…古志木島地方は台風○号の影響により海上は大時化となり…
朝までの総雨量は×ミリを超えるものとなるでしょう…
「こんな夜は、急患出ないといいですね…」
カルテを整理しながら、彩佳がつぶやいた。
「ん?あぁ。」
コトーは上の空で返事をする。
その実、カルテを整理する、彩佳の後ろ姿から目が離れない。
どうしたもんか。この気分は。
今すぐ抱きしめて…それから…
と、思ったときには体は勝手に動いていた。
「きゃっ!」
ナース姿の彩佳を、後ろから抱きしめる。
「こんな夜は、彩佳さんも帰るのが大変そうだね」
耳元で囁いた。
「先生! せめてカルテの整理が終わるまで、待ってください」
と言いながらも彩佳もまんざらではなさそうだ。
「だってもう止まらないんだもん。嵐のせいかな?なんかおかしいんだ」
そう言いながら、コトーの唇は首筋をなぞり、手は胸元をまさぐり、
そしてすでにある程度の硬度がある下半身を、彩佳に押し付けた。
カルテの束が床に舞い散る。
今すぐ、今すぐ彩佳がほしい。
そんな焦る気持ちを自制するのもやっとだ。
「どうしたんですか?おかしいですよ!」と言いながらも、
コトーの性急な愛撫を受け入れてしまう彩佳。
すでにナース服のボタンははずされ、下着はまくりあげられている。
あっという間にコトーの右手は彩佳の素肌に触れていた。
人さし指と中指で、その胸の突起をそっとつまむと、彩佳の口から吐息が漏れる。
もっと強く、めちゃくちゃにしてしまおうか。
彩佳の声を聴いていると、そんな衝動に駆られてしまう。
コトーの大きな手ですら持て余してしまう、その豊満なふたつの乳房をわしづかみにしてみる。
強く、強くもみ、そして時折、そっと突起をつまむ。
彩佳はもう、抵抗するそぶりすら見せず、その愛撫にただ感じるだけだ。
胸元への愛撫を続けながらも、右手はさらに彩佳の下半身へと向かっていく。
スカートをまくりあげ、ストッキングの上から太もも、そして中心部へと手が動く。
しかし、すでにほんのりと湿り気を帯びたそこを彩佳は恥じているのか、脚を開こうとしない。
「もうここまで来たんだから。諦めの悪い子だね」
耳元で囁きながら、うなじへと舌を這わす。
その快楽に気を取られて、力が抜けた隙を狙って、コトーは手を滑り込ませた。
「先生!コトー先生いるか?!」
嵐の音にまぎれて、診療所のドアを叩く音がする。
その音に気付くと、コトーは一瞬にして「雄」から「医者」の顔に戻った。
「続きはまた後でね」
そう彩佳に囁くと、髪1本の乱れすらないコトーは、身を翻し、玄関へと向かった。
「狡い…」
彩佳も慌てて乱れた服と髪を直し、床に散らばったカルテを片づける。
「あ、原さん。タケヒロくん、どうしました?」
「雨戸を補強してたら折れた木が飛んできてな。腕を切っちまったみたいなんだ」
「ほかにぶつかったところとかはないですか?」
ほんの数分前まで彩佳に欲情していたとは思えない。
彩佳は、半ば睨むような眼でコトーの診察を見つめていた。
「ん?星野、どうした?顔赤いぞ。風邪か?熱でもあるんじゃないか?」
「え?! …い、いや、別に。元気ですよ」
「…そうか?」
気付いたか気付いていないのか、原が尋ねた。
処置が一段落したコトーが側でニヤニヤしている。
…許さない。絶対許さない。
身体の奥の火照りが静まらない彩佳は、反撃を心に誓う。
「もう大丈夫ですよ。一応、また明日消毒に来てくださいね」
原親子が帰り、再び静まる診療所。
彩佳は、台風にも負けない荒れ方でコトーに反撃を開始したのだった。