なんてことのない日曜日、学校も休みで部活や行事のないただの日曜日。  
普段なら社長業と言う名の雑用にせっせと労力を費やしている時間帯。  
静かな午後である。  
 
「ガモーンっ! それこっちお願いっ!」  
「おぉ、わかった」  
 
静かな午後である。  
 
 
I  Mother  
 
 
真芝が実質壊滅してから何ヶ月か経ったある日。  
「ガモンと暮らすの〜っ!!」  
わがまま爆発状態の桃子が動き出した。  
こんな性格の桃子には静馬のお家は堅苦しくてしょうがない。  
このような理由を引っ下げて桃子は単身工具楽家に飛び込んできた。  
最初当惑した静馬家面々、プラスヒゲであったが、  
 
桃子だから  
 
この一言で片付くくらいの扱いであることに嘆くこともなく前向きに工具楽家で生活し始めた。  
真芝が壊滅しているので静馬の家にかくまってもらう理由もなく平穏な暮らしが始まって数日がたったある日曜日。  
「桃子……この荷物の量はなに」  
果歩が呆れ気味につぶやいている。  
「あ〜らカホ、レディーは荷物が多くて当然でしょ」  
「「山だー!!」」  
ダンボールの山が完成していた。  
「でっ?これどうするの?」  
山を指差しながら桃子の様子を窺う。  
「どうするってミンナで手分けしてやればすぐ終わるじゃない」  
やっぱりか  
「わたしも手伝うのよね……」  
もう少し計画的に行動してほしいものだ  
「当たり前でしょ、このままほっといたらジャマでしょ」  
前言撤回、計画通りか  
「ただいま〜…って、これはなんだ!?」  
突然の出来事に対応する能力は低く、驚くことしかできない。  
「あっ!ガモン!これ明日片付けるの手伝って!」  
「じゃあ時間作って顔出すよ」  
その上流されっぱなしのスキルは高い。  
 
明けて翌日  
本業もなく、そこまで忙しくないということで時間制限付という条件で我聞がお手伝いに参加していた。  
我聞が参加することによって効率良く片付いていったのだが、量が多くわりと重かったという理由で心身ともに疲弊していった(果歩だけ)  
 
「よし、こんなもんか」  
我聞が息も切らさずそう宣言した。  
ちなみに桃子は指示していただけでほとんど動いていない。  
「ふぅー……」  
さて、この控えめをどうしてくれようか  
そんなことを考えていた矢先。  
「姉ちゃん姉ちゃん!」  
「ん?」  
「「自衛隊」」  
そこにはダンボールの下に入って遊ぶ妹弟。  
「うら、うら、うら!」  
「「ぎゃ〜〜〜」」  
果歩の逆鱗に触れサンドバック状態と化していた。  
 
「ふぅー……」  
いい汗かいたと言わんばかりの表情。  
「そういえば昔遊んでたな」  
我聞が突然つぶやいた。  
「……これで?」  
ダンボールで遊ぶとは……  
「あぁ、とても楽しそうだったぞ?」  
「お兄ちゃんじゃないの?」  
てっきり兄だと  
「なんだ、覚えてないのか?」  
「覚えてるわけないじゃない」  
こいつら(妹弟)がなにで遊んでいるかいちいち覚えていられないっつーの  
「おまえのお気に入りだったのにな」  
「わたしっ!?」  
そんな唐突に昔話暴露されても  
「カホったら可愛いとこあるじゃない」  
こいつが騒ぐだけだしな  
「だまれ控えめ」  
「胸は関係ないでしょーが!」  
「あら、胸なんて一言も言ってないのによっぽど気にしているのね」  
「うす胸の分際で生意気言ってんじゃないわよっ!」  
「居候の立場を考えてから発言しなさいっ!」  
本日一発目の罵り合いが勃発した。  
「懐かしいよな」  
我聞が昔を思い出して軽く浸っていた。  
「久しぶりに作るか?」  
「「わーーい」」  
「何をよ」  
桃子と戦闘しつつ果歩が切り返した。  
 
「ダンボールハウス」  
 
そうこうしているうちに建設され始め、呆れていた果歩だけ参加はしなかった。  
こういうことが大好きな珠と斗馬は率先して参加した。  
桃子も始めての体験に少しワクワクしていた。  
「こんな低脳な遊びなにが楽しいのかしら」  
「そういうおまえも楽しそうじゃないか」  
せっせと働くキノコが突っ込んだ。  
「そりゃぁガモンとの共同作業だからね、ねっ!ガモン」  
「あぁ、そうだな」  
一番楽しんでいるのが最年長工具楽我聞(17)であった。  
「キノピー聞いた?脈アリよ!」  
小声でボソボソ言っている。  
「いや、我聞だし……」  
「あと一押しだわっ!」  
「だから、我聞だ……」  
「ガモーン!」  
「……おぉーい」  
あぁ、すでに頭の中は我聞でいっぱいなのか。  
「それとってー!」  
「はいよ、お譲ちゃん」  
そんなことを考えながらせっせと働いていた。  
 
そうこうしているうちに建設作業は終了した。  
「なかなかのできかな」  
そう言って周りの反応を窺う。  
「「すごーーい!」」  
「へぇ〜〜」  
「これを我が家にするのも悪くないな」  
そんなまずまずの反応に満足していた。  
「姉ちゃん呼んでくる〜」  
そう言って珠が駆け出していた。  
「兄上、なかなかのできですぞ」  
うんうん頷いていた我聞だが、  
「少し喉が渇いたな」  
そう言って退室していった。  
「あっ、ガモン待ってー」  
本当はもっとこの家を堪能していたかったのだが我聞優先で付いていった。  
「……この家欲しいな……」  
真剣に物件を吟味し始めたキノピー。  
 
「ほぉ〜〜」  
ダンボールのくせに立派な外観に少し驚き、あれ(兄)は割りと起用なんだなぁ〜なんて感心するも、  
「片付けるの大変じゃない」  
そんな現実的な発想がもてる工具楽家番町果歩(14)  
「ちょっとまちな」  
すでに中に入っているあれら(妹弟)以外に低い声が聞こえた。  
キノコだ。  
「この家に住み込ませてもらう」  
あぁ、あれ(控えめ胸)だけじゃなくこれ(キノコ)もポンコツなのかと考えていると、  
「姉ちゃん早く」  
「はいはい」  
様々な事を考えるのを放棄して珠の誘いに乗る。  
広い  
まさかこんなに広く感じるとは思わなかった  
ダンボールだけでできた稚拙な家  
無邪気にはしゃぐ珠斗馬キノコ  
懐かしく思える不思議な空間  
――今日は疲れた  
そんなことを考えながら少しずつ夢の中へ歩を進めていった。  
 
「「はぁ〜〜」」  
今日の疲れを癒すかのようにお茶で和んでいる。  
新婚さん  
そんな言葉が浮かんだ。  
うす胸もいないガモンと二人だけの空間、早くこんな生活を送りたいものだ。  
どうやって小姑を撃退するか?  
「桃子?どうかしたか?」  
そんなことを考えていたら表情がコロコロ変わっていた。  
当然ラストは果歩撃退プラン創造中なのでけして笑顔なんかではない。  
「えっ? なっなにもっ!」  
どうやったら二人だけで暮らせるのかねぇ〜、言えるわけがなかった。  
いくら我聞でもそんなストレートな表現では気づくであろう(たぶん)  
「そう言えば静かになったな」  
さっきまでの騒がしい音などは一切聞こえなくなっていた。  
「あたしが確認してきてあげるっ」  
そう言って桃子が席を立つ。  
「悪いな」  
「任せなさいっ!」  
良い奥さんの様な働きだわ  
そんなことまで考えながら果歩達の様子を見に行く。  
実際、あの家に興味がないと言えば嘘になる。  
(自称)天才桃子はそんな低脳な遊びはしたことがない。  
桃子は小さい頃から頭が良かった。  
良く言えば大人びた思考の持ち主だが、実際は捻くれていた。  
友達もいなく、真芝にいたことが拍車を掛けている。  
学校にすら行ったことの無い桃子の目の前にこんなものを出されて興味が沸かないわけが無い。  
内心ワクワクで部屋に着いた。  
「カホ〜?タマ〜?トウマ〜?キノピ〜?」  
返事が無い。  
静まり返った部屋。  
しかし、足が出ているということはみんなあの家の中である。  
「返事位しなさいよ、感じ悪いわね〜」  
これだから低脳は、なんて言いながら屋根を取り外した。  
「………………」  
寝てる  
それもみんな仲良く  
調査結果としては十分な成果を上げられたのだが桃子としてはこの家に入ってみたかった。  
そして、  
「カホ、風引くわよ?起きなさい」  
邪魔者を排除しようと試みた。  
「……っん、眠い……」  
寝言のようにそう言っていた。  
「カホ、風引くわよ?」  
もう一度繰り返す。  
 
「……お母さん……」  
 
果歩がそう言いながら泣いていた  
 
涙  
 
『そういえば昔遊んでいたな』  
 
お母さんが生きていた頃の話  
カホの数少ないお母さんとの思い出  
夢で出てきたお母さん  
 
――そうなんだ  
 
常にしっかりしいて、生意気言って、弱音を吐かない  
強い子だと思ったけど違う  
フツウの女の子  
どこにでもいる14歳の女の子  
タマを悲しませちゃいけない  
トウマを泣かせちゃいけない  
ガモンを困らせちゃいけない  
 
――全部一人で背負ってたんだ  
 
心も体も成長しきっていない状態で  
あたしとほとんど変わらない華奢な体で  
嫌な顔見せないでがんばってたんだ  
 
――そういえばあたしにはないな  
 
自分は両親との楽しい思い出はない  
泣いたことだってある  
でもカホは泣けない  
タマが、トウマが、ガモンがいるから  
そんな果歩を見ていると起こす気にもならない。  
 
「……お疲れ様、カホ……」  
 
無意識のうちに出た言葉  
涙を拭って頭をなでる  
果歩の幸せそうな顔  
あまりあたしに見せない笑顔  
家族には見せてるのかしら?  
「……アホ面よ、カホ。でも、」  
 
――可愛いわよ  
 
そう言って屋根を元に戻し部屋を後にした。  
 
 
 
「なにしてたんだ?」  
気になっていたのか少しそわそわしている。  
「みんな仲良く寝てたわよ」  
まったく低脳ね、なんて付け加えながら席に着きお茶を堪能する。  
「どうりで静かなわけだ」  
そう言うと、安堵したのかお茶を啜りだす。  
「………………」  
 
ガモンも大変だったであろう  
お母さんというのは偉大な存在である  
そんな言葉が浮かんだ、名言ね  
 
「なに笑ってるんだ?……桃子?」  
 
世界一のお母さんになろう  
ガモンと築き上げよう  
 
「……おぉーい」  
 
暖かい家庭を  
 
「……平和よねぇ〜」  
「はっ?」  
 
振り向かせてやろう  
 
 
 
あたしから目が離せなくなるほどに  
 
 
 
 
 
The End ? No !! Now Starting  
 
 
 
 
「失礼します、社長、時間です」  
そんな妄想の世界から現実に引き戻される。  
マズイ!! 完璧に忘れていた  
 
ライバルハルナガアラワレタ  
 
「おぉっ?もうそんな時間か、悪いな桃子」  
そう言って我聞が動き出した。  
手伝いも終わり悪いことなどひとつも無いのだが。  
「待って我聞っ!!」  
そう言いながら廊下で後ろから飛びついた。  
「うぉうっ!とっ桃子っ!ほら國生さん待たせてるし」  
聞いちゃいない。  
「いい!?ハルナにガモンは渡さないわよ」  
「そんなこと言っ……」  
口を塞がれた  
「………………」  
陽菜の顔に笑顔が張り付いたままになっている。  
「とっ桃子っ!!」  
顔を真っ赤にして我聞が叫ぶ。  
「さっ、ガモン!あっちで続きしましょ」  
そう言ってグイグイ引っ張っている。  
「社長、約束の時間を過ぎています。至急出社してください」  
こっちは満面の笑みで怖い。  
「えっ、あのっ、えっ?」  
もう我聞にはどうすればいいかわからない。  
「ガモン!」  
「社長」  
 
こうして静かな日曜の午後は更けていった。  
 
 
続かない  
 
 
 
「……一軒や〜……マイハウス〜……」  
 
 

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