『前戯』  
 
 千反田をベッドに座らせ、俺はその隣に腰掛ける。  
「…………」  
「…………」  
 二人とも何も喋らない。というか何を話していいのか、何をすればいいのかわからない。  
 繋いだ手が汗ばんでくる。落ち着け折木奉太郎。  
 こういう時、いつもの俺ならどうする。  
 しばし思考に浸ろうとし、すぐに止めた。こんなふうに考えることそのものが俺らしくない。  
 やりたくないことはやらない。やるべきことなら手短に。そして、やりたいことは。  
「千反田」  
「は、はい!」  
 突然の呼び掛けに千反田の身体がびくっとする。  
「俺は今から千反田にいろいろしようと思う」  
「……はい」  
「その際に千反田に不快な思いをさせるかもしれない。その時は嫌なら嫌と言ってくれ」  
「わかりました……で、でも!」  
「?」  
「お、折木さんになら、たぶん、何をされても、嫌ではないと思います!」  
「……そ、そうか」  
 相変わらず聞いてるこっちが恥ずかしい。  
 俺は千反田の肩に手を回して引き寄せ、痛くない程度の強さで抱き締める。  
 ふわ、とシャンプーらしき匂いがした。当たり前だが、先程キッチンで抱き締めた時と同じ匂い。  
「風呂に入ってからきたのか?」  
「はい、念入りに洗ってきました」  
 それでか。  
 いい香りはするが、千反田そのものの匂いが物足りない。  
 俺は匂いや体臭フェチなどではないが、千反田に関してだけはその趣向がある。俺だって健全な男子高校生なのだ。  
「キス、するぞ」  
「はい……」  
「…………」  
 おい、千反田よ。  
 お前の中でキスと言ったらそっちなのか?  
 とりあえず軽いキスをしようと思ったら、千反田は口を開けて舌を差し出してきた。  
 いや、俺は一向に構わんのだが。  
 顔を寄せると目を閉じる。俺も目を閉じ、舌先を触れ合わせた。  
 そのまま絡めながら唇同士をくっつけ、軽く吸う。  
「ん……っ」  
 ぴくんと千反田の身体が震え、俺の背中に回された腕に力がこもった。  
 唇で舌を挟み込み、甘噛みしながら吸い上げるとますますその力は強くなる。  
 千反田の後頭部に手を添え、今度は俺の方から舌を千反田の口内に侵入させた。  
 反射的に頭を引こうとしたが、逃がさないようにしっかりと手に力を入れておく。  
 唇、歯の裏側、歯茎、頬の内側、舌の付け根、あらゆる箇所を俺の舌が這い回り、蹂躙する。  
 しばらくそうしてから唇を離すと、二人の間で唾液の糸がつうっと引いた。  
 
 息をするのも忘れていたかのように俺達は荒い呼吸をする。いや、実際し忘れていたのかもしれない。  
 頭がぼうっとするのは快感のためか酸欠のせいかわからなかった。  
 千反田の身体からはすっかり力が抜けて俺に体重を預けてくったりといる。恍惚の表情をし、目がどこか虚ろだ。  
 頭を撫でてやると力なく俺に抱きついてきた。  
「折木……さん」  
 やっとの感じで声を出してくる。  
「部室で、やらなくて、良かったです……わたし、帰れなく、なるとこでした」  
「力が入らないからか?」  
「それも、ありますけど……いっときでも、折木さんと、離れたくなくなりました」  
 そう言うと千反田はぎゅうっと全力で俺を抱き締める。とは言っても今の力では痛くもない。  
 むしろ問題なのは俺の身体に押し付けられている二つの柔らかいもの。抱きつかれるのは何度もあるが、ここまで意識してしまうのは初めてだ。  
 どうしたものかと思っていると、千反田が身体を離す。  
「折木さん」  
「なんだ?」  
「もっと……いろいろ、してください」  
 そう言ってベッドの上で座り込み、目を閉じる。  
 俺はゆっくりと千反田に手を伸ばした。  
 肩を掴み、キスをする。額に。瞼に。こめかみに。頬に。耳たぶに。うなじに。顎に。  
 様々な箇所に唇を付け、時折軽く吸う。  
 千反田が切なそうに眉根を寄せ、俺の手を握る。  
 ぐっと肩を押すと一切抵抗せずに千反田はベッドに仰向けに倒れ込んだ。  
「あ…………」  
「千反田、脱がしていいか?」  
「え、えと、その」  
 自分で脱ぐから向こうを向いていてください、との言葉に俺は素直に従う。  
 これからもっと恥ずかしいことをするんじゃないか? とは突っ込まなかった。  
 しばらくして衣擦れの音がやむ。  
「も、もういいですよ」  
 振り向くとそこにはショーツ一枚になり、恥ずかしそうに腕で身体を隠す千反田がいた。  
 そんな千反田の身体を見た俺の第一声は。  
「綺麗だ……」  
 だった。  
 お世辞でも何でもなく思わず自然と出た言葉。  
「あ、ありがとうございます」  
 千反田にもそれがわかったのか顔を赤くしながらも礼を言ってくる。ちょっととんちんかんなやりとりかもしれないが。  
「見せてくれ千反田」  
 再び横になる千反田の身体を隠す腕を取る。  
 素直に腕が解かれ、女性特有の双丘が露わになった。俺はそれを目掛けて腕を伸ばす。  
「さ、触るぞ」  
「はい……」  
 ふにゅ、と柔らかい弾力が手の平から伝わる。  
 
「……!!」  
 なん……だ、これは。  
 その千反田の膨らみは柔らかくて。暖かくて。指に力を込めるとその分だけ押し返してくる。しっとりと吸い付いてくる感触に俺はいつの間にかそれに夢中になっていた。  
「ん、はぁ……あ、っ」  
 千反田の微かに喘ぐ声で我に返る。  
 様子を窺うが、特に嫌がってはいないようだ。どころか頬が上気して赤くなっている。  
 ツンと尖った胸の突起をつまむとビクンっと身体を震わせた。  
 気持ち良くなってくれているようだ。ならば。  
「舐めるぞ」  
「え、あの……ふあぁぁぁっ!」  
 桃色の乳首を舌で舐め上げると、千反田が悲鳴のような声をあげ、ぐうっと仰け反る。  
 舌で転がし、唇で挟み込んで吸うと、千反田が俺にしがみついてきた。  
「あ、や、いやっ、折木さんっ!」  
「…………」  
 俺は唇から乳首を解放した。  
 身体を起こして千反田を見つめる。  
「え……あの、折木さん?」  
「嫌、なのか?」  
「! い、いえ、えっと、あの…………い、嫌じゃ、ない、です……」  
 最後は消え入りそうなほど声が小さくなった。  
 恥ずかしいのか視線を逸らす。  
「お、折木さんも脱いでくださいっ、わたしだけ裸なんてずるいですっ」  
 恥ずかしさは遥かに千反田の方が上だと思うがな。  
 俺はばさりと上着、シャツを脱ぎ捨て、ズボンをそこらに放る。  
 二人とも下着一枚の姿になり、そのまま俺は千反田に覆い被さるように身体を重ね、体重をかけないようにしながら抱き締めた。  
 直に伝わる体温が心地良く、前面に感じる柔らかさを堪能する。  
「……んぅっ!」  
 突然の下半身への刺激に俺の身体が跳ねた。  
 千反田の手が俺のトランクス越しに肥大した肉棒に触れてきたのだ。  
「男の人って、これを触られると気持ちいいんですよね?」  
 やめ、ろ。  
 動かすな撫で回すな!  
「気持ち良くなって、くれてますか? 折木さん?」  
 もう……だめだ!  
 俺はトランクスをずらして肉棒をさらけ出し、千反田の手を取ってソレを握らせる。  
「え、あ、熱っ……お、折木さん?」  
「すまん千反田っ、出るっ!」  
 千反田の身体に興奮していて高ぶっていた俺はその刺激に耐えきれず、一気に射精への欲求が高まった。  
 しなやかな千反田の指を肉棒に絡みつかせてしごかせると、あっという間に限界を迎える。  
「あっ、あっ、ああっ! うあああっ!」  
 びゅるっ、と先端から白濁液が放たれる。  
「きゃ……っ」  
 
 自分の身体に飛び散る精液に千反田が短い悲鳴をあげた。  
 それでも避けようとはせず、幾度も放たれる精液を身体で受け止めてくれる。  
「はあっ……はあっ……」  
 ようやく射精が終わり、俺は肩で息をした。  
 やばい。気持ちいいなんてものじゃない。自分でするより遥かにすごくて腰が抜けそうだ。  
 しばらく余韻に浸ったあと、掴んでいた千反田の手を離す。  
「えっと、その……すまん」  
 とりあえず謝った。  
 手を乱暴に使ったことや身体を汚してしまったことに対して。  
 しかし千反田は小さく首を振る。  
「わたしの身体で興奮してくれて、わたしの手で気持ち良くなってくれたんですよね? わたし、嬉しいです」  
 少し恥ずかしそうにしながらもはにかむ。  
 そのまま千反田は自分の手を眼前に持ってきた。俺の精液がべったりとついたその手。  
「これが……折木さんの精子、なんですね」  
 止める間もなく。  
 それこそ一瞬の躊躇いもなく千反田はそれをぺろりと舐め取った。  
「! お、おい千反田!?」  
 しばらく口に含み、こくんと喉を鳴らして飲み込む。  
「な、何をして……」  
「平気ですよ、折木さんのですから」  
 ちょっと苦いですけど、と軽く笑う。  
 茫然とする俺を後目に、次々と飛び散った精液を指で掬っては口に含んでいく。  
「不思議、ですね……この匂いと味、なんだかいやらしい気分になります」  
 いや、すでに充分いやらしくなってると思うが。  
 千反田が俺の精液を飲む光景に、俺のモノの硬度は出す前と変わらず萎えることなくそそり立っていた。  
 それが気になるのかちらちらと視線を向けては逸らす。  
 さっきの千反田のセリフではないが、これでは不公平だな。  
 俺は開き直ってトランクスを脱ぎ捨て、千反田に声をかける。  
「千反田、お前の全部が見たい。いいか?」  
「…………」  
 無言で千反田は頷き、わずかに腰を浮かした。  
 その意図を汲んで俺は千反田の下着に手をかける。千反田の大事なところを覆う、最後の砦。  
 ほっそりとした両脚を通してつま先を抜け、ついに千反田は一糸纏わぬ姿になる。  
 下着を傍らに置いて千反田の膝に手を添え、開かせようとした。が、千反田はわずかに力を込めて抵抗してきた。  
 そこまで強い力ではないので無理しなくとも簡単にこじ開けられそうだが。  
「見せてくれ、お前の誰も知らないところ」  
 俺がそう言うと千反田は突然傍の枕を取って自分の顔を覆い隠してしまった。  
 
 と同時に脚から力が抜ける。  
 俺はぐいっと一気に脚を開かせ、千反田の秘所を眼前に晒す。  
 これが。これが千反田の。  
 初めて間近で見るその女性器は美しくさえあった。  
 俺は無意識のうちに顔を寄せ、襞の部分をぺろりと舐める。  
「ひんっ! お、折木さん!?」  
 枕の下でくぐもった悲鳴をあげるが、それには構わない。俺は知識を総動員して千反田を責める。  
 上部にある小さな突起。これが多分クリトリスというやつだろう。  
 唾液をたっぷり絡ませた舌先でそれをつつく。  
「んんっ! んぅっ! ううっ!」  
 千反田が脚や腰をくねらせながら喘ぐ。  
 もっと。もっと聞きたい。千反田の声を。  
 俺は陰核を挟んでいた唇を離して顔を上げ、枕を掴んで引き剥がした。  
「え、ああっ!」  
 千反田が慌てた声を出す。  
 枕を取り返そうと伸ばした腕を俺は掴み、千反田に囁いた。  
「声、聞きたい。もっと聞かせてくれ」  
 ぴたりと千反田の動きが止まる。  
 何かを言おうと口を開きかけ、また閉じる。そんな動きを幾度か繰り返し、ようやく言葉を出した。  
「あ、あの、それは、ちょっと……」  
「嫌か?」  
「い、嫌というわけではないんですが……は、恥ずかしい、です」  
 今更な事を言う。  
 お互いにこれ以上ないくらい恥ずかしいことをしあっているのに。  
「じ、自分でするより、全然気持ち良くって、変な声が出ちゃいますから……」  
「…………」  
 今千反田はとんでもないことを言った自覚があるだろうか?  
 普段自分でしていると言ったわけだが多分気付いていないだろう。  
 厄介なことになる前に俺は再び千反田の脚の間に顔を埋めた。  
「ひっ……んんっ!」  
 さっきよりも溢れ出てきている蜜をすすり、充血している陰核を少し強めに吸う。  
 愛液を指に絡めて秘口に差し込むときゅうっと締め付けてくる。  
 空いた手を伸ばし、柔らかな胸を揉みながら指先で乳首をつまむ。  
 三つの行為を同時に行うのは重労働だが、苦ではない。  
 千反田が喜んでくれるなら、気持ち良くなってくれるなら省エネなんてくそくらえだ。  
「折木さんっ、折木さんっ! 折木さんっ!」  
 俺の名前を連呼しながら上半身に伸ばした腕にしがみついてくる。  
 指でかき回す膣内は千差万別に変化し、ぐちゃぐちゃになりながら締め付けてきた。ここにアレを入れたらさぞかし気持ちいいことだろう。  
 しかし俺は逸る心を抑え、千反田に刺激を与え続ける。  
 
「ああ、あっ、あ、あっ!」  
 千反田の喘ぎが浅く短くなっていく。これはもう『イく』のだろうか?  
 俺は体勢を変える。  
 もう千反田の感じる箇所や強さ、角度等は先ほどまでの愛撫でだいたいわかった。里志も言っていたが、やはり俺は千反田が絡んだ時の集中力が高いらしい。  
 膣内はそこまで感じるものではないようなので右手中指を入れるだけに留める。親指で陰核を重点的に責め、反応を窺いながら徐々に激しくしていく。  
 左肘をついて体重をかけないようにし、覆い被さるように身体を重ねる。  
 背中に腕を回してしがみついてくる千反田の顔を覗き込むような体勢だ。  
 いや、実際覗き込んでいるのだが。  
 誰も見たことがない千反田の上り詰める時の表情。俺はそれが見たかった。  
「千反田、気持ちいいか? 感じてくれてるか?」  
「はっ、はいっ! すごく良くて! もう、もう!」  
「いいぞ、イっても。見ててやるから」  
「そっ、そんなっ、見ないでっ、くださ……あっ、あっ、あ…………あああああああああっ!」  
 ぐううっと千反田が背中を浮かせて身体を仰け反らせ、ひときわ大きな声を上げながら絶頂に達した。  
 つま先がぴんと伸び、しがみつく腕の力がより強くなる。  
「あっ……あっ……はあっ……はあっ……」  
 しばらくの間びくんびくんと身体を痙攣させ、感極まった声が幾度となく漏れ出る。  
 その千反田の表情は普段からは想像もつかないほど淫靡で。普段とはまったく違う魅力的なものだった。  
 俺が頬に軽くキスをするとくすぐったそうな表情に変わる。  
 さて。  
 俺達は一度づつ達したわけだが、これで終わりじゃない。むしろこれからが本番なのだ。  
 俺は千反田の耳元で囁く。  
「千反田……いいか?」  
 多くは言わず一言だけだったが、その意図は伝わるだろう。  
 千反田も短く返事をしてくる。  
「…………はい」  
 
 
 

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