ブゥゥゥゥゥゥン…  
「あっ…………」  
「行ってしまいましたねぇ。」  
 
 真芝の壊滅から2ヶ月。工具楽屋の代替わりの手続きもようやく終わり、私はこわし屋会長として手続き  
終了の通知にきていた。  
 工具楽屋から静馬の家までは時間的にもかなりの距離があるが、他の用も済まそうとして、  
ヘリを使わずに来たのがそもそも失敗だった気がする。  
 
 工具楽屋事務所での形どおりの通知が終わり、その後の「就任披露」と称する狂乱の宴の途中で帰ろうとしたが、  
裸踊りを終えた中之井さんに捕まってしまい、戦時中のお婆様の話をえんえん聞かされた。  
 …どうせ聞かせるにしてもせめて服を着てからにしてほしいものだ。  
 
 触れたくない過去でも思い出したらしく、中之井さんがガクガクしている隙に、ようやく開放されたのだが、  
今度は迎えのタクシーがなかなか来ない。  
 待っていては飛行機に間に合いそうにないので、バスに乗ることにした。時間が遅くなったので最終バス。  
それにもたった今、目の前で乗り遅れた。帰りの飛行機に間に合わないことが確定。  
 
…近くにホテルなどがあるわけでもないし。困った。これだから田舎は困る。  
…うちに比べればまだましとはいえ。  
 
「とりあえず、会社に戻りましょうか。かなちん?」  
「かなちんっていうなぁ!!…コホン…そうします。」  
案内役を買って出た辻原さんに促され、来た道をまた戻りはじめる。  
と、曇り空からぽつぽつと…  
「…雨…ですね…」  
 
 全くついていない。雨はどんどん強くなる。持っていた傘を差す。隣には手ぶらで歩いている辻原さん。  
「あなたは傘をお持ちでは…ないですね。」  
「ええ。まいりましたねぇ。」  
雨はバケツでもひっくり返したかというような降り方になってきた。…しょうがない。一人で傘に入るのも気が引ける。  
「傘にはいってください。」  
「結構ですよ。慣れてますから。」  
「怪我も完治したばかりでしょう。体には気をつけないと。」  
「…おや。かなちんに心配していただけるとは光栄ですねぇ。」  
「かなっ…べ、別に私は心配なんてしていません。」  
 辻原さんが私の左側に入ってきた。  
生まれて初めての異性との相合傘。意識してしまい頬が熱くなる。  
 もともと一人用の傘に二人は無理がある。まして私のほうが背が低い。  
左手に傘を持って差し上げると、右肩が濡れる。きっと彼も左肩が濡れているのだろうが。  
 
「私が持ちますよ。」  
と、傘を取られた。…確かにそのほうが合理的だ。  
彼は右手に傘を持ち、そのまま私の肩に手を回す。  
 
「…何のつもりです?」  
「このほうが濡れにくいでしょうし。お気に触りましたか?」  
「ええ。とても。」  
「そうですか。それは失礼しました。」  
 
 ぜんぜん申し訳なさそうじゃない声で返事をしつつ、肩に回した手はそのまま。  
全く…何でこの人はこんなキザなことをしておきながら平気な顔ができるのだろう。  
 動揺している内心を気取られるのがくやしいので、あえてそのままにしておいた。  
 うれしくて振りほどけなかったわけではない。決して。  
…右肩に感じる重みとぬくもりが気持ちよくなかったわけではないけど。  
 
ザーーーーーー  
雨は降り続く。しばらくお互いに無言のまま歩く。  
 
「かなえさん。そのあたり、道が悪いですから気をつけてくださいね。」  
「いちいちそんなことを言われずとも分かっていまっ……あっ?」  
言っているそばから側溝に足を取られて転んだ。みごとに。  
不覚。普段はきつけないヒールの高い靴を履いてきたのが失敗だったかも。  
 
「おやおや…大丈夫ですか?」  
差し出された左手を取って立ち上がる。  
「いたた…大丈夫ですっ!」  
「泥だらけ。ですね。」  
「う゛…」  
着てきたのは紺のスーツ。左側が泥だらけになってしまって、上着どころかブラウスや下着までしみてきている。  
水の仙術使いともあろうものが情けない…と哂うおばあさまの顔が思い浮かぶ。  
「…最悪ね。」  
「着替えとかは…あるわけがありませんねぇ…」  
「日帰りのつもりでいましたので…何も準備がありません…」  
 
『………』  
 
「森永さんあたりにお借りできないかしら…だめね。完全に酔いつぶれていたし。」  
「さすがに社長も國生さんも寝ているでしょうね。お疲れでしたし。」  
 
『………』  
 
「…今夜はうちに来ますか?」  
「……………よろしくお願いします。不本意ですが。」  
「あ。ブラが透けていますよ?かなちん。」  
「だからかなちんって…見るなああああ!」  
 
 
 ワンルームのアパート。思ったよりも数十倍きれいに整理されていた。  
 男性の部屋というのを番司の部屋を基準にイメージするのは間違いかもしれない。  
以前入ったときに、半年前のヤキソバパン(開封済)を踏んづけたときの…思い出すのはやめておこう。  
 男性の部屋に入ることに戸惑いがないではないが、背に腹は変えられない。  
 
「では…お邪魔します。」  
「どうぞどうぞ。シャワーはここです。好きにつかってください。」  
 
がちゃっと脱衣所に続くドアを開け、案内してくれる。私も続いて脱衣所に入った。  
「ありがとうございます。…早速ですけどシャワーをお借りしていいかしら?」  
「ええ。では着替えは…適当に探しておきますので。」  
「ありがとうございます。」  
「どうぞ。(にこにこ)」  
「…えぇーと…」  
「…(にこにこにこ)…」  
「…ずっとそこにいらっしゃるつもりでしたら、私にも考えがありますが?」  
「失礼します。」  
…表情の一つも変えないで出て行くとは…分かっていてからかっているわよね。どうみても。  
 
 脱衣所で服を脱ぎ、洗濯機に入れる。  
シャワーのコックを空け、熱いお湯が出てから、シャワーに飛び込んだ。  
熱いお湯が肌に流れて、雨に冷えた体に熱が染み入ってくる。  
「ふぅ…」  
 冷たくなった全身を揉み解す。腕、腰、腿、足。冷たく、硬くなった体が柔らかさを取り戻す。  
(…辻原さんの家でシャワーか…辻原さん…シャワー浴びないのかしら。辻原さんだって相当濡れていたのに。  
 まさか覗いたり一緒に入ろうとしたりとかしないでしょうね!?…まさかね…………そういうときって、  
 やっぱりキャーーーって叫んだほうがいいのかしら。ちゃんと心の準備しとかないと、妙な声で叫んじゃったら、  
 雰囲気も何も台無しだし。)  
 
 ふと胸に手をやる。そんなに小さく…はないと思いたい。  
(…挟めるほどは確かにないと思うけど…)  
 そんなことを思いながらむにむにと寄せてあげる。  
「んっ…」  
 
壁ひとつ向こうには、辻原さんがいる。脱衣所と風呂場の戸をあければ、用意に入ってこれてしまう。私は裸。体を隠すものもない。  
眼鏡越しにきっと私の体の隅々まで見られてしまう…そんなことを想像していたら、胸の奥が熱くなってきた。  
沈めようとするかのように胸においた手が動き出す。  
全体をなでまわし、とがった先端へと指を伸ばす。  
「ふっ…はっ…ふぅ……んっ」  
 
足の間に手を持っていったところで、お湯とは違うぬめりに気がついた。  
「あ……」  
(…なんてはしたない)  
そう思っていても手が止まらない。  
そのまま腰を下ろす。割れ目に沿ってゆっくりと、指でなぞる。  
「ふぁっ……」  
(こんなところをもし見られたら…)  
 
少しずつ、とろとろとした感触が増えていく。足を開いていられない。自分で自分の指を太腿で締め付けるように  
挟み込む。そのせいで指がさらに押し付けられる。  
「…やぁっ…ん…」  
頭がぼーっとしてきた。声がもれないようにかみ締めながら、指をひたすら動かす。  
 
「あ。かなえさん?」  
突然、脱衣所の方から声がした。  
「のぅわっっぎゃぁーーーーーーー!?」  
心の準備等ないので、声が裏返る。曇りガラスを通して人影が映る。  
「大丈夫ですか?」  
「な、なんですかっ!?いつのまに!!?」  
「ちゃんとノックもしましたよ?ちゃんと。バスタオルと着替えを持ってきました。棚の上においておきますので。」  
「わ、わかりました、分かりましたから早く出て行ってください!」  
「あぁ、かなちん。」  
「なんですかっ!」  
「……すばらしいボディラインですね。」  
「なっ〜〜〜〜!!!」  
「あ、冗談ですよ?冗談。ここからは何も見えませんからね。」  
「でてけ!!はやくでてけーーー!!」  
 
あぁ…この胸のドキドキと…こみ上げてくるものは…  
 
 
 
殺意ね。きっと。  
 
 
 
 シャワーから出た。  
 ここに来る途中のコンビニで買った換えのショーツを履き、置いてあった厚手のTシャツを着る。  
ブラの換えなどないので、そちらはしょうがない。下は素足。まぁTシャツの丈が長いので気にしないことにする。  
 
「……それで、これは?…嫌がらせですか?」  
「?何のことです?」  
「この水着女性のボディーラインがペイントされたTシャツのことです!!」  
「お気に召しませんか?」  
「悪趣味ですっ!!」  
「あはははは。よく言われます。よくお似合いですよ?」  
「うれしくありません!!どういう意味ですかっ!」  
 
 憤然として周囲を見回す。洗濯して屋内に干してあるTシャツの類は、だまし絵Tシャツのほかにも「BOZU」やら  
「AZIDASU」とか書かれた偽ブランドTシャツやら、「朴念仁」と、毛筆体で書かれているものやら。  
…本当にどんな趣味が悪い。  
 とりあえず「朴念仁」に着替えなおす。…水着Tシャツよりはましだろう…たぶん。  
…斗馬君…だったかしら、あの子のセンスは辻原さんゆずりかしら?……将来が心配ね…  
   
 
 脱衣室に戻って着替えなおし、また部屋に戻ってみると、乾き物とコンビニのお惣菜がテーブルに並んでいた。  
コンビニを出たときにいろいろ買い込んでいたのはこれだったのだろう。ビールも数本、芋焼酎も置いてある。  
 
「私は少し飲んでから寝ますが、かなえさんはどうされます?」  
「いただきます。就任披露の席ではあまりいただけませんでしたし。」  
 
かきょんっかきょんっ  
缶ビールのプルタブが気の抜けた音を立てる。  
 
「では、我聞くんの就任を祝って。」  
「ありがとうございます。乾杯。」  
 
ぐびっぐびっぐびっ…  
 
「ふぅぅぅぅ…」  
「いやぁ、いい飲みっぷりですねぇ。まさか一気に飲まれるとは思いませんでした。」  
「乾杯という字は杯を干すと書くでしょう?これくらいは当たり前です。」  
かきょん。二本目のプルタブを起こした。  
「あ…辻原さん、お湯ありますか?焼酎はお湯割の方が…」  
「わかりましたが…すごい勢いですねぇ…」  
 
 
数時間経過。  
 
「あの…かなえさん。ちょっと飲みすぎてませんか?」  
 目の前の胡散臭い笑いが引きつっている気がする。  
 
 失礼な。私は飲みすぎるなんてことはない。  
むしろ真っ赤になってる辻原さんこそ飲みすぎだ。  
「わらしはじぇんじぇんひょってなんふぁいまふぇん!!」  
 
 うん。酔ってない。  
既に二人で焼酎の一升瓶は空けた。今二本目も空こうかというところ。  
 
「ふぉいれおふぁりしまふ」  
一言断ってトイレに立とうとした瞬間、その言葉はふっと聞こえてきた。  
 
「……死に損ねましたねぇ…」  
「ふぇ?」  
一瞬にして酔いが覚める。  
辻原さんの表情は変わらない笑いを浮かべているが、この男は今なんと言った?  
「…今、なんと?」  
「…いえ、何も?」  
いつもどおりにはぐらかされる。  
「……死に損ねた。と、そう聞こえましたが。」  
「……口にしてしまってましたか。私も酔ってますかね。」  
「どういう意味です。死に損ねたとは。」  
 
辻原さんが目をそらす。しばらく沈黙した後。  
目をあわさないままで話し始めた。  
 
「…………かなえさんには私の来歴はお話しましたね。…私はたくさんの方々を殺してきました。  
 実験という名の戦闘、暗殺、その他いろいろな形で。」  
「でもそれは…」  
「真芝にいたから…とはいっても、実際に手を下したのが私であることには違いありません。」  
「……」  
「…この間の一件で工具楽屋への、先代への恩は返せました。社長ももう一人前、私の指導も必要ないでしょう。」  
 
なにを言っているのだこの人は。  
 
「真芝にいた人殺しが、真芝壊滅の礎となって死ぬ。罪滅ぼしの死に場所としては適当な所だと思ったん…」  
 
ごすっ……がたがたがたんっ  
 
私が辻原さんを殴った音。そして、彼が倒れる音。  
 
「か、かなえさん?」  
「…なに言ってるんですか。」  
 
「…罪滅ぼしに死ぬ!?なに馬鹿なこと言ってるんですかっ!あなたがいなくなってからっ!  
 あなたが第1研で連絡を絶ってからっ!どれだけの人があなたのことを心配していたと思ってるんですか!  
 我聞君も!陽菜ちゃんも!森永さんも中之井さんも!番司やお婆様や私だって!  
 …私だって…私が…私がっどれだけ心配したと…うっ…思ってるんです…どれだけ……心配したと…」  
 
 威勢がよかったのは途中まで。私は泣かない。こいつの前で泣いてたまるか。そう思っても嗚咽で言葉が詰まる。  
 
「私泣いたんですよ?あなたのことが心配で…あなたが…撃たれたと聞いて…もう生きていないかと……」  
 あのときの絶望を、あのときのつらさを鮮明に思い出してしまった。目頭が熱くなる。必死にとどめていた涙腺も、  
だんだん緩んできた。  
 
「あなたが悪いんです!あなたがっ、無茶なことをするからっ!!!」  
そして一度溢れ出した涙は止まらない。  
 涙と一緒に体の力も抜けていった、私は手近なもの…起き上がった辻原さんの体にすがりついた。  
 
 
「うぅ…ひっく…うぁぁぁぁぁ…」  
 そこから先は、言葉にならなかった。みっともない声を上げながら、辻原さんにしがみつく。  
「………」  
 
彼は何もしゃべらず、私はしがみついたまま、ただ泣き続けた。  
私がまた、言語を取り戻すまでの数分間、私たちはそうしていた。  
 
「……あなたが…どれだけのことを真芝でしてきたのかは…知りませんけど………どれだけ…償わなければいけ…ないのかも  
 わかりま…せんけど、でも!……でも…恩を返したから終わりですか?…指導が必要ないからさよならですか?  
 …人を…人をこれだけ心配させておいてなにを馬鹿なことを言ってるんですか?  
 …こんなに…心配させるほど…私の中で…あなたが大きくなってるのに…勝手なことをいわないで…」  
 
 自分のものとは思えないほど弱弱しい声、弱弱しい言葉。涙は止まったけれど時々嗚咽が話し続ける邪魔をする。  
 多分ぐしゃぐしゃになっているだろう顔を辻原さんの胸に押し付けたまま、絞りだすように言葉を続けた。  
 
「…あなたは必要な人なんです。私にも、きっと工具楽屋の人たちにも。だからもう心配させないで…無茶なんてしないで  
 …私…私はあなたのことでこれ以上…泣いたりなんてしたくありません……お願い…お願いです…」  
 
辻原さんが声を漏らした  
「……かなえさんにとって私は必要ですか。」  
「……えぇ…」  
「泣かせてしまいましたか。」  
「ええ…全部あなたのせいです。」  
 
 身動きしない辻原さんから伝わってくる鼓動と、私の鼓動がやけに大きく聞こえる。  
 
「…すみませんでした。ご心配をおかけして」  
「…本当にそう思っているなら……抱きしめてください。」  
「私の手は汚れていますから…」  
「知りません!…そんなこと、知りません……それとも…私には…そんなに…魅力が…ありませんか…」  
「いいえ。そんなことはありませんよ。絶対。」  
「じゃぁ…抱きしめてください。」  
 
 返事はなかった。ゆっくりと、私の体を彼の腕がやわらかく包む。  
辻原さんの胸に体を預けたまま見あげると、彼と目が合った。彼の目が「しょうがないですね」といっているように見える。  
 その目が優しく誘っているような気がして、私は辻原さんの顔に顔を近づけた。  
口付けたのは、辻原さんからだった。  
 
「ん…ぅんっ…」  
辻原さんの唇の感触。ついばむように数回。  
「ん…んっ…んんんんっっっ!?」  
え?なにこれ?!口の中に…舌!?  
 
「んぁ…舌…」  
「お気に召しませんか?」  
「あ、あの…いえ、その…」  
「いかがです?」  
「…意地悪。」  
二度目のキスは私から。これ以上意地悪なことを言わせないように…  
 
 
 
 
 
散々いじめられ、シャワーを浴びた後。  
裸で抱き合ったまま、二人でベッドに横たわる。  
 
とくんとくんとくん  
 
辻原さんの鼓動が聞こえる。よかった…この人は生きている。  
 
抱きしめられている腕からつたわる温かさが、夢でないことを教えてくれる。  
「…辻原さん…」  
「なんです?」  
「もう…危ないことはしないでください。」  
「…それはまた無茶をおっしゃいますね。」  
「じゃあ…この間みたいに勝手にいなくなるのはやめてください。」  
「……」  
「お願いです…」  
「…分かりました。」  
その声を聞いて、彼のぬくもりを感じながら私は眠りについた。  
 
 
コーヒーの香りで目が覚めた。  
 
 
「ん…むぅ…んん…」  
 覚醒していく意識のなかで昨夜のことを少しづつ思い出す。  
(…ずいぶんといじめられたわね。…それはそれなりに気持ちよかっ……ふぅ。)  
 
 赤面するようなことを思い出し、ついでに自分が裸なのも思い出した。  
ベッドの下に落ちていた下着を手探りで探して、履き、傍にあったYシャツを羽織り、ベッドから出る。  
辻原さんの…匂いがする…そうか、これは辻原さんが昨日着てたYシャツ…  
 
 なんとなく衿や袖の辺りの残り香を嗅いで見て陶然となる。  
(…なんてはしたないことをやっているのかしら私は…)  
 自分のしていることに自己嫌悪。  
 
「おはようございます。…どうしました?顔が赤いですよ?」  
キッチンから辻原さんがマグカップを二つ持って歩いてきた。コーヒーの香り。  
 
「な、なんでもありませんっ!!」  
「そうですか。ま、裸Yシャツなんてマニアックな格好で目に保養をさせていただいてますし。  
 私のYシャツの匂いを嗅ぐくらいのことはかまいませんよ?」  
「………見てたんじゃないですか。」  
 
 辻原さんは答えず、くすくすと笑いながらマグカップを差し出してくる。  
「コーヒーはいかがです?かなちん?」  
「いただきます。って、かなちんって言うなっ!!」  
「つれないですねぇ。昨夜はかなちんって呼ぶと一段と燃え上がって…」  
「…死にたいですか?」  
 
 コーヒーを糸にして。ボクサーブリーフ一枚の辻原さんの首に突きつける。  
…それ以上言われてはたまらない。  
 
「いえ、せっかく助かった命ですから大事にします。」  
「よろしい。とにかく今後、『かなちん』と呼ぶことは禁止します。」  
「そんな殺生なことを言わないでくださいよ。」  
 おちゃらけた返事をする辻原さんを精一杯冷たい表情でにらみつける。  
 
「ね?」  
 にこにこと笑いかけながら彼が私の目を覗き込む。  
思わず「わかりました」と折れてしまいそう。  
 でも、負けない。ここで譲るとずっとかなちんで呼ばれてしまいそうだから。  
だから、お願いを無視して顔を背けながら言い渡したのだった。  
 
「ダメです。………二人きりの時なら…大目に見ますけど」  
 

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