「さぁ、どうするの!」
「うーむ。」
我聞と三学期
楽しい冬休みも終わり、普通に三学期が始まっていた。しかし、普通に始まっては困るメンバーがいた。
「緊急事態です。」
そう果歩は言い出していた。
「ど、どうしたの、突然。」
果歩の迫り来る迫力に最初からうろたえ気味に森永優。
「冬休みが終わってしまいました。」
「それがどうしたの?」
「冬休みといえばイベント目白押しの大事な時期だったのです。それなのになにもありませんでした。」
「たしかに冬休みといえばいろいろあったのにねぇ。」
クリスマス、大晦日、元旦、初詣、七草粥等いろいろあった。
当然工具楽家だけのイベントではない。一人暮らしの陽菜にとっては寂しいだろう、という提案をした果歩の意見に
感動した我聞がイベント毎に誘いに行っていたのである。
何かあれば陽菜をさまざまな理由で工具楽家にお誘いしてはいじっていた。
「我々の敗因は何なのだー」
うきー、という効果音が目に見えそうな勢いの果歩。
「それはしょうがないねぇー、あの二人だからねぇ。」
「それはそうなのですが」
しかし、真実を見極めることのできる唯一の人材が口を開こうとしてやめた。
(いじることしかしてない気がする)
そう言おうとしたが今意見すればどうなるかよく分かっている斗馬は何も言わない。
実際、陽菜が来る からかう 真っ赤
何かする からかう 真っ赤
遅くなったから送っていく からかう 真っ赤
毎回このパターンで話は進んでいった。
GHKとしてはこの状況が面白かったのだが、
よくよく考えてみると何も成果が挙げられていないということに気づいていない。
そして息を荒げて一言
「秘策を思いつきました。」
「はい!秘策ってつ「あっ姉上!!」
斗馬のフォローによって果歩の鉄槌は免れた。
「で、果歩りんその秘策とは?」
いつもの悪い顔で優が聞くと、
「作戦の内容はこうです」
………………………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………………
「なるほどねぇー、それならあの二人でもナニかあるだろうねぇ。
で、いつ開始するの?」
「明日です。」
「明日から楽しみだねぇー」
ふふふ、や、くっくっくっ、などの笑い声と共にこの秘策は可決された。
あけて翌日。何事も無く朝、学校、仕事と、順調な一日を送っていた我聞。
しかし、いつもと違うことがひとつだけあった。
「今日仕事終わったら陽菜さん連れてきてくれる?」
朝学校に行く前に果歩にこのように言われていた。
理由を聞いても教えてくれないのであきらめて頷いておいた。
陽菜に伝えてみても我聞と同じ反応をしているので陽菜も知らないらしい。
「いったいなん何だろうな」
「確かに気になりますね」
二人で考えてみてもからかわれる事ぐらいしか思いつかなかったので、分からないものはしょうがないということで考えるのを止めた。
工具楽家 午後七時
言われたとおり陽菜を連れて我聞が帰宅した。
「ただいまー」
「おじゃまします」
「二人とも来てください」
お帰りなさいも言わずに急かしている果歩に何事かと急いで声のするほうに行くと、
「優さん?」
なぜか優もそこにいた。
「優さん早いですね」
「まぁねぇー」
朝の果歩の様子、なぜかいる優。絶対いいことは起こらないだろうなと我聞でも分かる。
「ところでご用件のほうは」
陽菜の言葉を聞いて、
「まぁとりあえず座ってください」
と、冷静に切り返す果歩。
そして二人が座るのを見計らって一言、
「お兄ちゃん、私はとても心配しています」
「何をだよ」
突然の事に焦る我聞。
「楽しいかった冬休みも終わってしまいました」
そう言って二人を眺める果歩。
「それがどうしたんだ」
からかわれた冬休みを思い出し真っ赤。
しかし果歩はいじらない。
「おにいちゃん、勉強は大丈夫なの」
「は?」
突然の事にあっけにとられていると、
「一学期と二学期の成績考えると少しまずいんじゃないの、進級」
「まぁそりゃそうだが」
まずいのは確かである。が、
「なぜ私が呼ばれたのでしょうか」
当然の疑問である。
「お兄ちゃんに勉強を教えてほしいのです」
「なっ」
「えっ」
驚く二人、攻める果歩。
「これが二年の成績表です」
「ちょ、ちょっとまてー」
そこには教科と数字しか書いていないお手製成績表があった。
「社長…それは正確な成績表なのでしょうか」
「………ハイ」
ふぅ
「こ、今回は仕事が忙しくてそ「それは陽菜さんも一緒でしょーが!」
一括されてゲーンと、効果音が見えそうなくらい驚く。
そした果歩が勢いを上げて攻める。
「そもそも社長たるものが赤点取るとは何たることじゃー」
果歩のもっともな理由に押されっぱなしの我聞であった。
「よってしっかり勉強してもらいます」
我聞撃沈
「しかし果歩さん。勉強なら優さんに教えてもらったほうが良いのでは」
陽菜がようやく冷静さを取り戻して反撃を試みるが、
「優さんだと話がそれすぎてしまうし、関係ない知識のほうが増えてしまいます。それなら陽菜さんとの楽しい勉強会のほうがよいかと」
「ごめんねぇー、無駄な知識が有り余ってるんだよー」
少し気になるような言い方だが言っていることは正しい。
「そうですね…」
陽菜も言い返せない。
「し、しかし國生さんに悪いだろう」
我聞の最後の反撃。が、
「確かにそのとおりです。しかし、今のままだと追試は確実です。その上この成績だと進級も問題になってきます。
そうしたら仕事にも支障が生じる恐れがあります。お兄ちゃんは自分でどうにかできるの?」
「いや、えっと…」
「それに陽菜さん以上に教え方うまそうな人はいる?」
「それは…」
「陽菜さん」
「は、はいっ」
不意に果歩が標的を変え、
「兄の勉強を見てもらえないでしょうか」
果歩の紳士な訴えにからかい目的ではないと判断し
「私は別にかまいませんけど」
断る理由も無いので陽菜が了承すると、
「いいのか、國生さん?」
「ええ、教えながらでも勉強はできますし。それに留年は困りますからね」
うっと言葉に詰まっている。
「さぁ、どうするの!」
「うーむ」
悩んではいるが答えは出ている。
「それじゃあ國生さん、頼めるかな?」
「はい、よろしいですよ」
交渉成立 GHKの勝利
「では早速今日からよろしいですか」
「いいですよ。では社長、行きましょうか」
「ああ、よろしく頼むよ」
そんな二人を見送りつつ、
「あとよろしければお礼といっちゃあ何ですがご飯食べていってもらえますか」
果歩の言葉に少し考えて、
「よろしいのですか?」
「ええ、ご飯はみんなで食べたほうが美味しいですからね」
また少し考え、
「社長、よろしいですか?」
「ああ、喜んで」
「ではお言葉に甘えて、よろしくお願いします」
そう言ってペコリとお辞儀してまた歩き出していった。
「後でお茶出しますからねー」
そう言った果歩の顔は優の悪い顔になってきていた。
「作戦は順調です」
完全に二人が見えなくなったのを確認して切り出した。
「でもまだ始まったばかりだけどねぇー」
「最初から飛ばすつもりはありません」
「ほぉー」
「今回は長期戦のつもりですから」
「少しずつ攻めていくということだね?」
「そうです。時間はありますから」
「まだ一月だもんねぇー」
ニマニマが止まらないといった感じに笑い出している。
「今のうちに今後の大まかな作戦を伝えておきます」
珠と斗馬ほったらかしで盛り上がり続ける二人。
そうして初日の夜は更けていった。
二月八日 木曜日 工具楽家
「ついにこの日が来ました」
果歩が切り出した。
「準備期間が長かったからねぇー」
「しかし、そのおかげで作戦の成功率が上がったのでは?」
「そのとおりです!」
声高々に果歩が叫ぶと、
「声が大きすぎるかと…」
今我聞の部屋では勉強会が行われている。
もちろん二人きり。
「確かに、失態だったわ」
興奮しすぎていた果歩が反省を入れていると、
「しょうがないよ、待ち遠しかったしねぇー」
と、すでに悪い顔が出来上がっている優であった。
「しかし仕込みはばっちりです」
そして立ち上がりながら、
「今夜から決行します!!」
小さな声で団結しあうGHKであった
しかし、下準備といっても毎日のように陽菜が勉強を教えに来ていただけである。
毎日勉強して、ご飯食べて、たまにお風呂にも入って、お泊りなどしていた。
「私の勉強も見てもらえますか?」
これで時間を稼ぎ、お泊りに持ち込んでいた。
こうして、和やかな雰囲気をアピールしつつ、警戒を完璧に取り払っていた。
今ではお泊りにもお風呂にも快く受け入れてくれるようになった。
「では、作戦を開始します」
「まずどれからにするー?」
「お弁当から行きたいと思います」
「……ですから、接線の方程式はこうなるわけです」
「なるほど…じゃあさっきの法線って何」
「それは接線と垂直に交わっている線のことです」
「ほー」
などと、のんきに数学をやっていると…
「陽菜さーん、教えてほしいことがあるんですけど…」
優を帰宅させ、作戦決行。
果歩乱入。しかし、よくあるこることなので動じず、
「はい、よろしいですよ。では社長、問3をやっといてください」
「ああ、任せておけ!」
意味も無く元気な我聞を横目に、
「では果歩さん、どこが分からないのですか?」
「はい、ここの所なんですが……」
「……という風にすればいいんですよ」
「なるほど、よく分かりました。後証明などの解き方のこつ教えてほしいんですけどいいですか?」
「いいですよ、まず……」
果歩が来ると我聞そっちのけで話は進んでいく。
しかも、果歩からの提案で勉強はノルマ制となっている。
ノルマ制なので、果歩が来ると我聞の勉強が進まくなり、夜遅くになってしまうというものである。
陽菜との約束みたいなものなので、陽菜もしっかりノルマが終わらないと帰らないこともすでに実験済みである。
さらに、夜遅いとお泊り、という流れもすでに準備はできている。
果歩はわからない所を溜め込んで一気に来るので何日かに一度しかこないが、
果歩が来ると陽菜のお泊りが確実になっている。
「よくわかりました、ありがとう陽菜さん」
「いえいえ、どういたしまして」
こうして陽菜が開放されて我聞に帰ってくる。
我聞も自分で進めてはいるが、それで解ければ苦労も無くこの作戦自体成立しないわけで
すぐに止まってしまっているのである。
「では社長、どうしました?」
「ああ、ここなんだが……」
こうして勉強は再開されていった
勉強が終わり、帰ろうとする陽菜にいつものように
「もう夜も遅いですし、止まっていったらどうですか?」
家もすぐ近くなので断られる可能性のほうが高いのだが、すでに何度も泊めているので
あっさりと、
「社長、よろしいのですか?」
「もちろん」
「ではお言葉に甘えて」
と、これもいつもの様にぺこりとお辞儀してお泊り決定。
その後はお風呂に入ってさっさと就寝。
二月九日 金曜日
あけて翌朝、いつもの朝の様子と少し違う。
「オネーチャン、タイソウフクドコ」
「アネウエ、キノウイッテオイタゾウキンハ」
などの片言の台詞のように話しかける妹弟に
「今準備するから待ちなさい」
と、慌てて弁当の準備をしている果歩が返事をしつつ、
「お兄ちゃん、陽菜さん、お弁当です」
「お、ありがとう」
「いつもすみません」
陽菜がお泊り翌日の昼は果歩が作っていた。
最初陽菜は気にするなとは言ったが、果歩があんまり苦にならないから
との理由で喜んで受け入れてくれた。
「朝から大変だな、手伝うか?」
「大丈夫、てかお兄ちゃんのほうは時間大丈夫なの?」
「大丈夫です、私がいますから」
そう陽菜が言うと、
「そうですよね、お兄ちゃんには陽菜さんがいますからねぇー」
そう言いながらニヤニヤしえいると
「か、果歩!あいつらのことはいいのか?時間なくなるぞ」
「そ、そうですよ。急がないと学校遅れちゃいますよ」
声を裏返している我聞と陽菜。このままいじり倒したいがそうもいかず
「わかったから早く行きなさい、陽菜さんいってらっしゃい」
そう言って果歩は妹弟達の所へ向かっていった。
「じゃあ行こうか、國生さん」
「ええ、行きましょう」
そう言って二人は家を後にしていった。
もちろん体操服も雑巾も必要なわけも無く、時間が無いわけでもない。
「作戦は順調です、………ええ、………そうです、では結果は後ほど」
朝から優に途中経過を報告する余裕がある朝であった。
そして夜、帰宅した二人は真っ先に果歩の下へ向かっていき、
「果歩、あの弁当はなんだ!」
「そうですよ果歩さん!」
顔を真っ赤にして、帰ってからの第一声はこれである。
「ど、どうしたんですか、いったい?」
私は何も知りませんといった感じで果歩が答えている。
「いや、だからあの弁当のことだよ」
「ああ、お弁当。何か問題でも?」
今までのよく分からない授業とは違い、陽菜のおかげであまり辛くなくなった授業も終わり今は昼休み。
いつもの様に佐々木と中村との昼食時
「我聞、おまえ最近がんばってるな」
と、昼飯の準備をしていた中村に続き、
「そうだぞ我聞、おまえが指されて答えられるなんて何があったんだ。
あれか、國生さんとの楽しいレッスンでもしてるのかー」
そう言いながら胸倉をつかむ勢いの佐々木に
「はっは、努力の賜物だよ」
と、余裕の我聞。しかし、今本当のことを言ってしまうとまずいような気がしたので
陽菜の事は伏せておいた。
「家で少しずつ勉きょ「なんだこれはーーー!」
佐々木が大声で我聞の話を切りながら弁当を指差した。
「なんだってこれは……」
弁当だと言おうとして言葉が詰まる。
我聞の目には弁当が映っている。しかし、佐々木が何を言おうとしているのか我聞にも分かる。
というか我聞も同じ気持ちであった。
「なぜ貴様のご飯に陽菜と書いてあるー!」
そう、白いご飯の上にピンクで陽菜と書いてある。
「いや、これは……」
事実を説明しようとするが佐々木の勢いは止まらず、
「國生さんの手作りです、とでも言うつもりかー!」
クラス中の注目を浴びている。天野や住などが面白がって近づいている時、
「社長!」
珍しく大きな声を出した陽菜が飛び込んできて、
「國生さん、このせ「なぜ私の弁当に我聞と書いてあるのですか!」
陽菜が弁当を開いて我聞に見せている。
そして今このクラスがどういう状況であるか理解したときにはもう手遅れであった。
「るなっち、くぐっちと同じお弁当といいますと?」
天野がとても楽しそうに絡んできた。ちなみに陽菜の弁当を見て佐々木は撃沈していた。
「いえ、これは……」
と、言葉に詰まっていると、
「この弁当は妹が作ってくれているんだ。で、國さんの分もってことだ」
「何で?」
「朝起きて我が家で弁当作るわけ「社長!」
陽菜の静止もすでに手遅れである。我聞も今自分がなにを言ってしまったか理解した。
「ちょーとその辺のところをお姉さんに詳しく話してみましょうかぁー」
天野が満面の笑みで近づいてくる。
「ええっと……」
我聞を見る陽菜。しかし、すでに我聞も陽菜のことを見ていた。
「見詰め合ってるー」
楽しそうな住の声、沈黙したままの佐々木、少しだけ楽しそうな中村、
もう目の前にいる天野、ざわつく教室。
そして、現状の説明が始まった。
「……え?二人のお弁当逆だった?ごめんなさい。朝忙しかったら」
二人とも朝の忙しさは知っていたのでしょうがないと思う。が、
「何で名前を入れた?」
当然の疑問にも、来ると分かっていればすぐに答えられる。
「お弁当作るのに本読んでたんだけど、あれ一度やってみたかったのよねー」
とうぜん嘘。
「やってみたかったって……」
「将来彼氏できてあれ使いたくなったとき失敗したら嫌でしょ?
だから今のうちから練習しておかないとね。練習しないと上達しないしね。」
これも嘘。
「まあやり方わかったし案外簡単だったからもう入れたりしないわよ」
これは本当。これからは警戒されるので実行はできない。
「ところで、何か問題はあったの?」
「な、何も無かったよな、國生さん」
「え、ええ、何も無かったです」
同様が手に取るようにわかる。そして、
「ところで陽菜さん、お弁当どこで食べましたか?」
「え、自分の教室ですが。それが何か?」
顔を真っ赤にしながら言っている陽菜に
「いえ、別に」
そして今日も勉強は始まっていく。
「ええ、作戦は少ししか成功していません。ええ、次の作戦を決行したいと思います」