暖冬などと言われているものの現実問題一般人の肌が感じる冬の寒さというものは温暖化などお構いなしの寒い日が続く中、  
日に日に暖まっていく気温に春の訪れを感じつつ、今か今かと老若男女問わず待ち遠しい気持ちの少し浮かれた時期、  
 
「ただいま戻りました〜」  
「………………」  
「國生さん?」  
「………………」  
「おぉ〜〜い?」  
「………………」  
「……あの〜、もしも〜し?」  
「……肉じゃがですかっ!? ジャガイモにはしっかり火は通ってますよっ!?」  
「……そ、そうなんだぁ〜」  
「……え、えぇ……」  
「「………………」」  
 
そんな本当の意味で心身ともに、心の底から頭の中までポカポカになり始めた頃のちょっとしたお話。  
 
 
陽菜のドジっ子?  
 
 
律儀に毎日少しずつ気温が上がるということもなく、日々上下する気温とは打って変わって陽菜の異常は常に上向き。  
マズイ方向に向かって進行し続けている。  
原因はいったい何か? なんて試行錯誤したくなるような連中もいるのだが、そんなのお構いなしに先ほどのような状態が続いている。  
 
「(國生さん最近疲れてるのかな)」  
「(わかんないんだよ、あの子そういう面は表に出さないでしょ?)」  
 
そんなヒソヒソと秘密裏で会話なんて日常茶飯事になっているのだが、謎は深まるばかり。  
謎解きに全力を注ぐ機関、GHKなる秘密組織は何度となく難攻不落の城の突貫にチャレンジを試みるも、  
 
「いえ、これといって何もありませんが」  
 
と、頭にハテナを浮かべたような表情で聞き返されてしまう。しかし、誰が見ても(我聞でさえ)おかしいことには気が付く。  
常日頃はあちこちに広げている視野は狭まり、とっさの対応力も低下、突然ぽけぇ〜っとし始めてしまうといった状態である。  
それでも今のところ仕事上の問題もなく、呆けていたとしても突然思い出したかのようにテキパキ動いている。  
だがこのような不安定な状態が続いていってしまうようでは、本業が入ったときに何があるかわからない。  
そんな気まずいような雰囲気が社内に広がってはいるのだが……  
 
「……パチ、パチ…………」  
 
書類とパソコンを交互に見直しながら、どこか抜けたような状態で仕事をしている。  
 
「……っ、パチパチパチパチ」  
 
かと思えば素晴らしいブラインドタッチでの業務処理。  
 
 
「我聞くんっ!! 休暇だよ休暇っ!!」  
 
陽菜が外回りだといって外出した途端、今までの鬱憤を晴らすかのごとく騒ぎ出す優。  
そもそも優にとって静寂な空気とは本当に息が詰まってしまう。  
生命の危機にさらされ続けた、続ける可能性があるこの状況をもっとも打破したいのもまた優である。  
 
「な、何を突然言い出すんですか」  
 
ハンニャのような形相で迫ってくる姿に怖気づくが、放って置いても恐怖は和らぐことはない、と我聞なりではあるが理解はしている。  
 
「何をって、おまえ今更何を言い出すんじゃあぁっ!!」  
 
愛用メガネにヒビが入りそうな状態で我聞の胸倉を掴み、ゆっさゆっさ力の限り揺すっている。  
頭がカクンカクンとなってしまってはいるが、幸か不幸か日頃の修行のせいで気絶も出来ずに、  
 
「ゆ、優さん、あ、あの、優さ、優さんっ」  
 
こんな感じで苦痛をエンドレス。  
 
「いや、にしても参りましたね」  
「うむ、じゃがどうしようもないしの」  
 
そんな和やかなムードの仕事場ではあったが、このままでは今後の対策が練られないとの判断を下し、我聞を救出。  
本格的に会合が開かれ始めた。  
 
 
「はるるんの異常は最近のゴタゴタにあると思うんだ」  
 
怪しく光るガラスの奥に、ここ最近眠りっぱなしであった輝きを取り戻しつつ話の主導権を握る。  
 
「確かに忙しかったですからね」  
 
こちらはガラスの奥に何を秘めているかはまったく理解できない状態で相槌を打つ。  
元気を取り戻した優の言っていることは的外れの利己的(GHK)というわけではなく、しっかり事実に基づいた発言であった。  
真芝が壊滅してまだ日が浅く、我也と武文が旅立ってからも数日といえる今日この頃。  
ドタバタと忙しく進んでいった日々の疲れがここにきてどっと出てきたのであろう、というのが優の言い分らしい。  
それに真柴が壊滅した今、本業の数はぐっと減り、穏やかな生活が続いていくであろうと誰もが思える。  
そんな気が抜け始め、緩みや疲労が出てきてもおかしくはない。  
ここにいる全員がそのことに関しては何の反論も出てこない。ただただ納得するばかりである。  
 
「その疲れを癒すための休暇というわけじゃな?」  
「そゆこと〜」  
 
優の表情からは陽菜のことを思って言っているのか、ただ自分の休みがほしくて言っているのかは定かではない。  
だがそれだけではこの提案を否定する理由として弱すぎであると誰もが認識していた。  
 
「ですが、彼女は例え休みといえど何かしら仕事のことを考えていると思いますが」  
「そこで我聞くんっ!」  
「はいっ?」  
「はるるんと買い物に行ってきなさい」  
「何故?」  
 
当然のように言ってのける優に理解できないといわんばかりの表情で受け答えする我聞。  
 
「家でのんびりしそうにないから引っ張り出さないと」  
「でも人それぞれ休暇の楽しみ方は違うであろうし」  
「それじゃあ何にも解決しないんだぁよぉ〜っ!!」  
 
泣きつきながらゆっさゆっさ。  
 
 
「そうですね、気分転換に丁度いいかもしれませんしね」  
「うむ、それでよかろう」  
 
我聞そっちのけで話は進んでいく。  
 
「何で俺も買い物に行かないといけないんですか?」  
 
ウインドショッピングなどは男の子である我聞には退屈でしかないようなものであり、そもそも自分が付いていく理由がまったくない。  
これが我聞の言い分ではある。が、  
 
「酷くお疲れの社員に休みだけ叩きつけてケアはしないのかい?」  
 
ニヤリと優完全復活。先ほどまでのお疲れもどこ吹く風といえるほどの変わり身を披露。  
 
「いや、だから楽しみ方は個人で違うから……」  
「まさかあの状態のはるるんを放っておくとは言わないよね〜?」  
「それは……」  
「だって社長だもんねぇ〜、社員の心のケアはもっとも大切だよね〜」  
「そ、そうですね」  
「社長たるものドンと構えて社員をフォローしてみなさいっ!!」  
「は、はいっ!!」  
 
そして外を指差し、帰宅を示唆する。即座に理解した我聞は一目散に駆け出して行った。  
 
「わたしのフォローも頼んだよ〜」  
「いや、優君、社長は……」  
「大丈夫、なんてたって社長だから」  
 
にしし、と笑いながら悪い顔。我聞に続き流れるような動きで退社。  
 
「いや、優君、仕事は」  
 
そんな声は虚しく社内にこだましていた。  
 
「まぁいいじゃないですか。私たちで何とかしておきましょう」  
 
ため息混じりにしぶしぶ頷く専務。  
 
 
そんな素早く帰宅させられた我聞であったが、理由を果歩に話すと、  
 
「陽菜さんを誘ってないのに何帰ってきとんじゃあぁ〜っ!!」  
 
との忠告により、再び出社とあっちこっち大忙しの我聞。  
 
「戻りました……」  
 
そもそも社長が一目散に家に向かって返ること自体問題であるのだが、今更そんなことに文句を付ける人材はいない。  
 
「おや? どうしたんですか?」  
「いや、國生さんと約束しないと」  
「デートのですか?」  
「んなぁっ!?」  
 
遅まきながらに気が付く、世間一般的にデートであると。  
 
「社長の勇姿を拝見しておきたいのじゃが、迷惑になると後々……」  
「えぇ、優さんがなんて言い出すか。ですから私たちはこれで」  
 
色々言い訳しながらあたふたしている我聞を横目に仲良く帰宅。置き去りになってしまった我聞。  
 
そんな中、一人で考えてはいたが買い物に行かないという選択肢がなかったことに気が付いた。  
先ほどの辻原の言葉が心にしっかりと刺さっている。  
 
「優さんがなぁ……」  
 
ため息混じりに呟く。ない頭を捻ったところで、いい案が出てくるかといえばそんなことはない。  
出てくるのは誘わなかったときのさまざまな優。これ以上に恐いものはない。  
 
「どうすっかなぁ〜」  
「何をですか?」  
「うぉわぁっ!? 國生さんっ!? いつからそこにっ!?」  
「いえ、たった今帰ってきたところですが」  
 
そんな動揺しっぱなしの我聞に少し驚きながらも、まぁいつものことであろうし、  
といった感じの感想しかないようなリアクションで荷物を片付け始める。  
 
「それよりみなさんは?」  
 
がらんとした社内を見渡しながらの率直な感想。  
 
「あ、あぁ。みんなお疲れのようだからね、少し早めに上がっていったよ」  
「そうですか」  
 
お疲れを引き起こしている張本人はなるほど、なんて頷きながらせっせとお片付け中。  
 
 
「そういうわけで、急ではあるが明日は休みってことになったけど、何か問題はあるかな?」  
 
声が上ずっているような気もするがそれどころではない。  
心臓が今にでも破裂してしまうのではないかといわんばかりに体中に血を巡らせている。  
冷や汗ダラダラ、目線も泳ぎたい放題である。  
 
「明日は……幸いこれといって何もありませんね」  
 
ほっと胸を撫で下ろすも、鼓動は再びフルスロットル。  
 
「ところで明日買い物に行かない? ほら、気分転換にさ」  
 
そんな直球勝負。しかしこれ以外の選択肢はなかったので、最善策といえば最善策なのであろう。  
 
「そうで、すね……欲しいものもありましたし、では御一緒させていただきます」  
「そうか、それはよかった。じゃあ詳細はあとで伝えるとして、帰ろうか」  
 
軽く頷く陽菜を連れ、社を後にした。  
この情景だけを見ていたとすると、どちらが異常で気分転換に行きたいのか、誤った判断が下されてしまってもおかしくはない。  
だが、その間違いが陽菜に、  
あぁ、社長はお疲れなんだな  
との誤解を招き、すんなりと了承を頂いたのは我聞にとって、不幸中の幸い程度の拾い物であった。  
 
 

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