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あの日から2週間。すっかり暑くなり、コトー先生は相変わらず夏バテしています。  
・・・私は、結局あの後に、無事生理も来てホっとしたような残念なような複雑な心境でした。  
季節柄、サンゴで手を切った観光客や子供たち、食べ過ぎたり飲み過ぎたりして  
胃腸を悪くした患者さん、夏風邪をひいた患者さんで毎日のように診療所は賑わっていました。  
 
『僕も君のことが好きだよ』  
先生の言葉を時々思い出すと、なんかちょっとくすぐったい・・・・  
今でも信じられないんです。でも、確かにあれは夢じゃなかったから。  
でも、あれから先生は私にキスすらしてきません。まあ、忙しい毎日だったから当然といえば  
当然なんですが・・・ちょっと物足りないなあ、なんて思ってしまうんです。  
 
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診療所の仕事は23時過ぎに終わった。あれほど慌ただしかった一日も、この時間になれば  
日中の喧騒が一気に夜の静寂に変わる。この島は夜が早いなと改めて気付かされてしまう。  
彩佳は私服に着替え、コトーのいる診察室に「お疲れさま」の挨拶をしに部屋に入る。  
 
コトーは何故かちょっと怪訝そうな表情で、彩佳をじぃーっと見ている。  
「ねえ、星野さん。いーっつも、夏ってその格好でこの時間に帰るんだよね?」  
「はい、そうですけど?」  
 
今日の彩佳の服装は、夏らしいレモンイエローのワンピース。  
しかし、肩と胸元が大きく開いていて、わりと目のやり場に困るタイプのもの。  
コトーは、あんなことが起こるまではたいして気にもとめていなくて、普通に夏らしいと  
思っていたのだが・・・どうも、あれから調子は狂いっぱなしである。  
 
今の季節は観光客が少なからずとも訪れている。サーフィンやボディーボード等を  
目的に訪れている本土からの観光客はたいてい彩佳と同じくらいの年代の男性たち。  
やれ花火で火傷しただの、何かと理由をつけて彩佳に会いに来てる連中が今年も  
少なからずいるのだ。以前、自分の軽はずみな発言で彩佳にナンパの誘いを  
勧める形で事故を起こしてしまったことがある。  
あの時、彼女を生死の境に追い込んでしまったのは間違いなく自分だった。  
幸い、彼女はナンパのかわし方は上手いので、別に何もおこってないのだが・・・  
 
『星野さん、可愛いからなぁ・・・それに、わりとのん気だしなあ・・・』  
きょとん、とした表情で彩佳はコトーの顏をのぞき込む。  
「どうしたんですか?」  
 
「あ、いやいや。何でもない。今日は遅くなっちゃったからね。家まで送るね。  
女の子の夜道はやっぱりあぶないから!」  
なんか自分らしくない振る舞い。いつもなら「うん、お疲れー」で済んでいたのに。  
 
コトーは最初、車で送ろうとしたが、二人で外に出てみると綺麗な満月が診療所の前の海に、  
綺麗な月の道を描いていた。  
外は月明かりがふわりと包み込んでいるような優しい明るさ。  
なんとなく、このまま車で送るのは勿体ない気がする。ゆっくりと歩きたい。  
それは彩佳も同じ気持ちだった。  
 
「先生、散歩がてら海岸の方にでも行きますか?」  
「うん、そうだね。それにしても、綺麗な満月だね、星野さん。」  
 
観光客のサーファー達も、地元の人たちも誰もいない砂浜に二人は降り立った。  
波の音と月灯と二人の足音が聞こえる音の全てだった。  
不思議な気持ち・・・やっと二人きりになれた嬉しさで、つい彩佳がコトーの白衣の  
裾を掴んで来た。コトーは、それに気付くとほんの少し照れくさそうな表情を見せた。  
 
すると、コトーは彩佳の肩を抱き、自分の方に引き寄せた。  
思いもしなかったコトーの行動に、彩佳は驚いたが、すぐにその理由がわかった。  
二人だけの静寂を破る、人の声が徐々に近づいてきたのだ。  
正直、良い雰囲気だったのにと彩佳はがっかりしたが、とりあえず様子を伺うことにした。  
 
遠くの方から、数人の観光客らしき若い男達が話をしながら、診療所の前の道を横切って  
いくのが見える。日焼けした彩佳と同じくらいの年齢の男性が数人、談笑しながら歩いて  
いる。おそらく、酒でも飲んだ帰りなのだろう。  
 
酒が入っているのではおそらく絡まれるだろうと、コトーはそのまま岩陰に彩佳の肩を  
抱いたまま身を隠した。  
幸い、気付かれることなく観光客たちは民宿のある方へと向かっていった。  
 
「・・・星野さん、そのカッコは・・・ちょっとマズいと思うよ・・・特にこんな時間じゃ・・・」  
コトーは、こっそり耳打ちする。  
しかし、いつもこれが夏の普段着同然の彩佳は何で耳打ちされるのかがわかっていない。  
「えっ、どうしてですか。別にいつもどおりだと思うし、今日はたまたま遅くなっただけだし・・・」  
コトーは、彩佳の胸元にチラリと目をやると、真っ赤になって、慌てて目を反らしてしまった。  
「・・・なんていうんだろう・・・その・・・。けっこう、露出度高いよねぇ・・・それ・・・  
なんていうか、僕としても、目のやり場に困る・・・」  
さらに、月光に照らされている彩佳の表情も、姿も妙になまめかしく見えてしまう。  
 
そういうことだったのかと、彩佳が気がつくと、急に身体の中から沸騰するかの如く  
恥ずかしい気持ちが襲ってきた。まさか、コトーがそんなことを言ってくるとは思わなかったからだ。  
いくら身体の関係を持ったとはいえ、あれから2週間。お互いの気持ちを知っても、別に付きあっているわけでもなく  
恋人同士になったわけでもない。少し、物足りなさを感じていただけの、忙しい  
毎日だった。コトーも特に自分に接する態度は普段と変わりなかったし、自分も  
普段どおり過ごしてきたのだから。そんなことに意識されてることに気付き、急に恥ずかしくなった。  
 
「もう、先生ってさっきからそういう目で見てたんですか、エッチー!!」  
彩佳は真っ赤になって怒りつつも。少し汗ばんだコトーの手が自分の肩に触れているだけで  
あの夜のことを思い出してしまう。しかも、吐息の音さえわかるほどすぐ近くに彼がいる。  
心臓が早鐘を打っているのが自分でもよくわかる。  
 
「だって、僕だって一応男だよ・・・それに・・・この前・・・」  
コトーは、よりいっそう強く彩佳を自分の方に引き寄せる。しかも、かなり強い力で。  
力のこもっているコトーの腕から伝わる力が、心地良い。  
 
彩佳は正直に言えば、このシチュエーションが嬉しかった。やっと二人きりになれて、  
しかもコトーが自分のことを守ってくれている・・・恥ずかしいけど、女性として意識  
されているのは気分の悪いことではない。コトーの時々垣間見せる男らしい部分が  
たまらなくかっこよく思えるからだ。今も、そうである・・・  
 
『先生、やっぱりかっこいいな・・・やだ・・・変なこと考えてる、あたし・・・』  
二人きりの海岸。青白くさし込む月光。  
やはり、月の光というものは、人の中の『何か』を揺るがすのだろうか。  
 
一瞬の間をおいて、どちらともなく、二人の唇が重なった。  
2週間ぶりのキス。短くも長くもないこの微妙なインターバルのせいなのか。  
二人の身体の中に小さな火が灯るまでに、そう時間はかからなかった。  
 
少し長めのキス。唇を離した時に思わず彩佳は声を出してしまった。  
周りに誰もいない、とわかっていても。かえってその静寂さが五感の全てを鋭敏にさせる。  
 
もう一度周りを確認して、お互い照れ笑いをしつつ。二度目のキス。  
今度のキスは深く、息が出来ない程の激しいキス。息も絶え絶えになる程。  
彩佳はこのキスに弱い。それだけで溶けてしまうような錯覚すら感じるのだから。  
あの感触も、快楽もずっと身体に刻み込まれている。それを今、ここで引き出されようと  
している。だが、今回は少しそれを期待していた部分がある。  
彩佳の中で、なんとなく楽しんでみよう・・・なんて心の余裕が少し自分の中で出来ている。  
 
・・・と思ったその時。  
コトーは、首筋から肩にかけて舌を這わせていく。  
「ちょ・・・ちょっと先生!ま、まだお風呂にも入ってないのに・・・!ダメですってばぁ・・・!」  
彩佳の訴えを無視し、コトーはそのまま、大きくあいている胸元へと唇を這わせると  
すべやかで、柔らかな膨らみをきつく、強く吸った。  
 
「い、痛っ!な、何するんですか、先生!」  
コトーに問い詰めても、彼は余裕の笑顔で何も言わない。吸われた所に彩佳が目を  
やってみると、そこには赤い印が一つ。此処に、こんなものをつけるということは・・・  
 
「これでこのタイプの服は暫く着ることが出来ないね。ダメだよ。女の子なんだから、  
気をつけないと。」  
今の先生のほうがよっぽど危険人物だなんてはさすがに言えない彩佳であったが、  
あの夜の、自分を壊れ物のように扱ってくれるような触れ方とはまた違うコトーの別の顏に驚いた。  
 
「ここは目立つからね・・・暫く隠さないとね。」  
そう言うコトーはやたらに嬉しそうだ。・・・絶対、何かたくらんでいる筈。  
「あれ?不服そうだね。じゃあ、見えない所にしてあげようか?」  
 
見えない所・・・そう聞いた途端に何か、あぶない予感がした。しかも、この岩場の裏から  
動こうとしないコトー・・・まさか、ここで!?  
 
彩佳がそう思った途端、再びコトーの身体が自分に覆いかぶさってきた。  
再び唇を貪られながら、彼の右手はワンピースの上の胸へとゆっくりと下りてくる。  
左手は、ゆっくりとワンピースの肩紐を下ろしていく。  
 
「やっ・・・やだぁ、先生!此処じゃ誰かに見られますよ・・・っん・・・あっ・・・」  
片方のワンピースの肩紐が緩められ、立ったままの姿勢のまま・・・自由がきかない状態。  
前回のような、薬のせいでも、誤解をまねくようなシチュエーションではなく、良い雰囲気の  
中で、互いの気持ちを確かめあうためだったキスが・・・少しずつ、淫猥さを増してきている。  
 
すっかり汗ばんだ身体を舐められたり触れられたりするのには彩佳は抵抗があったが・・・  
心のどこかで、すごく期待している自分がいるのだ。  
コトーにまだ気付かれてはいないが、もう・・・一番感じやすい部分が既に濡れているのが  
自分でもわかる。指で直に触れられなくても、雰囲気だけで自分は感じてしまう程敏感な  
女の身体。触れることを許すのは、目の前にいるコトーにだけ・・・彼の体温や匂いが  
様々な感覚を甘美に麻痺させていく。  
 
コトーの吐息と自分の声が、今まで耳へと伝わっていた音の中に新たに加わった。  
ただそれだけで。彩佳の身体を熱く火を灯すには充分だった。既に、全てを自分の身に預け、  
陶酔し始めている彩佳の表情を見て、コトーは何かを思いついたようだ。  
 
この後、彼の独占欲の強さと、「雄《オス》」としてのコトーをたっぷりと味わうことになるのを  
彩佳はその時思ってもいなかった。  
 
コトーは、少し意地の悪そうな笑みをうかべながら、すっかり陶酔しきっている  
彩佳の耳元で囁いた。  
 
「可愛いよ」  
・・・いつものコトーの優しい声とは違う、自分だけが聞くことのできる、  
湿った低い、『男』の声。  
 
「星野さん、本当に可愛いよ・・・」  
好きな男からの称賛の一言は、何故にこれだけの淫靡な含みがあるのか。  
ただそれだけの言葉なのに自分の身体がひどく鋭敏さを増す。  
まだ、軽い愛撫とキスだけ。しかし、彩佳の秘所から溢れる蜜が止まらない。  
二度目の関係を楽しもうなんて余裕は彩佳にはもう無かった。  
少ない言葉の端々にすら翻弄される自分にそんなものが有る筈がない。  
 
薄い生地のワンピースは、肩紐は両方とも下ろされて薄い生地のブラがコトーの  
目の前に晒されている。その生地の頂点に二つ、固く起立している二つの存在が  
コトーを誘う。  
あちこちに散らされるコトーからのキスが心地よすぎる。  
 
「きゃっ!?」  
コトーは、ブラに手をかける。フロントホックを外すと、豊満な胸が外気に晒される。  
思わず、その違和感に彩佳は身震いをする。・・・その上には、先程の跡。  
この跡が残らなければ・・・などと心配したが、コトーは隙を与えずにいきなり、胸先へと  
吸いついてきた。すっかり固く尖ったそれは、コトーの舌の愛撫によってさらにつんと尖り、  
その感触を楽しむかのようにコトーは執拗なほどに舐め上げる。  
 
「いやぁ・・・んっ・・・コトーせんせ・・・ダメ・・・あっ・・・」  
つい声をあげてしまい、慌てて口を噤む。  
外ということに対しては羞恥心がある。誰かに・・・知ってる人にもし見られたりしてしまったら  
・・・しかし、その警戒心すら興奮するシチュエーションを簡単に作るのだが。  
 
コトーは、クスっと微笑《わら》う。  
「星野さん、さっきから・・・すごいね。」  
最初、彩佳はその言葉の真意が理解できなかった。しかし、コトーはつらっとした顏でこう言ってのけたのだ。  
「男を誘う匂いがするよ・・・やらしいなあ・・・。だから、夜道は気をつけてほしいんだけどね・・・」  
 
いやらしい・・・自分は本当にそんな女なんだろうか。  
もし、目の前にいるのがコトーでなくても。こんな反応をして男を悦ばせるのだろうか。  
自分にはわからない、『男を誘う匂い』。それは一体何なのだろう。  
その疑問に応えるべく、コトーは次いでスカートを捲り上げる。・・・既に蜜は、太股まで濡らしている。  
「どうして、こんなに濡れてるの?・・・何か、エッチなことでも考えてたの?」  
 
コトーはそう言うや否や、いきなり彩佳のパンティーの中へ手を滑り込ませた。  
すでに下着としての役割を果たしていないその布はぐっしょりと濡れていた。  
「・・・そんな・・・そんなんじゃ・・・ないで・・す・・・っ・・」  
精一杯言葉で抵抗している彩佳だが、あまりにもか細く、頼りない声。  
こんな声は逆にコトーを悦ばせるだけだ。  
 
焦らすこともせず、コトーの指が彩佳の最も淫らな芽に直接触れる。  
「説得力がないよ、彩佳さん・・・」  
そこは固く尖っている。周りは淫液でぐしょぐしょに濡れている。  
赤く色づいて膨らんだクリトリスを指で嬲られはじめると、  
彩佳は堰をきったように淫らな声をあげた。  
 
普段は優しくて、穏やかに患者と接している、自分が尊敬する敏腕な『医師』。  
今、ここで一人の女を濡らし、悦ばせる一人の『男』。  
どちらも、自分が惚れた、コトーの本当の姿なのだから。  
男は狡い。  
 
立ったままの姿勢で、月明りの下で。コトーの指に翻弄される。  
「砂がついちゃうよ。汚れちゃうから」  
そう言って、コトーは座らせてくれない。優しいのか、意地悪なのか・・・  
時々、腰や膝が・・・がくがくと震え、耐えきれそうになくなる。何度も、砂浜に膝をつきそうに  
なるが、そのたびにコトーが抱き起こす。  
 
指の間に透明な糸を繋ぐ愛液をわざと見せつけるかのように彩佳の前に晒し、  
それを舌で舐め取るコトーの姿はあまりにも鄙猥《ひわい》だ。  
 
既に指からの愛撫だけで何度か軽く達してしまっている。  
 
・・・多忙な中の2週間のインターバルの間。彩佳はあれだけの快楽をコトーから  
与えられ、身体の火照りは暫く治めることが出来なかった。どうしても、ふとした  
きっかけであの時の快楽が甦ってくる。時々、それは夢にまで出てきてしまった。  
そして・・・何度か自分の指で慰めた。コトーに愛される自分を想像しながら・・・  
あの夜のことを反芻しながら・・・  
 
「あの時・・・そんなに気持ちよかったの?・・・もしかして、ずっと我慢してた・・・?」  
彩佳は図星を突かれる。無言というものが、この場合は肯定を意味してしまう。  
真っ赤になって答えられない彩佳。目尻に涙がうっすら滲み出ている。  
 
『・・・ああ・・・またやっちゃった・・・』  
彼女が相手だとどうしても歯止めが効かない。つい、意地悪をしたくなる。  
自分はこんなに独占欲が強かったのかと、コトー自身が戸惑った。  
 
彩佳の目尻の涙をコトーは優しく指で拭うと、自分の腕の中に抱きしめる。  
「ごめんね・・・つい・・・」  
彩佳の頭を撫でながら、コトーは自分に言い聞かせるように心の中でこの言葉を  
繰り返していた。  
 
『・・・落ちつけ』  
 
ーー彼女を壊したい衝動にかられる。甘い声を聞きたい。善《よ》がり、乱れる姿を  
堪能したい。泣いても自分の身体の下で喘ぐ彼女の顏を見たい。  
支配欲に近いえげつない程の黒い感情が、確かに自分の中に存在する。  
所詮、自分は聖人君子ではない。只の『雄《オス》』だ・・・  
 
彼女は性行為にまだ慣れていないのに、既に自分は、手中に収めた気持ちで  
欲望を吐き出していた・・・彼女のことを考えずに・・・  
『大好き』とまで想ってくれた彼女の気持ちは二の次だった。  
・・・『男』としては失格だ。ーー  
 
コトーが悶々と罪悪感にかられていた時、彩佳がふと顏を上げた。  
少し沈みがちになっているコトーの表情に気付くと、彼の頬に手のひらを当てた。  
コトーの予想に反して、彩佳の声は穏やかだった。まるで彼の葛藤をわかっていたかのように。  
 
「・・・なんか余計なこと考えてるでしょ。コトー先生。いいんですよ・・・たしかに、  
すごく恥ずかしいけどコトー先生となら・・・もっ・・・と・・・・・・・なコト・・・・したっ・・・」  
 
彩佳は言ったはいいが、最後のあたりは照れと恥ずかしさが残ったのか、声が  
上ずり、おまけに言葉まで噛んでしまった。  
自分から、こんなことを言ってしまった恥ずかしさで、今まで充分すぎるほど紅潮していた  
頬はさらに真っ赤になった。  
 
「・・・き、聞かなかったことにしてください・・・」  
その顏を見られたくなくて、思わずコトーの胸に顏を埋めた。  
 
「え、彩佳さん、もう一度いってよ、どうしてほしいの?!」  
コトーは本当に聞き取れなかったようで、彩佳の発した言葉が気になってしょうがない。  
ただ、男にとっては嬉しい言葉ではあったはず。なんとなく、声が弾む。  
「も、もう一度だけ言って。ねえ、彩佳さん。」  
 
彩佳は顏を上げようとはしない。頑なに首を横に振っている。ついでに、コトーの脇腹を抓《つね》ってきた。  
「いだだだだ!」  
思わぬ痛みに、コトーはつい声をあげてしまった。抱きしめていた手も、その弾みで離れてしまった。  
 
予想以上のコトーのリアクションに、今度は彩佳が驚き、思わず「ごめんなさい」と  
顏を上げた。脇腹を擦るコトーを見て、しまった、と思った。彩佳が困惑していたその隙に。  
不意打ちを狙い、コトーがキスを唇に落としてきた。彩佳は、先手を取られてしまったようだ。  
 
「もう一度言って。」  
甘い、優しい声で誘うように。  
「ね。お願いだから。」  
何度も、唇、頬、おでこ、耳元にキスを落としながら。  
ダメだ。この人には勝てない。彩佳はそう思った。狡いと思っても、この人が好きでたまらない。  
意を決して、先程噛んでしまった言葉をもう一度伝えた。  
 
「コトー先生・・・」  
「どしたの?」  
「もっと・・・もっといやらしいこと、してほしいです・・・」  
「誰に?」  
コトーの表情は既ににやけている。きっと、こう言わせたかっただろう。  
「・・・コトー先生に・・・」  
 
再び堰を切ったようにコトーは彩佳の身体を求めてきた。我慢できなかったのは  
お互い様だったようで、軽いキスから始まった筈の愛撫は互いを貪るかのように激しさを増した。  
耐えきれないーー  
コトーは彩佳のパンティーを一気に引き下ろした。  
「ちょ、ちょっと・・・先生!」  
彩佳の言葉を意図的に無視するコトーは、彩佳を後ろに向かせ、大きな岩の  
壁面に手を着かせた。そして、決して膝をつかないように腰を抱えた。  
「そのままでいるんだよ。」  
 
『えっ、この姿勢で!?・・・まさか、立ったまま!!?』  
彩佳は躊躇したが、身体がいうことを効かない・・・というより、もう期待しているから  
身体がコトーに従っているのかもしれない・・・  
そして、スカートを捲り上げる。色白の、形の良い彩佳の尻が目の前に晒される。  
ワンピースの肩紐は完全に引き下ろされ、豊満な胸は露《あらわ》になっている。  
全裸より、鄙猥かもしれないその姿。  
 
「可愛いお尻だね」  
そう言いながら、彩佳の尻をゆっくり撫でると、身体の中に電気に刺激されたような感覚が走る。  
コトーがベルトを緩める音が聞こえる。彩佳が躊躇する間も無く、あまりにも  
固く、熱くなっていたコトー自身が彩佳を背後から貫いた。  
 
「やっ・・・あああーーーーーーー!!んっ・・・あああ・・!」  
自由のきかない、まるで拘束されているような錯覚にすら陥る感覚。それがさらに彩佳の  
身体の中に熱を灯す。  
月明りの中の二人は、繋がりながら淫らに動く。青白い灯の中で、まるで波が打ち寄せて  
くるかのように甘く、切ない程の快楽が身体を侵してゆく。  
「コトーせんせ・・・あっ・・・きもちいい・・・もっと・・・あっ・・・やっ・・・やだ、気持ちいいっ・・・」  
求めすがる彩佳の声に応えるかのように、コトーは摩擦をさらに強くした。可愛らしい  
お尻をくねらせ、豊満な胸は彼女が動くごとにそれにあわせて跳ねる。  
そのビジュアルは、コトーの欲情をさらに掻き立てた。  
 
繋がった部分から互いの汗と淫液が雫となって砂に落ちる。  
コトーは柔らかな彩佳の胸の感触を存分に楽しむと、右手でクリトリスを再び攻め始めた。  
「やあああんっ!」  
さらに熱を帯びた彩佳の声が静寂を切り裂く。  
「ぐしょぐしょになってるよ、彩佳さん・・・中も熱い・・・気持ちいいよ・・・」  
コトーの擦れ気味の声すら、媚薬のようになる。  
「・・・もっといやらしい声出して・・・」  
 
コトーのペニスが、彩佳の膣口の浅い部分を突いてくる。  
2週間前に、感じ過ぎて仕方なかった場所。今度は遠慮もなく、直に突かれ擦られる。  
「やっ・・・!そこは・・・!」  
「ここ、すごく気持ち良いんだよね・・・?いいよ。いっぱい気持ち良くなって、何度でも  
イって。・・・もっとやらしい姿、見せてよ。」  
 
昂ぶりを抑えきれない様子のコトーの声と、執拗なほどの摩擦が彩佳を徐々に追いつめる。  
溶けきった程潤っている、二人の繋ぎ目。  
先生の身体に溶け込んでしまいたい・・・!あまりの甘く激しい快楽に、彩佳は既に声も  
擦れはじめ、呼吸は上擦っている。もう、そろそろ限界に達する・・・二人がそう感じた時。  
 
「あっ、あああっ、コトー先生、イっちゃう!イっちゃう!ああっ、ああーーー!」  
脳天から貫かれるような強烈なオーガズムが彩佳の身体を駆け巡った。  
コトーのペニスを、キツく締めつけながら・・・彩佳は先に達してしまった。同時に、  
愛液とは違うさらりとした液体が、勢いよく噴き出て、繋ぎ目を濡らした。  
 
「・・・してるよ・・・彩佳・・・・っ!」  
 
すっかり擦れきったコトーの声が耳元で聞こえ、ほどなくして、彼も中に熱い精を放った・・・  
何度も、何度も彼女の中で、放たれる感覚がする。  
彼女の中で受け止めきれなかったものは、彩佳の脚をつたって零れ落ちた。その液体が砂を濡らした。  
間も無く、二人は心地よすぎる脱力感にほどなく支配された。  
 
 
 
あまりにも狂い哮った情事の後片づけは、反比例して間が抜けている。  
ハンカチで、濡れた部分をひととおり拭っても、まだ皮膚が突っ張る感じが抜けない。  
汗もまとわりつき・・・はっきり言えば、身体中は非常に不快。  
しかも屋外で・・・後の頃は人目なんか気にしてなかったし・・・  
彩佳は現実に引き戻されると、ものすごくとんでもないことをしてしまったのでは・・・と  
思う。  
 
一方、コトーは鼻歌混じりでかなりご機嫌だ。ベルトを締めるだけで、あっという間に元の姿。  
先程まで淫猥な雰囲気で彩佳を責めたてていた男だとはとても思えない。  
「あー、月が綺麗だなー♪」  
その暢気な一言にムカっときた彩佳は、コトーの後頭部を思いっきり叩いた。  
「この、どスケベ!先生、結局送り狼じゃないですか!おまけに、下着も、ワンピースも  
結局洗濯行きですし、これじゃ自分の家にも恥ずかしくて帰れないじゃない! 」  
 
後頭部を擦りながらも。コトーは暢気に答える。  
「じゃ、僕のところでお風呂入って行って、洗濯もして、泊まれば問題ないね。」  
ワンピースの上から、白衣を彩佳に羽織らせ、肩を抱いて診療所の方向へと導いた。  
一度、コトーが振り返り、優しい笑顔を彩佳に向けた。  
「もう・・・仕方ないなぁ・・・」  
 
そんなことを言葉で言っても、彩佳は嬉しかった。新たに分かった事があったから。  
コトーは自分を求める時、「彩佳さん」とか、「彩佳」に変わること。  
最後に、涙が出そうな程嬉しい言葉を言ってくれたこと。  
『・・・私からも、今度はちゃんと言葉に出して言わなきゃね。』  
倖せいっぱいの彩佳は、綺麗な月夜に感謝した。  
 
 
 
 
<おまけ>  
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  
怖いくらい、綺麗な月夜でした。  
そして、倖せな日でした。悔しいけど、コトー先生のことはますます好きになってしまいました。  
・・・それと、恥ずかしかったけど、すごく気持ち良くて・・・これから先どうなるのか、  
正直言って怖いくらいです・・・  
 
・・・が!アイツは!あの後もしっかり下心があったんです!  
私がお風呂に入っている途中で強引に入り込んで来て・・・・・・なことはするわ、  
一緒に寝ようって言った時も下着を洗濯してるのをいいことに、明け方まで寝かせて  
くれませんでした!・・・いろいろされたし・・・!  
やっぱり、コトー先生は変態でスケベでサイテーです!  
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