「お酒まだ貰ってない人いるー?」
優さんがまだたっぷり入った一升瓶を片手に呼びかける。
あの人、余った分は全部一人で飲むつもりなんだろうな。
「あ、優さんオレの分お願いします」
工具楽 我聞。
高校生ながら解体業者”工具楽屋”の社長だ。
「社長の分はこちらのオレンジジュースです」
「だが國生さん、社長たる者こういう時には先陣を切って飲まないと…」
「未成年者の飲酒は禁止されています」
國生 陽菜ちゃん。我聞の同級生で経理兼社長秘書。
有能でいつでも冷静だがちょっとキツイ。
「なら保科さんにも飲ませちゃダメなんじゃ…」
「あたしはハタチだっつってんだろが!!」
唸る鉄拳。なびくポニーテール。我聞の体が吹っ飛ぶ。
保科 ますみ、通称(本人は嫌がってるが)ほっちゃん。中学生みたいなナリだがこれでもハタチだ。
優秀なユンボ(油圧ショベルカー)乗りで、空手が使えて、元ヤンキーで気が荒い。
「陽菜、エロ社長に飲み物にクスリ入れられないよう気をつけろよ」
「はい?」
「な!?社長たる者がそんな卑怯なことをするかっ!!」
またか・・・。我聞とほっちゃんは顔合わすたびに喧嘩しているな。
オレはヤスヒロ、通称ヤス。
工具楽屋の社員ではないが、ほぼ専属で働いてる。
「それではユンボ奪還と仕事の無事完了を祝って、カンパーイ」
ゴクゴク…ぷはぁ。
今回の仕事では『ほっちゃんのユンボが盗まれてATM強盗に使われる』
という事件があったが奪還、なんとか期日内に終わらせることが出来た。
今は作業の終わったその場で簡単な打ち上げが行われている。たまにはこういうのも悪くない。
ドサッ
ん?『ドサッ』?
ほっちゃんが倒れている!!
「ほっちゃん!?」
オレはほっちゃんに駆け寄った。
「社長、どんなクスリを入れたんですか?」
「違ーう、断じてオレは何もやってない!!」
優さんがメガネを光らせてほっちゃんの様子を見る。
「んー、これは軽い急性アルコール中毒だね」
急性アル中?
「すまねえ…どうやら飲みすぎちまったみてェだ」
「いや、ほっちゃん一口しか飲んでないだろ」
「ほっちゃん言うな、ヤス」
「へいへい」
真っ赤な顔で呟いている。どうやらほっちゃんは完全な下戸のようだ。
「明日になれば大丈夫だろうから、家で寝てるのが一番だねー」
「保科さん水です、どうぞ」
いつの間にか陽菜ちゃんがコップに水を入れて持ってきた。
こういうところはソツがない。さすが社長秘書。
フラフラと体を起こしたほっちゃんが、礼を言い水を飲む。
「ふー。…昔ダメだったが、今なら飲めるかと思ったんだがなあ」
そういやほっちゃんはいつも『仕事の後の一杯』にも付き合わなかった。
てっきり中学生と間違えられるから来ないんだと思ってたが、呑まなかったのか。
「だ、大丈夫だって!きっと、大人になれば飲めるように…」
あ、バカ!
本日二度目の鉄拳は我聞のみぞおちに炸裂した。
「あたしは十分大人だっつって……ぁ…」
「ほっちゃん?!」
くずおれるほっちゃんを、オレはなんとか抱きとめた。
「社長、保科さんの体調を気遣ってあげてください」
「そんな…オレは慰めようとしただけなのに…」
「我聞くん、相手が弱っているときに仕返しするなんてダメだよー」
「優さんまで!!」
いや、あんたら漫才やってる場合じゃないだろ。
「で、ほっちゃんは家まで帰れるか?」
荒い呼吸をするほっちゃんに聞いてみた。
「ここからだと、ちょっと遠いな・・・それとほっちゃん言うな」
我聞が乗り出してきた。
「よし、じゃあオレがおぶって走ろう」
確かにこいつの馬鹿力ならそれも出来そうだが…
「誰がセクハラ社長の背中になんか乗れるかァ!!」
「だーっ、セクハラ社長じゃなーい!!」
「社長、興奮させないでください」
だめだな、こりゃ。
「んー、ここからだとヤスさんちが近いんじゃない?」
ノートPCを覗きながら優さんが言う。確かに歩いて数分だ。
「けど、いいのか?うちで」
「頼むわ、ヤス。ちょっと電車や車に揺られる気分じゃねェ」
「じゃあヤスさんお願いねー。撤収作業はやっておくから」
それじゃあ行きますか。
ほっちゃんの腕を担ぎ、おんぶして歩き出す。
「な?!ちょっ、ヤス?!」
「大丈夫。うちすぐそこだし、ほっちゃん軽いからこの方が早いって」
ほっちゃんは恥ずかしがって少し暴れたが、すぐにおとなしくなった。
静寂。そしてため息をつくほっちゃん。
「…ありがとな、ヤス」
「たいしたことじゃないって」
「ユンボ捜しの時も朝から手伝ってくれたし、今日も世話ンなってさ」
そう言うと、ふぅ、と息を吐き出して頭をオレの方に預けてきた。
寝ちまったのか?
吐息がオレの首筋をくすぐる。薄い胸がオレの肩に当たっている。
細く引き締まったふとももがオレの腕とわき腹に挟みこまれている。
背中にかかる体重がほっちゃんの体を想起させる。
やべぇ、股間が膨らんできた。
オレが背負ってるのは小学生だ、小学生だ!オレはロリコンじゃない!!
そう念じながら、なんとか自宅にたどり着いた。
「着いたぞ、ほっちゃん」
布団にほっちゃんを寝かせる。
「ンんー、ほっちゃん言うなって」
「へいへい」
ほっちゃんの足から靴を脱がす。
ちっちゃい足だ。
「ヤス、水くれェ、水」
もう片方の足からも靴を脱がしたところで、ほっちゃんが訴えてきた。
「へいへーい」
靴を玄関に置いてから、コップに水を入れる。
「なぁっ!!」
なんだ?
ほっちゃんが大声をあげた。
あわてて駆け寄ると、布団の脇にあった雑誌を掴んでる。
あ、アレは!マズい!!
「お…お前はこんなモン読むヤツだったのかー!!」
投げられた洋物無修正のエロ本がオレの眉間を直撃した。
フラフラのくせになんで攻撃だけは正確なんだ…
「帰る!!」
ほっちゃんが立ち上がろうとする。
「そんなスイカみてェなデカい胸見てよろこんでいるヤツの家にいられるかぁ!!」
一歩目を踏み出したほっちゃんがバランスを崩した。
痛みをこらえながら、オレは正面からしっかりとほっちゃんを受けとめる。
オレの肩までしかないちっちゃな体を包み込んで抱きしめる。
「オレは、ちっちゃくても好きだ!!」
思わず叫んでしまった。
「え?ヤス、なに言って…」
「オレはほっちゃんが好きなんだよ!」
オレはそのまま、ほっちゃんを布団に押し倒した。
オレの下で、目をまん丸に開いたほっちゃんの顔が見上げる。
「お、お前、今までそんなこと一言も…」
桜色のやわらかそうな唇が動いて言葉を吐く。
思わずほっちゃんの唇にしゃぶりついた。
引き離されて殴られると思った。
でも、一瞬でもこの甘いやわらかさを味わえたのなら満足だ、とも。
一瞬は思ったより長く感じた。
舌をのばしてみる。
薄く開いたほっちゃんの唇にオレの舌が分け入る。
「ン!」
首をひねってほっちゃんの唇が逃げた。
「言ってないけどさ、好きじゃなきゃ世話やいたりしないって」
放り出されたオレの舌が、ほっちゃんの首筋を這いあがる。
「ひゃっ!け、けどよ、イキナリ言われて、こんなコトされて」
舌が耳まで到達した。耳たぶに歯を立てる。
「うあ!」
そのまま耳元で囁く。
「ほっちゃんは、オレのこと嫌いなのか?」
呟くとほっちゃんが振り向いた。
「そんなことねぇって!」
オレの目を見据えて言葉を。
「あたしのことちゃんと見てくれてるし、困った時は助けてくれるし、ただ、その、な…」
言い淀んで目をそらす。一層赤くなった顔が可愛らしい。
心がはやる。欲望が加速していく。
オレはもう一度ほっちゃんの唇に飛びついた。
今度は逃げられないよう片手で顔を押さえたが、必要なかったようだ。
ほっちゃんの舌がおそるおそる動いてオレの舌を迎え入れる。
二人の唾液がピチャピチャと音を立てる。
おさえるのをやめて、両手をほっちゃんのTシャツにのばす。
「あ!」
声をあげた口を塞ぎ、Tシャツを胸の上まで捲りあげる。
唇を放した。ほっちゃんとの間に唾液が糸を引く。