「なぁ桃子、これはいったいなんなんだ?」
「天才とはあたしのための言葉といって過言でないわ、我聞もそう思うでしょ?」
「いや、だからこれは何だっての」
狭さに関しては誰もが同じ感想を抱く男部屋、もちろん斗馬も生活している空間。
そんな空間にドデカイメタリックなベッドが鎮座していたら、我聞でなくとも唖然としてしまうのは間違いない。
桃子は桃子で自分の素晴らしさに酔いしれ、我聞の存在ぐらいしか気にする様子もなく、話を聞く様子もない。
「あぁ、これはだな……」
「あ、安眠ベッドよっ!!」
背丈の関係で所在不明ではあったが常時行動を共にしているキノコが詳細を告げようとするも、桃子が慌てて説明。
「ちょっとキノピー、何を言うつもりなのよ」
「我聞を放っておいてそう言える立場じゃないだろう。それにコレの性能を説明するだ……」
「それがダメだって何度も言ってるでしょ」
我聞に背を向けヒソヒソと密談を繰り広げるも、
謎めいた機械的なベッドに釘付けな部屋の管理人にしてみればもうそんなことは些細な問題でしかなさそうであった。
「さっきも言った通り安眠ベッドなのよ。でも、まだ開発途中だから実験的運用も済ませてないのよ」
俯きながらボソボソと話を進め、食い入るように聞き込む我聞。
「だから、少しだけ周りの人より頑丈なガモンに使ってほしいなぁ〜と思って」
「なんだ、そんなことか。それなら喜んで引き受けよう」
にかっと笑顔で答える我聞に釣られ、桃子にもぱっと笑顔が戻った。
計画通りに。
「ありがとうっ! 流石ガモンね、頼りになるっ!」
「はっはっ、何を今更」
「じゃあ最終調整するから、少しこの部屋借りるわ」
そう言って我聞を追い出す。その俯いた顔に浮かび上がる表情も知らずに部屋のヌシは退室していった。
「まぁ後はコレを入れるだけなんだけどね」
そう呟き、自身の髪の毛を数本勢いよく抜き去った。
「だが本当にそんなんで効果が現れるのか?」
「あたしの最高傑作である、ドキドキ、気になるあの子が夢に……ベッドが信じられないって言うの?」
せっせと髪の毛をセットしながら反論。完璧なメカニズムによって創り上げられたスーパーベッド。
要するに、好きな夢が見れるという類の奴で現実的、かつ確実な方法のものである。
「でもそんな程度のことで効き目はあるのか?」
「だってそれぐらいしないとハルナにはかてないわよ」
少しムッとしながら作業終了、後は翌日からの我聞の反応を観察するだけ。
「さぁ、怪しまれる前に撤退よ」
息を荒げ、早々に撤退宣告。敵陣には魔人果歩が目と鼻を利かしている。下手な真似は即作戦失敗に繋がってしまう。
足取り軽く家を後にする果歩に案の定怪しがられるも、変なところに気が付くはずもなく作戦は遂行されていくのであった。
ちなみにベッドの作りは単純で、髪の毛から出る臭いを効果的に働かせ、自分の存在を寝ている間にも無自覚ではあるが認識させ、
そのまま夢に出てくる、というものであり、別に凄い作戦と言う訳ではない。
もちろん結果が出るわけもなく、我聞が夢を不思議に思うくらいであった。