「はぁ……」
「陽菜さんどうしたんですか? ため息なんかついちゃって」
気温がイマイチ安定せず、体調管理にいっそう気を配る五月頭。
陽菜のため息はお空の雲よりもどんよりとしたもので、あたり一面重力効果三割り増しと言えるほどであった。
「最近、あんまり相手をしてくれないんですよ」
「あぁ、兄ですか」
ズズーっと茶をすすりながら、こんな話を聞かされるとは、なんて頭を過ぎっていた。
「そんなことを言わず元気出してくださいよ。陽菜さんを忘れてるわけじゃないんですし」
「そうなんですけど……これが五月病というやつですかね」
ゆったりと流れる時間が、よりいっそう空気のどんより感を煽ってのしかかってくる。
雲に吸い込まれていくようなため息が空へと無常に上がっていく。
「はぁ……」
テーブルにめり込むように突っ伏す陽菜。
あまりに落ち込んでいる陽菜になんて声をかければいいのやらと頭を働かせるも、
どうしようもないかな、ぐらいの楽観的な発想しか思い浮かばない頭。
これは平和なのかな、なんて考えとでゴチャゴチャになっていく脳内会議室。
「……こども、欲しいなぁ」
「こどもですか」
突っ伏したままの陽菜が自分とテーブルのどっちに話しかけているか曖昧であったが、とりあえず返事はしておく。
そう、相槌をすることによって相手のもやもやを少しでも晴らすことはできる。
それが例えめちゃくちゃな話であっても、だ。
「女の子が欲しいですね。かわいい洋服なんか着せたりして」
「経済的に大丈夫なんですか」
「そうでした」
さらにめり込んでいくように見える陽菜。現実とは厳しいものだな、なんて口からそっとこぼれ落ちた。
「それでも欲しいですね。今夜にでも頼んでみます」
「陽菜さん、そうは言ってもですね……」
のんきにお茶菓子をつついていた果歩の表情も少し難しそうになっていった。
現実的にその提案は了承したり、後押ししてあげたりは出来ないのも事実。
やはり現実問題、という言葉が一番の壁であった。
「大丈夫です! わたし、頑張ってみせます」
「ですけどねぇ……あの子達の世話もあるんですよ?」
背後から聞こえるうめき声のような泣き声と、それを止めようと奮起する男の子のあやし声。
実の子ではないにしろ、育児ノイローゼにでもかかってしまいそうな気分である。
「問題ないです。愛、があればどうにでもなります」
「そうですね、確かにそうかもしれません。だから陽菜さん……」
「はい? なんでしょう?」
「どうにでもしてください」
やる気が根こそぎ持っていかれ、放心状態のマイハート。
ただ今より五月病の治療に入りたいと思います。
そっと灰色の空に告げ、大の字に寝転びすべてを放棄して心身の回復に専念することにした。
もう、どうにでもしてくれ