「あの……先生…私…」  
「……ありがと…って言うべきなのかな?こういう場合…。」  
今更だがとても照れくさい。向かいあった二人は思わず苦笑いをする。  
「こっちに来て手伝って、星野さん。」  
手を借りて何とか起き上がると、やっと自分の届くところまで近づいた彩佳の唇を奪う。  
「あ、だめ先生、まだ…口に…」  
「大丈夫、気にしないで。自分のだもん、平気だよ。」  
「ん…」  
今、唯一自分の自由が利くのは口ぐらい。やっと彩佳に触れられたのだ。そんな事は構っていられない。  
待ちわびていたこの柔らかい感触をじっくりと味わう。舌先が彩佳の口内に達すると  
(うわっ、まずっ。こんなの飲ませちゃってたんだ…)  
と、知ってはいたものの初めて口にするその味に驚く。しかし、その動きは留まる事はなかった。  
「ごめんね、こんな…」  
「ううん、いいんです。私…嬉しいんです…。」  
続きを遮る様に彩佳は言った。  
「うん…ありがとう…。あ、そうだ。」  
コトーは振り返り、部屋の隅でこちらに背を向け何やらゴソゴソとしているゆきの様子を窺うと、彩佳に小声で耳打ちした。  
「これ、今のうちに…」  
「あ!そうですね…」  
彩佳はコトーの背後に回りこむと、先ずはその両手を拘束しているロープを解こうと臨む。  
縛られていた間にもがいていたために、結び目はきつく締まっていたが、  
幸いロープは固結びではなく蝶結びにしてあったので、渾身の力で何とか解く事ができた。  
 
「よしっ。解けましたよ、先生。」  
「うん、じゃ、次は足の…」  
「なーにが『よしっ』なんですかー?」  
次の瞬間、がばっと後ろから抱きつかれ、そのまま四つん這いにさせられる。。  
「!」  
二人揃ってゆきに背を向けていたため、彼女の動きに気が付かなかったのだ。  
「やぁんっんん!まっ…また…?!」  
左手で乳房を弄り、右手で股間に指を這わせる。そして、耳元で囁く。  
「またこんなに濡らしちゃって。興奮しちゃってたんだ。やっぱりいやらしいんですね。」  
「や…やめ……」  
「せっかく頑張ったんだから、ご褒美あげなきゃね…」  
秘裂を指で広げられると、先ほどとは違う物があてがわれる。  
「なっ?!」  
ゆきが何をしようとしているのか振り返って見る…その時間さえも与えずに、その何かは一気に彩佳を貫いた。  
「はあぁああんっ!!」」  
衝撃に耐えきれず歓喜の声を上げる。  
自分の臀部にリズミカルに抑揚をつけ叩きつけてくる腰と一緒に、その何かが奥を突き上げる。  
「あっ…ああっん…せっ先生助け…てっ」  
と背中にすがりつくが、当の本人は足を結ぶロープと未だに格闘中。焦れば焦るほど、解けないのだ。  
「やっ、やあっ…止めっ……んんっ!」  
「いやー、一回使ってみたかったのよねー、ペニスバンド。」  
「ぶっ!」  
思わず吹き出すコトー。  
吹き出しもするだろう。どうやら自分が想像しているよりも凄い事になっているようだ。  
 
両胸を鷲掴みにされ、無理やり上体を起こさせられると膝立ち状態になる。  
何とか拘束から解き放たれ、急いで振り返るコトー。  
「あ、先生。丁度良かった。ちゃんと繋がっている所見てもらいましょ。ほら、イクところも見てもらうのよ。」  
そう言うと結合部分がよく見えるように指で薄い茂みを掻き分ける。 
「あ…いや、見ないで、先生。…やめて、止めさせて…」  
見ないで、と言われてもやはり見てしまう。異物を愛液で濡らしながら咥え込む花弁、  
背を反らしているため否応無く強調されてしまう弾力の増した乳房、痛々しいまでに尖るその先端、  
そして涙を浮かべながら苦悶と快楽の入り混じった表情で自分を見つめる彩佳の顔。  
全てが一望できてしまう。  
「お願い…先生……」  
無言で手を伸ばすコトー。だがしかし。  
「…あんっ…って先生っ、何してるんですかっ!!助けてくださいよ!!  
 やぁっ…違うーーーっ!バカバカーーーっ!!ダメですってばーーっ!」  
ずっとお預けを食らっていたのだ。もう我慢も限界。  
「助ける」ことより「自分も貪りたい」と言う事の方が彼の中では大きくなっていた。  
今まで触れたくても触れられなかったものが、今自分の手の届くところにあるのだから…  
何もせずに助けるなんて事はもはや無理。自分を制御するだけの理性ももう無い。  
 
「いやーー!馬鹿ーーー!!変態ーーーっ!!助けてって言ってるじゃないですか!」  
コトーは真っ白な脇腹に手を添えその柔らかい感触を味わうと、  
ゆきの指の隙間から顔を覗かせる乳首に口付ける。そして、もう一方の膨らみを揉みしだく。  
「んあんっ…だめぇ…ちょっと!!聞こえてますか!もういい加減にやめて…あんっ……」  
もちろん聞こえてはいるが、敢えて無視をして先端を吸い上げる。  
「ひあっんっ!だ…ダメっ、せんせっ!!んんっ…ばっ…バカバカバカバカーーーーーぁ!!」  
殆ど力の入らない拳でポカポカとコトーの頭を叩くが全く効果なし。  
ゆきは気を利かせたのか彩佳の両手を捕らえると後ろ手にさせた。もう完全に抵抗は出来ない。  
「もう!!二人ともいい加減にっ…んんっ…!?」  
それでもなおキンキンと罵声を浴びせてくるので、コトーは思わずその唇を塞ぐ。  
暫し時が止まったかのような静寂が訪れる。  
…だめだ。どうしたってこの人には敵うわけがない。今こうしてキスをされているだけで、もう抵抗が出来ないのだ。  
もうほとんど条件反射で彩佳は受け入れ態勢に入ってしまったいた。そんな彩佳の耳元でコトーは囁く。  
「…ごめん、やっぱり助けるのは無理みたい。  
 だって、星野さんのこんな姿を見せ付けられちゃあね。我慢なんて出来ないよ。  
 それに、芦田先生に独り占めなんかさせたくないもん。」  
 
「コトー先生ー、私がここにいるのにそんな事言っちゃうんですかー?」  
彩佳の肩越しに、ゆきは挑発的な笑顔ですぐ目の前のコトーを上目遣いで見つめる。  
「んーー…じゃ、まとめて二人相手しちゃおうっか。体力的にキツそうだけど。」  
「大丈夫です、先生!私もサポートに回りますからっ!!」  
「……何っ!その軽いノリはっ!…それにサポートって何よぉ…。」  
二人に挟まれた彩佳の呟きは完全に掻き消されていた。  
半ば諦めた表情を見せた彩佳であったが、ふとある事に気付き叫ぶ。  
「あーー!!私の今までの苦労は!?ぜ…全部無駄?!」  
確かにコトーとゆきが関係を持つのを阻止するがために体を張ったというのに、これでは全てが無駄になってしまうのだ。  
…思い返してみると、全てゆきの都合の良いように事が進んでいた気がする…。  
すっかり嵌められてしまっていた事を、ハメられながら気が付いたのだ。  
「ひっ、酷ぉーーーい!!全部仕組んでたんですね!?ゆきさんの嘘吐きーーー!!!」  
「まぁまぁ。どっちにしたって私が先生を独り占めするよりはいいんじゃないですか?」  
「そりゃあそうだけど…でもっ……!!」  
押さえていた彩佳の両腕を更に後ろに引くと、しばらく止まっていた腰で再度突き上げる。  
「はあぅんっ!!や、やめて…もう…お願……」  
「嘘。本当はこのままでお終いにしたくなんかないでしょ?」  
「やっ…やあぁあっ…んあぁあーーーっ…!」  
ここまで反論する言葉を紡ぐ事でなんとか自分を保っていたが、それさえも出来なくなっていった。  
 
彩佳はゆきに腕を後ろに組まれ、不安定な体勢のままで後ろから激しく突かれていた。  
支えを求めた彩佳はコトーの胸に額を押し当て自重を預ける。  
自分の胸で喘ぐ恋人の姿。だが鳴かせているのは自分ではない。何とも言えぬ苛立ちが、更に欲望を駆り立てる。  
息を切らせながら彩佳はうっすらと目を開く…が、思わず再び目を瞑ってしまう。  
(やっ!嫌ーーっ!!せ…先生ってばっ…ま、また大きくなってるしー…!)  
と思うや否や、がしっと肩を掴まれ上体を起こされる。  
「せ、先生っ、痛いっ!!」  
「……」  
(!…う、うわ、余裕の無い顔になってる〜…目がマジだ…)  
「んんっ!」  
さっきとは全然違う攻撃的なキス。舌を奥へ奥へと捻じ込んでくる。  
もっと内へ入って行きたいという欲望を持て余し、焦りさえも感じさせる切羽詰った動きであった。  
彩佳の頭越しにゆきと目が合うと乱暴な口付けを止め、いつもよりも低い声でつぶやく。  
「……ねぇ…芦田先生、いつになったら交代してくれる?」  
まるで怒っているかの様な表情であったが、怯まずゆきはこう返す。  
「その芦田先生って呼び方やめてもらえます?」  
「じゃ、ゆきさん…早く代わってよ…。」  
「でも、ほんのさっき…ふふっ、先生って思っていたよりずっと元気なんですね。良かった。  
 私の分も力残しておいてくれるなら、どうぞ。」  
「…まぁいいや。何とかするよ。」  
 
ゆきは楔を抜いて彩佳を開放すると、中に溜まっていた雫が滴り落ち畳にまた滲みを作る。  
コトーは自由を得た彩佳を力一杯に抱きしめる。これは自分のものだ、と言わんばかりに。  
そして、そのまま畳に押し倒す。  
「…や…やだ先生…何か怖い…」  
怯えた表情で訴える彩佳を見て一瞬我に返ると、頬に手を添え言った。  
「……ごめん、今、結構キてるから…優しく出来ないかもしれない…。」  
いつもの困ったような笑顔が一瞬だが垣間見えた。  
(大丈夫、この人は私を傷付けはしない。もしそうなっても構わない…多分…)  
「…私は…平気ですから…来てください…。」  
と、弱々しくはあるが、笑顔で迎えようとする。  
「…ありがとう…」  
コトーは小声でそういうと、唇を重ねた。  
こんな自分を受け入れてくれる…、と普段は意識する事の無い幸福感を覚え、  
またその一方で彼女を貪り尽くしたいと欲望を抱えながら…。  
そして両胸を鷲掴みにすると激しく揉みしだく。確かに普段よりは荒々しく、時には痛みも伴う愛撫であったが、  
よく知っているこの大きな掌、その感触だけでも彩佳には嬉しく思えた。  
その手は胸を離れ下半身へと向かい滑り降りていく。  
 
そのままコトーは彩佳の腰をぐっと持ち上げ、自分の膝の上に乗せた。  
「きゃっ!?」  
突然の事に面食らっている彩佳の脚を掴むと一気に広げる。  
隠すことも逃げることも出来ないまま、秘所をコトーのすぐ目の前に晒す体勢になる。  
「や…やだ…こ、こんな格好っ…ああぁっ!」  
反論する時間も与えず二本の指が入ってくる。  
「こんな真っ赤にしちゃって…まだすごく濡れてるし…。  
 酷いよ、あんなモノでよがっちゃって。そんなに良かったの?」  
わざと水音を立てるように掻き混ぜる。  
「やあっ…違…んんっ…」  
「…凄い……どんどん溢れてきてるよ…。まだ足りなかったんだ…。欲しいの?」  
真っ赤になりながら無言で彩佳は肯く。  
「じゃ、ちょっと待ってて。さっきのバイブ、拾ってくるから。」  
「いっ…嫌っ、そんなの…要らないっ……!!」  
ハッとし叫ぶ彩佳を見て、コトーは意地の悪そうな笑顔を浮かべて問いかけた。  
「じゃ、何が欲しいの?」  
 
赤い顔を更に真っ赤にし、ボソッと呟く。  
「…先生のが…」  
「ん?何?よく聞こえないよ?」  
「…先生のォ…」  
「えー?僕のなーにー?」  
ニヤニヤして顔を覗き込んでくるコトー。  
(……この人、絶対に楽しんでる…。)  
何だか悔しい。思わず目の前でニヤついているコトーを睨みつける。  
奥歯を噛み締め意を決すると、半ば自棄になっているかのように怒鳴りつけた。  
「先生のおちんちんが欲しいんです!それじゃなきゃ嫌なの!!」  
思わぬ反撃に驚き一瞬固まるコトー。  
(…恥かしい……先生もきっと呆れてる…)  
ギュッと目を瞑り、泣き出しそうになるのを必死に堪える彩佳だったが、その頭を優しく撫でる感触に思わず目を開ける  
「…はい、よくできました。もうちょっと苛めようかと思ったんだけど、僕の負けだね。」  
(…よかった…いつも通りの優しい先生だ…)  
「でも本当にハッキリ言ってくれるとは思わなかったなぁ。びっくりしたよー。  
 いやー、ホントまさかねー。今まで言わせようとしても絶対言ってくれなかったもんねー。んーー何か感激ー♪」  
「…もうそれ以上言わないでください!!」  
(…前言撤回!いつもの意地悪な先生だ!)  
「でもさっき言ってたのは本当?僕でいいの?」  
「…先生じゃなきゃダメ、って言ってるじゃないですか…何度も言わせないでくださいっ!」  
「そう……ありがとう…嬉しいよ…。」  
相手の気持ちをわかっていても何度も確認してしまう。どうしようもない習性だよな、とちょっと自嘲する。  
 
「…じゃあ、行くね…ほら…ちゃんと入っていくところ、見てて…」  
彩佳の脚を掴み持ち上げると自分の肩に足をかけさせる。わざわざ結合部がよく見えるような体勢にさせていたのだ。  
その光景から目を逸らすことも出来る。それでも、彩佳は凝視してしまう…熱い塊が、自分の中に入ってくるその様を。  
「くっ…」  
内壁がコトーを締め付ける。その抵抗を前に一気に突き入れたい衝動に駆られたが、それでも堪えて少しずつ腰を沈めていく。  
「あ…んっ…」  
中へと進んで行くと共に顔を歪ませる、彩佳の表情の変化を見ているだけでも興奮してしまう。  
「…まだちょっとしか入ってないのに、そんなに感じるの?そんなイヤらしい顔しちゃって。」  
「やっ…やだ…そんな事…言わな…いで………んあっ…焦らしちゃ…や………」  
口を押さえて声が漏れるのを必死で堪えていたが、その努力も虚しかった。次第に嬌声は大きくなっていく。  
「ほら、まだまだ奥まで入ってくよ…」  
「やあっ…あっ、あっ、らめ…せんせっ…あっあっ!あああーーっっ!!」  
一番奥まで到達し、一際強く締め付けた…と思った次の瞬間にはその力もすっかり弱まっていた。彩佳はぐったりとして肩で息をしている。 
「あ…ひょっとして、今、入れただけでイっちゃった?」  
すっかり潤んでしまった目でコトーを見上げる彩佳。  
「…あ……私……」  
「もうこれ以上は…辛いかな?」  
繋がったままでコトーは問いかける。確かに。  
散々ゆきに玩ばれた直後なので疲労困憊、といったところなのだが、彩佳はこのまま終わらせたくはなかった。 
 
「…先生…私、大丈夫ですから、そのまま…続けてください……先生も…ね…?」  
「…うん…」  
彩佳が自分を気遣ってくれていることはすぐ判った。  
しかし、正直コトーにしてもこのまま終わらせるなんて、もう不可能であった。  
結局その言葉に甘える形となり、無言で腰を動かし始める。  
今のが何度目の絶頂であったのだろうか、彩佳にはそれさえもわからない。それでも更に求めてしまう。  
一体自分はどうしてしまったのだろうか?しかし、そんなことを考えていられたのもほんの一瞬。  
コトーは彩佳を労わる様な事を言っておきながら、的確に弱いところばかりを刺激してくる。  
「やぁっ、ダメっ…そこ……も…もっとゆっくり……」  
コトーを包み込む内壁はまた締め付ける力を増す。  
「ごめん、無理。星野さんの中、気持ちよすぎるんだもん。もう止めらんないよ。」  
「ああっ、もう…ダメっ…また…またイっ…ちゃう…あっ!あっ!!…いっ…うううぅうぅ!!!」  
彩佳は絶叫し、大きく背を仰け反らせる。  
「あ、あれ?大丈夫?星野さーん…。」  
荒い呼吸が聞こえるだけで、返事が無い。どうやらあのまま気を失ってしまったようだ。  
「うーん、これじゃこれ以上は無理だよなぁ…よっこいしょっと。」  
彩佳を抱え上げると、布団の上に横たわらせる。  
「ごめんね、無理させちゃって…お休み…」  
やっと呼吸も整いすっかり寝息を立てている彩佳を、優しく見つめながら頭を撫でる。  
 
 
何か忘れているような…いや、忘れているわけではないのだが。  
どうしたものか、などと思っていたのも束の間、立ち上がりこちらに歩み寄ってくる気配に気付く。  
ちゃんと彼女の相手をする余裕は残っているし、寧ろ収まりが付かない状態なのだが…。  
「お願いです、先生…私…。」  
しかし、自分でOKしてしまっていたとは言え、いざと冷静になると罪悪感が生まれてくる。  
ゆきを受け入れざるを得なかった彩佳と、その場の流れでゆきを抱こうとしている自分では罪の重さが違う。  
(……僕、一体何してるんだろう…?)と寝顔を見つめつつ考え込んでしまう。  
コトーが振り返るよりも早く、自分の背後で囁くゆきの声。  
「先生、何…考えてるんですか?」  
「え?」  
「……無茶なお願いだってのは判ってるんです……こんな形で星野さんまで巻き込んじゃって…。  
でも…こうでもしなきゃ諦められないんです。ごめんなさい…でもお願いです…」  
消え入るようなか細い声で訴え背中にすがり付く。  
「そこまで望むのなら…」、「これ以上女の人に恥をかかせてはいけない」等と、ありがちな言い訳の数々が脳裏をよぎる。  
それらを無理矢理こじ付け、自分の行為を何とかして正当化しようとする。  
コトーは彩佳の頬を再び撫でると、軽く深呼吸して意を決する。  
「……ごめんね星野さん。もう絶対こんな事しないから…今回だけは目を瞑って…。」  
その声は届いてはいない事は分かっていたが、そう言わずにはいられなかった。  
そしてコトーは振り返り、彩佳に背を向けた。  
 
「…あ…もうちょっと、そっちの方に行かない?」  
と、部屋の奥のほうを指す。大して広くも無い部屋だが、彩佳から少しでも離れたい。  
やはり視界に入ってこられると良心が痛むのだ。流石に寝ている人の真横は、とゆきも同意し二人は移動する。  
改めて向き合う二人。不安げに見上げ、少しためらいがちに距離を縮めていくゆき。  
「…私……」  
「うん、わかってる。いいよ…おいで。」  
その態度はついさっきまで彩佳を攻め立てていたときのものとは全く違う。  
女の人ってわからないなぁ…とそのギャップに少々混乱していたが、そのままゆきを抱きとめた。  
…実際、コトーは自覚している以上に女を理解していない。  
何しろ今のゆきの言動や表情に多少の演技が入っていることに全く気付いていなかったのだ。  
いや、演技抜きにしても相手によって態度が変わるのは程度はあれど普通のことであろう。  
自分の惚れた相手なのだから。それがわからないとは、純粋と言うか鈍いと言うべきか。  
「…少し屈んでください……届かない・・・…」  
「あ、うん」  
ゆきはやっと届く位置に来た首に腕を回すと、ギュッとしがみつき頬擦りをする。  
「なんだか夢みたい。先生とこんな事してるなんて。」  
クスクスと笑いながら、正面に回り上目遣いで言う。  
「ね、先生。キスしちゃってもいいですか?」  
「ん、どうぞ…」  
そっとゆきは唇を重ねる。こんなことは最初で最後であろう…それでも、やはり嬉しい。  
今は、今だけはこの人を独り占めすることが出来る。少しでも記憶に刻もうとその感触を味わっていた。  
 
そんな状況下で、コトーは腹に当たる異物の感触が気になってどうしようもなかった。  
「えーっと…それと…一つ訊くけど、僕もソレで掘られなきゃいけないの?」  
ゆきの股間にそびえ立つモノを指差し不安そうに尋ねるコトー。  
「え?あ、お望みでしたらそれでもいいですけど…。」  
そう言いながら背後に手を回し、つつ、と下へと滑らせ臀部へとたどり着く。  
「うわっ!やっ、やだっ、やめっ!!んっ!!」  
かなり動揺しながらも必死で尻の筋肉に力を込め、指がそれ以上進入してこないように抵抗する。  
「やだぁー、先生かわいー♪」  
「いっ、いやいやいや!そーじゃなくて!!…それだけは勘弁して欲しいなー、って…」  
「えー、そーですか?残念ー。これで先生の『初めてのヒト』になれたのになぁー。  
 世界が広がりますよ?それに前立腺ちょっと試してみたかったんですけどね……。あ、冗談ですから。」  
きっぱり否定してはいるが、結構本音が入っているであろう事は明瞭であった。  
(…うわぁー、絶対この人的確に前立腺攻めてくるんだろうなぁ…。っていうか広がるのは別の所じゃん…)  
貞操の危機が去りホッとしつつも、ちょっと複雑な気分になった。  
「…じゃ、じゃあ、そんな物騒なモノ早く外しちゃってよ。」  
すっかり警戒しまった様子で、少々後退して背後を守りに入る。  
「大丈夫ですよ、もうー。わかりましたから。少しだけ目を瞑っていてもらえますか?…恥かしいから。」  
「え?あ、いいけど…。」  
コトーは言われるがままに目を閉じる。  
 
恐らく今聞こえているのはブラジャーを外し、畳に落とした音。  
続く金属音はおそらく金具を外している音。ほっとした次の瞬間、聞こえてきた水音に、思わず目を開いてしまった。  
どうやらゆきが装着していたペニスバンドは、外側だけではなく内側にもディルドが付いているタイプのものらしく、  
丁度それを抜いている最中だったようだ。  
「あ…やだ、先生…見ないでって言ったじゃないですか…」  
「う、うわっ、ごめんっ!!」  
この状況で、何故か今更のように恥らい慌てふためくコトー。  
「……他人がセックスしてるのなんて初めて間近で見てたから興奮しちゃいましたよ。」  
やっぱり見られてたんだ、と思うとかなり恥かしいが、それもお互い様。  
ゆきはコトーの手をとると、自分の秘所へと導く。  
「…ね、先生…触ってみて…。もうこんなになってるんですよ、私。」  
そっと指を這わせるだけでそこが十分過ぎるほどに濡れぼそっているのがわかる。  
「ずっと…ずっと我慢してきたんですから…もう限界…これ以上我慢できない…」  
どうやらこれ以上の我慢が出来なくなっていたのはお互い同じだったようで……。  
指に伝わる水気と熱気が、コトーの自制心を吹き飛ばした。そのまま奥へと指を滑り込ませる。  
「あぁんっ!先生…そんないきなりっ?!」  
「あれ?嫌だった?」  
「ううん、…もっと…してください…んんっ」  
次第にゆきのひざに力が入らなくなっていくのがわかった。コトーはその体を支えながらキスをする。  
侵入してくる指と舌の感触に酔いしれるゆき。一旦体を離すと艶っぽい笑みを見せながらこう言った。  
「先生からって…初めてでしたよね…。」  
 
その言葉で、すっかりゆきのペースに乗せられていると気が付いたのだが、もはやそんな事はどうでもよかった。  
「確かにそうだね。でもこんな誘い方されたら、我慢なんかできないと思うよ、普通。誘ったのは自分なんだから覚悟はしといてね。」  
「もちろんです、最初っからそのつもりですから。我慢なんかしなくていいんですよ。だから、このまま続けてください…。」  
「ではご期待に添えるかわかりませんが、このまま続けさせていただきます。」  
そう言うと指で膣内に更に刺激を与える。  
 
かつて、コトーが施術する様を何度か見た事がある。神技とも言えるその技術。羨望と…少しの嫉妬を覚えた。  
いつしか自分も手に入れたい、と目指しているものだった。  
一方で…不謹慎極まりない話だが「この手、そっち方面でもいい仕事するんだろうなぁ」と思っていた。そしてその予想は的中した。  
 
しかし、快感が高まっていくにつれて、やはり指だけでは物足りなくなってきていた。  
「先生…指だけじゃ…イヤです……。」  
「え?じゃーこのまま止めちゃうよ。それでもいいの?」  
「…それはもっとイヤです…」  
「だったらそーゆー事言わない。」  
「あ…先生…そこ…そこぉ…もっと、もっと擦ってェ……!」  
しがみつくゆきの腕に力がこもる。  
「やあっ…も、もうイっちゃ…う…?凄っ…イイ…イイのぉっ!…もうダメ…あっ…あーーーーッ!!」  
あっという間の事であった。  
脱力してしまったゆきはコトーの胸に凭れかかりながら、自分の目に狂いの無かった事にほくそ笑んだ。  
 
コトーは思った以上にゆきが大きな声を上げていることに気付き、恐る恐る彩佳の様子を遠目で覗う。  
日頃の疲れもあってかそのまま眠っているようであったが、眉をしかめているところを見るとやはり寝苦しいらしい。  
耳を澄ますと軽くうなされているのがわかる。これでは目を覚ましてしまうのは時間の問題。  
一度は腹をくくったつもりでいたが、やはり最愛の人を裏切ってしまうのは気が引ける…と言うよりも正直、怖い。  
罵られたり殴られたりするのはいい。ただ何よりも、彼女を泣かせてしまうかもしれないという事が怖いのだ。  
同じところを何度も行ったり来たりを繰り返すこの優柔不断さは、やはりヘタレといったところか。  
 
(…1回イカせておけばそれで満足して……くれちゃいないんだろーなー。でもさすがに最後まではマズイよな…。)  
「今度は私の番ですね…」  
「え…あーー…なんていうか…ホントにヤっちゃうの?」  
「だって…先生もそのままじゃ辛くないですか?」  
そう言ってゆきはコトーの下半身に目を遣る。  
「……」  
どうも頭と体はそう簡単に連動するわけではないらしい。恥かしいやら情けないやら、自己嫌悪。  
 
「あ、ちょっとまって、取って来なきゃ…」  
と、部屋の隅にある箪笥に向かい立ち上がろうとするコトーの腕にしがみつき無理矢理座らせる。  
「私低用量ピル飲んでますから、必要ないですよ。」  
「え、でも…」  
「病気持ってないのは検査で証明済みですから心配ないです。忘れた頃に子連れで現れて『認知して』なんて言うと思ってます?  
 これでも医者の端くれ、命を玩ぶような真似なんかしませんよ。」  
胸を張って堂々と言い放つ。 これまで散々コトーと彩佳の体を玩んでいた事はまた別の問題らしい。  
 
「先生、横になって…。後は私に任せてください。ここからは全部私の責任。先生が罪悪感を感じる必要なんて無いんですよ…。」  
「ち、ちょっとまっ…うわっ!!」  
ゆきに武術の心得でもあったのか、はたまたコトーがトロかっただけなのか、いとも簡単に押し倒されマウントを取られてしまっていた。  
 
「もう!!どうしてまたいい様にされてるんですか!!」  
声の主は最悪のタイミングで目を覚まし、腹這いになったまま涙目で睨みつける彩佳だった  
「……ゆきさん、今度こそちゃんと説明してくださいよ・・・…」  
「あれ…星野さん、起きてたんですか?」  
「この状況でぐっすりなんか寝てられないです!途中で目も覚めますよ!」  
「あーそれは悪いことしちゃいましたねー、んーごめんごめん。」  
と、ゆきは本当に謝っているのかわからない様な謝り方で返す。それが更に彩佳の神経を逆撫でする。  
「…酷い…先生には手を出さないって…!」  
「だって、途中で星野さんダウンしちゃうんですもん。」  
「とにかく!一体どういうつもりなんですか!?ちゃんと説明してって言ってるじゃないですか!!」。  
「わかりましたよ。ちゃんと説明するから、こっちにきてください。」  
と手招きするゆきに渋々傍らまで体を引き摺っていく彩佳。  
「ほら、ちゃんと面向かって話しましょ。よっこいしょ。」  
「は…?…きゃっ!!」  
突然ゆきに抱きしめられたかと思うと、そのまま一緒にコトーの腹の上に乗せられてしまう彩佳。  
「これでちゃんと話が出来るわね。」  
(いや、敢えてこんなロケーションじゃなくても…。)  
二人は思ったが、やはりゆきはそんな事はお構い無し。  
 
「どこまで聞いていたかわかんないから、端折って説明するけど。これを見て。」  
「……?」  
彩佳は目の前に出されたゆきの手を凝視するが、特に目に付くものは無く怪訝そうな顔をしている。  
「あ、婚約指輪はテーブルの上に置いといたんだっけ。・・・まぁ、そういうわけ。来春に私、結婚するの。」  
「え!あ・・・お・・・おめでとうございます!!」  
突然の事に驚いたが、祝福の言葉をかけると、思わず笑みがこぼれてくる。  
もちろんライバルがいなくなる、等と言うこととは関係無しに。  
しばし和やかなムードが漂うが、ふと今の状況を思い出す彩佳。  
「それはそうと、何で今こんな事になってるんですか・・・?」  
「思い出作りというか・・・先生への未練を断ち切りたくって。思い残す事は無い状態にしておきたかったの。」  
「……。」  
「納得は出来ないかもしれないけど、結婚祝いって事で勘弁してくださいよ。もう金輪際お二人の邪魔はしませんから。」  
幸せおすそ分け、ってことで一緒に気持ち良くしてもらいましょうよ。ね、先生?」  
「へ?」  
唐突に振られて慌てふためくコトー。  
 

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