二月十日土曜日  
翌日、昼間から工具楽家裏会議が開かれていた。  
「いや〜、果歩りんごめんよ〜。なかなか仕事抜け出せなくて」  
そう言って優が登場した。が、  
「待っていました。ささ、どうぞ」  
何も気にしていなかった果歩が優を座らせつつ、  
「昨晩、ターゲット二名の反応から何かしら学校のほうではあったと思われます」  
「作戦は成功していないというのは?」  
優の発言にテンポよく、  
「はい、我々の想定していた通りには進まなかったと思われます」  
む〜っと唸りだす二人、顔つきだけ真剣一人、そして……  
「姉上、あの作戦の成功率はどれくらいだと……」  
しまった、と思いつつも時すでに遅し。  
斗馬の発言に怒り爆発といった感じに、  
「100%に決まってるでしょ!なのにあの朴念仁のせいで……」  
あれでか!などと思ってみるも果歩が怒っているのでそこは無言。  
ちなみにその成功率100%の作戦とは……  
 
 
 
 
我「これは國生さんのお弁当だー」  
陽「社長、お弁当が逆になってましたよ」  
我「そのようだね。そうだ!國生さんも一緒に食べよう!」  
陽「ありがとうございます。はい社長、あ〜ん」  
我「美味しいよ。はい陽菜、あ〜ん」  
陽「美味しいですよ社長」  
他「見せ付けてくれる〜」  
 
 
 
 
[なんで成功しないのかねぇ〜?」  
「しかし過ぎてしまったことは仕方ありません。次の作戦に出ます」  
「次はなに?」  
「次は寝言作戦で行きたいと思います」  
 
 
「社長の修行をですか?」  
「はい。もうメチャクチャきつく」  
会議終了後、果歩は辻原に秘密裏に接触していた。  
秘密裏と言っても秘密なのは我聞と陽菜にだけであり、普通に会っていた。  
「お兄ちゃんはお父さんの技を見てまだまだ未熟だと悟ったみたいです。  
 しかし、あのお兄ちゃんが一人で何か修行していても効率が悪すぎます。だから辻原さん、お願いします」  
一気に捲し立てる果歩に冷静に一言、  
「メチャクチャきつくなくてもいいんじゃないんですか?」  
仙術の修行自体きついものであり、それを妹さんはきつくしろとおっしゃる。  
「お兄ちゃんは一日も早く頼れる社長になりたがっています。だから死ぬほどきついやつでお願いします」  
死ぬほどですか、メチャクチャを超えてますね。なんて言葉が頭を過ぎるも、  
「そうですね、その様な事なら喜んでお受けいたしますよ」  
はっは、と胡散臭い笑顔で返事をしている。  
「ありがとうございます!あと今日から三連休なので日に日にきつくしていってください」  
「はぁ……」  
理由を聞いてもたいしたことではないだろうし、本当のことは教えてはくれないだろうから深く追求したりはしない。  
「まかせてください」  
「本当にありがとうございます!  
…………下準備は整った、後は待つだけ…………」  
なんて事をブツブツ言いながら去っていった。  
(さて、どうしましょうかね)  
果歩が何の目的でこのような事をやらせようとしているかは不明だが、  
「まぁいいでしょう」  
そうして工具楽家の裏に触れることなく普段の生活に帰っていった。  
 
 
その夜  
「た、ただいま……」  
「おじゃまします」  
いつもの様に帰宅した二人をいつもの様にお出迎え。  
「二人ともお帰りなさい。て、お兄ちゃんどうしたの!?」  
陽菜が私は云々言おうとしていたが果歩にも台本があるわけで、  
「あぁ、突然修行がメチャクチャきつくなったんだが……」  
メチャクチャ止まりか…なんて考えつつも、  
「良かったじゃない!これで頼れる社長にまた一歩近づいたって事じゃない」  
頭の上に?を浮かべ考え込む二人。が、想定の範囲内なので  
「だってお父さんの爆砕見たでしょ?あれに比べたらお兄ちゃんのカスよカス。  
 てことは必然的に修行が必要で、きつくなったて事は頼れる社長への近道じゃない!」  
おぉ〜と頷く我聞。しかし、陽菜は冷静に、  
「しかし辻原さんが理由もの述べずに修行内容を変更するでしょうか?」  
もっともな理由であり、我聞もうんうん言っている。  
「いえ、きっと理由はお兄ちゃんの堕落にあります!」  
まずい流れを断ち切る強烈な物言いで二人を黙らし、  
「お兄ちゃんはお父さんが見つかってから少し気が抜けていました」  
嘘  
「一緒に修行し続けた辻原さんはそこに気づいてしまったのでしょう」  
これも嘘  
「そして危機感を持った辻原さんは修行をきつくしたのです!」  
もちろん嘘  
「……もちろん私も気づいていました。えぇ、家族ですから」  
何事においても口八丁で誤魔化す果歩スタイルでどうにか乗り切り、  
げ〜ん、となっている兄は片付いた。あとは陽菜さんを丸め込めば勝ち!と思っていた矢先……  
「そうですか……」  
果歩の想定していた状況と違い、なぜか陽菜が落ち込み気味になってしまった。この不味い空気をどう変えていくべきか。  
そもそも話しかけずらくなってしまっているし、なんて声をかければいいのか考えていると、  
「國生さん?」  
今世紀最大級の空気を読めない男が突貫していった。  
 ……まさか空気が読めないのがプラスになるとは今日から考え方も変わるな、など考えているうちに、  
「いえ、社長秘書としてそのような変化にも気づかないなんて……それに家族である果歩さんは気がつくのに……  
 やはり私は家族にはなれないのでしょうか……」  
 
し、しまった〜!まさかこんなことになるとは微塵も考えていなかったので果歩ピンチ。  
そもそも嘘なので気づくはずもなく、落ち込む理由も無いわけでフォローの入れ方がわからず果歩大ピンチ。  
むしろ今世紀最大の空気を読めないのは私なんじゃないかと後悔し始めてすぐに、  
「な〜に、俺自身気がつかないことなんだ。陽菜さんが気にすることじゃない」  
満面の笑みで発言したのはもちろん我聞。  
「お兄ちゃん……」  
兄の成長ぶりに本気で涙しかけたがそんな暇はなく、ここで流れを変えなければまずい。  
「しかし……」  
「そうですよ陽菜さん、悪いのは全部兄なんですから」  
自分の事は棚に上げつつ話を進める。  
「そもそもお兄ちゃんがお父さんの爆砕避けるのがいけないんでしょ!あれくらっときゃすべて丸く収まったのに。なんで避けたのよ!」  
突然の事に戸惑いつつも、  
「だっておまえあれは……」  
間違いなく、よくて病院送り確実といった一撃ではあったのは認める。が、  
「あれくらえば陽菜さんがお嫁さんになってくれるのよ!?世の男の七割はくらいに行くというのに(当社調べ)  
 お兄ちゃんは陽菜さんをお嫁にほしくないんだ〜?」  
対陽菜黙らせように用意しておいたこれで責める。すると、  
「いや……」「あの……」「その……」  
予定通りこうなり、  
「さあさあ、こんな所で立ち話もなんですからどうぞどうぞ……」  
と、今更予定通りに話を進めてみると強引過ぎる気もしないではない……というかおかしいのだが、  
「そうだな」  
と言ってあっさり動く兄は本当に空気が読めないのだが、とても助かる。  
「さ、國生さん。今日もよろしく」  
と言いながら優しくエスコートしている(ようにも見える)  
「はい!」  
元気を取り戻した陽菜は我聞とともに部屋へ向かっていった。  
 
 
二月十三日火曜日  
いつものように元気に帰ってくる兄の面影すら残っていないといった状況に少し罪悪感はあるものの、  
兄のための一言で乗り切った三連休の翌日。  
あの状況で学校に行き、授業を受け、帰ってきてからは仕事という過酷さにそろそろ負けてほしいと思っていた。  
そんな中、ついに作戦は決行した。  
 
 
 
 
 
「陽菜さん、どうしたんですか?」  
突然居間に現れた陽菜に冷静に話しかけつつ、内心ドキドキと言った状況。  
「ええ、社長が寝てしまったもので……」  
よっっしゃ〜!!が脳内を駆け回っている。  
「……お兄ちゃんが寝てることについての陽菜さんの感想は?」  
果歩の意味不明発言にもすぐに理解し、  
「最近は修行のほうも大変なのでしょうがないですね。起こすのも悪いので今日はこの辺で失礼させていただきます」  
毎日頑張っている姿を見ていたら起こす気にはならないらしい。  
「はぁ……」  
と、自分から聞いておいてぼ〜とした感じに答える果歩。  
「朝はいつもどおり来ますのでそう社長にお伝えください。……果歩さん?」  
「えっ、ええ。伝えておきます。今日もありがとうございました」  
「?ではまた明日」  
陽菜を見送ってがっくりと肩を落とす果歩。  
「またか……」  
 
敗因は何かを考えてみるも、思い当たる理由は朴念仁だけである。  
そもそもその時点で勝ち目は無いのだがそこには気づかない。  
ちなみに今回の作戦は  
 
 
 
我「ぐーー」  
陽「あ、社長が寝てる」  
我「陽菜、陽菜……」  
陽「え?」  
我「はっ、寝てた。國生さん、俺なんか言ってた?」  
陽「ええ、私の名前を呼んでました。どんな夢だったんですか?」  
我「國生さんと愛し合ってる夢だよ」  
陽「社長……では夢の続きでも……」  
我「陽菜……」  
陽「社長……」  
 
 
 
「なぜ成功しない……」  
そもそも寝言に任せようとした時点で成功するわけも無いのだが……  
そこはGHKだからで片付いてしまう問題である。  
「こうなったら最終作戦を……」  
などとつぶやきながら優に連絡をした。  
 

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