國生さんとの同棲が始まって数年、工具楽家の経営状況も軌道に乗り、二人掛りのやりくりによって貯金も貯まり、
果歩念願の自家用車が我が家にやって来た。
國生さんと果歩による厳選された車。
お店の人が泣いていたのは目を瞑るしかない。
その間に免許証とやらを取らされたのだが仕事との両立は厳しく、なかなか取らせていただけなかった。
車に乗れるようになってからというもの、遠くの特売やらでガソリン代を考慮に入れた使用方法が定着していた。
助手席には國生さんを乗せてのドライブ。
家や仕事場ではあまり二人っきりになれず、ここが唯一の空間。
車を駐車したらどちらともなく手を繋ぎ歩き出す。
お店に入ると顔つきが変わり、最初はびびってしまったが慣れとは恐ろしいものである。
鮮度、値段、賞味期限に原産地、すべての情報を一気に頭の中でフル回転状態の國生さん。
自分は荷物持ち。しかし、そんな國生さんを眺めていられる幸せなポジション。
そして、少しの無駄遣い。
國生さんと俺でアメを二つ買って帰る。あいつ等には秘密の、二人だけの贅沢。
國生さんはオレンジ味、俺はソーダ味。
荷物をトランクに入れて車を発進させる。
アメを舐めるのは忘れない。
隣には楽しそうにはしゃぐ彼女。
ここ数年で大分明るくなってくれた。
俺もついつい顔がにやけてしまう。
そんな小さな幸せ 二人だけの空間。
今はもう隣には誰もいない。
あれから10年。
いつものようにトランクに荷物をしまう。
手馴れた手つきでアメの包み紙をはがす。
今をもう存在しない二人だけだった空間。
二人だけの贅沢を隠す緊張感。
崩れ去った小さな幸せを感じられる時間。
そんなことを思い出しながら少し呆けていた。
「あなた? どうかしました?」
後ろから心配そうな声が聞こえてくる。
「だからお父さんは未熟なんだね」
満面の笑みで、グサグサと突っ込む娘。
俺たちの良い所(だよな?)を受け継いだ長女。
むむっ、手厳しい。
ふふっ、なんて笑い声も聞こえてくる。
娘を黙らせる最終奥義
「ほら、アメだぞ」
喜んで受け取る國生さんと娘。
二人っきりの空間は三人のものになった。
小さな幸せは大きな幸福になった。
二人の秘め事は三人の秘密になった。
この幸せがずっと続いていくことを心から願う。
娘は彼女と同じソーダ味がお気に入りだ。