とある一室、其処にはGHKのメンバーが神妙な面持ちで
顔を見合わせていた。
事の発端は一人の少女による事だ。
其の少女とは桃子・A・ラインフォードである
元は真柴第5研所長にして我聞のクラスメートである。
諸々の事情はこの際割愛するとしてGHKにとっては
脅威となる人物である。
「GHK緊急招集会議を行います。」
果歩が神妙な面持ちで口を開き言葉を発した
「議題は、うす胸もとい桃子・A・ラインフォードに付いてです。
最近 彼奴の兄に対する態度が余りにも怪しいから
排除したい所存です。」
そう言うと優が口をはさんだ。
「ちょっと待ってかほりん、それは使えるわ」
「どう言う事です」
「それはね、近々 我聞君 期末テストが有るでしょ
其れを口実に桃子ちゃんに我聞君と2人きりで勉強会をさせて
その光景をはるるんに見させて仲の良さをアピールするのよ!。」
そうすればその光景をはるるんが見た時にジェラシーが芽生え
もしかしたら私は社長のことが……
「なるほど、しかし私は小童故分からないのですが、返ってそれでは
桃子に我聞を意識させてしまうのではないですか」
冬馬が発言するとここぞとばかりに果歩が立ち上り冬馬に向かって
右の人差し指を指示すと
「愛は ”略 奪 よ !”」
と言い、鮭の産卵時期に産み落とした卵にパートナーの鮭が精子を
掛け様とした時、横から別の鮭が精子をぶっ掛ける事が往々にして有るでしょ
そうやって子孫を残すものなのよ。
「それは愛とか子孫とか全然関係無い様な」挙句く魚類だし……。
そんな冬馬の呟きを無視して更に果歩は熱弁を振るう。
「今まで兄と陽菜さんの仲が進展しなかったのは兄が
他の誰かに奪われる危機感が無かったためと思われます。
しかし優さんが言う様に逆にこの状況を利用して今度こそ
陽菜さんを嫁に仕立てて見せます。」
「それではプロジェクトG(ジェラシー)を発動します。」
「お〜 プロジェクトG」
「お〜 プロジェクトネコジャラシ〜」
しかしこの時GHKの面々が思い描いていた事とまるっきり
違う事態に陥りようとは誰も思わなかった。
キーンコーン カーンコーン
場所は変わって、御川高校ではテスト前なので部活動、委員会も無く
最後の授業が終わり、ホームルームが終わると各々が帰り支度をしている。
我聞も帰り支度をして帰ろうとする所に声が掛けられた。
「ガモンあんた帰るところ」
そう言って声を掛けて来たのは桃子である。
「ああそうだが、どうした桃子」
「そう私も帰るとこなんだけど」
桃子が答えると我聞は
「そうか」
と言い帰ろうとすると
「そうか じゃないでしょガモンこの天才美少女こと桃子・A・ラインフォードが
1人で帰ろうとしているんだから送って行くのが道理ってもんでしょうが。」
桃子がそう捲し立てると我聞は慌ててそうかと言いそのまま2人で帰ることになった。
ちなみに我聞の仕事は季節外れの雨続きで仕事が無く
國生さんは書類整理があるといって早々に帰宅した。
処で桃子が今現在 住んでいる所は工具聞屋の社員寮である、先の我聞と桃子
との一件で真柴を辞め両親も居ない事から我聞が、なら家の社員寮の一部屋を
貸すからそこに住めばという話になり、間借りをしている状態となったのである。
帰る道すがら、くだらない事を話しつつ会社近くまで歩いて来ると当然桃子が
「そういえばガモンもうすぐ期末テストでしょ、ちゃんと勉強しているの。」
「うっ、いや、その、もちろんはかどっているぞ、赤点取らない位
頑張っているぞ。」
ぜんぜん頑張っていないじゃないのよ。
桃子はそうは思いつつチャンスとばかりに
「はぁ〜 赤点取らないじゃないでしょ、まったくこれだから低能は困るわ
しょうがないわね、それならこの天才美少女こと桃子・A・ラインフォード
が勉強を教えてあげるから感謝なさい。」
顔を赤らめながら早口に捲し立てると我聞は、その あの と言い淀みつつ
話を逸らそうとキノピーの話題を振ろうとした時、ちょうど優さんに出くわした。
「我聞君どうしたの〜」
「優さん」と二人が異口同音に言葉を発した。
それから桃子がこれまでの経緯を優さんに説明すると
にや〜と邪悪な笑みを浮かべつつ我聞に向って
「それは桃子ちゃんに教えてもらった方がいいよ唯でさえ赤点マンなのに
ここで更に赤点を取るようだと本当に留年しちゃうよ。」
と優さんに脅されては我聞も承諾するしかなく
そんな我聞の承諾を得て内心桃子は嬉しく思っていた。
「ガモンそれじゃ早速アンタ家に行って勉強よ。」
ガモンの手を取りつつ足早に我聞の家に向った
2人を見送りつつ優は携帯電話を取り出すと
「こちらデルタ1、デルタ2どうぞ」
「はい こちらデルタ2」
「今から我聞、桃子両名がそちらに向います」
「了解ではこれからプロジェクトGを発動します。」
「ただいま〜 今帰ったぞ」
「おかえり〜 お兄ちゃん」
工具楽家の玄関をくぐると果歩が出迎えて挨拶を返してきた。
「こんにちはお邪魔します」
桃子が憮然と挨拶をすると突然、果歩が
「控え目な胸も来たの」
「うっさいわね、うす胸そっくりそのままお返しするわ
だいいち私はダブルだからこの先 全然不安は無いけど
あんたはお先真っ暗だもんね〜。」
「キ〜〜 何ですって小娘、私だってね〜〜 前途有望な胸なんですからね〜」
いけない、いけないここでナイ乳に喧嘩売って帰られちゃ元も子もないわ
「ところでアンタ何しに来たのよ」
「何しに来たのは無いでしょ、アンタの兄の勉強をわざわざ見てあげようと
天才美少女が来てあげたんだから感謝なさい。」
やはり先程のナイ乳が残っていたのか果歩が余計な一言を言ってしまった。
「わざわざ来なくても陽菜さんに見てもらえばいいじゃない」
そう言ってしまってから、しまったと思い桃子の方を見ると
今にも泣き出しそうな表情で俯いていた。
あ〜〜しまった〜これではプロジェクトG が〜〜〜〜!
と果歩が思っていると
「果歩、俺の勉強を見てくれるのにその言草は無いんじゃないか」
と我聞が見かねてフォローを入れると
「そ、そ、そうよね まあ上がって頂戴」
余程我聞のフォローが嬉しかったのか先程の泣きそうな顔が
嘘の様に自信に満ちた笑顔へと変わり仕舞には
「ガモンさっさと勉強を始めるわよ」
という始末である。
場所は変わって工具楽屋では、陽菜が1人伝票の整理をしていると
突然声を掛けられた。
「は〜るるん何やっているの」
仲ノ井さんの席に腰を掛け聞いてきた。
「ちょうど解体業も無いし伝票の整理をしようと思いまして」
陽菜が優に返すと
「そっか〜それが終わったら ちょっと果歩りんの所に行って
もらえないかな〜。」
「果歩さんがどうか致しました。」
「ん〜〜何か今日勉強を見てもらいたいって言ってたよ〜」
「分かりました。伝票の整理が終わりましたら果歩さんの所に寄ってみます。」
「じゃあ果歩りんには私から言っとくから〜」
そう言うと優は給湯室に消えて携帯を取り出し果歩ことデルタ2に連絡をとった
「こちらデルタ1 デルタ2どうぞ」
「こちらデルタ2です。どうぞ」
「対象は仕事が終わったらそちらに向う様仕向ました。」
「デルタ2了解、こちらも準備致します。」
ふっ ふっ ふっこれで準備が整ったわ、陽菜さん待ってなさい必ず
あなたにジェラシーを感じてもらいますからね〜。
一人果歩がほくそ笑んでいた。
そんなこんなで2人で勉強している桃子と我聞
「だ〜か〜ら〜違うって言ってんでしょうが」
ぶちぶち文句を言いつつも嬉しそう我聞に勉強を教えていると
突然我聞が
「悪いな桃子、お前もテスト勉強が有るだろうに」
「かまわないわ、私はアンタと違って天才だし、色々世話にもなっている事だし」
それにアンタとはもっと親しくなりたいし……、などと小声で呟いていると
「そっか、ありがとな桃子」
心を包み込むような優しい笑顔で笑いかけると
「うっ、だっ、だっ、だから礼はいいって言ってるでしょ」
と真赤に顔を染めながら早口に捲し立てると我聞が
「分かった、分かった」
「分かったなら、今日はテスト勉強の範囲が完璧に出来るまで寝かせないんだからね。」
自分で発言しときながら恥ずかしい発言をしている事に気付き慌てて
「だからって別に寝かせないなんて深い意味は無いんだからね」
などと慌てふためいていると
不意に我聞の手が桃子の頭の上に乗せられると髪を撫でられ、落ち着けと言わんばかりに
困った顔をして見せた。
乗せられた手の感触に一瞬目を瞑りその感触に浸っていると幾分冷静さを
取り戻し我聞の手を払いのけて
「さっさとテスト勉強を再開するわよ」
と言いテスト勉強を再開しようとした。
すると玄関の方から陽菜の声が聞こえてきた。
「ごめんください、果歩さんはいらっしゃいますでしょうか」
「は〜い 陽菜さんいらっしゃい無理言ってすみません
陽菜さんもテスト勉強しなくてはならないのに」
「いえ、構いませんよ」
すると奥から我聞と桃子が現れた
「お〜 國生さんいらっしゃい、どうしたの」
「なに秘書も来たの」とは桃子が棘のある言い方で返した。
「社長、果歩さんが勉強を教えてほしいと言うことで」
「そっか〜 悪いことしちゃったな、仕事の後に果歩の勉強まで見てもらって
それにテスト勉強もしなくちゃだろ」
すると果歩が
「なら、一緒に勉強しましょうよ、ちょうどお兄ちゃんもテスト勉強しているところですし」
さも今思いついた様に言うと
「え 社長がテスト勉強をなさっていたのですか」
と随分な失礼な物言いで陽菜が答えた。
「そうよ、私と一緒に勉強をしていたところよ」
と桃子が私と一緒にという部分を強調して言うと
陽菜は意に介した風も無く
「それではお言葉に甘えて一緒に勉強をさせて貰っても宜しいでしょうか」
「おお、一緒に勉強しようか」
と我聞が答えると、桃子はさも面白くないと言うように
「なんで、わざわざ秘書達と一緒に勉強しなくちゃいけないのよ」
陽菜の方を睨みながら言うと
「桃子、皆で一緒に勉強したほうが楽しいぞ」
とこちらは桃子の視線に気付くことも無くお気楽に答えを返し、桃子にそっぽを
向かれてしまった。
で結局 居間で我聞、桃子、陽菜、果歩の4人で勉強することになった。
さすがに元真芝の電子兵器開発所長を務めただけあって、理数系にはめっぽう
強く、ここぞとばかり陽菜に見せ付けるよう我聞に
「まったくしょうがないわね」
と言いながら我聞に体を寄せつつ勉強をしていると
ふと、陽菜相手に何故、剥きになっているのか分からなくなった。
別に陽菜が嫌いとかそう言う理由では無い。
真芝を辞めてからの、移転、居住、その他と色々と世話を妬いて貰った。
「なら何故」
そう思っていると、唐突に”我聞が陽菜に接する時の態度や表情にが気になるの”
とその答えに思い至ったときに、桃子の胸に鈍い痛みが走った。
あっ、そうか私…… そんな事を考えている内に我聞から声が掛けられた。
「どうした桃子」
「なんでもないわよ」
と答えを返すが声にどこか張りが無い、すると我聞はそっかとうなずき
「次はこれを教えて欲しいのだが」
と言って国語と古典のノートを広げた。
すると、途端に桃子の表情が曇り始めた、理数系の勉強なら問題ないのだが
国語、古典は生まれがダブルのせいか日本独特の表現、文法が分からないのである。
そんな風に困っていると果歩が突然口を開き
「ならお兄ちゃん、陽菜さんに教えてもらいなよ」
「そっか なら國生さんに教えてもらおうか」
と我聞が口を開くと
「そうよお兄ちゃん教えてもらいなよ」
追い討ちを掛ける言葉を繋げる、
ふっ、ふっ、ふっ これで取り敢えずは、プロジェクトG 当初の目的、陽菜さんに
やきもちを焼かせる事が出来なくてもお兄ちゃんと陽菜さんが仲良く
勉強している所を見せ付ければ桃子を排除できるわ。
我聞の言葉もあって桃子はしぶしぶ納得した。