「おっ待たせ〜! あれ?我聞君たちは?」  
「あー、なんか桃子が凄い勢いで何処か走っていっちゃいまして、  
 お兄ちゃんたちが保護に向かいまして・・・」  
「あっはっは、なるほどね〜  
 桃子ちゃんもこの優さんと張り合うには、まだまだ修業がたりんのう」  
「はぁ、何があったのかわかるようなわからないような、ですが・・・  
 とりあえずお昼にでも合流するとして、こちらはこちらで回りませんか?  
 あまりゾロゾロいても身動き取りにくいですし」  
 
なんだか勢いでこういう状況になってしまったが一応は計画に沿った流れなので、  
果歩はこのままシナリオを勧めることにする。  
・・・もちろん後で桃子を絞め上げるのも忘れてはいないが。  
 
「ん、それもそうだね〜、じゃあ次はどうしよっか?」  
「そうですね・・・辻原さんは何かご希望ありますか?」  
「いや、お任せしますよ。 何処に行ってもそれなりに楽しくなりそうですし」  
「それじゃあ適当に回ってみよっかー」  
「そうですね、そうしましょう」  
 
そんな感じで四人は適当に歩き出す。  
雑談などしながら、しばらくふらふらと彷徨っていると、  
 
「・・・なぁ、目的地と方向が違わねーか?」  
 
番司ができるだけさりげなく装いつつ果歩に耳打ちしてくる。  
 
「オマエの計画だと確か・・・」  
「いいのよ、どうせ午前中いっぱいはこのまま優さんたちと一緒だろうし、  
 桃子のあの様子じゃ多分、何か仕掛けてしくじってるからね・・・  
 取り敢えず警戒されてる可能性もあるし、ここはしばらく普通に楽しみましょ」  
「あー、なるほどな。  
 ま、オマエと一緒ってのはなんだけど、取り敢えず楽しんどくわ」  
「それはこっちの台詞よ! 大体なんで遊園地まで来てそのカッコなのよ!  
 ただでさえ時代遅れも甚だしいってのに、ホントよくわからないわアンタ・・・」  
「う、うるせぇな! コイツは俺のポリシーなんだよ! わかれとは言わねーから口出しすんな!」  
 
密談はいつの間にか例のごとく憎まれ口の叩きあいに発展し、もはや優も辻原もそっちのけ。  
 
「大体アンタねぇ、陽菜さんのコト本気なら、  
 せめて人並みにお洒落に挑戦するくらいのそぶりは見せてもいいんじゃないの?」  
「だ、だからうるせーよ! いちいち邪魔しやがるオマエが言うなっての!  
 だいたいな! 陽菜さんは人を見た目で判断するようなヒトじゃねーよ!」  
「へぇえ! そういうアンタこそ見た目に惚れたんじゃないの〜?」  
「う・・・い、いいじゃねーか実際に美人なんだし! それに性格だっていいしよ・・・」  
 
年下相手に顔を赤くしながらもいつの間にかそんなことを語り出す学ラン鉢巻き姿の番司は、  
端から見たらなかなか滑稽な状況なのだが、何せ相手は恋話大好きの果歩である。  
茶々を入れつつも話を途切らせないように相槌を打ったり突っ込んだりと、  
聴き役としての務めを見事果たしていたりする。  
 
「・・・だいたいアンタ、基本的に陽菜さんからは冷たくされてばかりじゃないの? 商売敵なんだし」  
「う・・・い、いーんだよ、そういうキツさも陽菜さんのいいところなんだし、  
 姉ちゃんでキツいのは慣れてるしな、ははは」  
「あんた・・・その顔でマゾっ気あるのかしら・・・」  
「んなもんあるかバカ!」  
「いやー、でもお姉さんは体育会系、お婆ちゃんは軍隊気質だもんねー、  
 アンタのお嫁さんになる人も大変だわ・・・ま、居たらのハナシ、だけど♪」  
 
もちろん優も辻原も完全に蚊帳の外だが、  
この茶化しと照れ隠しとの合間に妙に本音の入り混じったやり取りを前にして・・・  
 
「いやー、どうだね辻原君、可愛いものだと思わないかねこの二人は?」  
「ははは、なかなか若者らしくていいじゃないですか」  
「ふふー、でしょ〜? 折角遊園地まで来たんだし、こーいうコトがなくっちゃね〜♪」  
 
すっかり観戦モードに入っていたりする。  
こちらはちゃんと小声を維持しながら微妙に距離を置いて二人の後から歩いて、  
会話に没入してしまっている二人の気を逸らさないような念の入れ様。  
 
「・・・ってーかよ、イチイチああだこうだ言ってるけど、そもそもオマエはどうなんだよ?  
 ガキはガキでもオマエはマセてるし、彼氏とかいねーのか?」  
「う、うるさいわね・・・家事とか勉強とか忙しくてそれどころじゃないわよ」  
「あー、そうか・・・そうだったな、いやスマン」  
「って、そんないきなり謝らないでよ気持ち悪いわね!  
 それはともかく、なんて言うか・・・  
 お兄ちゃんは家族のために働いて稼いでて、私は家事全般とか家計のやりくりとかしてるでしょ」  
「ああ、まぁ大変だよな、工具楽んとこも色々と」  
「ま、もう慣れちゃったしそれはいいのよ。 いいんだけどさ・・・  
 そういう環境で過ごしてると、どうも同い年の男の子・・・学校の男子とかは子供っぽく見えちゃってねー  
 恋愛対象って感じにならない訳よ」  
 
なんとなく複雑そうな笑みを浮かべてから、おどけるように、たはー、と溜息など吐いて見る。  
親がいて家があって、遊んだり部活動に明け暮れていても食事もお小遣いも出てくるのが当然、  
悩みと言えばせいぜい受験程度の彼らと話していても楽しいときは楽しいし、  
彼らのほうが“普通”だというのはわかっている。  
だが、そんな彼らと付き合う、となると・・・  
 
「あー、確かに・・・そこいらのガキよりはオマエ、ずっとしっかりしてそうだしな。  
 オマエから見て“頼りになる”と思えるような中学生なんざそうは居ないよな。  
 まぁ、オマエもガキはガキだがな、ははは」  
「だー、いちいちガキって言うな!  
 ・・・まぁ、実際その通りなんだけどねー  
 ヘタにそんな話すると、『生活感漂わせすぎ』なんて笑われるだけだしね、あはは・・・」  
 
ついついあまり口にしない事を語ってしまった事に今更気付き、  
少し“しまった”という顔をして照れ隠しに軽く笑って見せる。  
憎まれ口を叩きあうだけの間柄としては、ややズレた話をしてしまったなぁ、と思う果歩だったが、  
 
「そりゃ、中学生なんてそれこそガキだからな。  
 オマエがどんな大変かなんて理解できねーだろうし、  
 ソコをわかってくれるヤツなんざ、同年代じゃ探すの難しいだろ」  
「うん・・・って、アンタは何を知ったような―――  
 あー、境遇は似たようなモンか」  
 
ガキの癖に何を―――程度に笑い飛ばされるとばかり思っていたところに予想外にまともな意見が返って来て、  
やや拍子抜けしてしまうが、  
 
「ま、お互い大変よね」  
「まぁな・・・っても、俺は一人の分だけ気楽ではあるけどな」  
「ふぅん、でもアンタ、毎晩一人で寂しくなったりしないの?  
 それこそホームシックにかかっちゃって、『姉ちゃーん』なんてかなえさんに電話かけたりとか、あはは!」  
「オマエ・・・それ想像できるか?」  
「ゴメン、無理だわ・・・あはははっ!  
 でもなんて言うか・・・逞しいわねアンタ、やっぱり男の子だから?」  
「どうだかなぁ・・・いやまぁ、なんつーかアレだ・・・むしろ姉貴とばーちゃんのいる実家よりは、  
 ある意味気楽かもしれねぇ・・・」  
 
「あはは、なるほどね、それは説得力あるわ、あははっ!  
 あ、ねえ優さん、辻原さん、あれ乗りません? ・・・って、あれ?」  
「どうした?」  
「いや、優さん達が・・・」  
「あ、いたいた。 どうかしたんスか? そんな離れて・・・」  
「いや〜、お邪魔しちゃ悪いかにゃ〜って♪」  
「はぁ・・・よくわかりませんが、取り合えずあれ、乗りませんか?」  
「お? いいね〜! さ、辻原くん、行くよ〜!」  
「はいはい、了解ですよ優さん」  
 
いつの間にか果歩達から微妙に離れて歩いていた優と辻原も小走りで合流し、  
四人はアトラクションの順番待ちの列に並ぶのだった。  
 
 
 
 
「んー、なかなか面白かったねー! さて果歩りん、次はどうする?」  
 
それからしばらくは特に何事もなく、  
4人はいくつかのアトラクションを回りつつ、遊園地本来の楽しみ方に興じていた。  
そのうちに時間も過ぎて・・・  
 
「そうですね、そろそろお昼も近いですし、お兄ちゃん達にも声かけてお弁当にしませんか?」  
「おお、そう言えばもうそんな時間か〜  
 うん、言われてみればお腹が空いてきた気がするよ!」  
「あはは、今日は私と陽菜さんとで腕によりをかけて沢山作ってきましたからね〜!  
 楽しみにしてて下さいよ?」  
 
余程出来が良いのか、果歩は自信たっぷりに笑顔を浮かべる。  
 
「陽菜さんの手料理か・・・」  
 
一方、番司は番司で何を考えているか非常にわかりやすいリアクションを見せるが・・・  
 
「ま、アンタには陽菜さんが作った分はあげないけどね」  
「んだと!? どーいうコトだよこのガキャ!」  
 
そんな番司に早速からかい半分、クギを刺してしまうのは、  
もはやGHKとしての条件反射と言っていいレベルに達している。  
だが、ここで何を思ったか優がニヤリと笑みを浮かべて―――  
 
「ふぅん―――なるほどね、つまり果歩りんは番司くんに自分の作ったお弁当の方を食べてもらいたい、と。  
 うんうん、なるほどなるほど♪」  
「んなっ!? ちょ、ちょっと優さん!? なな何言ってるんですかっ!」  
「そ、そうですよ! コイツがそんなこと考えてるワケ―――!」  
「あっはっは、照れない照れない、お姉さんは全てお見通しなのだよ〜♪」  
「ちがいますっ!」  
「どうかにゃ〜?」  
「違うに決まってるじゃないスか! ば、バカなこと言わないで下さいよ!  
 辻原さんも何か言ってやって下さいよ!」  
「いやいや、なかなか楽しげでいいじゃないですか、若いっていいですねぇ」  
「だから違うんですよぉ辻原さん! 優さんに騙されないでくださいっ!」  
「ふふ〜♪」  
「っく・・・と、とにかくお昼です! お弁当はロッカーに預けてあるし、と、とにかく行きましょう!」  
「お、おう、腹も減ったし、とっとと行こうぜ!」  
 
なんでそんなことになってしまったのかお互いにワケもわからぬまま、  
果歩と番司はとりあえず逃げるように歩き出す。  
 
「な、なんで私がアンタと・・・っく、どうしてこんなことになってるのよ、  
 お兄ちゃんと陽菜さんじゃあるまいし・・・」  
「お、俺が知るか! てーかあの人の事だ、楽しけりゃどうでもいいんだろーけど、  
 くそ、桃子といい優さんといい、一体ナニ考えてやがるんだ・・・」  
「と、とにかく、とにかくよ! いい? そろそろ作戦を実行に移すから・・・動揺してないで頼むわよ?」  
「お、おう、わかったぜ・・・よし、こうなったら今の意趣返しってことで思い切りやってやるからな!」  
「うん、この際思いっきりやっちゃって!」  
 
優と辻原から逃げるように早足で歩きながら、二人は作戦を実行に移すべくひそひそと話し合う。  
桃子には変な目に遭わされて、優にはおかしなことを言われ・・・そんな予想もしなかった異常事態のせいか、  
互いに邪魔だとばかり思っていた二人が今日この半日だけで、  
今までになく自然と話せるようになっているということに、二人とも気付いてはいない。  
そしてとっくにそれに気づいている優はというと、  
 
「ふふふー、桃子ちゃんにもなんかされてたみたいだけど、あの二人を今度はどんなアクシデントが襲うのか!  
 お楽しみはまだまだこれからだよ〜?  
 楽しみにしていてね、辻原くん♪」  
「そうですね、そうしておきますよ、はっはっは」  
 
当然の如くにまだまだ何かを企んでいるし、  
同行する辻原もまた全く止める気などなさげで、むしろ本当に楽しそうに笑っていたりするのであった。  
 
 
 
「ロッカーは・・・この池の向こう側ですね・・・  
 じゃあ折角だし、そこの噴水でも見ながら行きましょーか!」  
 
しばらくは番司と共に先に立って歩いて皆を誘導していた果歩だったが、  
いつの間にかさり気無く優達と一緒になり、そしてさり気無く二人を先に行かせ・・・  
今は果歩と番司が背後から優と辻原を視界に収めながら歩いている。  
 
「へぇ、なかなか派手な噴水だねぇ」  
「ですね〜、あ、優さんそこの橋を渡りましょう、その方が近道みたいです」  
「ん、了解〜!」  
 
果歩はパンフレットを片手に道を調べている素振りをみせるが、それはあくまで演技であり、  
ここを通るのは最初から計画のうち。  
微妙に歩くペースを調節して優と辻原を先に行かせたのは、  
もちろん背後から二人の様子を窺う為なのだ。  
 
「・・・この距離でも平気?」  
「舐めんなよ? 距離は全く問題にはならねーけど、人目がな・・・」  
「ん、そうね・・・幸いそんなに人もいないし、もう少し・・・  
 ほらあそこ、噴水が列になってて岸からは見えにくいし、噴水自体がいいカモフラージュにならない?」  
「そうだな・・・確かにいい感じだな」  
「じゃあ、私が合図したら優さんの側に、なるべく回りの噴水に似せて・・・」  
「ああ、任せとけ! 俺の腕を見せてやらぁ!」  
 
果歩の作戦は、微妙に揺れる浮橋を歩く優の真横に番司の仙術で噴水に似せた水柱を勢いよく吹き上げて、  
優を驚かせて辻原に抱きつかせてしまおう、というもの。  
ついでにその瞬間を画像に収めてしまおうと、果歩は桃子に借りたデジカメを取り出して、  
先ほどの桃子よろしくファインダー越しに先行く二人を凝視して・・・  
 
「おい、まだか?」  
「うん、もうちょっと・・・優さん、ほら、もう少し辻原さんに近付いて・・・  
 そう! そうよ! あと一歩・・・よし! 今―――」  
 
優と辻原の距離が近付いた、今こそ絶好のタイミング!  
―――と、果歩が合図しかけた、その時・・・  
 
どぉんっ!  
 
「うぉお!?」  
「きゃ! うわぁああ!?」  
 
突如、果歩たちの傍で水柱が上がり―――  
 
ぐらぐらぐらっ!  
 
「わ、ちょ・・・アンタ何やってんのよ―――!」  
「俺はまだ何もしちゃいね―――!」  
 
メチャクチャに揺れる浮橋の手摺がわりの鎖につかまって、  
突然の爆発と大揺れに耐える二人だが、そこへ更に―――  
 
どぉっ! どぉんっ!  
 
と、立て続けに水柱が上がり、  
 
「きゃあっ! い、一体なんなのよ―――!  
 あ、アンタ水使いでしょ、なんとか・・・っきゃあああ!?」  
「お、おい!?」  
 
不測の事態にうろたえる二人の側で“ざばんっ!”と更なる水柱が上がり、  
激しく揺れる浮橋の上で完全に体勢を崩してしまった果歩が、危うく手摺を乗り越えそうになり―――  
 
「うわ、わ――――――」  
「っとぉ!」  
 
身体が半分以上手摺を乗り越えて、頭から水面に落下し―――  
 
「きゃ―――きゃ―――イヤ―――!」  
「・・・オイ」  
「きゃ――――――・・・あれ?」  
 
あとは水中にダイブするだけだったハズの身体は、手摺からほとんど乗り出した状態で停止している。  
 
「とりあえず暴れんな! 引っ張り上げるからよ!」  
「あ・・・」  
 
言われて初めて、自分の身体が水面ギリギリで番司に捕まえられていることに気付く。  
・・・が。  
 
「きゃぁああ!? ちょ、ちょ、ちょっとドコ触ってんのよアンタ!」  
「だーかーらー暴れんなっての! 落ちるぞ!?」  
「だ、だ、だからって! アンタ、そ、そこは・・・!」  
 
腰が手摺を越えて向こう側に落ちかけていたところを番司自身も体勢を崩しながら、だったので、  
構図としては番司が果歩の足を抱える格好になってしまっている。  
ミニスカートから露出した足に思い切り抱きつかれるという事態に、  
果歩はある意味先ほど以上の勢いでもがき出すが・・・  
 
「だー面倒くせぇ! 引っぱり上げんぞ!」  
「きゃ・・・わ・・・!」  
 
説得は無理と判断した番司は力任せに果歩の身体を引き上げて、ひょい、と橋の上に立たせる。  
 
「うわ・・・ぁ・・・・・・」  
「ほら、立てるか? 腰抜かしてないか?」  
「だ、大丈夫よ! 当たり前でしょ!?」  
「そうか、ならよかった。 なんかこの池おかしいからよ、とっとと抜けるぞ!」  
「あ、うん・・・・・・ね、ねぇ」  
「あ? なんだ?」  
「その・・・・・・ありがと」  
「ああ? 気にすんなよ、流石に見過ごすワケにゃ行かんしな」  
 
振り返らずにぶっきらぼうに言い放ち、すたすたと歩き始める番司に、  
果歩はなんだか悔しいやら恥ずかしいやらで俯いたまま、ついてゆくが・・・はた、と。  
 
「・・・ところでアンタ」  
「あ? 今度は何だよ?」  
「・・・見た?」  
 
面倒臭そうに顔だけ振り向いた番司と、  
むっとしたような、それでいて真っ赤な顔の果歩の目が合って―――  
 
「な、なんのことだよ、さっさと行くぞ!」  
 
くるり、と前を向いて再びすたすたと、心持ち早足で歩き出すが、  
番司が目をそらす直前、そこに焦りの色が浮かんだのを果歩は見逃さない。  
 
「・・・見たのね」  
「だから見てねーっての!」  
「じゃあナニを見てないのよ!」  
「う、うるせーな! 何も見てねーよ!」  
 
言うまでもなく不毛な上に、  
口がたつ果歩相手に口論することの不利は充分過ぎるくらいわきまえているので、  
果歩を無視して先に歩く番司だが、  
 
「・・・ヘンタイ」  
「・・・」  
「・・・痴漢」  
「・・・・・・」  
 
背後から呪いでも込められていそうな果歩の声が追いかけてくる。  
それでも無視して歩く番司だったが・・・  
 
「・・・覗き魔」  
「・・・・・・」  
「・・・エロパンツ」  
「だ――――――うるせぇ!」  
 
延々と続けられるとまるで自分が性犯罪者のように思えてきて、  
流石に耐えられなくなって・・・  
 
「いい加減うるせーよ! 仕方ねーだろ不可抗力だったんだからよ!」  
「・・・・・・やっぱり見たのね」  
「だから仕方なかったんだよ! オマエだって池に落ちるよかよっぽどマシだろーが!」  
「ま、まぁ・・・そうだけどさ・・・」  
 
ここで勢い負けしてはいけない。  
番司としてはなんとなく後ろめたい気持ちも無くは無いが、  
下手に退いたら今後どれだけこの件を引きずられるかわかったものではないと理解しているのだ。  
 
「ったくよ、なんで助けてやったってのにこう責められにゃなんねーんだ」  
「ぅ・・・わ、悪かったわよ・・・・・・」  
 
しつこかった割には思ったより弱気な果歩に、番司は勢いを得て・・・  
 
「だいたい、今更んなモン見たところで何とも思わねーよ」  
「わかったわよ・・・」  
 
果歩としても助けてくれた彼に対する感謝の念はあるし、  
それでも下着を見られたのは恥ずかしくて堪らず、ついつい恨み言が口をついてしまうが、  
ここは我慢しなくてはいけない、と、  
そう思いかけて―――  
 
「・・・ねぇ、ちょっと」  
「あん? しつけーな、今度は何だよ?」  
「今更・・・って、どういうコト?」  
「あ? だってオマエ、普段から短いスカートでヒトに蹴りくれやがって、その度にチラチラさせてんだろーに」  
「んな・・・」  
 
背後から届く声の質が一気に変わり、番司が思わず振り返るとそこには唖然とした顔の果歩。  
顔色は何故か蒼白、そして徐々に色を取り戻し・・・今度はさっき以上に、真っ赤。  
 
「じゃ、じゃあ・・・アンタ、わたしの・・・その、ぱ・・・パンツ・・・」  
「お、おい? 勘違いするなよ!? オマエが短いスカートであんなハイキックとか飛び蹴りとかかますから、  
 それで勝手に視界に入っちまうだけだ! 不可抗力だからな!?」  
 
勢いに任せて言わないでも良いことまで言ってしまったと後悔する番司だったが、  
これぞまさしく、後の祭り。  
果歩は真っ赤な顔を隠すように俯いて、その肩がふるふると震え始める。  
 
「お、おい、待て! いや、だから不可抗力だから、てかいやスマン!  
 とにかく俺が悪かった! だから泣くな!」  
 
果歩を怒らせた経験なら枚挙に暇の無い番司だが、こういう展開は初めてで完全に混乱、そして平謝り。  
だが・・・  
 
「・・・つまり・・・私はずっと・・・アンタに、コトある毎に覗かれていた・・・ってワケね・・・」  
「え? あ、いやちょっと待て! 覗いたってワケじゃねーぞ、ってかオマエ―――」  
 
肩を震わせながら、果歩がゆっくりと顔を上げる。  
その様子を恐る恐る眺める番司だったが、やがて果歩の表情がはっきりとわかるまで見えるようになって・・・  
 
「い、いや、ちょっと待て! おい、だからアレは不可抗力だし!  
 だいたいそもそもオマエが短いスカートなんか・・・」  
「問答・・・無用よ・・・・・・」  
 
その表情の危険さに、番司は思わず後ずさる。  
そう・・・果歩の顔に浮かんでいたのは、仙術使いすら怯えさせる程の・・・まさに、“鬼”。  
 
「おい! 話聞いてるか!? いいか、オマエが蹴るからいけないんだぞ!?  
 だからちょっと落ち着け! 落ち着いてだな、お、おい―――」  
「黙って――――――」  
 
すっ、と。  
仙術の資質が無いってのは間違いなんじゃないか、と番司が本気で疑う程の体捌きで、  
一瞬の内に間合いを詰めて―――  
 
「死ねぇえええええええええっ!」  
「ば、だから足を上げると見えっぉごぉおおおぉぉおおおお!?」  
 
どぼーん。  
 
と、新たな水柱が池の水面に上がったワケだが、  
それが何のせいなのか・・・今度ばかりは果歩にも番司にも、明らかだった。  
そしてそれは、いつの間にかとっくに橋を渡りきり、  
そこから二人の様子を観察していた別の二人にとっても、である。  
 
「あははー! いやぁ、良い感じになるかと思ったんだけどやっぱりあの二人だね〜♪  
 まぁ、これはこれで良しかにゃ〜♪」  
「いやぁ、優さん楽しそうですねぇ」  
「そりゃそうよ〜! あの仇同士みたいな二人がイイ感じになるなんて、  
 これはもう一大イベントだからね〜!」  
 
既に陸地にいて余裕たっぷりの優がビデオカメラを向けていることなど、  
果歩も番司も全く気付いてはいないのであった。  
 
「しかし優さん、あの水柱、あれは一体なんだったんです?」  
「あははー、第三研のとき、真芝の連中と我也社長に潜水艦で逃げられちゃったことあったでしょ?  
 それでね〜、対抗策として無音で自走式の水中機雷を開発したはいいんだけど、  
 なかなかテストする機会がなかったからね、折角だからちょっと持ってきてみたのさ〜♪」  
「真芝も壊滅したというのに、相変わらずタチの悪いモノ開発してますねぇ」  
「タチの、悪い・・・?」  
「しかもソレを遊園地に持ち込むあたり、なかなかのモノですね、はっはっは」  
 
優にジト目で睨まれても全く動じない辻原も辻原なら、  
 
「まーほら、脅かし用に威力は最小限まで絞ったし、  
 果歩ちゃん達が人目の少ないタイミングを選んでくれたし、  
 遠くから見たら噴水に紛れてわからないしね!」  
 
一瞬だけムッとした顔をするも、全く悪びれない優も優で相変わらず。  
辻原に“タチの悪い”呼ばわりされたコトなど即座に忘れたかのように、  
二人の様子をファインダー越しに眺めつつ、  
 
「それよりホラホラ、こうして面白〜いイベントも一部始終カメラに収めたし!  
 万事オッケーじゃないかにゃ〜♪」  
 
さも楽しげに笑う。  
そんな優を相手に、  
 
「ま、優さんが楽しそうですし、いいんですがね」  
 
辻原もまた、それなりに楽しそうなのであった。  
 
 
「ぶぇくしっ!」  
「ちょっと、くしゃみするにしてももう少し静かにしなさいよ、恥ずかしい・・・」  
「うるせー! 大体誰のせいで・・・っくしっ!」  
「う、うるさいわよ! だからほら、これあげるから・・・」  
「お? おお、すまねーな」  
「ん・・・」  
 
そう言って差し出されたタオルと缶コーヒーを受け取り、番司はとりあえず髪と顔を拭い始める。  
 
「わ・・・」  
「・・・あ? なんか言ったか?」  
「べ、別に?」  
 
この季節にヒトを池に蹴り込んでしまったのは流石にやりすぎたと思ったのか、  
番司をベンチに座らせておいて果歩は売店に走り、それらを買ってきたのだ。  
 
「そうか? あぁ・・・しかし温まるぜ、サンキューな」  
「う・・・その」  
「あ? だからなんだ?」  
「だ、だからその! わ・・・悪かったわね」  
「・・・どうしたいきなり?」  
「どうしたって、だってアンタ! その・・・ちょっとやり過ぎたかな、って・・・」  
「あー、確かにな、普通のヤツならキレるぞこりゃ」  
 
と、まるで他人事のように言いながら有難そうにコーヒーを啜り、  
 
「って、アンタはキレないワケ・・・?」  
「あぁ・・・はっ」  
 
果歩の疑問を鼻で笑い飛ばす。  
 
「何せ理を得てから修行はほとんど水の上だったんだぜ?  
 姉貴に池に叩き込まれたコトなんざ、それこそ、何十、いや、何百・・・・・・  
 って嫌なこと思い出させんじゃねーよ!」  
「なに今更キレてんのよ!」  
 
と、今度は不意に普段の調子に戻る二人だが・・・  
 
「く・・・は、はははっ!」  
「ぷ・・・あはははっ!」  
 
自分達のやりとりの間抜けさに、舌戦に発展する前に笑い出してしまう。  
 
「へっ・・・まぁなんだ、決して良い思い出ってワケじゃねーが池に落ちるのは慣れてるからよ、  
 まぁあんま気にすんな」  
「あはは、そりゃ良い思い出なんかじゃないでしょーね、はは・・・まぁ、うん、わかった。  
 それにアンタが悪いんだしね、そもそも!」  
「いやちょっと待て! それは・・・いやいい、もうそれでいいわ・・・」  
「そう? じゃあそういうコトで♪」  
「ったく・・・まぁ、その方がオマエらしくていいか」  
 
先ほどのしおらしさは何処へやら、という感じですっかりいつもの調子を取り戻した果歩に苦笑しながら、  
番司はコーヒーの残りを一気に飲み干す。  
 
「何よその言い方! 年上みたいにまとめちゃってえらそーに!」  
「いや年上だろーがよ俺のが」  
「うるさいわねこのパン・・・」  
 
以前はなんの躊躇いもなく口にしていた言葉だが、  
先程の件を経た後では意識しすぎてとてもじゃないが言えるハズもなく、  
果歩は再び顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。  
 
「お、おい!?」  
 
先程と同じ不穏な雰囲気を感じ、番司は思わず後ずさるが―――  
 
「い、いいから行くわよ、この番司!」  
 
真っ赤なままの顔を上げて一息にそう言うと、さっと立ち上がって歩き出す。  
 
「ああ・・・・・・って」  
 
やれやれ、と腰を浮かしたところではた、と止まり、  
 
「なぁ、今、オマエ、名前―――」  
「ほら! さっさと立ちなさいよ! 優さん達のこと探さなくちゃならないんだから!」  
 
勢いで言ってはみたものの、恥ずかしさが後からじわじわと効いて来て、  
自分でもわかるくらいに照れて真っ赤に火照った顔を伏せてすたすたと歩く。  
 
「あ・・・お、おい!」  
「な、なによ!? あとそう! あんまり近づかないでよね!  
 ずぶ濡れのヤツと一緒だなんて、それだけでも恥ずかしいんだから!」  
「いや、そんなコトより・・・ってーか、何やってるんすか・・・」  
「は? 何よいきなり、変な言葉遣いして・・・気持ち悪いわね」  
「いや、だから前・・・オマエ気付いてないのか?」  
「へ・・・?」  
 
何がなんだかわからないが、とにかく未だ僅かに赤い顔を上げてみると・・・  
 
「や、果歩りん、楽しそうだね〜♪」  
「あ、優さ・・・・・・な、何やってるんですかっ!」  
 
そこには、これから探そうとしていた優がいつのまにか立っている。  
・・・何故かカメラを構えて。  
 
「いや〜、折角の楽しい休日のひとコマだしね、これは是非に記録しておこうかにゃ〜って♪」  
「い・・・い、いつからそうして?」  
「ふふふ〜♪」  
 
果歩の問いをスルーして怪しく笑う優。  
その目こそカメラで隠れてはいるが、  
如何にも楽しそうに綻んだ口元は果歩にとっては嫌な想像を掻き立てて止まず・・・  
 
「ちょ! 優さん!? ねぇ!? ちょっとソレの中身、見せて下さい!」  
「え〜、今はまだ撮影中だから、  
 あとでちゃ〜んと編集したモノを見せてあげるよ〜♪」  
「んな!? 編集って、何をする気ですかっ!」  
「ふふ〜、そんな気にしなくとも平気だよ!  
 ちゃんとスカートの中は見えない様にしといてあげるくらいだから〜♪」  
「な・・・・・・んなぁああ!?」  
 
その一言で、果歩は湯気が出るんじゃないかと思うくらいに真っ赤になって・・・  
 
「な、な、なんでそんなところまで録ってんですか―――!」  
「いやー、カメラ持って来た甲斐があったね〜♪」  
「だだだダメです! 不許可です! そんなモノは没収ですっ!」  
 
完全に錯乱した果歩は、なりふり構わず優のカメラを奪いに出るが、  
 
「あはは〜、ほらほら果歩ちゃん、捕まえてごらん〜♪」  
「まってぇ―――!」  
 
そんな感じで駆け出してゆく女性二人を、残された男性二人が見守る。  
 
「はっはっは、楽しそうですねぇ」  
「アイツはともかく優さんの方は間違いなく楽しんでますね・・・  
 ってか隣で見てて止めたりしないんスか」  
「まぁ折角楽しそうなんですし、だいたい優さんが止めて止まる方だと思いますか?」  
「・・・そうすね」  
 
取り合えず辻原に全く止める気がない事を確認はしたものの、  
それで番司がどうするかと言うと・・・  
 
「番司君こそ、追わなくていいんですか?」  
「いやぁ・・・」  
 
曖昧な声を上げて、番司は果歩と優の姿を目で追う。  
ぎゃあぎゃあ叫びながら(主に果歩が)駆けて行く二人の姿はだいぶ遠ざかっているのに、  
声だけは未だにハッキリと届いてきて、  
 
「あの状況のあの二人に混ざるのは流石に・・・ちょっと抵抗がありますわ・・・」  
 
はは、とややひきつった笑いを浮かべる番司だったが、  
 
「そうですか? 果歩さんと番司君のやりとりもなかなか賑やかで楽しげでしたが?」  
「んなぁあ!?」  
 
思わぬ不意打ちに取り合えず叫んで、  
 
「何すかいきなり! 大体何処が楽しげだっつーんですかっ! てか何処から聞いてたんすか!」  
「いやぁ、まさかあんなに仲が良いとは意外でしたよ、はっはっは」  
「違ぇ!」  
 
大慌てで思い切り否定するが、辻原はあくまでもマイペース。  
 
「ではあの二人も見えなくなってきましたし、我々はロッカーの方にでも行っていますか。  
 そろそろお昼の時間ですからどうせ皆、荷物のところに戻るでしょうし」  
「っく! そ・・・そうっすね・・・」  
 
いきなり普通の話題に戻されて、番司としてはこれ以上何も言えず、  
歩き出した辻原の後を追うが、  
 
「ああ、今からでも果歩さんを追うなら止めませんよ?」  
「追わねーよ!」  
「あの歳で家事を一手に引き受けて家計のやりくりまでされているそうですからねぇ、  
 いまどき珍しいくらいしっかりしたいい子じゃないですか」  
「関係ねぇえ!」  
「番司くんもなかなか見る目がありますねぇ、はっはっは」  
「だから違うってんだ――――――!」  
 
カラカラと笑う辻原と、ひたすら叫ぶ番司。  
ただでさえバンダナに学ランと人目を引く格好で、その上ずぶ濡れの男がぎゃーぎゃー叫んでいるものだから、  
もはや先に走り去った優と果歩以上に周囲の注目を集めてしまっているのだが、  
当の番司はそんなこと、まったく気付く余裕もないのであった。  
 
 

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