ある日家に帰ったら、居間に國生さんが縛られて転がっていた。  
―――なんで?  
「國生さん! どうしたの一体?」  
慌てて猿轡、といっても、形だけ口を覆っていた布をはずす。強盗が押し入るにしたって、  
うちに盗るものがないことぐらい一目で分かりそうなものだ。國生さんが盗られてなくて  
よかったけれど。  
「それが良くわからないんですけれど、果歩さんたちにお願いがあると頼まれまして、  
気が付いたらこんなことになっていたんです」  
あまり表情は変わってないけれど、微かに眉が寄せられて途方にくれていることが見て取れた。  
かわいい。  
あいつら何やってんだ、と思う反面ちょっと喜んでみたりもする。  
後ろ手に縛られて途方にくれた表情で畳に転がっている國生さんはなんだか無性にかわいらしい。  
卓球部のやつらに見せたら狂喜乱舞するだろうけれど、そんなことは勿体ないのでもちろんしない。  
「お手を煩わせてすみませんが、はずしていただけますか」  
不自由そうに身を捩じらせてお願いされて、いたずら心がわく。  
よく見れば縛り方はずいぶん甘い。  
何を参考にしたのか、上半身はいわゆる亀甲縛りのモドキだろう、首から回された縄が胸の前で  
交差して、制服姿の胸のふくらみを強調している。厭きたのか分からなかったのか縛った人が違うのか、  
足首と膝、手首はそれぞれ別の縄で普通に括られている。少し動くと太ももが見えたりして、ちょっと  
なんだかその気になっちゃいそうな光景だ。  
―――なっちゃたんだけど。  
 
立ち上がって隣室を覗く。家の中に果歩たちの気配は無さそうだ。  
「社長?」  
不安げに聞かれて、少し後ろめたい。  
「ちょっと待って、あいつらがどこかに潜んで何か企んでないか確かめないと」  
國生さんが期待しいるのとはたぶん目的は違うけど。  
室内を見渡せば、今まで気が付かなかったちゃぶ台の上に小さなメモがあった。  
『3人で遊びに行ってきます。帰りは遅くなります』  
どこまであいつらは分かってやってるんだろう、なんて思ったけれどこのシチュエーションを  
逃す手は無い。  
「ちょっと待ってね。あいつら変な縛り方してるから」  
もっともらしく言い訳をして後ろにまわる。本当はこれくらいの縄なら仙術を使えば簡単に壊れちゃうけど。  
縄が壊れるって変な表現かな。縄の繊維を壊すのは簡単だ。うっかりしたふりで制服ごと壊してもいいけれど、  
そんなことをしたらしばらく國生さんが口を利いてくれなくなりそうなのでやめておく。それは堪える。  
とりあえず畳から抱き起こして、縄をたどるふりをして首筋に指を這わせる。  
俯いているせいで普段は隠れていることの多い白い首筋が露になっている。  
縛り方に遊びがあるせいか赤くなったりもしていない。よかった。  
誘われるように音をたてて口付けた。  
「しゃ、社長っ」  
きゃ、と跳ねた体を左腕で背後から抱きすくめて、右手を胸元に伸ばす。  
制服の上から胸の感触を楽しんで、シャツの裾をスカートから引き抜いた。  
「社長っ」  
シャツの裾から右腕を差し入れる。滑らかな肌。縛られた縄が邪魔でうまく  
胸にたどりつけないけれど、それが刺激になるのか國生さんが身を捩じらせる。  
「こういうときは社長って呼ばないって決めたよね」  
耳元でささやくと真っ赤になった。  
 
かわいい。  
そのまま耳朶を舌でなめ上げて口に含む。  
「名前、呼んで?」  
誰にも言う必要が無いから言ってないけれど、何度か國生さんとは体を重ねてる。  
家族みたいなものだけれど、ちゃんと家族になりたくて。  
何度もねだってやっと名前を呼んでもらうところまでたどり着いた。  
どこが気持ちいいとか、どんな台詞が好きだとか、だから少しは分かってる。  
「ん…あ……」  
こんな風に後ろから抱き込んで、胸元の飾りを指先で捏ねると國生さんの息があがることも知っている。  
「んっ。我聞さん……」  
甘い声で呼ばれて何かが背筋を走る。本当はもっと呼んでもらいたいけれど、あんまり呼ばれると  
それだけでイキそう。他の誰もそうしないサン付けにちょっとそそられてる、  
なんて言ったら変態扱いだろうか。  
「とりあえず、一つね」  
本当は結び目を解こうと思っていたんだけどもう面倒くさくて、軽く指に力を込めると  
簡単に縄は壊れた。  
手首が開放されて、國生さんは小さく息を吐く。  
背後からその手をとって自分の眼前に持ってくる。  
よかった。ここも赤くなったりしていない。安堵して同じように唇を落とした。  
 
スカートの裾から左腕を差し入れると、途端に体がこわばった。  
「しゃ、社長、これ以上はダメですっ」  
目尻に浮かんだ涙を舌で舐めとりながら、指で太ももの間を探る。  
「なんでダメなの?」  
下着の上から裂け目に触れる。微かにだけど濡れた感触があって、  
もう國生さんだってその気になっていることを教えてくれているのに。  
「だ、だってまだ明るいですし、その、」  
夏の日差しは強くて、時間が早いこともあり確かに随分と明るい。  
エアコンなんてないから窓も開け放されていて、唯一目隠しになるかもしれない  
薄いレースのカーテンも風が吹けば時々舞い上がる。  
 
だからいいと思うんだけど。  
「か、果歩さんたちもそのうち帰られると思いますし……」  
「いいじゃん、お膳立てしてくれたのあいつらだし」  
「しゃ、社長っ」  
癖で呼ぶ抗議は社長だ。ちょっと気に入らない。  
それはもちろん、社長と呼ばれている回数の方が断然多いからで仕方のないことだけれど。  
さすがに涙を溜めた瞳で訴えられて、少しだけ指の動きを止める。  
「ごめんごめん、でも大丈夫。さっき遅くなるってメモ見つけたから」  
「で、でもっ」  
だって、こんな風に上気した表情と艶めいた声を聞かされて、男が途中でやめられるはずない。  
そのまま体を反転させて、國生さんを畳の上に組み敷いた。  
そう言えばまだ今日は口付けていないことを思い出す。  
反論する言葉を封じ込める意味もあって、噛み付くように口付けた。  
「ふ……」  
柔らかな唇。何度か舌でそれを舐めると少しだけ唇が開く。それは許可のしるし。  
そのまま舌を差し入れて歯列を割る。  
逃げようとする舌を追いかけてそのまま口腔を辿る。  
自由になった腕が自分の背を抱く感触があって、先に腕を開放しておいてよかったと思う。  
「ん、んんっ」  
角度を変えて何度も唇を貪る。その度に少しずつ國生さんの体から抵抗する力が抜けていく。  
名残惜しかったけれど、次に進みたくて上半身を起こした。  
 
足首と、ついでに膝を縛っていた縄を壊して、勢いのまま足を開いた。  
「しゃ、社長!」  
同じように縛られていた跡を確認する。足首は靴下を履いているからいいとして、  
膝を念入りに確認して舌を這わせる。  
ひゃ、と小さな声があがって、調子に乗ってそのまま太ももへ指を滑らせた。  
 
あまりラフな格好をしない、スカート丈もそれほど短くしない國生さんの内股はきれいに白い。  
前に付けたキスマークは消えてしまっていたから、強く吸い上げる。  
ここは他の人に見られない場所だからあんまり怒られないことを経験で知っている。  
下着の上から秘所にかぷりと軽く噛み付くと、体が軽く跳ね上がった。  
「きゃ」  
そのまま指先を下着の中に潜り込ませるとしっとりと濡れた感触。  
「あ、んっ、ふ……」  
膣内は温かくて柔らかくて、指を拒まない。  
触った感触に違いはないけれど、ときどき國生さんの声が高くなって、  
ついつい同じところだけを執拗に辿る。  
「や、も、もう……」  
指だけで限界が近いのか、國生さんの声に涙が混じっていて。  
本当は「入れて」とか言ってもらいたいところだけれど自分の我慢も限界。  
猛った自分を濡れた裂け目にあてがうと、國生さんが上気した顔で少し笑ったような気がした。  
 
「んっ」  
声はもしかしたら自分の声だったのかもしれない。  
押さえがきかないほど、気持ちいい。  
突き上げると嬌声があがる。引くと名残惜しげに体内が絡み付いてくる気がする。  
ねえ、國生さんも気持ちイイって思ってくれてる?  
「……んっ」  
開けた窓から漏れるのが嫌なんだと思うけれど、手の甲を口元にあてるようにして  
声を殺されるのは少しつまらなくて、自分の手で國生さんの手を押さえつける。  
「や、社長、や、ダメ」  
ふるふると子供みたいに首を振る姿に、体内に埋めた自分が少し大きくなるのが分かる。  
嫌がられてその気になるのは男の性だから仕方ないよね。  
たぶん國生さんにも分かったと思う。上気した目元に涙が滲んだ。  
「声聞かせて、ね」  
なんだか自分の声が甘ったるい。  
 
ふるふるともう一度首を振られて、つい強く突き上げる。  
「あ、んんっ、あ、や」  
高い嬌声が耳に心地いい。  
こんな声を出されたらもったいないけどすぐに果ててしまいそう。  
少しインターバルをおきたくて、そういえば、と襟元のリボンを引っ張る。  
さっき胸元に触りはしたけれど國生さんは制服を着たままだ。  
ボタンを外すのに縄が邪魔になって、やっと最後の縄を砕いた。  
ちゃんと脱がせてる余裕は無くて、乱れた下着から覗く胸の飾りに噛み付いた。  
「はうっ……ん・・・」  
刺激が強かったのかびくりと体が跳ね上がる。  
なだめるように両方の手のひらで丸く撫でると、きゅ、と体内が締め付ける。  
「気持ちいい?」  
聞くと微かに頷いたので気をよくして、先端を人差し指で押し込んだり舌で舐めたり  
軽く歯を立ててみたり、その度に甘い声があがる。  
「ん……ん……あ…」  
絶え間なくあがる声に、どうしようかな、と考える。  
このまま中で出してしまおうか。でも後で國生さんに怒られると思う。  
かといって下手に外へ出すと制服を汚してしまいそうだ。それも怒られそう。  
ねえ、分かってる?  
國生さんに怒られるのは嫌いじゃないんだけれど、嫌われるのだけは怖いよ。  
視界が白濁する。こんなに気持ちイイのはきっとあなただけ。  
「もう、限界……ッ」  
「あ、ああっ」  
ぐ、と腰を入れて達する直前で引き抜く。一際大きな嬌声があがって抱きしめていた体が弛緩する。  
白濁した体液が國生さんの下肢を汚す。どこか焦点のぼやけた視線が中空を彷徨う。  
やっぱりかわいいと思う。ごめん。同じ言葉しかでてこなくて。  
もう一度口付けて、ぐったりと横たわった國生さんを抱きしめた。  
 
 
「ただーいまー」  
玄関の戸を開ける前から賑やかに弟妹3人組に優さんまでもが帰ってきた。  
なるほど。共犯者はアナタですか。  
「あれ?」  
ちゃぶ台に教科書を広げていた自分たちを、主に優さんはつまらなさそうに見た。  
動けなくなった國生さんに指示してもらって、気配は完璧に消してある。  
結構時間があって助かった。  
「何にもなかったの?」  
「帰ってきた社長に縄を壊してもらいまして、そのまま宿題をやっていましたが、  
何かありましたでしょうか?」  
さらりと答えた國生さんは、先ほどまでの乱れた様子は微塵も感じさせない。冷静さは筋金入りだ。  
期待に添えなくてごめんね優さん。  
なんて、つまらないのは自分も一緒だけど。  
本当は、優さんがびっくりするくらいキスマークとかべたべたつけたかったんだけど。  
 
でもまあ、あんな國生さんを知っているのは自分だけということに、とりあえず満足。  
 
―終―  
 

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