“はじめてのおとまり”
今、私の前にガモンがいる。
柔らかな生地のシャツとズボン、それが彼の寝巻き。
私は名前に合わせたのか、桃色のパジャマを渡されて、今はそれに着替えていた。
「……えっと、ガモン?」
「ん? どうした桃子」
彼の視線が気になる。
私の格好は変じゃないかな。
子供っぽく映ってはいないかな。
訊きたかったのはそんななんでもないことで。
だっていうのにそんなことも言葉にできない。
体の奥がむずがゆくなるような感覚に身をよじらせる。
「あ、う、その……なんでもない」
頬が熱い。
逃げるように顔を背けても、彼の視線を感じる。
体がどうしようもない熱に包まれる。
彼の目に触れる部分――ううん、服を通したその部分まで。
何も言えずにうつむいて、上目遣いに見る私。
何か言いたいはずなのに、声の出し方を忘れてしまったかのようで。
そんな私を見て、ガモンは不思議そうに首をかしげていた。
――ああ、もう。
何でこんなことになったんだっけ……?
「――へ? 泊まるとこがない?」
私の言葉に、間の抜けた声を上げたのはガモンだった。
私――桃子・A・ラインフォードがガモンと出会ったその日の夜。
あのいやな態度のグラサン連中を退けて、そのすぐ後のこと。
とりあえず、工具楽屋に就職することにしたものの、真芝を追い出された私達。
今日の所はこれで解散、となったのだけれど、さて、それからどうしよう、というわけだ。
「……真芝にある部屋に戻るわけには行かないでしょ。
あいつらの手回しの良さを考えると、当然張り込まれてるはずだし」
そう。
研究所に戻るわけにもいかず、かといって、どこかホテルに泊まるわけにもいかない。
なにしろ、私達は狙われている。
なぜなら私は多少なりとも真芝の情報を持っているわけで。
今夜の襲撃はもうないだろうとは言っても、用心するに越したことはなかった。
「ふむ、なるほどのう」
「こういうの――なんて言うんだっけ。
勝ってカブトのオオシメジ?」
「“緒をしめよ”です、優さん」
口々にしゃべりだす工具楽屋の面々。
個別の紹介は――ごめん、省略。
「國生さん、社員寮は?」
「部屋の空きはありますが、使える状態ではありません。
現実的な案としては私か優さん、もしくは中之井さんの部屋に泊めるというのが一番です」
「えー、女の子はともかく男二人はねー」
「でかいのととっぽいの。ワシのとこに来るか?」
「オレ達かい? あんま気ぃ使わなくてもいいぜ。
オレも弟も、野宿にゃなれてるしよ」
「そうもいくまい。いいから来い」
「では、桃子さん。私のところに」
「え、あ、うん」
話の流れにのる前に、なんだかあっけなく問題は解決。
……っていうか、本人の意思をもう少し聞いてもいいんじゃないだろうか。
状況把握する前に話が終わっちゃったじゃない、もう。
で、行き先も決まった、さあ帰りましょう、となりかけたところで。
――キラリ、と誰かのメガネが光った。
「いやいや、はるるん。
ここは我聞クンのとこに預けるべきじゃないかな」
「へ?」
みんなの視線が発言者に集中する。
「何故ですか、優さん」
「いやほら、我聞くんのとこって果歩ちゃんいるじゃない?
やっぱ着替えとかあったほうがいいと思うし」
見たところ同じぐらいだしー、と言う彼女。
……そこでなんで胸元に視線を合わせるのよ、あなた。
失礼ね。あの子よりはあるわよ、きっと。
そう思って胸を張ると、なんでか鼻で笑われた気がした。くそう。
「それに、私やはるるんより我聞くんと居た方が安心できるんじゃないかな。
ず・い・ぶ・ん、仲がいいみたいだしー」
い、いきなり何を言い出すのよ、この人。
ほんのちょっと動揺が面に出たのか、メガネの人はにしし、と笑う。
彼女はとってもうさんくさい。
とっても胡散臭いのだけれど――。
「ああ、そりゃそうだな。うん、そうしよう」
こうやってすぐ頷いちゃう人もいる。
うん。その単純明快さは嫌いじゃないよ、ガモン。
でも、もうちょっと、発言に気をつけて欲しいな。
「そういうわけだから、國生さん」
「……社長がそう決められたのでしたら」
命令に忠実な部下っていいわよね。
何か納得していないみたいだけど。
……なんでだろ。
とまあ、こんな感じで話はまとまり。
それじゃ皆さんおつかれさま。
はるるんなにか気になるのかなー、なにがですか優さん、てな会話を背中で聞いて。
工具楽って表札のある家を前にしたところで気がついた。
これってつまり。
「……ガモンの家に、泊まりに来てしまいました」
「ん? 誰に言ってるんだ、桃子」
「あ、う、ううん。なんでもない」
あわてて首を横に振る。
あぶないあぶない。
ガモンにおかしな娘だ、なんて思われるとこだった。
照れ隠しに部屋の中を見渡す。
ガモンの部屋は、あんまり物がなかった。
そしてかなり狭い。
布団を敷くと、部屋の広さが半分になるくらいに。
部屋に染み付いた匂いとか、空気とか。
明らかにその、自分の部屋とは違うのが感じられる。
だからその、つまるところここは。
――おとこのひとのへや。
「――――っ」
そう考えたとたん、顔から火が吹きそうになった。
いやいやいやいや、まってよ私。
いくらなんでも意識しすぎじゃない。
何をしてるわけでもないし、何をしようとしてるわけでもなし。
そ、そう、用件。
用事を済ませてしまわないと。
「桃子」
「ひゃ、ひゃいっ!?」
あう、声裏返っちゃった。
「それで、どうしたんだ? こんな時間に」
自分の布団を敷き終えたガモンが訊いてくる。
……どうでもいいけどこんな状態で布団とか敷かないで欲しい。
狭いもんだから、ガモンと寄り添う感じになってしまう。
なら、布団の上に座ればいい、ってかんじなんだけど……。
それはダメ。ぜったいダメ。
だってこの状況で布団の上、なんて、そんな、ねえ?
……深く考えるのはやめよう。
「桃子?」
「あ――ほ、ほら。その……傷、なんだけど」
「傷? 桃子、どっか怪我でもしたのかっ!?」
「わわうっ――ちがう、ちがうのっ。
私じゃなくて、ガモンの方っ!」
ずずいっと迫ってくるガモンを慌てて押し返す。
お願い、これ以上かきみださないで私のこと。
「オレの方?」
「ガモン、傷、大丈夫かなって……」
そう、学校でのいざこざの時、ガモンはかなりの攻撃を受けていた。
いくら頑丈だからって、あんな手当てで間に合うはずがない。
もしも、ガモンに傷が残っているのなら、その傷は、私のせいでついた傷だ。
だったら、私が看るのは当然だと思う。
「ああ、そういうことか。大丈夫。
大きな傷はなかったしな」
「でも」
「心配性だな――ほら」
そう言って、ガモンはシャツに手をかけた――って、ええええええええっっ!!
「どうだ、平気だろ?」
「う、うん……」
いや、ちょ、あの、その。
レディの前で半裸になるってどうなのよ、これ。
うわぁ、すっごい体……。
ってそうじゃないの。
凝視しちゃダメ、見つめちゃダメ。
ああう。でも気になる。
なんか傷跡がすごい。
あんまり目立たないけど、よく見るとうっすらと無数にある。
さ、さわっても、いいのか、な?
「……ガモン?」
そっと手を伸ばして訊いて見ると、ガモンはコクリと頷いた。
私はドキドキと早鐘を打つ胸を押さえながら、そっと指先でガモンに触れる。
「っ――」
――熱い。
触れた指先から伝わるほどに熱を持った身体。
私の身体まで熱くなってしまうほどに。
「…………」
彼の傷跡をなぞる。
昔の傷もあるのだろう。
でも、その内のいくつかは今夜ついた傷だ。
それがもう塞がっているのには驚くが、それ以上に私はそこに愛しさを感じてしまった。
――なぜならこの傷は、私のためについた傷なのだから。
「桃子」
彼の優しくて、力強い声がささやく。
「……そろそろ、いいか?」
いい? 何が?
ああ――そうか。
私は思い至る。
彼は私を、求めてるんだ――――。
「ぁ――」
彼の腕に抱き寄せられ、私は小さく声を漏らす。
ほんのわずかな抵抗は、彼の前では抵抗にすらならず。
気がつけば、彼の顔が間近にあった。
「…………」
彼はもう、何も言わない。
ただその真っ直ぐな、力強い瞳で私を捕らえる。
彼のその真っ直ぐさが怖い。
私が、どうにかなってしまいそうで。
だから私は震えるように、静かに瞼を閉じていた。
「んっ――――」
重なる唇、彼に触れたままの手のひらが熱い。
大きく跳ねるような心臓の音が、私の身体に伝わってくる。
その温もりが溶かしたのだろうか。
私の目から涙の粒が、つい、と頬を伝って流れた。
「んっんぅっ……んんっ」
強く押し付けられたその隙間から、何かが入ってくる。
やわらかくて、あたたかいもの。
私の口内をなぞり、こすり、舌を絡めとって弄ぶ。
絡み合う肉の感触、注ぎ込まれる彼の体液。
「んく、ん」
口内に侵入されたまま、それを何とか飲み干した。
舌の動きは止まらない。
より激しくなっていくキスに、たまらず私は逃げ出そうとする。
けれどガモンは許してくれない。
追ってくるガモンに押し倒される形で、私は後ろに倒れこんだ。
「……ガ、ガモン……」
覆いかぶさる彼の身体。
ガモンの手はパジャマの中に滑り込み、そこにあるふくらみを揉みしだく。
下着なんかつけていない。
彼の手は、私に直に触れている。
「や……や、ぁ」
指先が、いつの間にか隆起していた“それ”にたどり着いた。
まるで何かを確かめるようにつまみ、はさみ、ころがして遊ぶ。
めくりあげられ、あらわになった乳房。
そっとガモンが口を寄せる。
「ん――ん、ぅ」
吸い付かれ、舌先で遊ばれ、甘く噛み付かれ。
否応なしに私の身体は反応した。
熱い――――熱い。
ガモンが触れている部分が、まだ触れられてない部分が。
湿り気を帯びたそこに、彼の手が伸びていく。
胸から、腰に。そして――
「だ、だめっ」
彼がそこに至りそうになり、私は身を捩じらせた。
だってそれは――恥ずかしすぎる。
うつ伏せになって逃げようとする私を、けれどガモンは逃がしてくれない。
腰を抑えられ、服を剥ぎ取られ、覆い隠している布を取られた。
「や、やぁっ」
完全に曝されたその部分。
それだけでも恥ずかしいのに、ガモンは腰を持ち上げる。
……四つん這いで、お尻だけ突き出した格好。
恥ずかしくて死にそうで、布団に顔を押し付けた。
「あ、は、や、はぁ、んっ」
彼の指がそこをいじる。
薄く生えた茂みの中から、くちゅくちゅと音が聞こえてくる。
むき出しにされた私の中を、じっくりと彼が見つめている感覚。
まるで奥の奥の深いところまで、見通されているかのようだった。
「んんっ、ん、あっ、ああっ、やっあっ」
太い指が入ってくる。
一番敏感な部分にも触れられ、私の息は荒くなる。
内壁を擦られ、突起はつままれ、指の動きは徐々に激しく、私の中を蹂躙する。
「う、んあっ、やぁっ、いっ、あっ、あ、あ、あ、あっ」
しばらく、ガモンはそうして遊んでいたけれど、唐突にその悪戯が止んだ。
「はっ、はぁ、はぁ……。 ――がもん?」
どうしたの?
そう訊ねようとして、けれどそれはできなかった。
「ひゃぅっ!」
思わず身体を震わせる。
突然、そこに息を吹きかけられたのだ。
四つん這いになったままで、彼が何をしようとしているのかを悟る。
「あ、だめ、ガモン。そんなの、やだっ」
腰を振って逃れようとするけれど、両手でつかまれて逃げられない。
ガモンの吐息が近づく。
「だめ、だめなの。だ――あっああっ!」
彼のキス。
まるで口にするような優しいキス。
そして次のキスは情熱的に、さっき私にしたように。
もう一度、私の中をかき回してきた。
「んっんんっ、だめ、こんなのだめっ。こんな、こんなのっ」
こんなのしらないっ。
あんなところに、舌をいれるだなんて。
こんな感触、今まで知らないっ!
「や、っあああああああああっ!」
中から滴り落ちるものを音を立てて吸い出される。
頭がもう、くらくらする。
もやがかかって、目の前は真っ白。
「あ――は、あ……」
すっかり力が抜けてしまった私。
差し込まれた舌が引き抜かれ、ガモンの口が離れていくのがわかる。
ああ――終わったのかな?
そんなことを考えたけれど、それが間違いだってことは、すぐにわかった。
「――――」
びくり、とする。
また腰を掴まれた。
“入り口”に、少し硬めの感触。
迷うように表面を、少し引っかかりながら擦ってくる。
やがて、正しくその場所を見つけると、ぴたり、と狙いを定めて動かなくなった。
――これって、ひょっとして。
「っん、んやっ、だ、だめ、あ、ああああああっ!!」
ガモンが、私の中に入ってくる。
狭い穴を押し広げ、それは一気に突き入れられた。
「い、や、あくっ、い、いたいっ、や、やっ、いたいよガモンっ」
「…………」
「おね、がい、とめて、とめてぇっ」
泣きながら懇願するけれど、ガモンは止めてくれなかった。
きっと、それほど早く動かしているわけではないんだろう。
太くて硬いものが、ゆっくりと引かれ、そして突きこまれる。
何度も、何度も。
繰り返すたびにだんだんとペースは速くなり、やがて、身体と身体のぶつかる音が響きだした。
「ひぅっ、んぅっ、んぁっ、やぁっ」
パン、パン、パン、とガモンの身体が打ちつけられる。
身体の中に彼自身がいて、それが私を責め続けた。
ガクガクと私の身体が振動する。
あんまりにも激しくて、布団にしがみついていないとどこかに飛んでいきそうだった。
「くっ、うぅっ、んっ、んぅ、んっ、ん、ん、ん、ん、んぅっ」
痛みが、熱さを呼ぶ。
熱さは、頭をだめにする。
だめになってしまった頭は、痛みを痛みとしてくれない。
涙を流し続けながら、私はいつしか、ソレを自ら求めはじめていた。
「っく、んあっ、あふ、んはっ、はぁっ、あっ、ああっ、あっ」
「…………」
「――がも、ん、がもんっ、おね、が、がもんぅっ」
――切ない。
胸の中が、すごく切ない。
だって、これじゃ、ガモンが見えない。
何もしゃべってくれないから、ガモンを全部感じられない。
お願い。
お願い、だから、せめて、声を――。
「あっ、あっ、や、んぅっ、がもっ、んっ、んはっ、がも、んぅっ!」
いじわる。
ガモンの、いじわる。
わかってるくせに。
何が欲しいか、わかってるくせにっ。
「ん、ぐすっ、んぅ、うぅっ、んっ」
泣きながら、私は布団を強く掴んだ。
すると、握り締めた私の手に、彼の手がそっと上から重ねられる。
彼の身体がのしかかってくる。
そして彼は、囁いた。
「――――桃子」
「ぁ――んああああああああああんっ」
うれしくて、胸がつまる。
彼の声に応えるように、私の身体が彼を絞った。
大きく、膨らむ感触。
弾ける様に、熱い、熱いものが私の中に注がれる。
「くっ――うっ」
「あ――ああ、あ、は、あ……」
私の中でびくん、びくん、と震えるソレ。
満たされていく感覚に、私は言い様のない幸せを感じていた――
――なーんちゃって、キャーーーー!!
自分のした想像に、思わず身悶える。
ううん、違う、違うのっ。
これはガモンのことが好きとか、そんなんじゃないのっ。
ただ、やっぱり、こういう状況ならしかたないかな、とか。
でもでも、ガモンが欲しいなら、私も応えてあげなくもないなぁ、とか。
ああ――そう、そうなのね。
私は今日、女になるんだ。
うん、いいよ、ガモン。
ちょっと怖いけど、今夜は特別。
今なら素直に受け入れてあげるっ。
「桃子――おい桃子!」
「ふぇ――? ガモン?」
「大丈夫か、桃子。ほら、そろそろ寝るぞ。
客間に布団敷いてあるから、桃子はそっちで寝てくれな」
えっと、あれ?
気がつけば、いつの間にかシャツ着てる……。
というか、さっさと布団に入って寝ようとしてるしっ!
“そろそろいいか”って、そういう意味なの!?
めくるめく愛と欲望のゆーとぴあはっ?
ああっ、もうっ! この朴念仁っ!
女の子ほっといてその態度はないでしょー!
――わかったわ。
ここまで盛り上げといて、このまま済ますなんて許さない。
ちょっと方向性が違ってくるけど、こうなったら意地でもその気にさせてあげる!
「……ね、ねえガモン? 私、今夜はここで寝ても――」
「いいわけないでしょ。当然あんたはこっちで寝るの!」
いきなり現れた怪人うす胸。
がし、と首根っこを掴まれ、そのまま部屋から引きずり出されてしまった。
「ああっ! 何するのよカホ!! ガモン〜、ガモン〜」
「ええいっ発情するでない、桃色妄想ムスメッ!
男女七歳にして席をおなじゅうせずっ」
「床は同じにしてー」
「やかましっ」
ああ、ガモンが遠くなる。
廊下を引きずられていく私を、部屋から首だけ出して彼が見ていた。
「……うん、仲がいいのは良い事だ」
お願い、別の感想抱いてぷりーず。