僕と摩耶花が付き合い始めてもうすぐ4ヶ月。と言っても、僕たちは中学の時から  
つかず離れずの距離で過ごしてきた。摩耶花は僕にとっての一番の理解者で、僕も  
摩耶花のことなら誰にも負けない自負がある。  
 それでも晴れて恋人同士になってみると、今まで知らなかった一面をみることがある。  
 例えば、摩耶花は意外と独占欲が強い。僕が摩耶花の知らない人と知り合いだった  
というだけで気を重くしていた。それだけ僕のことを想ってくれてると思うと悪い  
気はしないけどね。  
「別に……ん、そんなんじゃないし」  
 きっと今、摩耶花は唇を尖らせて拗ねたような表情をしているんだろうなあ。  
「わたしも、付き合いだしてふくちゃんのことでわかったことがあるわ」  
 なんとなく言いたいことはわかったけれど、あえて先の言葉を促す。  
「なんだろ?ぺろり……教えてくれるかい?ぺろり……」  
「はっ……!ふくちゃんがスケベだってこと」  
 摩耶花の首筋に舌を這わせるのをやめる。  
「僕は、摩耶花がエッチなのは付き合う前から知ってたよ?」  
 そう言った途端にパンチが飛んできた。あー、ごめん、ごめんよ摩耶花。だから  
そんなにポカポカ僕の頭を殴らないで。あー、こんな風に、顔を真っ赤にして怒って  
いる摩耶花も可愛いなあ。  
 
 恋人になってわかったこと。「匂い」もその一つだ。栗色の髪から香るシャンプーの  
さわやかな匂いもいいけど、エッチなことをしているときに、摩耶花のしっとりとした  
素肌から漂う甘い匂堪らないね。  
 摩耶花の両腕を掴み、再び首筋へ口付けし、息を吸う。  
「んんっ!」  
 摩耶花が刺激に耐え切れず、首を反らし悶える。  
「いい匂いだよ摩耶花」  
「や、やめて……嗅がないで」  
 それは無理な注文だよ。耳まで真っ赤になっているけどそんなに恥かしいのかな?  
 その耳を軽く歯を立てるように咥えると、摩耶花の身体がビクンと跳ねた。摩耶花の  
背中を支えるように右手を回して、耳から首筋、そして胸元へ舌を這わせていく。  
「くうんんっ……」  
 ブラジャーのホックを外して、捲りあげる。摩耶花の胸は確かに大きくはないけど  
緩やかな傾斜のある魅力的な形をしている。そしてなによりその中心にある乳首が  
可愛らしい。透きとおるような白い乳房の上に、淡いピンクの乳首がまるで摩耶花の  
性格を表しているようにツンと立っている。  
「……んっ!」  
 ブラジャーをすっかりはずして、右の乳房をすくい上げるように舐める。摩耶花は  
唇を引き締め、漏れ出る声を必死にこらえている。うーん、我慢しないでもっと可愛い  
声を聞かせてほしいなあ。  
 乳首だけを避けるように下から上へ舐める。唾液と汗によって乳房はしっとりと濡れ  
光っていく。  
「んん……うっん!」  
 まだ、直接は触れていない乳首がさっきより突起しているのを確認して、それを  
口に含んだ。  
「はあっん!」  
 背中を反らせ、摩耶花の口からとうとう悲鳴が漏れた。  
「ふぅん……んんっ……くうっ!」  
 空いた左手で左の乳首を摘み、舌で右の乳首を転がす。熱にうなされるように  
摩耶花は身をよじり、素肌はじっとりと汗ばんでいく。  
 目を動かし摩耶花の顔を確認。うん、十分感じてくれているようだ。目をぎゅっと  
閉じて、食いしばるように歯列を覗かせ悶えている表情は官能的で、これも付き合い  
始めて見ることのできた摩耶花の表情だ。その表情はとても愛おしい。  
 
 普段はツンとして唇を引きを結んだ表情が多いからこそ、その笑顔や恥らった表情に  
何物にも代えがたい価値がある。  
 ホータローは9年間も摩耶花と同じクラスで時間を過ごしていたのにこの価値に  
気付かなかった。 ホータロー、それはきっとホータローの省エネ主義による最大の  
失策だよ。まあ、そのおかげで僕たちは中学で知り合い、恋仲になったのだけど。  
 もし、早くからホータローが摩耶花の良さを見出していたのなら、それはそれで  
ぞっとしない話だ。  
 摩耶花にホータローの話をすると決まって、「折木のことなんか見てないし」と  
吐き捨てる。それで安心していることがあった。甘えていた。こだわらないことに  
こだわって、摩耶花を何度も傷つけた。それでも摩耶花は僕を選んでくれた。本当に  
嬉しかったよ。  
 だけど、付き合いだして摩耶花の意外性を目の当たりにして驚嘆した。まさか、  
中学の卒業制作の秘密を暴かれるなんて!  
 ホータローが千反田さんに出会って真価を発揮したように、摩耶花もこの一年と  
数ヶ月、古典部でホータローと共に過ごしたことによって、過去のホータローの行動に  
矛盾点を見つけ出し、その謎を解き明かした。  
 だからこそ、僕は恐れているのかもしれない。摩耶花にこだわると心に決め、だけど  
それも一番にはなれないのかもしれないと。もし、ホータローが摩耶花の真価を  
発揮させたなら。もし、摩耶花がホータローの一番の理解者となってしまったら。  
 僕は2人の隣に並んで立っていることはできるだろうか?  
 
「ああっ!」  
 摩耶花は声を上げる。  
 左手人差し指と中指を、ショーツの上から秘裂に添える。熱を帯びた湿りを感じて  
つい嬉しくなる。もうこんなに濡らしてくれたのかい、摩耶花。だけど、まだまだ  
これからだよ。  
 縦に伸びたショーツの皺を何度もなぞる。ほんの少しだけ食い込むように、ゆっくりと。  
 ビクっと摩耶花の腰が跳ね上がる。  
「はぁああ……くうううっ!」  
 何度も何度も上下になぞると、だんだんと摩耶花の喘ぐ声も早まっていく。  
「ああっ……はあんっ…」  
 不意に最高潮に隆起しきった乳首に軽く歯を立てて吸い上げると、摩耶花は身体を  
反らし、両腕で僕のあたまを抱えた。  
「ふぅあぁんんっ!」  
 摩耶花がひときわ大きい声を上げる。軽く昇りつめたみたいだ。  
 呼吸が乱れ、下肢を震わせている。ちょっとやりすぎたかな?仕方ない、少し手を  
休めよう。  
「摩耶花、ちょっと腰を浮かして。パンツ脱がないとシミになっちゃうよ」  
「もう!いじわるなこと言わないでよ!」  
 摩耶花は今にも泣きそうな顔で僕を睨んだ。うーん、その表情もいいなあ。  
 伸ばした足先からするするとショーツを引き抜く。露になった摩耶花のそこには  
薄っすらと繊毛が生えていて、そこから下へ伸びているピンクアーモンド色の縦筋は  
確かに濡れ湿っている。こんなにも感じてくれたんだね。  
 摩耶花の両膝をつかまえる。とても恥かしい格好だろうけど、それでも摩耶花は  
膝を開いてくれた。  
 さっきまで嗅いでいた甘い匂いとは違う匂いが漂っている。よく例えられるのは  
カマンベールのようなチーズ臭だけど、僕はこれを否定したい。摩耶花のそれは、  
そう、濃厚な牝の匂いだ。僕みたいな牡を虜にしてしまう匂い。  
 股間の愚息はボクサーパンツの中ではちきれんばかりに膨らんでいる。僕もう  
限界だ。一旦、摩耶花から離れると一気にボクサーパンツを脱いだ。  
「ふくちゃん……」  
 耶花が僕の首に腕を回して、引き寄せてくる。摩耶花の瞳に僕が写っている。  
きっと僕の瞳にも……。  
 どちらからともなく唇を重ねた。  
「んんっ……ぅんん」  
 貪るように舌を吸い、歯列を舐めた。摩耶花も答えるように舌を絡ませてくれる。  
 口付けを交わしながら、上体を摩耶花に重ねる、繋がる体勢を整える。  
「ぷはっ」  
 唇を離し、呼吸を整える。いつかのたどたどしいファーストキスからすると、  
僕たちは随分キスがうまくなったと思う。  
 
「あっ……」  
 摩耶花の一番感じる場所に僕の愚息があてがわれる。摩耶花がベッドのシーツを  
たぐり寄せ握る。  
 まだ少し怖いかい?大丈夫だよ優しくするから。  
 摩耶花は上目遣いで僕を見ると「あはは」と照れくさそうに笑みを浮かべる。その  
健気な彼女の表情はきっと僕だけにしか見せないもので、胸を締め付けられるような  
感覚に襲われてしまう。  
 そうさ、この表情は僕だけのものだ。  
 
 ゆっくりと割れ目に挿入していく。摩耶花は目をつぶり息を止めて繋がるときを  
待つ。  
 肉襞の一枚を感じるようにじわじわと分身を摩耶花の中へ送り込む。  
「あうんんっ……」  
 歯を食いしばり、シーツを掴んで必死に僕を受け入れようとしてくれる。摩耶花の  
そこは熱くぬかるんでいる。蕩けそうに気持ちがいい。  
「くううっ…」  
 半分ほど埋没させた状態から、ゆっくりと出し入れする。摩耶花の肉路はとても  
狭いから、こうやって僕のを馴染ませるようにゆっくりと拡張させないと、摩耶花が  
苦しんでしまう。  
「んんっ……ああん……!」  
 くちゃくちゃと肉襞が擦れる音が次第に大きくなる。摩耶花の呼吸も早くなって、  
それに連動するように僕のものをぎゅっと締め付けてくる。正直、油断していると  
うっかり爆発してしまいそうだ。  
 だけど、ここは男として我慢しなければならない。  
「ああぁっ!……はあぁ……!」  
 馴染ませるようにゆっくりと出し入れを始めて三分くたいが経ったかな。摩耶花の  
全身に玉のような汗が浮かんできた。男根を出し入れする度に摩耶花は身体をよじる。  
けれど、それはもう苦痛からだけではないと確信できた。  
「摩耶花、腰が動いてきたね」  
「い、言わないでっ!」  
 僕の動きに合わせて、摩耶花の腰も律動している。そろそろいいかな?  
 ふぅーっと息を止め、大きく突き上げる。  
「ああああーっ!」  
 摩耶花が大きな嬌声をあげ、背中を反らす。ようやく全長が収まった。絡みつく  
ように収縮し僕に射精を促す。  
 だけど、これからだ。僕も歯を食いしばってその快感を我慢する。見ると、摩耶花は  
半開きの口をわなわなさせている。わかるよ、摩耶花。僕が顔を近づけると再び首に  
腕を回してきた。  
 そのままキスをする。ねっとりと舌を絡めて吸う。お互いの唾液が口内で混じり、  
汗がお互いの肌を湿らせ、肉壷では性液が絡み合う。独特の匂いが僕らを包み込む。  
   
 そう、動物が自分の縄張りを匂いで主張するように、僕の匂いを摩耶花にうつす。  
絶対に摩耶花を手放さない。何があろうと摩耶花にこだわり続けるんだ。  
 唾液の糸を引きながら唇を離す。摩耶花の頬に汗で張り付いた横髪を拭うように払い、  
そのまま手を添える。  
「摩耶花……」  
 摩耶花はこくりと頷いた。  
「ふくちゃん、動いて……わたし、もう我慢できない」  
 摩耶花は腰をくねらせ、僕の動きを待っている。  
「うん、いくよ摩耶花」  
 
 摩耶花のくびれた腰を掴み、ゆっくりと抽送を開始した。  
 しっかりと吸い付くように肉襞が絡みついてくる。  
「あうっ!」  
 付き合いだして以降、土日のスケジュールのほとんど埋まり、何度となく身体を  
重ねた。  
 だから、もう摩耶花の感じるポイントもデータベースに入っている。  
「はぁあんっ!」  
 弱点を突かれ、摩耶花が今日一番の嬌声を上げた。ただそれ以上は声も出ないようで、  
恍惚な表情をひきつらせている。  
 僕は肉路の上壁をえぐるように男根を送り込む。小柄な摩耶花の身体が一突きごとに  
浮き上がり、送り込まれる刺激に翻弄されている。  
「……っ!……ううっ!」  
 感じすぎているのか、息を止めて栗色の髪を振り乱している。酸欠にならないか  
心配だけど、僕も気を抜くことはできない。挿入のしかたを変えただけ、濡れた肉襞が  
租借するかのよう男根締め付け、肉路の奥へ吸い込もうとしてくる。  
「ひぃいっ!」  
 結合部と薄っすらと生えた繊毛の間でふくらみをもった突起を指の腹で押すと、  
劇的に摩耶花の表情が変化した。目を見開き、会心の刺激に怯えるような表情になる。  
 ごめん、摩耶花。別に驚かそうってつもりじゃないんだ。男根を抽送しながらも、  
尖った豆を、くりん、くりんと転がす。  
「だめふくちゃん!それだめぇ!」  
 真っ赤な顔で摩耶花が声を上げた。限界がそこまで来てるんだね。  
「先にイッていいよ」  
 だけど、摩耶花は必死に首を振って嘆願した。  
「一緒がいいっ!ふくちゃんも一緒にっ!」  
 わかったよ、摩耶花。頷いてみせると、摩耶花は安堵の息を吐いた。その息はとても  
熱く、僕をさらに昂ぶらせる。  
 再び摩耶花の腰を両手で掴み、渾身の力で男根を送り込む。  
 パンパンパンと肌と肌が当たる音が響き渡る。  
「あっ!あんっ!はっ!ああっ!はぁっ!あぁっ!」  
 突き上げる度に、摩耶花はのけぞり、嬌声を上げる。  
 僕も、摩耶花のウイークポイントを意識して、肉襞をえぐるように貫く。貫く。貫く。  
 奥の奥、子宮口まで執拗に責め続けると、急速に肉路が狭まり、ひくひくと痙攣を  
始める。  
「もう……だめっ!だめぇ、い、……イッちゃう」  
「僕も、……もう限界だ……っ!」  
 腰を反らせ、高みに向かってラストスパートをかける。まるで獣にでもなったように、  
貪るように腰を打ちつけた。  
 ほら、いくよ摩耶花っ!  
「ああああああああっ!」  
「くううっ!」  
 悲鳴にも似た嬌声を同時に上げた。男根を包み込んだ肉襞がうごめくように収縮され、  
僕の精という精をすべて吸い出してしまうように痛いくらい締めつけた。最後の  
一突きが子宮口まで届くと、耐え切れずに爆発を起こした。ドクドクと熱い精が  
放たれる。  
「はあああああああっ!」  
 摩耶花は下腹部の奥で僕の爆発を受けとめると同時に、身体の骨が軋むような勢いで  
背中を反らした。そして、ビクン、ビクンと身体を波立たせるように身体を跳ね上げた。  
   
 体中を痺れるような快感が駆け巡っている。きっと摩耶花も同じなんだろうね。今は  
焦点が合っていないような目で宙を見ている。呼吸もなかなか整わず、下肢はまだ震えて  
いる。  
「ふくちゃん……」  
 それでも、僕に一生懸命腕を伸ばしてくる。まいったな。危うく泣いてしまいそう  
じゃないか。  
 摩耶花に被さるように抱き合いキスをする。  
 もう僕たち二人の身体はすっかり同じ匂いが染み込んでしまったように感じた。  
 
「ごめん」  
思わず呟いていた。  
「……ふくちゃん」  
「ごめんね、摩耶花」  
 この愛し合う行為の中でも、僕はホータローに嫉妬し、摩耶花の意外性に不安を覚えた。  
僕は摩耶花にこだわると決意した。摩耶花を誰にも奪われないように、摩耶花が僕以外の  
男に興味を示さないように、僕は摩耶花を抱いた。でもそれは、僕のどうしようもない  
独占欲であって、摩耶花の意思をないがしろにしているのと変わりないんじゃないか?  
 そんな禅問答繰り広げてばかりいる僕を、摩耶花はそっとその胸に抱き寄せてくれた。  
「謝ってばかりだね」  
「そうかな?」  
「ふふ。あのふくちゃんが、こうして大人しくわたしに捕まってるなんてね。一昔前では  
考えられなかったなあ」  
そうだね。僕もそう思う。正直、今でも摩耶花を傷つけない人でいられるかは不安で  
しかたがないんだよ。  
「散々待たせてしまったからね。摩耶花の願いくらいは聞いてあげないと」  
 ゆっくりと身体を起こして、お得意の笑顔を作る。  
「それもそうね」  
 と笑いながら摩耶花が言う。  
「なんか今のふくちゃんなら、なんでも言うこと聞いてくれそうだよね」  
「そうだね。今なら何でも聞いてしまいそうだよ」  
「だったら……」  
 摩耶花がじいっと、上目遣いで僕の顔を見上げる。  
なんだろう?正直、検討がつかないな。でも摩耶花の目が少し笑ってる。考えてみると  
久しぶりかもしれない。この痛くない程度の腹の探り合いは。  
 僕は降参の意味をこめて肩をすくめてみせる。  
 すると摩耶花は少し困ったような顔ではにかみながら言った。  
「もう一回……しよ?」  
 
 その時の僕は一体どんな顔をしたんだろう。  
「なによ、その顔は」  
 ぎろりと摩耶花の目が鋭くなった。  
 またしても摩耶花の意外性に驚いたのか、ただただ呆れてしまったのか。鏡があったら  
自分の顔を見てみたかった。  
 おっと、ごめんよ摩耶花。だからそんなに頬を膨らませて拗ねないでよ。  
 僕は苦笑しながら、摩耶花にくちづけをした。  
 
 
終わり  
 

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