深夜にトイレに起きた珠が帰ってくる部屋を間違えたことに気づいたのは布団に入ってからだった。
いつもならいるはずのないもの――我聞が寝ていたのだ。
珠は布団から出なかった。眠くて億劫だったし、なにより懐かしかったからだ。
「・・・前はよく兄ちゃんと一緒の布団で寝てたっけ・・・」
珠は我聞と一緒に寝るのが好きだった。嫌なことがあった日も、我聞にぴったりくっついて寝ると、不思議と落ち着けた。
そんな思い出に浸りながら、背中に顔を押し付けると、あの時と同じ匂いが鼻をくすぐる。珠はこの我聞の匂いも好きだった。
暫くそうしてくっついていた珠だが、ふいに我聞から体を離すともぞもぞと動き始めた。
「服・・・ジャマだな・・・」
久しぶりのことだったからか”もっと堪能したい”という欲求が強くなってきたらしい。
器用に布団の中で服を脱ぎ、一糸まとわぬ姿になると再び我聞に体を重ねる。
「う・・・・ん」
全身で直接感じる、初めての体験に珠は思わず声を漏らす。ぎゅうっと抱きしめると二人の体温が同じになっていく。
だが、まだ何かが足りない。何が足りないのか。我聞と珠の姿を比べればすぐにわかる。
(兄ちゃんの、ふくがジャマ・・・・・)
おぼろげながら珠にもこれからすることが「悪いこと」だというのは解かっていた。もしばれたら大変なことになることも・・・
しかし、普段ならありえないことだが、寝ぼけていて判断力が低下しているためか珠の頭はこう考えていた。
自分だけ裸になっただけでもこんなに”いい”。もし二人とも裸になったら・・・
背筋がぞくっとする。理性は期待感にあっさり押し負け、珠は我聞の服に取り付いた。
流石に寝ている大の男を全裸にすることはできなかったが、なんとか胸をはだけさせ、パンツをずり下ろすことはできた。
そして珠は、仰向けに寝ている我聞に跨るようにして抱きついた。その瞬間、さっきまでとは別物の感覚が珠を包む。
無意識のうちに珠は自分の身体を我聞の身体にこすりつけていた。
肌と肌が直接擦れ合うたびに珠の身体の奥底にあたたかいものが満たされていくのが解かる。
生まれて初めての幸福感を感じながら、珠の意識は闇の中に沈んでいった。