞ?  
いくらほっちゃんだって、誰でもポンポン殴ったりしないからな」  
「はあ……」  
「あ、今の話、ほっちゃんにはオフレコな?」  
「オフレコも何も、俺がそんなことを本人の前で口にしようものなら命が無いと思います」  
 
「おい我聞、休憩時間だ。あたしたちの昼飯買ってこい」  
「はいはい、保科さんはサバミソ弁当とウーロン茶ね。  
ヤスさんとカンジさんもいつもと同じでいいですか?」  
「毎回悪いな我聞」  
「いえ、後輩ですから当然です」  
「あたしの腹の虫が10鳴る前に戻ってこいよ、下っ端」  
「はいはいっ」  
 
 やがて弁当屋のビニール袋を両手に、息を切らせた我聞が作業場に戻ってきた。  
 
「か、買ってきました……」  
「おー、ご苦労」  
 
 ますみたちに弁当を配り終えた我聞も、バッグから妹の手作り弁当を取り出す。  
 ところが一緒に用意したはずのドリンクが見当たらなかった。  
 
「あれ……? 確かに凍らしたのをバッグに入れてたのに……」  
 
 何気なくきょろきょろと周囲を見回す我聞。  
 こくこくと喉を上下させるますみの手にあったのは、我聞が本社の冷蔵庫から持ってきたペットボトルだった。  
 
「な、なに人の物を勝手に飲んでるんですか! しかも一切の悪びれも無く堂々と! すっげー男らしい!」  
「不味いな、これ。やっぱ自分の飲むわ」  
「その上、駄目出しされた!? うわー、もうほとんど残ってないじゃないですか!」  
「お前が帰るのを待ってる間、喉が渇いちまったんだよ」  
「保科さん!」  
「分かった分かった、そう怒るな。じゃあ、あたしのを半分飲めよ」  
 
 すでにキャップを開けて口をつけていたウーロン茶のボトルを、ますみは我聞に差し出す。  
 
「ほら、早くしろ」  
「あ、はい……いただきます」  
 
 それを面白そうに見ていたヤスがぼそりと囁くように言った。  
 
「……間接キスか」  
 
 口の中のウーロン茶をぶほっと吹き出す我聞。  
 ますみの顔面は焼けた溶岩のように赤くなった。  
   
「な……ななななっ!?」  
「ヤ、ヤスさん!?」  
「こ、この馬鹿野郎!」  
「痛ぇっ! なんで俺を殴るんスか!?」  
「黙れ! こ、このエロ社長!」  
 
 木蔭で横になって昼寝をしている我聞。  
 その足元には森永印の空のペットボトルが転がっていた。  
 
「確かに不味かったな、これ……。まさか腹壊したりしないだろうな。  
さっきから下腹の辺りが熱いんだけど……」  
 
 その熱さの原因が優特製の媚薬であるなどと我聞には想像すらできない。  
 大の字に手足を広げて、そよ風に身を任せていると、困惑した表情のヤスが近づいてきた。  
 
「なあ、我聞。ほっちゃん、どこ行ったか知らねえか?」  
「え? あれ……そういえばさっきから姿が見えませんね」  
「仕事の打ち合わせがあるんだけどな……どこで何してんだかホント」  
「あ……じゃあ、俺、ちょっとその辺見てきましょうか?」  
「おう、頼むわ。俺は午後の準備しとくからよ」  
 
 我聞はますみの姿を求めて現場周りをさ迷いながら、生真面目な彼にしては珍しく愚痴をこぼしていた。  
 
「何も言わずにいなくなるなんて保科さんも困った人だな。これじゃ本当に躾のなってない中学生みたいだ」  
 
 ふいに先日のリクとの怪しい会話が脳裏をかすめた。  
 
「むう……なんだかリクさんの言ってたことが分かるような気がしてきたぞ。  
そうだよな、女性云々はともかく、躾のなってない子供にお仕置きをするのは当然だものな。  
それが保科さんのためになるのなら、たまには社長としてガツンと一発やってやるさ」  
 
 一体どうしたことだろう、普段ならば女性に手を上げることなど考えつきもしない  
我聞であるのに、下腹から全身に広がる火照りに理性までも支配されたかの如く、  
強く拳を握りしめるのだった。  
 
 その後もますみを捜し続けた我聞は、解体建築の裏手にある物置小屋の前までやって来た。  
 建物の翳になった周囲は夜のように暗く寂しげで、猫の子一匹いそうにない。  
 物置小屋の扉は何十年も昔から誰も踏み入る者がいなかったかのようにびっしりと錆が浮いて歪んでいた。  
 
「無駄足だったかな」  
「んっ……んくっ……あっ……」  
 
 引き返そうとした足がぴたりと止まる。今のは確かにますみの声だった。  
 我聞の視線が寒々しい色の物置小屋に注がれる。  
 よく見れば、鍵がかかっているとばかり思っていた扉に微かな隙間が空いていた。  
 我聞は溜まった唾を飲み込むと、扉に貼りつくようにして、隙間から物置の中を覗き込んだ。  
 
「はっ……あん……んんっ……」  
 
 口から飛び出しかけた叫び声を、我聞は間一髪で押し殺す。  
 薄暗い物置小屋の中、ますみは壁にもたれて立っていた。  
 しかしその様子が尋常ではない。  
 生地の厚い作業着を足元までずり下ろして、Tシャツと下着だけの格好になったますみは、  
熱病に浮かされたように息を荒くして、もどかしげに自分の股間をまさぐっていた。  
 我聞は金縛りにあったように、その痴態から目を離すことができない。  
 ますみはむせぶような喘ぐような声を漏らしながら、自身の陰部をパンティの上から  
くちゅくちゅといじっている。  
 縞柄のパンティは水底に落としたようにぐっしょりと濡れており、溢れる愛液は  
ますみの白い太ももを伝って、床に点々とした幾つもの染みを作っていた。  
 
「なんであたし……こんな昼間から……。やだ……指が止まらない……あんんっ……」  
 
 それが媚薬の強力な効能とはつゆ知らず、ますみは貪欲にエクスタシーを求めて指を動かす。  
 
「んうっ……はうっ……気持ちいい……気持ちいいよぉ……っ」  
 
 一心不乱に自分を慰めるますみを凝視しながら、我聞は己の分身もまた灼熱の  
鉄棒のように硬く逞しく尖っていくのを感じていた。  
 無意識の内に強く身を乗り出した我聞の肘が、音を立てて扉を突いた。  
 それまで熱く上気していたますみの顔が一瞬にして真っ青になる。  
 
「だ、誰だ!」  
 
 顔を見られていないのだからこのまま逃げればいい、などとは考えも及ばない  
ところが、我聞という少年の美点であり欠点だった。  
 扉を開けてすごすごと現れた我聞を前に、ますみの両目は驚愕に見開かれる。  
 
「が、我聞……お前、まさかずっと覗いて……」  
「あ……いや、これは……」  
「こ、このエロ社長! 今度という今度は許さねえ!」  
「ちょ……保科さん、こんな狭い場所で暴れたら危な……!」  
「きゃ……!」  
 
 足首に絡んだ作業ズボンのことを忘れて蹴りを出そうとしたますみは、  
我聞を巻き込む形で転倒してしまう。  
 だが咄嗟に我聞がクッションになって庇ったために、かすり傷一つ負うこともなかった。  
 大丈夫かと声をかけようとした我聞だが、言葉は途中で掻き消える。  
 密着した女性の身体の柔らかさに反応した少年のペニスは、ぎちぎちとズボンを  
押し上げていきり立っていた。  
 ますみの濡れた秘唇を眼前にして、我聞はごくりと生唾を飲み込み、汗と愛液の  
混じった卑猥な匂いに脳みそを揺さぶられる。  
 
「み、見るんじゃない!」  
「あ……ご、ごめんなさい」  
「さっさと離せ馬鹿! お前の変な病気が移る!」  
「なっ……た、助けてあげたのにそんな言い草はないでしょ!」  
「誰も頼んでねーよ、この覗き魔! みんなに言いふらしてやる!  
工具楽屋の社長は覗きが趣味の変態だってな!」  
「お、俺は覗きなんて……! ただ勝手にいなくなった保科さんを捜しに  
来ただけで、そもそもこんな場所であんなことしてる方が非常識じゃ……」  
「うるさい! 下っ端のくせに生意気言うな!」  
 
 ますみの小さな拳が、がつんと我聞の頬骨を打った。  
 ただでさえ媚薬に酔って崩れかけていた我聞の理性は、それが引き金と  
なったことで、もはや完全に砕け散った。  
 
 ぺちん、と我聞の平手がますみの頬を張った。  
 
「いい加減にしてください、保科さん」  
「な……何しやがるっ」  
「俺にも我慢の限界があるんです。……やっぱり保科さんにはお仕置きが必要みたいですね」  
 
 
 我聞はますみの小柄な身体をひょいと持ち上げると、その四肢を拘束するようにして  
背後から抱きすくめた。  
 
「ひゃっ……ど、どこ触ってるんだ! やめろ!」  
 
 振りほどこうと暴れるますみだが、媚薬で動きが鈍っている上に、そもそもの  
腕力で我聞に勝てるはずがなかった。  
 
「保科さんこそ、さっきはどこを触ってたんですか?」  
「ど、どこって……」  
「教えてください……こんな寂れた物置小屋で下着姿の女の子が一人で何をしてたんですか?」  
「ふ、ふざけるな! 本気で怒るぞ!」  
「じゃあ、俺が答えを教えてあげます」  
 
 ますみの股間に伸びた我聞の指先が、パンティに浮いた割れ目をほじくるようにして蠢いた。  
 その刺激だけでますみは小さな嬌声を上げる。  
 
「あんんっ……や、やめ……」  
「ほら……ぐしょぐしょに濡れてますよ。どうしたんですか、これ?  
おしっこでも漏らしちゃったのかな?」  
「う……うう……っ」  
「一人でおしっこもできないんですね。だったら俺が手伝ってあげます」  
「な……っ」  
 
 我聞はますみの両足に下から手を回して抱え上げると、大人が小さな子供に  
させるように正面に向けて大股を開かせた。  
 
「ほら、しーしーって。これでも妹たちの躾で慣れてるんですから」  
「い、いやっ! や、やめろよ馬鹿っ!」  
「暴れると落ちちゃいますよ……どうしても『やめてください』って言えないんですね」  
「へ、変態っ!」  
「ええ、ええ、どうせ俺は変態ですよ。先にそう言ったのは保科さんじゃないですか」  
 
 悔しそうに口を閉じるますみを床に立たせた我聞は、ズボンとシャツを脱いで下着姿になるよう命じた。  
 服を脱ぎながらもちらちらと外への脱出路を窺っているますみに気づいて、我聞は失笑する。  
 
「逃げますか? 大声を出しますか? どっちも無駄だと思いますけどね。今の保科さん  
を力で押さえつけるのは簡単だし、ここからじゃとても人のいる場所まで声は届かない」  
「なんだよ……なんでこんなことすんだよ……お前、別人になっちまったみたいだぞ……」  
「昨日の俺も今日の俺も何も変わっちゃいません。でも、それを言うなら今の保科さん  
だって別人みたいに……」  
「……」  
「いや……なんでも。それにしても保科さんの下着の趣味は、とても二十歳の女性  
のものとは思えませんね」  
「う、うるさいっ……あたしの勝手だ!」  
「そのスポーツブラとパンティ、うちの中学生の妹も似たものを持ってますよ。  
いや、小学生の方だったかな? しかしそんな子供の履くような下着をエッチ  
な汁でぐっしょりと濡らして……保科さんは本当に淫乱なんですね」  
 
 屈辱と羞恥と芽生え始めたばかりの恐怖心でますみの身体は震えていた。  
 我聞は床に落ちていた麻のロープでますみの手首を後ろ手に縛り上げる。  
 そして身体を壁に押し付けると、彼女の控えめな膨らみを保護するブラジャー  
を乱暴にたくし上げた。  
 
「やっ……み、見るな……!」  
「女の胸は男に見せるためにあるって、ヤスさんが言ってましたよ」  
「う、うるさい……! やっぱりお前は最低のエロ社長だっ!」  
 
 小さいながらも形の整った乳房を、我聞はぎゅっと鷲掴みにした。  
 
「痛っ……」  
「貧乳は感度がいいってよく言いますけど、本当のところはどうなんでしょう?」  
 
 両手でふにふにと乳房を揉みしだく。  
 低い丘の上にぽつんと乗っかったキュートな乳首を、我聞は親指の腹でいじくり倒した。  
 舌先でれろれろと舐め回し、唇でちゅっちゅと吸い上げる。  
 それらの刺激に反応して、桜色の乳首はたちまちむくむくと顔を起こした。  
 
「あははっ、面白いですね」  
「ふ、ふざけんなっ……あたしの身体はお前のおもちゃじゃないぞ!」  
 
 涙目になりながらも決して心を折られないますみに、我聞は感心さえしていた。  
 だからこそ、これを機会に、この生意気なチビ女に徹底的に仕返ししてやりたいと、  
我聞はその隠れた嗜虐性をますます募らせた。  
 
「……保科さん、キスしてもいいですか?」  
「え……っ」  
「駄目ですか?」  
「そ、その舌噛み切ってやるからなっ!」  
「……じゃあ下の口の方で我慢しておきます」  
 
 我聞はますみのパンティを引っ張り下ろすと、外気に晒されたピンク色のクレバスに躊躇なく唇を近づけた。  
 ますみは慌てて足を閉じようとするが、我聞の腕力がそれを許さない。  
 
「やっ……馬鹿! そんなところ舐め……あんんっ!」  
 
 じゅるじゅると音を立てて、我聞の舌が艶やかな粘膜の上を這いずり回る。  
 ますみの両腿に頭を挟まれる形で、我聞は花びらとその中心を愛撫し続けた。  
 
「保科さんのおまんこ……とてもいい匂いがしますよ」  
「や、やめろ……そんなこと言うな……んくっ……ひんんっ」  
 
 パンティをぐしょ濡れにしてなお、泉から湧き出る愛液の量はとどまるところを知らず、  
我聞の顎先からも雫となって滴り落ちていた。  
 ますみは脳髄に直接、電気プラグを突き刺されたような衝撃に激しく身体を震わせた。  
 
「ああああっ!」  
「ん……ぷはっ……イっちゃいましたか?」  
「はぁ……はぁ……」  
 
 ぐったりと脱力して崩れ落ちるますみを我聞は抱き止める。  
 
「自分だけ先に気持ちよくなるなんてずるいですよ……ちゃんと俺も満足させてくれないと」  
「ん……。え……何……?」  
 
 我聞は自分のズボンを下ろすと、絶頂を経たことで意識を朦朧とさせているますみ  
に後ろから覆いかぶさった。  
 
「あ……や、やだっ……」  
 
 我聞の意図に気づいて慌てるますみだが、しっかりと腰を掴まれて身動きが取れない。  
 
「入れますよ」  
「ま、待って!」  
 
 屹立した我聞の剛直が水音を立てて、ますみの膣口に潜り込んだ。  
 
「あううううっ!」  
「くっ……きつ……っ」  
 
 一瞬、亀頭に何かが引っかかったような感触を覚えたが、我聞はそのまま構わずに力技で押し進めた。  
 
「ひぎっ、痛い! 痛い痛い痛い痛い痛い!」  
「え……?」  
「やだぁっ! 痛いっ! 抜いて! 抜いてぇっ!」  
 
 日頃の不遜な態度からは考えられない、ますみの突然の狂態を、我聞は唖然と見つめていた。  
 
「……保科さん、まさか処女?」  
 
 自分も人のことを言えた義理ではないが、なんとなく彼女は喪失済みだとばかり思っていたのだ。  
 
「そんなに痛いですか……」  
 
 破瓜の痛みに必死で耐えているますみは、無言で何度も首を縦に振る。  
 ぼろぼろと涙をこぼしているますみの耳元で、我聞は独り言を呟くように口を動かした。  
 
「でも、俺だっていつも保科さんに殴られて痛い思いをしてたんですよ」  
「ご……ごめんなさい……」  
「……何か言いましたか? 声が小さくてよく聞こえません」  
「ごめんなさい……あ、謝るから……許して……」  
「抜いて欲しい?」  
「う……うん……お願い……」  
 
 期待を込めて懇願するますみに、我聞は穏やかに微笑み返した。  
 
「嫌ですよ」  
 
 奮い立つ肉棒をさらに奥へとねじ込む。  
 
「うあああああっ!」  
 
 耳朶を打つますみの悲鳴が心地よい。このまま彼女の胎内で果ててしまいたいと強く  
願う我聞だったが、屋外から響く声がそれを妨げた。  
 
「おーい、ほっちゃーん! がもーん!」  
 
 どうやら我聞まで中々戻ってこないことを不審に思ったヤスが一人で捜しに来たようだ。  
 当の二人が物置小屋にいることまでは気づいていないのだろうが、ヤスの声は確実に  
こちらへと近づいてきていた。  
 
「あ……ヤス……」  
 
 ヤスの呼びかけで現実に引き戻されたますみの表情に、いつもの負けん気の強さが微かに甦る。  
 声を返そうと顔を上げるますみだが、すぐに躊躇した様子で口を閉じた。  
 
「どうしたんです? ヤスさんが近くにいるのに助けを呼ばないんですか?」  
 
 我聞は平静そのものの態度で物置の扉を見つめている。  
 
「できるわけありませんよね。男に後ろから犯されて血を流してるこんな姿じゃあ……」  
 
 我ながらひどい台詞だと我聞は思う。  
   
「でも、ひょっとしたらヤスさんは物置の中まで捜しに来るかもしれませんよ」  
 
 この危機的状況を意に介した風もなく、我聞は楽しそうに笑っている。  
 ますみがその心中を理解できずに戸惑っていると、我聞はいきなりますみの  
膣内から自分の肉棒を引き抜いた。  
 
「きゃうっ」  
 
 勢い余って、床にぺたりと尻餅をつくますみ。  
 そして我聞は再びますみを抱え上げると、例のおしっこポーズを取らせた。  
 
「ひっ」  
「昔ね、妹たちが自分で用を足せないほど小さかったときに覚えたんですけど、  
女の子はここを押してやるとおしっこがよく出るんですよ」  
 
 我聞の熱い指先が恥丘の上にある排尿のツボをくにくにと刺激する。  
 途端に膀胱から堰を切ったように流れ出ててくるものをますみは強く意識した。  
 
「はぅ……くぅ……う、嘘……。お、お願い……トイレ……行かせて……」  
「扉を開けた目の前に、俺に抱えられて小便している保科さんがいたら驚くだろうな、  
ヤスさん。俺に犯されてるよりもこっちの方がずっと絵的に面白いと思いません?  
なんならヤスさんにも混ざってもらって、さっきの続きをやってもいいですね」  
「や、やめろっ、やめろぉっ! な、なんでこんなことすんだよぉっ!」  
「その顔が見たいんです」  
「んんぅっ……か、顔……?」  
「いじめられてる保科さんはとても可愛いから」  
「なっ……」  
 
 二人を呼ぶ声の主はすでに数メートルの距離にまで接近していた。  
 ますみはぶるぶると背中を震わせながら、必死に尿意に抗っているようであった。  
 
「我慢することないのに」  
「うるさい、変態め!」  
「……」  
 
 我聞は親指で排尿のツボを刺激し続けたまま、残る指でますみの陰核をいじりはじめた。  
 
「ひゃん! あっ……や、やめっ……んううっ」  
 
「あまり大声出したら気づかれちゃいますよ。いや……その方がいいのかな……?」  
「馬鹿……馬鹿ぁ……っ」  
 
 そうやってじゃれ合っている内に二人を呼ぶ声は遠ざかっていった。  
 
「あ……どうやら行っちゃったみたいですよ。よかったですね、保科さん」  
「あっ……や……駄目……で、出ちゃう……!」  
「……出せば?」  
「いやああああああああああっ!」  
 
 じょろろろろろろろろろろ〜〜!  
 黄金色の虹が室内に出現し、微量のアンモニア臭が我聞の鼻腔を通り抜ける。  
 恥辱の限りを尽くされたますみはぎゅっと目を瞑り、子供のようにいやいやをした。  
 
「も、もういいだろぉ……下ろせよ……っ」  
 
 我聞は言われるままにますみを床に座らせるが、彼女の股間を覗き込むように  
身を屈めたまま動こうとはしない。  
 
「こ、今度は何……?」  
「おしっこの後は綺麗にふきふきしないと……」  
「ティッシュもハンカチもないのに……ま、まさかお前!?」  
「……飲尿健康法っての、この間テレビで見たんですけど」  
「ば、馬鹿やめろ、我聞! この鬼畜! 変態! 痴漢! 畜生! 人非人!」  
 
 どんな罵詈雑言の叫びも、彼の内の黒い炎に油を注ぐ結果にしかならない。  
 我聞はくんくんと鼻を鳴らしながら、膣口の上にある尿道口を舌先でつついた。  
 
「ひうんっ」  
「まだ残ってるみたいですね。全部吸い出してあげます」  
 
 蕎麦を啜るような激しい音を立てて、我聞は尿道に残るますみの聖水を飲み干した。  
 
「やぁ……こんなのやだぁ……っ」  
「そんなこと言って、保科さんはもっといじめられたいって思ってるんじゃないですか?」  
「だ、誰がそんな……っ」  
 
 右手の中指をますみの膣に一気に根元まで突っ込ませる。  
 そのまま曲げた指を肉襞に絡めるようにして往復回転させた。  
 
「くぅん……っ」  
「あーあ、もうこんなに濡らしちゃって……。せっかくおしっこの後を舐めて  
綺麗にしてあげたのに悪い子だ」  
「は……あ……あたしのせいじゃ……」  
「言い訳をする悪い子には当然お仕置きですよね」  
   
 二本に増えた指が、ますみの膣壁をさらに激しく蹂躙する。  
 されるがままのますみはのけぞり返って、喉に詰まるような喘ぎ声を発した。  
 
「すごいな、俺の指をきゅうきゅう締めつけてきますよ。感じてるんですね」  
「か、感じてなんか……」  
「正直に答えてください」  
 
 ますみを自分の腕の中に横たわらせると、我聞はその小ぶりな胸に唇での愛撫を加える。  
 右手はなおも愛液を一杯に湛えた壷を責めつづけたまま、上を向いても形の崩れない  
乳房の頂点で硬くなっている突起に軽く歯を当てた。  
 
「きゃうっ……ち、乳首噛まないでぇ……っ」  
 
 強弱をつけてますみの乳首を吸い上げる。  
 唾液に濡れて淫らに光るそれは、禁断の丘から掘り出されたルビーのようだ。  
 
「んっ……あっ……んふっ……」  
「気持ちいい?」  
「……んんっ……い……い……」  
「聞こえません」  
「……き……気持ち……いい……気持ちいいよっ」  
「素直な保科さんは可愛いな」  
 
 心底嬉しそうに言って、我聞はますみの性感帯をいじめ抜く。  
 我聞の胸に顔をうずめるますみの身体がびくびくと震えた。  
 
「あっ、ああっ、んんーっ」  
「……またイっちゃいました?」  
「う……ううっ……ぐずっ……ひっく……」  
「鼻水垂らして泣くほど気持ちよかったんですか……」  
「馬鹿……馬鹿野郎……お前なんか嫌いだ……大嫌いだ……」  
 
 荒々しく慰み者にされながら、二度もオーガズムに至ったショックで顔をくしゃくしゃ  
にしているますみは、やけっぱちといった態度で我聞を睨みつけた。  
 
「……いいよ、好きにしろよ。どうせあたしみたいな男勝りで可愛くない女は、  
あんたみたいな外道にオモチャにされるのがお似合いなんだろうさ」  
「何もそこまで自虐的にならなくても……」  
 
 我聞はますみを拘束していたロープをほどくと彼女の唇に口付けをした。  
 幸いにして、舌を噛み千切られはしなかった。  
 歯茎から口蓋に至るまで隅々を舐め回し、互いの舌を根元まで絡め合った。  
 我聞はますみの片足を持ち上げると、燃える肉棒で白汁の詰まった果実を串刺しにした。  
 
「はあうっ……あっ……くぅ……っ」  
「まだ痛いですか?」  
 
 ますみは小さく首を横に振る。  
 
「二回もイってましたからね」  
 
 すでに手首の戒めを解かれているますみだが、我聞の軽口に反応して拳を振るうことはなかった。  
 ただ、我聞の背中に回した腕に少し力を込めただけだ。  
 
「動きますよ」  
 
 怒張した肉棒が狭い膣の中を前後しても、ますみはさきほどのような苦痛の声を上げない。  
 それどころか、より深く交わろうとするかのように、小さな乳房を我聞の逞しい胸板に密着させた。  
 射精の予感に熱狂した男根が、さらに太く硬くなる。  
 我聞は肉欲に我を忘れて、ますみの凹凸の未熟な身体をもてあそぶ。  
 肌と肌が音を立ててぶつかり合うたびに、撹拌されて泡立った愛液が周囲に弾け飛び、  
ペニスとヴァギナが一体化する淫猥な水音は嵐のように物置小屋に満ちていった。  
 
「ねえ、保科さん」  
 
 荒々しい息のかかる距離から、我聞はますみの目を見て話しかける。  
 ますみは喘ぎ声を押し殺したまま、虚ろな瞳でそれを見返す。  
 
「保科さんはさっき、自分を可愛くない女だって言ったけど、俺はとても  
可愛いと思いますよ。……俺は好きだな、保科さんのこと」  
「……好きな女を乱暴する男がいるか」  
「ごもっともなお返事……」  
 
 我聞は再度、ますみと唇を重ねた。  
 若々しい欲望の高まりはすでに限界を迎えつつあった。  
 震動で建物が壊れるのではと錯覚しそうになるほど、二人は激しく交わった。  
 
「あんっ……やっ……また……イクっ」  
「俺も……んっ……で、出るっ」  
 
 ますみの暖かな腹の中に埋め込まれた銃身のハンマーが轟音を伴って落ちる。  
 続けざまに発射された何億という白い散弾は、愛液の洪水の中を子宮めがけて一斉に遡った。  
 
「あっ……ああっ……出てる……。あたしの子宮の中に我聞の熱いのがいっぱい流れてきてる……」  
「くっ……はぁ……はぁ……保科さん……」  
「あん……垂れてきた……」  
 
 我聞が赤と白に彩られた肉棒を引きずり出すや、栓を無くした膣口からは、  
コップを倒したような量の精液が空気の泡の潰れる音と共に溢れ出てきた。  
 
 溜まりに溜まっていた性的衝動を一滴残らず吐き出した途端、あれだけ燃え盛って  
いた我聞の嗜虐性は急速に薄らいでいった。  
 それは優特製の媚薬の効用が切れたことを示していたのだが、そんな事情を知らず  
に理性を取り戻した我聞は、股間を精液まみれにして倒れているますみを見て、さっ  
と顔を青くした。  
 
「お、俺はなんてことを……」  
 
 我聞は計三度の絶頂によって息も絶え絶えなますみを抱き起こした。  
 
「保科さん! 大丈夫ですか、保科さん!」  
「う……ん……なんだよ……あたし疲れてるんだから……」  
 
 そして時間切れで媚薬の効力から脱したのは、ますみも同様だった。  
 しばし焦点の定まらない視線を我聞に向けているますみだったが、破瓜の痛みや  
そこに付着した白濁液といった現状を把握するに至って、見る見るうちに顔を恥辱  
と憤激の色に染めていった。  
 普段はチャームポイントの太い眉が、鬼の角のように吊り上がる。  
 
「死にくされええええええええっ!」  
「ぎゃあああああああああああっ!」  
 
 大木を真っ二つに割る雷のごとき金的蹴りを食らい、我聞は一瞬、川の向こう  
から笑顔で手を振っている母親の姿を見た。  
 
「死ね! 死んであたしに詫びろ! この変態エロ高校生!  
その股間の薄汚い代物を踏み潰してやらあああああああっ!」  
 
 口から泡を吹いて倒れている我聞を、さらにますみは足蹴にする。  
 
「は……っ! 母さん……?」  
「誰が母さんじゃボケエエエエエエエエエエエエッ!!」  
 
 銀河を粉砕する上段回し蹴りを食らい、蛙のようにひっくり返る我聞。  
 少年はどくどくと鼻血を流しながら、額を床にこすり付けて土下座した。  
 
「ごめんなさい、保科さん! ほんっとーにごめんなさい!」  
「くそ……! なんであたしが我聞ごときにいいようにあしらわれちまったんだ?  
あ、あんな……あんな恥ずかしい真似をよくもこのあたしに……!」  
 
 とても他人に話せない屈辱の数々を思い出し、かあっと頬を熱くする。  
 途端に秘裂がじゅわりと濡れたような気がして、ますみは慌てて股を閉じた。  
 一方、我聞はますみのそんな様子に気づくわけもなく、ひたすらに謝罪を繰り返していた。  
 
「すみませんでした、保科さん! なんであんなことができたのか分からないけど、  
俺、どうかしてました! お、俺は男として、社長として、恥ずかしい!」  
「やかましいっ!」  
 
 ブラックホールを雲散霧消させるますみの正拳突きが我聞を叩きのめす。  
 ますみは左手を腰に当て、へろへろに目を回している我聞を右手で指差すと、  
控えめな胸を張って宣言した。  
 
「覚悟しやがれ! あたしは絶対にお前を許さないからな!」  
 
 
 かような事件の起きた日から数週間後、今日も今日とてますみの怒号が解体現場にこだまする。  
 
「バカヤロー! なんだそのフヌケたツラは! 気合い入ってんのかテメー!」  
「ぎゃっ!」  
 
 ビッグバンに匹敵するますみの地獄車が、我聞を地面に転がした。  
 起き上がれない我聞に、ますみはさらなる罵声を浴びせかける。  
 
「ああ!? なに気絶したふりしてやがる! 下っ端のくせに甘えてんじゃねーぞ!」  
「……おいおい、ほっちゃん。最近、やけに我聞にきつくないか?」  
「いいんだよ、こいつは! それだけの迷惑をあたしにかけたんだから!」  
「我聞が何したか知らないけど、ほどほどにな」  
「わ、わかってるよ! こっちに来い、我聞! 二人だけでみっちりセッキョーしてやる!」  
 
 地面に伸びてる我聞の襟首を掴み、ますみは作業場の裏手へずるずると引きずっていく。  
 ヤスを始めとした職人仲間はぽかんと目を丸くして、それを見送っていた。  
 
「んふっ……じゅるっ……ちゅばっ……」  
 
 木立に隠され、周囲からは死角となっている作業場の一角。  
 中学生としか思えない小柄な女が、下半身を丸出しにした少年の  
隆々とした一物に熱心に舌を這わせていた。  
 
「んっ……ちゅぶっ……どうだ我聞……気持ちいいか?」  
「ええ……とてもいいですよ、保科さん……」  
「そっか……じゃあ、もっとよくしてやるよ」  
 
 その小さな口を雁首に引っかかるようにさらにすぼめて、ストロークを早くする。  
 時折、鈴口の先走り液を強く吸い上げながら、唾液まみれの肉棒を根元まで飲み込んでは、  
不意打ち気味に裏筋を舐めた。  
 それらの攻勢に若い我聞は耐え切れるものでなく、たちまち熱い白濁の固まりを  
ますみの口内に吐き出してしまう。  
 
「んんっ……んくっ……ごくんっ……」  
 
 彼女は嫌がる素振りも見せずに男の欲望を飲み下す。  
 唇の端から垂れる一筋の精液をぺろりと舐め取ると、ますみはその幼い容姿  
からは想像もできない妖艶な笑みを浮かべた。  
 
「ほら……次はあたしの中に……」  
 
 水玉のパンティを足先に引っかけたますみは、自分から指先で割れ目を広げて挑発してくる。  
 じゅくじゅくと潤った花芯からは、待ちきれないとばかりに蜜が溢れ出ていた。  
 
「ちょ、ちょっと休ませて……」  
「駄目だ。言っただろ、絶対に許さないって。お前はあたしの命令に逆らっちゃ駄目なんだよ」  
「それはもう何度も聞かされましたよ……」  
「我聞はあたしの初めての男なんだからな。ちゃんと責任取るんだぞ」  
「……それはいいですけど、だったら現場で俺を殴るのやめてくれません? ヤスさんが  
言ったみたいに前より攻撃的になってるし、やっぱりこの間の件で俺のこと恨んでるとか?」  
「ち……違う」  
「じゃあ、どうして?」  
「……から」  
「え?」  
「が、我聞の顔を見てたら、つい頬がゆるんじゃうんだよ。そんなニヤニヤみっともない  
様を他の連中に見られたくないじゃないか。前みたいに大声出して怒ってれば、なんとか  
気づかれないでいられるし……」  
「……じゃあ、なんですか。俺はこの先もずっと、保科さんの照れ隠しのためにどつかれ  
つづけると?」  
「ご、ごめん」  
 
 さすがのますみも自分が無茶を言っていると分かっているのか、しゅんとうな垂れる。  
 我聞はそんなますみを震えるほどにいとおしく思った。  
 
「ほっちゃん、可愛い」  
 
 我聞はますみをぎゅっと強く抱きしめると、小さな妹にするようにポニーテールの  
頭をかいぐり撫でた。  
 
「あ、あたしを子供扱いするなよっ。それとほっちゃんって言うな!」  
 
 いつのまにやら我聞の怒張は元の硬さをすっかり取り戻していた。  
 我聞はますみの尻肉を掴んで腰を浮かせると、体重に任せて一気に最奥まで貫いた。  
 
「ひんっ……は、入ってくる……! おちんちんの先っぽが子宮まで届いちゃう……!」  
「ん……保科さんの中、あったかい……。また、すぐにイっちゃいそうだ……」  
「うん……イって……。でも、今日は中は駄目だからな……」  
 
 両手両足でしっかりと抱きついたますみの膣内を我聞の剛直が出入りする。  
 先端が子宮口を突くたびに、ますみの身体は大きく跳ね上がった。  
   
「ねぇ……キス……」  
 
 ますみは両手で我聞の顔を挟み、喉の奥まで貪りつくすような濃厚な口付けを求めてくる。  
 我聞もまた肉襞を削る男根の動きを休ませないまま、蛇のように舌を躍らせてその熱意に応えた。  
 
「んふっ……ふあっ……もっとぎゅってして……」  
 
 顎先からだらしなく滴る唾液も二人の興奮を高める劇薬でしかない。  
 下の口からも止めどない量の愛液を垂らしながら、二人の性感は急速に高まっていく。  
 
「我聞っ……あたし……もう……イク……っ」  
 
 亀頭が最奥の壁をこつんと突いた瞬間、弾け飛ぶコルク栓のような勢いで精子がばらまかれた。  
 同時に絶頂に達したますみは、はあはあと息を乱しながら、我聞の身体にキスの雨を降らせた。  
 
「……我聞……好き……」  
 
 そうやって剛直に串刺しにされた格好のまま、しばし恍惚の波間を漂っているますみ  
だったが、ふいに慌てた様子で下半身を覗き込んだかと思うと、目を吊り上げて我聞の  
頬に肘打ちを食らわせた。  
 
「痛っ!? 何するんですか!」  
「こ、この馬鹿っ! 今日は危険日だからちゃんと外に出せって言っただろ!」  
「あ……」  
「あ、じゃないだろ馬鹿社長! ガキができたらどーするんだよ!」  
「そのときは俺が責任を持って、保科さん共々一生面倒を見ます!」  
 
 我聞の思いも寄らぬ真剣な言葉に面食らったますみは、頬を紅潮させて目を逸らした。  
 
「なっ……ば、馬鹿野郎! 半人前が生意気が口利いてんじゃねえよ!」  
「そんな……俺は本気で……」  
 
 がっくりと落ち込む我聞を見て、ますみは慌ててしどろもどろに言い訳をする。  
 
「あっ、そ、そうじゃなくてだな。えっと、あたしが言いたいのは、もっと頑張って  
働いて、早くあたしが頼りに思えるような社長になれってことで……。べ、別に我聞  
と一緒になるのが嫌ってわけじゃ……ごにょごにょ」  
「はい、もちろん俺はみんなから頼りにされる社長になってみせます!」  
「だ、駄目だっ」  
「え?」  
「……みんなから頼りにされる社長にはならなくていい」  
 
 ますみは我聞の胸に頭をもたせかけると、少年の大きな手をきゅっと握りしめた。  
 
「お前はあたしだけのものなんだから」  
 
 
了  
 

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