「いいって……お前」
「その、ですね。折木さん」
千反田は俺の言葉を遮って続ける。
「先ほど折木さんは変な気分になる、と言いましたがそれは折木さんだけじゃありません」
「!?」
「えと、わたしも折木さんといると、その…………」
だんだん声が小さくなり、最後の方は聞き取れない。
千反田は顔を真っ赤にして俯いてしまう。
まずい。『変な気分』がどんどん俺の中で大きくなっていく。
千反田の顔に手を添え、俺の方に向けさせた。
「あ……」
その清楚なお嬢様らしからぬ大きな瞳は何かを期待するかのように潤んでいる。
その奥を覗き込むようにゆっくりと顔を近付けていくと、瞼が下ろされた。
俺も目を閉じ、二人の間が息遣いを感じられるほど接近し。
零になる。
視覚が遮られている代わりに他の五感で千反田を感じる。
唇に感じる千反田の唇の柔らかさ。
少し荒くなっている千反田の息遣い。
シャンプーや石鹸だろうか、千反田の香しい匂い。
俺はわずかに唇を開き、ぺろ、と千反田の唇に舌を這わせた。
びくっと身体を震わせたが嫌がる素振りは見せない。
それどころか千反田も舌を出し、俺の唇に這わせてくる。
その予想だにしなかった積極的な行動に思わず俺は身体を離してしまった。
「キ、キスとか好きな人の唇を舐めたりとかって……気持ちいいものなんですね」
千反田は照れくさそうにしながら言う。
「もっと激しくしたらどうなっちゃうんでしょうか……わたし、気になります」
「……試してみるか?」
俺の言葉に千反田は無言で頷き、目を閉じる。
唇を開き、わずかに舌を突き出す。
俺はその舌を唇に挟み込み、ちゅ、と軽く吸った。
「ん……っ」
千反田の身体が震える。
そのまま自分の舌を絡め、ごしごしとこすりつけるように這わせて唾液をすする。
「ん……ふ……んんっ」
いちいち色っぽい声を上げる千反田に俺の脳や下半身の一部が刺激された。
これ以上は駄目だ。俺は全力の理性を以て唇を千反田から引き剥がした。
「ここまでにしておこう。さすがに学校でこれ以上はまずいだろ」
千反田は不満げな表情で名残惜しそうに自分の唇に手を当てる。
その仕草にまたドキッとし、未練を断ち切るように俺は立ち上がった。
「もう帰ろう。そろそろ暗くなるぞ」
しかし千反田は動かず、俺に驚愕の言葉を放つ。
「あの、今日、わたし折木さんの家に泊まってもいいですか?」