「番司くん!クロマティ高校のヤロウ共がタカヤをボコりやがった!」  
「番司くん大変だ!バース高が駅前で好き勝手暴れてるみたいですぜ!」  
「番司くん!卑怯番長が御川高を狙ってるって……」  
「テメエ等うるせえ!くだらねぇ争いにオレを巻き込むな!不良同士の揉め事は、テメエ等でどうにかしやがれ!」  
 
 春の日差しが心地よい4月。県立御川高校ではまた新しい一年が始まりました。  
その暖かな日差しの元、いかつい不良連中に泣きつかれている男が一人。  
時代錯誤な長ランにバンダナ。しかしその眼差しには何か強い意志のようなものを感じます。  
そう、この男こそが水の仙術使い、静馬仙術25代目当主(予定)の静馬番司17歳、その人です。  
番司は無事に高校3年になり、今では御川高校一強い男として、付近の不良達から恐れられています。  
しかし、それをひけらかすわけでもない番司の態度は、周りから尊敬の眼差しを受けているのです。  
 
 番司達は真芝との戦いを終えた後、心配された残党からの攻撃もなく、平和で楽しい高校生活を過ごしていました。  
同じ高校に通っていた我聞と陽菜は、この春、無事に御川高校を卒業。  
我聞の妹達からプレゼントされた2人だけでの卒業旅行を満喫した様子。  
……そして番司は心に秘めたその淡い恋心に終止符を打つことにしました。  
お互いに惹かれあっている我聞と陽菜。この2人に割り込む事はできないと痛感したのです。  
 
(まったく、うるさいヤツ等だ。くだらねぇ不良の争いにオレを巻き込むんじゃねえってんだ)  
 
 しかしそう簡単に吹っ切れないのが恋の病。  
心に残っているもやもやを晴らすため、ウサ晴らしに不良退治をやってやるかとその気になっています。  
 
(が、そうも言ってられねぇな。  
不良どもがどうなろうと知ったこっちゃねぇが、他の生徒に害が及ばないとも限らない。  
……なにより暴れてスカッとしたい気持ちでいっぱいだぜ!)  
 
 拳で手の平を『パン!』と叩き、駅前で暴れている不良どもを叩きのめそうと考えていたその時、  
背後から、聞き慣れた、それでいて聞きたくない声が番司の耳に入ってきたのです。  
 
「ねぇカホ、ニッポンの校舎ってなんでこんなに狭いの?」  
「仕方ないでしょ?狭い日本に大きな土地なんてそうそうないわよ」  
「ふぅ〜ん。けどこの制服は可愛くてなかなかいいわね。この制服姿の私を見たらきっとガモンも……」  
「それはないわね。アンタのようなうっすい胸に興奮する男なんてそういないわよ」  
「……カホ、言ってて空しくないの?」  
「……ゴメン、すっごく空しかったわ」  
 
 ……カタカタカタカタ。  
番司は先ほどまでの男らしい表情から一変し、身体をカタカタと震わせています。  
 
「あ〜あ、ガモンやハルナと一緒に高校生活を送りたかったなぁ」  
「日本は海外とは違うからね。いくらアンタが天才でも飛び級は無理なのよ」  
「ま、カホがいるからいっか。けど知り合いがカホだけってのもなんだか寂しいわよね〜」  
「これから作ればいいのよ。それも高校生活の醍醐味ってヤツね。  
……あれ?そういえば御川高校って、お兄ちゃんと陽菜さん以外にも誰かいなかったっけ?」  
 
 ……ガタガタガタガタガタガタ。  
震える身体を押さえつつ、ゆっくりと背後の声の主を見てみる番司。  
その視線の先には、ここは外国かと思わせるような金髪美少女と、  
その少女と仲良く話し込んでいる、黒く、美しい髪をツインテールに纏めた、カワイイ女の子がいます。  
番司はガタガタと震える指で二人を指差し、思わず叫びました。   
 
「な、なんでお前らがここにいるんだよ!いったい何しに来やがった!」  
 
 そう、番司の視線の先にいた人物とは……  
その金髪が人目を引く、美貌も兼ね備えた少女。  
元真芝第5研所長を14歳という若さで任されていた天才。桃子・A・ラインフォード。  
そして、その桃子と仲良く話しているのは、黒髪でツインテールのカワイイ女の子。  
その彼女の兄は、去年まで御川高校に在籍し、番司と共に真芝と戦った仲間であり、  
恋のライバルでもあった(番司が勝手にそう思い込んでいただけだが)、工具楽我聞。  
彼女は番司の戦友であり、ライバルでもある我聞よりも権力があり、  
影の組織、GHK(我聞・陽菜くっつけ委員会)を立ち上げ、束ねる長。  
そう、彼女の名は工具楽果歩、その人である。  
 
「あ、パンツマンだ。相変わらずダサいのね」  
「ホントだー、だっさ〜い。ねぇカホ、ダサいのがうつるから早く教室へ行こ?」  
「そうね、こんなのが知り合いだと思われたくないしね〜」  
「て、てめぇ……黙れ!この超絶うす胸コンビが!」  
 
 その瞬間、信じられないほどの殺気が御川高校を包む。  
殺気に当てられ動けなくなる番司。  
その番司を指差し、ゆっくりと、しかし、殺意の篭った声を発する桃子。  
その声はまるで死刑を宣告する裁判官のような、響きを持つ。  
 
「……カホ、やっちゃって」  
 
 その時、殺気の塊が番司を襲う。  
その瞬間を見ていた2年生の生徒A子さんはこう証言をした。  
 
『実は静馬先輩って男らしくてカッコイイな、って憧れてたんです。  
それがまるで台風に書き込まれた看板のようにあっという間にグシャグシャに……おかげで冷めちゃいましたね』  
 
 同じく生徒B太君はこう証言をする。  
 
『番司くんって力も強くて頑丈で、凄いんですよ!  
だって2階から飛び降りても平気な顔してるんですよ?  
男としてちょっと憧れてたんですけど……女の子にああまでされるとはねぇ。ちょっと冷めましたね』  
 
 同じく教師C先生の証言はこうだ。  
 
『工具楽は成績もよく、家計を助ける為に特待生で入学するなど生活態度も抜群!  
だけどねぇ、やっぱり工具楽の妹なんだなぁってこの一件を見て痛感しましたね。  
え?静馬ですか?腕と足がヘンな方向に曲がってたけど、次の日にはピンピンしてたなぁ』  
 
 
「喰らえ!あたし奥義、瞬天降魔脚!」  
「はべろぶがふぅ!」  
 
 その日、御川高校を震源とする震度5弱の地震が観測されたとか、されなかったとか。  
 
 
 御川高校を震源とする地震が起きた次の日、番司は朝から他校の不良数人に絡まれています。  
 
「へっへっへ……静馬くんよぉ、テメエ女に伸されたらしいじゃねか。  
今日は女なんかじゃなく、俺らが伸してやる……ギャン!」  
 
 因縁をつけてきた不良に、鉄槌を下す番司。  
さすがは仙術使い、逆に曲がった関節も一晩寝ればすっかり元通りです。  
 
「オレは今、機嫌がわりぃんだよ!てめえらでウサ晴らししてもかまわないんだぜ?  
オラァ!やんのかよ!」  
「ひぃ!お、覚えてろ〜!」  
 
 やはり人を集めても所詮は烏合の衆、仙術使いの番司には敵いません。  
クモの子を散らすかのように逃げ去っていきます。  
 
(クソッ!なんで朝っぱらから絡まれなきゃいけねぇんだ?これも全部あのクソガキのせいだ!  
アイツさえ入学してこなきゃ平穏な日常を過ごせて……なんだ、あの人だかりは?)  
 
 果歩に対して、ブツブツと文句を言いながら学校に向けて歩いていると、校門の所でなにやら人だかりが。  
何があるのか気になり、番司もその人だかりの中を覗いてみると……  
 
「ええ〜?静馬先輩ってお姉さんに頭が上がらないんだ?かっこわる〜い」  
「ええ?國生先輩のストーカーしてたの?男らしい先輩だと思ってたのに……ガッカリだわ」  
「うええ?静馬先輩のあだ名ってパンツマンって言うんですか?……ダサ」  
 
 人だかりの中心で、楽しそうに話す金髪の女の子。  
彼女の言葉に肩を落とす女性とが多数、男子生徒もガッカリといった表情です。  
そしてその横にはメンドクさそうな顔をしたツインテールの女の子が。  
そう、校門の前で桃子と果歩が、番司について色々と質問攻めにあっていたのでした。  
 
「テメェら何言ってるんだよ!ある事ない事ベラベラと話すんじゃねぇ!」  
「あ、パンツマ〜ンおはよ〜。アンタ、カッコイイ人って誤解されてたから、私とカホとで誤解を解いといたわよ」  
「ふざけんじゃねぇ〜!このうす胸コンビが!テメェらぶっ殺……」  
「あたし秘奥義!激天降神脚!」  
「ひでぶ!」  
 
 果歩の秘技により、朝から死に掛ける番司。頭から地面にめり込んでます。  
   
「お、お前、この技はシャレにならない……ガフッ!」  
「ふん!カワイイレディーに対して失礼なことを言うからよ!もう教室に行こ、桃子」  
「そうね、バカの相手なんかしてたら遅刻しちゃうもんね」  
 
 めり込んだままの番司をそのままに、教室へと走る果歩の桃子。  
その後姿を見つめる複数の男達がいた事に、2人は気づきませんでした。  
 
 
「今日は面白かったねぇ〜。ねぇカホ、なんでパンツマンのヘンなとこばかり話したの?」  
「は?それはあれよ。……本当のパンツマンを知らないで憧れるなんて可哀想だからね。  
だから教えてあげたの。けどあの先輩も、あんなバカのどこがいいんだか……」  
「ホント驚いたわよねぇ。  
朝いきなり『あたし、静馬先輩の大ファンなの!あなた達が知ってる先輩の事、教えて!』だもんねぇ」  
「けど教えてる途中でその先輩はいなくなったわね。……きっと失望したんだろうなぁ」  
 
 そう、今朝校門の前で番司の話をしていた理由は、番司のファンだという2年の先輩から頼まれたからだったのだ。  
メチャクチャ強いところとか、正義感があるだとか、番司のいいところを教えてあげればいいものを、  
何を思ったのか、ヘッポコなところばかりを教えたのです。  
 
「けどカホ〜。なんで途中からなにも話さなくなったの?最初はノリノリで話してたじゃない。  
途中から暗い顔してさ、なんだかつまらなそうな顔してたよ?」  
「うん、なんだかその場にいない人の事を悪く言うのはダメかなって思ってね。  
……番司に謝った方がいいかな?桃子はどう思う?」  
 
 結果的に陰口をたたいてしまった事を悔やんでいるのか、暗い表情で落ち込んでいます。  
 
「謝るも何も……カホがトドメを刺してたじゃないの」  
「うん、そうなんだけどね……はぁぁ〜、なんでこんなに憂鬱なんだろ?」  
 
 桃子はパンツマンを地面にめり込ませておいて、今さら何を言っているの?といった顔で果歩を見る。  
そんな果歩は少し寂しそうな顔をしている。  
桃子がその表情気づいた時、2人は後ろから声をかけられた。  
 
「やっほ〜。お嬢ちゃん達元気ぃ〜?ちょっとした手伝いをしてほしいんだけど、いいかな?」  
「は?アンタ達、いったい誰よ?」  
 
 背後から声をかけてきたのは、他校の制服姿の男数人。  
ニヤニヤと笑いながら近づいてきます。  
その不気味な様子に警戒する果歩と桃子。  
男達は警戒も関係なしにニヤニヤと笑っています。  
そのうちの一人、大柄な男がポケットに手を入れたまま2人に近づいてきました。  
 
「なぁ〜に、簡単なことだから断わらないでね?  
断わったりしたらお嬢ちゃん達のカワイイ顔に……一生残る深い傷を負わせなきゃいけなくなるんだよねぇ」  
 
 ニヤニヤと笑っていた大柄な男がポケットから手を出す。  
その手には、不気味に光るナイフが握られていた。  
突然出されたそのナイフを見て、足がすくみ、動けなくなる桃子。しかし、彼女は違っていた。  
 
「桃子、逃げて!逃げてお兄ちゃんに助けを求めてきて!」  
 
 ドン!と桃子を後ろに突き飛ばし、自身は両手を広げ、男の前に立ちはだかる。  
 
「カホ!私だけ逃げるなんて……」  
「いいから逃げて!早くお兄ちゃんを、番司を呼んで……きゃ!」  
 
 ヒュン!果歩の顔目掛け、振り下ろされた鋭いナイフ。  
しかし果歩は間一髪倒れこみ、顔を傷つけられる事は間逃れました。  
倒れたところを押さえ込まれ、地面に顔を押し付けられます。  
それを見た桃子は、その場から走り出します。  
やっと出来た……生まれて初めて出来た人間の親友を救う為に。  
しかし男共も桃子を逃がそうとはしません。  
果歩を押さえ込んでいるナイフを持った大柄な男以外、桃子を捕まえる為に追いかけてきました。  
必死に逃げる桃子。しかし男達との体力の差はいかんともしがたく、細い路地に追い込まれました。  
そしてその男達の手が、桃子の真新しい制服を掴もうとした瞬間、彼が現れたのです。  
 
 
「お前ら遅かったな。で、パツキンちゃんは逃がさずに捕まえたんだろうなぁ。  
人質は多ければ多いほどいい。逃がしたなんか言うなよ?言ったらお前らを切り刻んじゃうぞ?」  
 
 今は使われていない廃倉庫の中、柱に果歩を縛り付けた男がナイフ片手に待っている。  
どうやら仲間が桃子を連れてくるのを待っていたようだ。  
 
「おい、テメエが恨んでるのはこのオレだろうが!なんで関係のない女を巻き込む?  
テメエ、それでも男か!」  
 
 その男に話しかけたのは仲間ではなく、怒りに震える声。  
怒りのあまり、声が震え、その声はまるで廃倉庫全体を震わせているようだ。  
 
「おお?なんだ、来てくれたのか?呼び出す手間が省けたぜ」  
「他のクズどもは全部潰した。後はテメエだけだ!テメエはぜってぇに許さねぇ!」  
「ひゃははは!潰した?おいおい、潰されるのはテメエだよ。静馬番司!  
テメエにやられた恨み、今日こそ万倍にして返してやるぜ!おい!お前ら出番だぜ!」  
   
 男の呼びかけに、倉庫内に隠れていたのか、数十人の男達が現れた。  
それぞれ手には凶器となる木刀や鉄パイプ。  
金属バットなどが握り締められており、番司を見る目には殺気を含んでいる。  
 
「ひゃははは!さすがのアンタでもこの人数に囲まれて、人質を取られちゃ勝てねぇだろ?  
どうだ?勝てるのか?この状況で勝てるのか?ひゃははははは!」  
「番司!あたしに構わずコイツ等全員倒して!あたしは大丈夫だから!」  
「黙れブス!誰が勝手に話していいと言ったぁ!」  
 
 ドスッ!男は怒りに任せ、ナイフの柄で果歩のお腹を殴打する。  
柱に縛られたままお腹を殴られ、ぐったりとなる果歩。  
その様子を見ていた番司は、唇を血が出るほどかみ締め、そして怒りを押し殺して話し出した。  
 
「……テメエが恨んでるのはこのオレだろ?ならオレをやれよ。  
そいつはクソ生意気で、いっつもオレをバカにする、鬱陶しいクソガキだ。  
だがな!そんなクソガキでもな!……オレの、大事な人の一人なんだ。  
……やれよ。その代わりそいつにこれ以上手を出すな。出したら……その場でお前ら全員殺すからな!」  
 
 そういって胡坐を掻いて目を瞑って座り込み、両腕を組む。  
そんな番司を見た不良達は高笑いをし、おのおの手に持った凶器で番司を殴りだした。  
 
「ひゃははははは!男前だな、静馬番司くん!俺等はテメエのその男前なところがムカつくんだよ!  
テメエは今日ここで死んじまいな!……まぁ運がよければ生き残れるだろうがよ。ひゃはははは!」    
「だ、めぇ……逃げ、て……番司、逃げてぇ〜!」  
「ひゃはははは!おい女、叫べ、もっと叫ぶんだよぉ!  
テメエの叫びは、いいBGMになるぜぇ!ひゃっはははは〜!」  
「イヤ……イヤァァァ〜!」  
 
 果歩の悲痛な叫びと、不良達が番司を殴る音が響く廃倉庫。  
意識が朦朧とする中、叫び続ける果歩の足元で何かが蠢く。その何かが果歩の足をトントンと叩いた。  
 
「逃げて!番司逃げ……え?あ、あなたはキノ……」  
 
 ドカ!バキ!ドゴ!……倉庫に響く、人を殴る鈍い音。  
しかし、その音に紛れ、女の声が響いた。  
 
「もう大丈夫よ、番司!キノピー!プリズムシェル展開!」  
「おう!任せとけ!番司!人の道を外れた外道どもに、正義の鉄槌を喰らわせてやりな!」  
 
 その言葉が倉庫内に響いた瞬間、果歩を光が包む。  
 
「全くいつまで待たせる気だ?眠くてあくびが出るところだったぜ!遅せえんだよ!控えめ胸!」  
 
 番司の声と共に吹き飛ぶ不良たち。  
それを見たリーダー格の男がナイフを振り上げ果歩に向ける。  
 
「テメエやりやがったな!テメエのせいで……女は死んだぜ!」  
 
 光に包まれた果歩に振り下ろされるナイフ!もはや絶体絶命かと思われた瞬間……  
 
『キィィィーン!』  
 
 光がナイフを弾き飛ばす!  
光の中心には、果歩と、果歩を守るように……桃子の友達、キノピーがいた。  
 
「誰が控えめ胸よ!減らず口叩いてる暇があるなら、さっさとやっちゃいなさい!」  
「言われなくても……やってやるよ!」  
 
 人質がいなくなった不良達が、仙術使いでこわしやでもある番司に勝てる訳がない。  
桃子とキノピーの協力によって果歩を人質から開放され、  
何も邪魔するものがなくなった怒れる番司の前では、不良達はまるでゴミくずのように吹き飛ばされる。  
5分もすると、全ての不良は体中の関節を外され、歯を全て叩き折られて、這いつくばっていた。  
 
 
「カホ、大丈夫?怪我はない?」  
「おい、クソガキ、大丈夫か?怪我はないか?」  
   
 不良達が全員動けなくなったのを確認し、プリズムシェルを解除するキノピー。  
果歩は安心したのか、ヘタヘタと座り込んでしまう。  
 
「おい、大丈夫か?怪我はないか?」  
「はぁはぁはぁ、殺されるかと、思った……すごく、怖かった」  
 
 恐怖からか、両肩を抱えブルブルと震える果歩。  
無理もない。知らない男達に拉致されて、縛られた上にナイフで脅されていたのだ。  
そんな果歩を励ますために話しかける番司。  
囲まれて殴られた為に、いたるところから血が出てはいるがさすがは仙術使い、既に止まりかけている。  
 
「もう大丈夫だ。お前を殺そうとするヤツは、オレが全部ぶっ潰し……」  
「違うわよ!アンタが……番司が殺されるかと思ったのよ!すごく……すごく怖かったんだからね!」  
 
 ブルブルと震えていた果歩は、番司の腕の中に飛び込んだ。  
そして声を上げ、ワンワンと泣き始めてしまった。  
番司は、胸の中で震えながら泣きじゃくる、果歩の温かさ、柔らかさにドキドキしてしまう。  
意識すればするほどドキドキは止まらなく、顔は既に真っ赤に染まっている。  
そんな2人を見て呆れる1人と一匹?が。  
 
「あらららら……キノピー、なんかいい雰囲気だし、私たち先に帰ろっか?」  
「そうだな。いいところを邪魔しちゃ男が廃るってもんだ」  
「お、おい!お前ら何言ってやがんだ!今コイツは混乱してるだけ……」  
「番司、唇から血が出てる。……ゴメンね?あたしが捕まったばかりにこんな痛い目に合わせて……ん」  
 
 1人と一匹が帰るのを止めようと桃子に視線を向けたその時、   
唇をかみ締めた時に切れてしまった下唇に甘い感触が。  
視線の先には驚きの表情を浮かべる桃子とキノピー。  
下唇に感じる温かく、それでいて甘い感触。  
視線を向けるまでもなく、番司の視界には、果歩のカワイイ顔がドアップになっている。  
 
「ん……ちゅ、ゴメンね?こんな怪我させちゃって……ちゅ、んん、んちゅ……ちゅちゅ」  
「あ、あぁっぁっぁぁっぁあぁぁ……あうあうあうあうあうあうあうあうあう」  
「う、うっわぁ……カホったらだいた〜ん。キスで唇の血を拭き取るなんてすっごいわね」  
 
 切れて血が出ている番司の下唇に吸い付き、ペロペロと傷口を舐め取る果歩。  
その大胆な行為に番司の頭はショートし、あうあうとしか喋れていない。  
しかし桃子が発した『キス』という言葉が、番司にとって本日最後にして最大のダメージを与える事になったのだ。  
 
「……キス?桃子、なに言ってる…………いやぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜!!」  
 
 桃子の言葉で正気に戻ってしまった果歩は叫びながら技を繰り出す。  
 
顎を垂直に蹴り上げられ身体が地面から浮かび上がった瞬間、鳩尾に肘鉄が入る。  
 
「ぐぼを!」  
 
 肘鉄で、くの字に曲がった番司に果歩が繰り出す踵落としが襲い掛かる!  
 
「いぃぃぃぃやぁぁぁぁぁ〜〜〜!!」  
   
    
 果歩の綺麗な踵は番司の後頭部を的確に捉え、床へと叩き付け……否、めり込ませる。  
 
 
 工具楽果歩が新たに必殺技をあみ出した瞬間である。  
 
 
 
「おはよー、パンツマ〜ン」  
「おい桃子、いい加減その呼び方はやめろ!まったく、いつまで言い続けるんだよ」  
「ば、番司、オハヨ」  
「おう。……なんだ、お前元気ないな。メシ食ってないのか?」  
 
 春の陽気に包まれた、平和な朝。  
御川高校の校門前で、いつもの挨拶を交わす番司に果歩達。  
何故か果歩は赤い顔して番司に挨拶をしています。  
 
「ところでさ、頭は大丈夫だったの?」  
「おお、それがさ、大丈夫は大丈夫なんだけど、やっぱり記憶が戻らないんだよなぁ」  
 
 昨日行なわれた、廃倉庫での不良達との大立ち回り。  
そのダメージが深かったのか、一時的な記憶喪失に陥った番司。  
記憶喪失の原因は頭部への強烈なダメージと診断されたようです。  
 
「あらららら……そうなんだ?戻ったら面白いのになぁ。ねぇカホ?」  
「お、面白くなんかない!全然面白くない!」  
 
 引きつった笑顔で面白くないと否定する果歩。見るからに挙動不審です。  
 
「なんだ?お前なに慌ててんだ?……ま、いいや。じゃ、オレ行くわ」  
「バイバ〜イ!留年しないように勉強頑張んなさいよ〜」  
「まだ一学期始まったばかりだっつ〜の!」  
「ほら、カホも手を振りなさいよ」  
「う、うん……バイバイ」  
「お、おう。……なんか調子狂うな」  
 
 いつもと違い、しおらしい果歩に戸惑いながらも教室へと向かう番司。  
それを見送った桃子はニタリと微笑み果歩を問い詰めます。  
 
「で、カホはなんでパンツマンなんかにキスしちゃったのかな〜?」  
「わ、分かんないよぉ〜!自分でもなんであんな事しちゃったのか、全然分かんないよぉぉ〜!  
大事な人の1人って言われて嬉しかったけどぉ、確かにあの時の番司、カッコよかったけどぉ……」  
 
 桃子のイジワルな問いかけに頭を抱え、もがき苦しむ果歩。  
   
 そんな果歩を見て、桃子は心の中で  
 
『ガモンとの仲を邪魔された仕返しに……くっつけちゃお』  
 
 と、復讐を誓いましたとさ。  
 

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