退屈な授業も終わり、個人の時間到来といった下校時刻。
「本降りだな、これは」
昇降口まで来て改めて天候の悪さが目に付く。
「我聞、傘入れてくれよ。俺持ってきてないんだ」
「入れてやりたいのは山々だが、俺も持ってないんだ」
佐々木が上目遣いで懇願するも無い袖は振るえない。
「しょうがない、走るか」
最初から期待値の低い雨天時下校解決法には即座に見切りをつけ、最終手段をしぶしぶと投げかける。
「だな」
使う可能性は低い肩をグルグルと回し準備運動、ここから始めないと落ち着かないらしい。
「社長っ! 何をなさるおつもりですかっ!?」
「國生さん。どうしたの? そんなに息を荒げて」
いざ出発といった時に後方から聴きなれた声が、隣人の絶叫にかすれながらも耳に届いてきた。
「どうしたもこうしたもありませんっ!! 雨に濡れて風邪でも引かれたら大変です」
血相を変えて、とはこのことでOK。と言わんばかりに慌てふためく社長秘書。普段とのギャップは計り知れないものがある。
「いや、体調管理は得意だし」
「そういう余裕からくるのが風邪の特徴です、なめていては足元をすくわれますよ?」
「走って帰れば大丈夫だと」
「絶対にダメです。わたしの傘で帰りましょう」
「いや、それは悪いよ」
「いえ、社長が濡れているのにわたし一人が傘とは倫理的にマズイです」
「いや、でもそれじゃあ」
「いいですね?」
「でも」
「いいですね?」
「……はい」
そういって寄り添うように肩を並べ帰宅……もとい出社していった。
「相合傘は気にしないのかな、倫理的に」
降りしきる雨の中取り残された佐々木は、遠ざかっていく二人の背中を見つめひたすら陽菜にツッコムことしかできなかった。