この幸せはいつまで続くのだろう…  
 
コトーの広い胸の中で、彩佳は思う。  
抱かれているときも、余韻に浸っている今も、  
昼間の診療時間にも。その不安はいつもつきまとう。  
 
いつかは東京に、大学病院に帰ってしまうのではないか。  
 
こうして体を重ねるようになって、離れることへの不安は彩佳の中で一層大きくなった。  
 
眠っているコトーを起こさないよう、腹部を大きく縦に割る傷にそっと触れる。  
コトー自らの手でオペをした、その傷跡。  
島の人の血が流れている、その証しでもある傷跡。  
いつしか彩佳は不安になったとき、最愛の人のこの傷に触れて安心感を得るようになっていた。  
 
「どうしたの?」  
いつ目を覚ましたのか、コトーは彩佳のその行為をじっと見つめていた。  
「先生が…先生がいつかいなくなっちゃうような気がして…」  
大きな掌が、彩佳の髪をそっとなでる。大切なものを、いとおしいものを扱うようにそっと。  
唇が、額にやさしく触れる。  
そして、まるで赤子を抱くように温かく、でも強く抱きしめる。  
「大丈夫。僕はここにいる」  
コトーの大きな体に包まれ、心地よさに彩佳はひとときの安堵を得る。  
 
「先生…」  
コトーを見つめる彩佳の大きな瞳が潤む。  
その瞳が、コトーは愛しくてたまらない。  
無意識のうちに、コトーは彩佳の唇にキスを落としていた。  
最初はそっと触れるだけ。  
額、鼻の頭、頬。そして再び唇に触れるときには、彩佳もコトーの唇を、強く求めていた。  
 
とろけるような長いキス。  
もう止まらない。  
耳、首すじ、そしてまた唇。  
コトーのキスはどこに触れれば吐息が漏れるかをすべて知り尽くしているかのように的確に、  
彩佳の体を巡っていく。  
大きな掌も髪に触れ、耳に触れる。  
その熱さと心地よさに彩佳は体の芯が熱を帯びてくるのを感じた。  
 
いつまで、なんて考えていられない。今この瞬間の熱さをもっと感じたい。  
 
されるがままになっていた彩佳もコトーの首に両手をまわした。  
それを合図にするかのように、コトーの掌が彩佳の胸に触れる。  
すでにその存在を主張している乳房の中央に、コトーの指が触れたとき、彩佳は深い吐息を漏らす。  
そしてそれまでそこを避けるようにしていた唇が、もう耐えきれない、  
というように1度そこに触れると、狂ったかのように舌で、唇でその突起を弄ぶ。  
 
彩佳は、それまで乳房への愛撫がこんなに熱いものだとは知らなかった。  
自らの手で触れていたこともあったが、それはやはり慰みにしか過ぎない。  
愛するものからの愛撫のひとつひとつに、こんなにも簡単に吐息は漏れてしまうものなのか。  
これが愛されているというものなのか。  
自分の胸元で、まるで赤子のように自分の乳首をくわえるコトーの頭を抱きながら、  
彩佳はそう感じていた。  
 
ただその愛撫に身を任せていた彩佳の体に、新しい衝撃が走った。  
いつの間にか潤っていた彩佳の下半身に、コトーの指先がそっと触れたのだ。  
それまでの吐息とは違う、焦りにも似た声が、彩佳の口から漏れる。  
 
これ以上触れられたら、壊れてしまう。  
 
もう何度も通った道ではあるが、そこにコトーの指が触れるたび、彩佳は思う。  
そんな思いとはうらはらに、彩佳の体は反応を続け、  
その潤いはやがて絶え間なくわき出してくる泉のようになる。  
コトーの指はその泉の中をゆっくり進み、やがてその中心部に達した。  
が、まだ触れない。  
 
もうやめて。  
早く触れて。  
 
彩佳の熱くなった頭の奥でふたつの声がする。  
閉じてしまいそうになる両足と、のけぞり、触れてほしいと主張する腰。  
その彩佳の反応を楽しむかのように、触れたか触れないかの愛撫を、コトーの指は続ける。  
一方で続く胸への愛撫。  
 
コトーの愛撫は、まるで彼のオペのようだった。  
時に大胆に、時にち密に。  
彩佳の感じる部分を次々に開発していく。  
 
気付くとコトーの頭は胸元から離れ、彩佳の下半身に向かっていた。  
 
来る。  
 
その期待通り、コトーの舌が彩佳の最も感じる部分にそっと触れる。  
 
・・・!  
 
もう、声も出ない。彩佳は軽い絶頂に達した。  
 
それを知ってか知らずか、コトーは舌による刺激をやめようとはしない。  
軽く、軽く触れる。  
そして転がす。  
唇でそっとはさむ。  
彩佳の芯は、コトーに弄ばれ、熱く、熱くなっていた。  
泉はあふれ出し、涸れることを知らない。  
 
止まらない快感に、彩佳はすっかり溺れていた。  
 
気付くと、彩佳の手にコトー自身が触れていた。  
コトーはそれに気付いていたのだろうか。  
固くなったそれを、彩佳は無意識のうちに口元に運ぶ。  
それは、彩佳自身、初めての行為だった。  
ただ、コトーのすべてが愛しく思う。それだけだった。  
先端に、彩佳の唇が触れる。  
コトーの動きが一瞬止まり、軽いうめきが聞こえた。  
 
その声をもっと。  
 
彩佳はその一心で、コトーへの愛撫を始めた。  
先端にもう一度、唇を軽く触れる。  
そして根元までキスを降らせる。  
舌で触れてみる。  
恐る恐るくわえてみる。  
 
そのたびにコトーの口からはため息がもれ、愛撫が止まる。  
 
もっと、もっと。  
もっと声を聴かせて。  
 
彩佳の一心不乱の愛撫に、コトー自身は硬さを増す。  
その行為に、彩佳もさらに感じていた。  
 
もう耐えられない。  
 
どちらからともなく、二人は愛撫を止める。  
体を起こし、向き合い、見つめあう。  
そしてキス。  
お互いを味わうような、長いキス。  
 
座ったままのコトーは彩佳を抱き上げると、彩佳の中に自身を埋めた。  
 
熱い。  
 
しばらくその感覚を味わうふたり。  
足りなかったものが、やっと手に入ったような、満たされた感覚。  
 
繋がっている。  
もう離れられない。  
 
再び見つめあい、キスを交わす。  
 
どちらからともなく、腰が動き始める。  
お互いが、一番感じる場所を求めて動く。  
 
コトーがある一点をついた瞬間、彩佳の体はのけ反る。  
そこを攻め続ける。  
 
だめ。もうだめ。  
 
彩佳は吐息で反応するが、コトーは動きを止めない。  
 
あぁ!  
 
彩佳は体を張り、さらにピンとのけ反った。  
意識が白くなる。  
 
 
どのくらい、失っていたのだろう。  
繋がったまま、コトーに抱きしめられ、彩佳は意識を取り戻す。  
 
「大丈夫?」  
とコトーは彩佳の体をそっと横たえると、その言葉とは逆に、再び動き始めた。  
「僕も、もうだめだ」  
コトーが彩佳の中で激しく動き、さらに強い熱さを感じると、  
彩佳は再び絶頂に達した。  
同時に、コトーも達した。  
 
 
体の奥に残る、熱い余韻に浸りながら、彩佳はコトーの腕の中で朦朧としていた。  
 
「僕はどこにも行かないよ。君とふたりで、ずっとこの島を守りたい。」  
 
夢だろうか。  
 
彩佳は耳元で囁くコトーの言葉に安堵しながら、深い眠りに落ちていった。  
 
 
 

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