俺は机の方を確認した。  
 そこには千反田との合流前に念のためにと購入しておいた避妊具がある。もちろんコンビニや薬局で買う勇気など持ち合わせていない俺は自販機で購入したわけだが。  
 それを取りに行こうと身体を起こすと、千反田に腕を掴まれる。  
「? どうした?」  
「あ、あのっ、えと……」  
 何かを言い澱んで目線を逸らす。  
 何を言いたいのだろうか?  
「きょ、今日は大丈夫な日ですから……その……」  
「…………」  
 一瞬思考が停止した。  
 つまり。これは。あれだ。  
「つけないでしろ、と?」  
「折木さんを、直に感じたいんです……ダメ、でしょうか?」  
 俺はしばし考える。  
 確かに男としてはつけない方がいいに決まってる。だが女の方は、千反田の方はどうなのだろう?  
 得るものはあってもリスクもあるはずだ。  
「……千反田」  
「はい」  
「安全日といっても百パーセント大丈夫というわけじゃない。それはわかるな?」  
「……はい」  
「一時の快楽に身を任せて後で悔やむ男女、なんてのはよく聞く話だ」  
「…………はい」  
「するべきところはきちんとするべきだと俺は思う」  
「………………はい」  
 だから。  
 俺はきちんとしよう。  
 少ししゅんとしている千反田に問う。  
「だから万が一の事があった場合、俺は責任を取る気がある。千反田はどうなんだ?」  
「!?」  
 驚いた表情で俺を見る千反田。  
 やがて嬉しそうなものへと変化し、がばっと抱きついてきた。  
「わたし、折木さんなら構いません……いえ、折木さん以外なんて考えられません!」  
 あー……なんだろう。これは所謂プロポーズ、なのだろうか?  
 いや、俺も千反田とそうなることを考えたことがないわけではないが。  
「折木さん」  
 千反田が耳元で囁いてくる。  
「お願いします。わたしの初めて、もらってください」  
「……ああ」  
 初めて、だけじゃない。ゆくゆくは千反田そのものをもらいたい。  
 なんて。  
 口が裂けても言えない言葉だ。少なくとも今は。  
 変わりに軽く唇を合わせ、想いをのせる。  
「いくぞ」  
 俺は自身の肉棒を掴み、千反田の秘口に先端を押し当てる。  
 あとはこのまままっすぐ進むだけ。  
 
「上手くできないかもしれないが、痛かったら噛んでもいいからな」  
「そんなことしませんよ。でも……はい、お願いします」  
 俺達は抱き締め合い、互いの肩に顔を預ける。  
 ゆっくりと腰を進めると僅かに千反田が呻いた。  
 先端が埋まるが、抵抗がきつくて思うように進めない。  
 千反田が息を吐いた瞬間を狙い、俺は一気に腰を突き入れた。  
 何かを引き裂くような感触とともに最奥部まで千反田を貫く。  
「っ!! あ……っ、あうっ……!」  
 痛ましい声が千反田の口から漏れる。  
 原因は俺だというのに俺はそんな声を聞きたくなくて。  
 でも俺にはどうしようもなくて。  
 それでも少しでも痛みを分かち合いたくて。  
「千反田、我慢するな! 噛んでいいから!」  
 ガリっと鋭い痛みが肩口に走る。  
 が、そんな些細なものは無視し、俺は千反田を思い切り抱き締めた。  
 しばらくの間動かずそうしていると、千反田の歯が肩から離される。  
「ご、ごめんなさい、痛かった……ですよね?」  
「気にするな。千反田こそ平気か?」  
「はい、違和感はまだありますけど痛みはもうあまり……今、折木さんがわたしの中に入ってるんですね……」  
 弱々しく微笑む千反田の目尻からつうっと涙が零れ落ちる。  
 それは苦痛によるものか嬉しさによるものか。  
 多分両方だろう。多少なりとも嬉しさが混じっているというのは自惚れではないはずだ。  
 俺は唇をつけてそれを吸った。  
 どんな理由であっても千反田が涙を流すところなんてあまり見たくない。  
「あの、折木さん」  
「なんだ?」  
「もう、だいぶ慣れてきたので多少なら動いても大丈夫ですよ?」  
「…………」  
 さてどうしたものか。  
 いや、千反田を気遣っているのではない。自分自身のことだ。  
 忌憚なく言わせてもらえば、千反田の膣内が気持ち良すぎるのだ。  
 柔らかい襞がぎゅうぎゅうと様々に蠢きながら締め付けてき、気を抜くとすぐに発射してしまいそうである。  
 こうなると一度千反田の手で出させてもらったのは正解だったかもしれない。ついでに肩の痛みがなければとっくに二発目を放っていただろう。  
 が、千反田は俺の沈黙をどう受け止めたのか不安げな表情になる。  
 なのでもう俺は観念して正直に話すことにした。  
「悪い。千反田の中が気持ち良すぎて、今動くと出てしまう」  
 そう告げると千反田ははっとして、そこから嬉しそうな表情をする。  
 そのまま俺に回す腕に力を込めた。  
 
「いいですよ、出してください」  
「ち、千反田!?」  
「わたし、折木さんを受け止めたいんです。だから、そのままお願いします」  
 そう言って小刻みに身体を揺する千反田は、脚まで俺の身体に巻き付けて絶対に離さないという意思を表明する。  
 俺はそこから与えられる刺激に歯を食いしばって堪えるが、いつまでももちそうにない。  
 覚悟を決める。  
「千反田っ……出すぞ……このまま、お前の中にっ」  
「はいっ、お願いします……折木さんのを、たくさん、くださいっ!」  
「千反田っ、千反田っ、千反田っ!」  
 俺は千反田を呼びながら腰を振り始めた。  
 引き抜こうとすると絡みつき、挿し入れると嬉しそうに締め付けてくる。そんな肉襞の感触に俺がいつまでも耐えられるはずもない。  
「う、あ、出る……出る……いくぞ、出すぞ」  
「はい、はいっ、いっぱい出してくださいっ」  
「う、う、うう…………うあっ! あっ! あっ! ああっ! あっ!」  
 下腹部から脳髄、そして全身へと快感の波が伝わり、俺は千反田に膣内射精をした。  
 一度出したとは思えないほどの量が尿道を幾度も駆け抜け、そのたびに情けない声をあげてしまう。  
 びくん、びくんと身体が震え、射精が続く。  
 千反田もその都度小さな呻き声をあげる。  
 それは苦痛なものではなく、どこか艶っぽさを帯びていた。  
 やがて長い射精が終わり、俺はとさりと千反田にのしかかる。いや、体重をかけないようにはしているが。  
「……ありがとうございます、折木さん」  
「……いや、俺の方こそ」  
 なんだか顔を見るのが気恥ずかしくて肩に顔を埋めている状態だ。  
 千反田はそんな気持ちを知ってか知らずか頬をすりすりと擦り付けてくる。  
 このまま二人で微睡むのも一興だが、そうもいくまい。  
 俺は身体を起こす。  
「抜くぞ」  
「あ……はい」  
 腰を引いてずるるっと肉棒を千反田の中から引き抜く。  
 俺の出した白濁液と千反田の破瓜の証が混じったピンク色の体液が性器にまとわりついていた。  
 見たところそんなに血は出ていないようだ。  
「シャワー、浴びるか?」  
「……そうですね、汗もかきましたし」  
 そう言って千反田も身体を起こそうとするが。  
 バランスを崩して俺にしがみつく形になった。  
「きゃっ……あ、あれ?」  
 どうやら下半身にうまいこと力が入らないようだ。  
 ちなみに俺もだいぶ体力を消耗しているわけだが、少しくらいは格好いいところを見せてやりたい。  
 
「よっ、と」  
「きゃ……お、折木さん、無理しなくていいんですよ!?」  
「大丈夫だ」  
 一言だけ告げ、俺は千反田を抱き上げたまま風呂場へと向かう。  
 そう、所謂『お姫様抱っこ』だ。このくらい苦でも何でもない。  
 未だ恥ずかしがる千反田とともにシャワーを浴び、汗や体液を洗い流していく。  
 出すものを出し切った俺は欲情することなく千反田の身体を綺麗にし、拭いてやったあとは再び抱き上げて俺の部屋に戻る。  
 その間千反田は顔を赤くしながらもされるがままになり、一言も発さなかったが。  
「さて、あとは寝るだけだが……どうする? 一緒に寝るか?」  
 ベッドに横たわらせた千反田に聞く。  
 本心は一緒に寝たいが、千反田が恥ずかしがったり二人では寝れないというなら仕方ないので一応確認。  
「はい、あの…………う、腕枕、して、くれませんか?」  
 俺は無言で千反田の横に寝転がり、腕を伸ばす。  
 千反田は嬉しそうに腕に頭を乗せて引っ付いてきた。  
 お互い服を着てないため心地良い体温が直に伝わる。  
 このぬくもりは逃がしたくない。今だけでなく、これからずっと先も。  
 だんだん襲ってくる睡魔に身を任せながらもそんなことを考える。  
 いずれ千反田の家族にも挨拶とかしなければな。結婚とかはともかく交際しているのは事実なんだし。  
 ……………………家族?  
 ちょっと引っかかることができ、眠気が少し覚めた。  
「おい千反田」  
「はい?」  
「今日、家の人には何て言って出てきたんだ?」  
「え、普通に『友達の家に泊まってきます』って……」  
「誰のところとか聞かれなかったか?」  
「あ、その点は大丈夫ですよ。きちんと摩耶花さんにお願いしてきたので」  
「そうか、伊原に………………………………え?」  
「出がけに電話をして了解をいただきました。最後に『ところで本当はどこに泊まるの?』と聞かれたので折木さんのところと答えておきました。時間が迫っていたのでその後はすぐに電話を切ってしまいましたが」  
 …………とりあえず眠気は完全に吹っ飛んだ。  
 休み明けに問い詰めてくるであろう伊原にどう説明するかを今は考えるべきだ。べきなのだが。  
「ふふ、折木さん、大好きです」  
 千反田の顔を見ているとそれも面倒臭くなってきた。もう知ったことか。  
 俺は多少自棄気味に千反田の頭を撫で、無理やり眠りについたのだった。  
 
 
 
 
 
完  
 

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