工具楽我也と國生武文が旅立った翌日、工具楽家に荷物が届いた。  
 
「ご苦労様でした」  
 
 去っていく配送員を見送って、果歩は受け取った荷物を確認しようかとして手  
を留める。  
 
「親展?」  
 
 その小さな小包には、赤い文字で大きく親展と書かれており、宛名欄には彼  
女の兄の名前が記されていたのだ。  
 
(お兄ちゃんに親展なんて…なんだろう?)  
 
 差出人の欄には果歩も知る九州の住所と静馬の名が記されている。仕事関  
係なら直接届くわけが無いはずなのだが、だからと言って親展のものを勝手に  
開封するわけにもいかない。  
 頭を捻りながらも、果歩は兄の下に手にした荷物を届けるのだった。  
 
「お兄ちゃん、荷物届いたわよ」  
「ん?おお」  
 
 我聞はそれを受け取ると、早速中身を確認しようとする。  
 果歩といえば、中身は気になるものの覗く訳にもいかず、また夕食の準備の  
最中だった事もあり、後ろ髪を引かれる思いでその場を後にした。  
 
(かなえさんからだ、なんだろう)  
 
 包装をびりびりと破いて箱を空けると、そこには五芒星を模った小さなペンダントが入っていた。  
 
「お、綺麗な首飾りだな」  
 
 我聞はそれを手に取ると、何とは無しに自分の首に掛けてみる。  
 と、そこで異変が起こった。  
 五芒星の中央に位置する宝石が輝いたかと思うと、我聞の表情が見る見るうちに変化していったのだ。  
 
「ぐふ、ぐふふ…」  
 
 我聞が普段の彼からは想像も付かないような下卑た声を漏らしたと同時、居間から果歩の声が聞こえてきた。  
 
「お兄ちゃん、珠、斗馬、ご飯よー」  
 
 その声にニヤリと笑みを浮かべ、我聞は居間へと向かっていった。  
 
 夕食も終わり、珠と斗馬に宿題をする様に追い立てた果歩。自分も宿題が出されている為、のんびりと食後のお茶を啜っている我聞に声を掛けて部屋へ戻ろうとする。そこへ我聞が声を掛けた。  
 
「果歩、ちょっといいか」  
「…なによ」  
「まあいいから、ここに座れ」  
 
 部屋を出て行こうとしていた彼女は、渋々ながらも我聞の指差す位置に座ろうと腰を下ろしかけた。  
 と、そこで我聞は彼女の腕を掴みグイッと引き寄せると、自らの胸に果歩を抱きしめたのだ。  
 
「きゃっ!ちょ、ちょっとお兄ちゃん…」  
「いつもすまないな、果歩」  
 
 突然の彼の台詞に、果歩はきょとんとしている。  
 
「な、何よいきなり?」  
「珠と斗馬の面倒見てもらって、その上毎日の食事まで」  
「別に大した事じゃないわよ」  
「そうか。世話を掛ける」  
「だ、だから大した事じゃ」  
 
 改めて礼を言われ照れてしまったのか、頬を微かに染めると果歩は兄の抱擁を振り解こうと身を捩った。  
 
「果歩」  
「ちょっと、お兄ンンーー!」  
 
 我聞は一際腕に力を込めて彼女を抱きしめる。そんな兄に言葉を掛けようと果歩が彼と顔を合わせようととした瞬間、我聞は彼女に己の唇を押し当てていた。  
 
「ちょ、何す…」  
 
 いきなりの事に抗議の声を上げようとしたところに、またもや唇を合わせられ言葉を封じられる。しかも先程の押し付けるだけのものとは違い、我聞の舌が果歩の口腔内へと進入してくるではないか。  
 事の成り行きに追いつかず思考回路が思うように働いてくれない。そんな果歩を薄目を明けてチラリと見やると、我聞はそのまま彼女へと差し入れた舌を蠢かし口腔内を蹂躪し始めた。  
 果歩はすぐに我を取り戻したが、自身の舌と絡まる兄のものの感触やそれが歯茎の表裏を舐る感触、はたまた頬の内側を舐め回される感覚に次第に焦点を失い、やがておずおずと彼女からも舌を絡ませていく。  
 一頻り妹の口腔内を味わい尽くすと、我聞は名残惜し気に彼を求める舌に別れを告げて口を離した。蛍光灯の灯りに照らされ、2人の間に掛かった銀色の橋が煌いていた。  
 
「あ…」  
 
 普段の彼女には似つかわしくない媚を含んだ声が漏れ、すがる様な視線を我聞に投げ掛ける。  
 
「……っ!」  
 
 漸く現状に気が付いたか果歩は慌てて我聞から身を離すと、頬が熱くなるのを感じながらも、無言のまま部屋を飛び出して行った。  
 
 勉強部屋へと戻った果歩は、既に宿題を終えたのか机に突っ伏して寝息を立ててる妹に風呂を勧めた。珠は素直にそれに従い、部屋を出て行く。  
 
「はぁ…」  
 
 彼女は高校を奨学金で行こうとする優等生。気持ちを切り替えようと頭を振ると、机に向き直りペンを走らせ始めた。  
 ところが、やはり果歩とて中学生、年頃の女の子である。  
 しかしながら家事の一切をその手に引き受けている身である為、これまで人を好きになった経験は多少なりとも有ったとしても付き合った経験など有ろうはずも無い。  
 お陰で先程の兄との行為が合間合間に頭を過ぎり、何とか宿題自体は終わらせたもののそれ以上となるとなかなか進まないでいた。  
 
「…んっ」  
 
 気が付くと手が机の下へと入り込み、誰にも見せた事の無い大事な箇所を下着越しに触っていた。  
 
「はぁ…お兄…ちゃん…」  
 
 はしたない事をしているのは、自分でも理解していた。だが、一度動き出した指は“いけない事をしている”と思えば思うほど動きを増し、その身体に快感を送り込んでくるのだ。  
 
「…ん…気持ち…いいよぉ…」  
 
 もはや指の動きを止めようという考えは浮かんで来ず、更なる刺激を求めてシャープペンシルを手放すと、その手をシャツの裾から忍び込ませる。  
 
「…んん!」  
 
 兄を慕う元真芝の少女には控えめ控えめと言われている、同年代の女の子と比べても明らかに成長速度が遅いであろう胸、その頂にそびえ立つ自己主張を始めたサクランボをかすめ、思わず大きな声が漏れそうになる。  
 それを何とか押さえ込むと、胸全体を包み込むように手のひらで揉み始めた。  
 
(お兄ちゃんも、やっぱり大きいほうがいいのかな)  
 
 やわやわと揉みしだきながら、ついついそんな事を考えてしまう。  
 
(でも…成長期だもん、大きくなるはずよ…って、何でお兄ちゃんが…)  
 
 高校生、またはそれ以上に成長した自分を思い浮かべてみるが、それが兄に吸われている場面だったのだ。しかし違和感は感じられず、それどころか胸の奥がキュンと締め付けられる様になり、ますます下着を濡らす蜜の分泌が増していく。  
 
(ぁぁ…いいよぉ…もっと舐め…て…)  
 
 両の手の動きがますます激しくなっていく。  
 
「…きゃぅ」  
 
 下着越しにスリットを上下していた指が終に肉芽を掘り当てる。包皮を被ったままであったとは言え今までに感じたことの無い強い刺激に、果歩は脳髄に直接電流を流されたかの様に身体を一瞬ピクリと震わせると、大きな波に飲み込まれていった。  
 
「…はぁ…はぁ」  
(お…にい…ちゃん…)  
 
 上半身を机に預け達した気だるさと余韻に漂いながら、荒い吐息は次第に安らかな寝息へと変わっていくのだった。  
 
 
――翌朝  
 
「っくしゅん」  
 
(あれ?あたし…)  
 
 くしゃみと同時に目を覚ました果歩。一瞬きょろきょろと辺りを見渡すと、自分が机に突っ伏したまま眠っていた事に思い至ったらしい。教科書とノートが開いたままになっていた事から、勉強中に眠気に耐えられずに眠ってしまったのだと思ったようだ。  
 
(あ…)  
 
 肩に掛けられていた我聞のジャンパーに漸く気が付くと、慌てて時計を確認する。  
 
「ありがと、お兄ちゃん」  
 
 小さく呟きまだ早い時間であるのを確認すると、残された時間で少しでも途中であっただろう勉強の続きをしようと身を起こした。と、その時――  
 
「きゃっ!」  
(な…なんであたし、こんな格好してるの?)  
 
 シャツの中でスポーツブラは捲れ返り、本来ならありえない圧迫感を伝えている。  
 スカートの裾も本来の位置からかなり上方にたくし上げられており、木綿のパンツが丸見えとまではいかないまでも股間の部分が晒されていたのだ。たぶん、ジャンパーを掛けに来た兄に見られただろう。  
 おまけにその部分に違和感を感じる。何だか薄っすらと湿っている様にも感じられ、一部分が変色しているのだ。  
 
(そ、そういえば…)  
 
 背中に感じる温もり、背後から漂う兄の体臭、それが果歩に昨夜の記憶を呼び覚ます。  
 
(お兄ちゃんとキス…したんだ…)  
 
 右手中指で唇をなぞりながら想いを馳せ、その後に行った自身の艶戯(えんぎ)をも思い出した果歩。  
 
 性に関する知識は保健体育で習うくらいにしか持ち合わせていない少女。もちろん自慰という言葉さえ知らないでいる。  
 中学2年生の女の子とは言え、やはりまだそういった言葉を口にする事に躊躇いを感じるのであろう。友達との会話内にも上がっては来ないのだ。ただし、行為そのものを体験した事の有る娘は彼女のクラスメイトにも居たようである。  
 そんな果歩であるからして、普段あれだけ真面目であったとしても(いや、真面目であるからこそ)昨晩感じた快感に囚われてしまっていたのだ。  
 
「んっ…」  
 
 意識することなく下半身へと伸びた手。先程唇をなぞった指で下着越しに押し当てる。  
 
(…お兄ちゃん)  
 
 何時も自分を優しく見詰める瞳。  
 秘書でもある國生陽菜に気がある様で、その実なかなか態度に表さない朴念仁。  
 家族思いで社員思いだが、思い込みが激しくて直ぐに空回りしてしまう兄。  
 
 そんな兄を思い浮かべ、空想の中で昨夜同様口付けを交わそうとした時、カタンと物音が果歩の耳に飛び込んできた。  
 
「ひゃっ!!」  
 
 小さく悲鳴を上げ、行為を中断する。  
 普段であれば絶対に聞こえない、静まり返った今だからこそ聞こえる小さな物音。  
 風の音なのか、それとも何かが落ちたのかは定かではないが、それは彼女を正気へと戻らせるに十分であった。  
 
(あ、あたしったらまた…)  
 
 頬に熱が貯まるのを感じながら、果歩は慌てて立ち上がる。  
 昨日風呂に入っておらず、また昨夜から続く秘め事の熱を冷ますためにもシャワーを浴びようと思ったのだ。幸い我聞たちが起きて来るまでには未だ時間がある。  
 
(…よし!)  
 
 間もなく冬休み。  
 昨日出来なかった分は、休み中に2倍にも3倍にもして取り返す。  
 そう決意して、果歩はバスルームへと向かっていった。  
 
 
 
 

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