「ねえ、兄ちゃん兄ちゃん」  
「ん、なんだ珠」  
「ちょっと教えてほしいことがあるんだけど」  
「教えてほしいこと? なんだ、言ってみろ」  
「あのねえ、フェラチオって、何?」  
 
 
阿呆兄妹+α。あるいは無邪気と天才と朴念仁のお話。  
 
 
「フェラ……チオ?」  
 なんだそれは。おもわず首を傾げてしまう我聞。  
「うん。友達が言ってたんだけど、なんだかよくわかんなくって。友達に聞いても  
教えてくれないし」  
「で、俺に聞きに来たわけか」  
「うん。兄ちゃんなら知ってるかと思って」   
 知らない。ちっとも分からない。我聞は心の中で冷や汗をかいた。  
(フェラチオ……。国の名前か? いや、人名かもしれない。それとも、ブランドの  
名前だろうか)  
 どれひとつとしてかすりもしない。まあ、もともとその方面に無知な我聞に、  
正解を期待するほうが間違いなのだが。  
 うんうんと唸りだす兄を見て、不安そうな表情になる珠。  
「兄ちゃん、知らないの?」  
 図星。我聞はギクリと硬直してしまった。  
(む、いかん。ここで『分からない』などと言おうものなら、家長の威厳が失墜して  
しまう。なんとかして誤魔化さなくては)  
「まあ待て、珠」  
 我聞は、身を乗り出してくる珠を手で制する。  
「フェラチオ、というのは、口で説明するのはなかなか難しいんだ。きちんと説明  
しようと思ったら準備がいる。今すぐ説明するのはちょっと無理だ」  
 微妙に珠から視線を逸らしつつ力説する。基本的に愚がつくほど真っ直ぐな性格を  
している我聞のこと、口八丁で誤魔化すのはやはり心苦しいらしい。  
 だが、そんな兄の挙動不審にも気づかずに、珠は純真無垢な瞳で問い返す。  
「じゃあ、いつ教えてくれるの、フェラチオ?」  
「一日待ってくれ。それまでに準備をしておくから」  
 無論、その間に何とかしてフェラチオについて調べておくつもりである。微妙に  
せこい。  
「じゃあ、明日教えてくれるんだね!」  
 きらきらした瞳で言う珠。そんな珠に、我聞は力強く答える。  
「おう、明日しっかりと教えてやるぞ!」  
 ……いいのか、それで。  
 
「さて、誰に聞くべきか」  
 とりあえず姑息な話術で、一日の猶予を勝ち取った我聞。辞書で調べる、とか、  
ネットで検索する、という発想は全く浮かばないらしい。まあ、工具楽家にネット  
環境が整っているとも思えないが。  
(國生さんに聞くべきか? ……いや、駄目だ。無知な社長だと思われてしまったら  
これまで積み重ねてきた信頼が失われてしまうかも知れん)  
 それ以前にセクハラです。辞表を提出されても文句は言えない。  
(それでは優さんに聞くべきだろうか。……いや、優さんに聞くのもあまり気が  
進まないな)  
 思わずブルリと身震いをする。以前優に理系の質問をした時に、延々三時間日本語と  
英語とドイツ語を駆使して解説されたことを思い出す。あれは悪夢の三時間でした。  
(中之井さんは……なんだか説教が付いてきそうだ。辻原さんは……今いないんだった。  
佐々木は……いや、あいつは俺と同じくらい馬鹿だし)  
 いい相談相手が思いつかない。いや、多分佐々木あたりに相談すれば、じっくり  
たっぷり説明してくれるとは思うんですけど。  
「むう……困った。誰に聞けばいいんだ」  
 にっちもさっちもいかなくなって、家の周りをうろうろと歩き出す我聞。ぶつぶつ  
呟きながら徘徊するその姿は、ちょっと怪しい。  
「番司は……あいつ今、里帰りしてるんだっけ。果歩は……いかんいかん! 家長の  
威厳が保てなくなる!」  
「ねえガモン」  
「いよいよ困ったな。かなえさんや婆ちゃんは……さすがに無理か」  
「ガモンったら! ガモン!」  
「とりあえず、明日学校で先生に聞いてみるか」  
「もう、ガモンってば! ちょっと、いい加減無視しないでよ」  
「む?」  
 くるりと振り返る。そこにはハーマイオ、じゃなかった桃子・A・ラインフォードが  
立っていた。  
「ああ、桃子か。何か用か?」  
「べ、別に用って訳じゃないけど……」  
 我聞を見かけて、思わず声をかけてしまっただけである。だが、そう素直には口に  
できないのが桃子。  
「そ、それは……そう! あんたがぶつぶつ言いながらうろうろしてるからいけない  
のよ! 怪しくって、思わず声を掛けちゃったじゃない!」  
 怪しいと声を掛ける。それは一般的な婦女子の行動ではないだろう。  
「む、そうか、すまん」  
 そして、そんなことには気づかず、素直に謝ってしまう我聞。  
「あ、いや、いいんだけど。それにしてもガモン、何か悩みでもあるの?」  
「ああ、まあ、ちょっとな」  
 と、そこで言葉を止めて、まじまじと桃子を見る。  
「な、何?」  
「桃子……。お前、頭良かったよな」  
「え、ええ。天才だから、私」  
 おずおずと答える桃子。と、次の瞬間、我聞は桃子の肩をがっしとつかんだ。  
「きゃっ!」  
 思わず頬を染める桃子。ついでに目をつぶって唇を突き出す。さすがにそれはまだ早い。  
「桃子、頼む! 教えてほしいことがあるんだ!」  
「な、何?」  
 目を白黒させる桃子に、真剣な表情で我聞は言った。  
「フェラチオって、何なんだ?」  
 

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