もちろんいつもの通り、自業自得だった。  
警察官のくせに商売に手を出して、それでも細々とやっていれば儲かるのだ。  
だが何せ頭のてっぺんから足の爪先まで博打根性の塊である。  
そんな両津がちまちま小金を稼ぐことで飽き足るはずもなく、稼いだ以上のカネを投じて最終的には全部スッてしまう。  
 
今回も事業の大失敗に端を発して、『アルバイト』が露見、署長の逆鱗に触れた。  
両津は一ヶ月間の最果て派出所勤務を命ぜられて葛飾の町から消すことになった。  
 
一ヶ月の勤務が終わってからが大変である。  
かなり優秀なアスリートでも戻ってくるのに数ヶ月かかってしまう辺鄙な場所に最果て派出所はある。常人なら半年近く、あるいはそれ以上かかるだろう。  
 
だが彼は両津勘吉である。彼のゴキブリなみの生命力とサバイバル能力は『かなり優秀なアスリート』の比ではない。  
一ヶ月。それが両津が必要とした時間だった。つまり行きに一ヶ月、勤務に一ヶ月、帰りに一ヶ月、合計三ヶ月の出張だったということになる。  
 
公園前派出所の入り口に近づくと女の声が聞こえてきた。時折笑い声も伝わってくる。  
「おい、帰ったぞ!」  
入り口にドーンと仁王立ち。  
 
「あっ、両ちゃん!」  
第一声を上げたのは麗子だった。  
「両様!」  
嬉しそうな麻里愛の声。  
「げっ、もう帰ってきたのか!?」  
呆れるような纏の声に続いて、  
「さすが両津さん、こんなに早くお帰りになったんですね」  
早矢が感心するように言った。  
みんなそれぞれ自分なりの言葉で両津の帰還を喜んでいるようだ。  
「ふぅーっ、とんでもない目に遭ったぜ。麗子、茶をくれ」  
自分の椅子に腰を下ろし、一息ついた。麗子が動こうとしたら既に麻里愛が奥に姿を消していた。  
「とんでもない目って自業自得だろ」  
冷ややかな三白眼を向ける纏。  
「やかましい。普通の人間なら三ヶ月はかかるところを一ヶ月で戻ってきたんだ。だいたいなんであんなところに派出所があるんだよ」  
「勘吉みたいな不良警官を飛ばすためじゃないのか」  
「ぷっ、確かに、それくらいしか使い道がないかも」  
纏の言葉に麗子が吹いた。早矢もくすくす笑っている。  
「両様、お茶が入りましたわ」  
麻里愛が盆に湯呑みを置いて奥から出てきた。  
「おっ、すまんすまん」  
 
茶をすすりながら所内を見回してみると部長はおろか中川や寺井すらいない。  
「なんだ、女だけか?」  
「部長さんも圭ちゃんも寺井君もみんな万博警備に駆り出されてるの」  
「代わりに私たちが派出所をお守りすることになったんです」  
麗子、早矢と続き、最後に嫌味たっぷりに纏が言った。  
「そうそう、誰かが抜けた穴をこうしてみんなで埋めてるんだ。休日返上でな」  
「ふん、わしのおかげで女4人で楽しく仕事できてんだろうが。感謝されてもいいぐらいだろうが」  
「ありがと、ついでにもうちょっと向こうにいてくれてたら、もっと楽しく仕事できてたんだけど」  
「ぐぬぬ……!」  
減らず口の纏に怒りの拳を震わせる。絶対に後でヒィヒィ鳴かしてやると心に固く誓う両津だった。  
 
 
夕方5時、麗子たち昼勤組は上がりの時間である。  
本署の男性署員ら夜勤組と交代の申し送りを済ませ、着替えてから派出所を出る。  
両津は名古屋に出張中の大原部長の判断で明日から通常勤務に復帰することになった。曰く、「ロクなことにならんから万博には来んでいい」  
両津は帰ってきたことを秘密にしたく思っていたが、麗子たちがいともあっさりとバラしたので明日からお仕事お仕事だ。  
 
「ねえ両ちゃん、ちょっと臭うわよ。ヒゲも伸び放題だし。今からウチに来ない? 着く頃にはお風呂沸いてるはずだから」  
麗子が携帯電話片手に誘ってきた。携帯を使って自宅マンションの風呂に給湯指示を出した。帰宅する頃には風呂は沸けているはずだ。  
独り暮らしの部屋に男を上げて、しかも風呂に入れるということが何を意味するのか言わずもがなだ。  
麻里愛たちは断固抗議した。我こそはと両津を誘致する。  
「麗子さん、ずるいですわ。両様、寮に戻りましょう。旅の疲れと汚れは私が洗い落として差し上げます」  
「私も両津さんのお背中を流して差し上げたいですわ。両津さん、私の部屋にお越しください」  
「勘吉、お前が抜けて痛手だったのはここだけじゃなく超神田寿司もだったんだぞ。ウチで働いて埋め合わせをしろよ」  
それに檸檬たちもお前が帰ってくるのを待ってる、纏が付け加えた。  
 
モテてモテてしょうがない。  
三ヶ月もこれら美女たちと離れ離れになって性欲発散解消ができずにタマる一方だった両津なのだが、4人から同時に誘われて1人に決めかねてしまう。  
こんなすごい美女たちから1人だけ選べなんてヒドイ話ではないか。  
 
「うーむ……」  
両津が難しい顔をして唸っていると麗子が新提案を出した。全ての問題が一度に解決する可能性を秘めた素晴らしい提案である。  
「だったらみんなで集まりましょうよ。私の家で両ちゃん復帰を祝うささやかなパーティを開くってことでどうかしら」  
「スバラシイ!」  
両津はにわかに元気づいた。麗子案だと両津は4人の美女をとっかえひっかえエロエロできて、しかも美女たちも気持ちよくて満足していただけるはずだ。  
「素晴らしい提案じゃないか麗子クン! 早速お前のマンションで俺の帰りを祝ってくれ」  
「仕方ありませんわね……」  
「両津さんがそうおっしゃるのでしたら」  
麻里愛と早矢もしぶしぶ納得した。両津の帰還を祝いたい気持ちに偽りはないが、二人きりで祝いたかった。  
「……ホントにエロいヤツだな……」  
纏がボソリと呟いた。かくいう纏も麗子案に反対はしなかった。  
 

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